1話 ホテル到着
「まだ着かないのかよー…」少し性格が悪そうな男の子が言った。顔は整っている。いわゆる、イケメンと言うやつだ。俺は、地域の小~中学生仲良しクラブに所属していて、友達の加桃彪流と一緒に中学1年生限定の秋のお楽しみ会に参加していた。この企画は他の地域数か所と合同で行うので知らない人も多かった。今はバスに乗ってホテルに移動しているところだ(ちなみに彪流とは隣の席)。窓からは綺麗に紅葉した山の景色があった。最初は綺麗だと盛り上がっていたが、もう休憩を挟んで8時間30分くらい経っている。流石にみんな飽きていた。
「うーん、あと30分くらいかな。」ガイドさんが言った。
「えー!」バスに乗っている全員が言った。
「大体無茶なんだ。東京から大阪までバスで行くなんて。」彪流が言った。確かにそうだ。休憩があったといっても30分休憩を3回程度。おかげで腰が痛いよ。
「まあいいんじゃないですか?ホテルは超高級ですし、休憩で寄った道の駅でも最低3つまでは何でも買っていいと言っていましたし?スマホの持ち込みも許可されていますし」後ろの席から声がした。振り返ると青い眼鏡をかけた男の子がいた。顔は凛々しいが無表情だった。
「え、えーと…。」彪流も俺も戸惑った。
「あ、すいません。僕の名前は赤月誠と言います。よろしくお願いします。」いやー、自己紹介は求めてなくて…、まあいいか。頭良さそうだし、物知りっぽいし、この企画がもっと楽しくなりそうだからな!(天然)
「俺の名前は黒宮剣よろしくな!」俺は自己紹介した。
『ちょ、ちょっと剣!俺、人見知りなんだからほかの奴につるむのやめてよー…』彪流が小声で喋りかけてきた。
『大丈夫だって!人が増えたほうが面白いだろ?』『だから!俺は――』「どうかしましたか?」誠君が彪流の話をさえぎって言った。
「ごめん。なんでもない!」俺と彪流は慌てていった。
「!?そうですか。」誠君は一瞬驚いたようだがすぐに落ち着いた。そのまま彪流も自己紹介をした。
「俺…ホテル行きたくない…」いきなり彪流が言った。顔は酷く青ざめていて、手にはスマホが握られていた。
「どうしたんですか?今、ガイドの人を呼びますから!」そう言って誠君は席を立った。
「いいから!こいつよくこんなのになるから大丈夫だよ。」俺はなだめるように言った。一旦落ち着いて彪流のスマホを除くと【衝撃!あの超高級ホテル、神寸ホテルは昔墓場だった!?今ではその幽霊がでるという噂がネット上で話題に!詳しくは、下の動画をクリック!/www.Hotel.sinnsunn.com:yuurei/】と書かれていた。神寸ホテルというのは俺達が今向かっているホテルだ。
…え?彪流、こんなのにビビったの?噂だから大丈夫だと思うんだけどなー。
「あのー、彪流さん。幽霊は迷信ですよ?」誠君は言った。うんうんと俺は頷いた。
「い、いや、だってさ…テレビとかでよく見るじゃん。ポルターガイストとかオーブとか…」彪流はうずくまって言った。その声は酷く震えていた。
「テレビではCGや編集などで何でもできますから。」誠君は正論をぶちかました。
「で、でも、嘘でも怖いじゃん。」いい加減にビビりすぎだろ…こいつ。
「だってだって、襲われたら…ひい!」うーん、こいつを黙らせるには…。
ピーンと俺の頭の中で電球が光った。俺はポケットからスマホを取り出して検索し始めた。えーと…
【神寸ホテル 内装】と文字を打ち、虫眼鏡(検索)マークを押した。数秒ほど経つと徐々に内装構造が出てきた。俺は彪流にスマホを向けて言った。
「ほら、見ろよ彪流。」ん?という顔で俺のスマホを見た。そこにはすっごく綺麗な廊下と部屋が写った画像が貼られていた。
「え!?何そこ!めっちゃ綺麗じゃん!」と笑顔で彪流が言った。
「ここが今から俺達が今から行くホテルだ。ここに幽霊が出ると思うか?」俺が聞くと彪流は黙り込んでしまった。
「しかもこのホテルは最近リニューアルされたばかりです。監視カメラの数もセキュリティーも強化されています。」だそうだ。
「…分かった。2人を信じるよー…」彪流は怖がりながら言った。
「皆さーん!到着しました!荷物をまとめてバスから降りて下さーい!お忘れ物がないようにお気を付けくださーい!」とガイドさんがマイクを使って言った。
「よっしゃー!」「やっと着いたー!」「あの長い道のりの旅がついに終わったー!!」という声が相次ぐ中、俺達はバスから出た。
「すー、はー。外の空気はおいしいなー。」彪流が言った。
「そうだな!あんな暑苦しい所もうごめんだ!」「帰る時にも乗りますよ」「ぴぎゃ!」「まあ、そんなこと忘れてホテルで4泊5日を楽しく過ごしましょう。」そう言って誠君はホテルのパンフレットを開いた。
「ここには温泉があるそうなので時間を合わせて一緒に入りましょう。他にも面白そうな遊具がたくさんあるそうですよ。」誠君はパンフレットを見て1日1日の予定を立て始めた。
「はーい皆さん!ここでルールやホテルの構造などを説明するので、よく聞いてください。」とガイドさんが言った。バスの時と違う服装だった。麦わら帽子に赤と青のワンピース、灰色に近い色の靴を履いていた。
「えーと、まずルールを説明していきます。1つは、…」とまあ馬鹿長いルール説明を聞いた後、ホテルの案内をされた。ホテルは靴で入っていいのかと悩むほど綺麗で、明るかった。
…数十分後…
「はい!案内終了!みんなよく聞けました!自分の部屋に行っていいです。荷物を置いたら自由時間です。立ち入り禁止の場所以外なら好きに使っていいです。くれぐれも他の人に迷惑をかけないように。」
「はい!」全員が声を揃えて言った。
「やっぱり中学生は違うな~!じゃあ今からそれぞれの部屋の鍵を配るから、名前を呼ばれたら鍵をもらって各自部屋に行ってください。」そう言ってガイドさんは名前を1人1人呼んでいった。
「佐藤海斗君、大塚和徳君、魔嵐慎司君、藤原夏奈ちゃん…」名前を呼ばれた人は、鍵をもらって部屋に向かって行った。
「あー、俺も早く部屋行きたいな。」彪流が言った。
「僕もです」「俺もだ」そういった会話をしながら呼ばれるのを今か今かと待っていた。
「黒宮 剣君、加桃 彪流君、赤月 誠君」と呼ばれた。そのまま鍵をもらって部屋に向かった。
「うわ!3人とも隣の部屋って奇跡じゃん。」彪流が言った。
「いいえ。そんなことありません。この企画の参加者が30名なので、そのうちの3人が…」「もういい!とりあえず部屋に行こう」誠君の長々と話しそうだったのでさえぎって、部屋に向かった。
別れてそれぞれ部屋に入ると、バスの中で見た部屋の写真の倍綺麗な部屋があった。中学生には勿体ないくらいのふかふかなベッドや、大きなテレビ。街がよく見える大きな窓やおしゃれな机椅子。やっぱり写真と実物は違うなー、と思いながら荷物を机の上に置いて廊下に出た。すると彪流と誠君が喋っていた。
「遅くなってごめん!」そう言いながら2人の方に行った。
「よし!まずは普通に遊びましょう。実物を見ないと決められないことなどもあるでしょうから。」相変わらず真面目だな。そう思い苦笑してしまった。
「?どうかしましたか?」「いや、何でもない!それより早く遊ぼうぜ!」そう言って俺は2人と肩を組んで外に出た。