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アルヴィノーラの森で  作者: ありかわつぐみ
第2章 2年
8/80

2. 小さな薬剤師(候補)


第8話です。


ここで、サン・トリスタン王国の「薬剤師制度」と「医師制度」をちょっとだけご紹介しています……っつっても薬剤師本人がしゃべってるだけですけど。






うちは森番頭の家だけれど、国家公認の「薬剤師館」でもある。

薬剤師館ってのは、文字どおり薬剤師が常駐してる店舗もしくは住居、あるいはその両方(うちの場合は森番の番小屋も兼ねてるから「薬剤師常駐住居」)。

基本的には薬を処方したり薬を使って治療したりする場所なんだけど、最高位のSクラス薬剤師にはもうひとつ役目があるんだ。

いわゆる「後進の指導」ってやつ。

国家公認薬剤師ってS・A・B・Cクラスの4階級あって、15歳になってれば(一応)誰でも受けられるのがCクラスの試験。

Cクラスで上級の薬剤師の指導を1年受けたら、Bクラスの試験が受けられる。

Bクラスで上級の薬剤師の指導を1年受けたら、Aクラスの試験が受けられる。

AクラスでSクラス薬剤師の指導を1年受け、かつ身元確認調査を受けたらSクラス薬剤師試験が受けられる。そういう仕組みになってる。

身元確認調査が必要なわけは……王家・王族に直接拝謁して処方する事がSクラスにだけ許されてるからなんだけど、これはお医者のほうも同じでね。

お医者も初級・中級・上級・特級と4階級あって、特級医師免許試験の受験資格に身元確認調査がある。

……それはともかくとして。

うちには近所中の薬剤師志望の人が集まるわけで……

「エレナちゃん、薬草摘みに行こうか」

「エレナが折った薬包キレイだからまた頼むわ」

「エレナ、浄水の作り方教えるよ」

ありがたい事に、エレナの面倒をみてくれる人に事欠かない。

特にCクラス試験を受けたい人の中には、子育てが完全に一段落したんで将来の孫のために薬剤師免許とっておこうかっていう年輩のおかあさん達が多いから、本っっ当にありがたい。

私が往診で家を離れなきゃならない時、モーガンだけなら森番達が世話やいてくれるけど……ヤツらに女の子を任せるのはちょっとアレだし(おてんばになりそう)。

一度アリアドネに頼んだらモーガンが勝手にくっついて行ってて迷惑かけちまったし。

アリアドネは子供くらい2人も3人もかわらないわよって言って笑ってたけど……普段母子2人の家に2人も預けちゃ、いくら何でも申し訳ないってもんよ。


「マリリンおばちゃん、私もお薬のお勉強したい」。

エレナが言い出すのは時間の問題だったよ。

何しろ普通に生活してても、病人は来るけが人は来る指導中の薬剤師は来る……だからね。

「おばちゃんのおてつだい、もっとやりたい」

嬉しいこと言ってくれるじゃないの!

だけど、一応……

「家の事かなりやってくれてるだけでもありがたいんだよ?」

うちで暮らしてるけど、他人(よそ)さんのお子さんだからね……親は全然探しに来ないけど。

それはそうと。エレナは年齢の割に家事スキルがすごいんだ。

ここへ来た当初の7歳位で、教えもしないのにスープを作れた。それもちゃんと美味しいやつ(若い森番達に大好評だった)。おかずも失敗した事ないし(これまた若い森番達に大好評)。

掃除も洗濯も完璧(恥ずかしながら私より上手いかもしれない)。

なんと文字まで読めた上に文章も理解してた。

いったいどういう生活してりゃ、7歳位までにここまで完璧にこなせるんだか……。

「おうちの事もやるけど、お薬の事もやる」

……嬉しいねえ。


こうして、私の「最年少の弟子」が誕生したわけ。




――――――――――――――――――




エレナちゃんがマリリンさんの「弟子」になったとアリアドネからきいた。

手に職をつけるのはいい事だが、まだ9歳位だろうに……と思ったが。

「クロードのおじいちゃま、お薬のお勉強っておもしろいよ?」

様子を見に行ったら直接言われた。

……どうやら本気らしい。

そしてマリリンさんいわく、年齢のわりに優秀……超・優秀なのだそうだ。

ただ残念なのは、今のままでは彼女はSクラス薬剤師になれないんだよなあ。

どこから来た子かわからないから、身元確認調査ができないんだよ。




――――――――――――――――――




エレナが(かしら)の奥さんの「弟子」になったらしい。

奥さんのお弟子さん達って……おばあ……おばちゃ……おねえさんが多いから、平均年齢がぐっと下がりましたよね?って何げなく(かしら)に言ったら……

「それ、思ってても絶対マリリン達の前で口に出すなよ」。

怖いんですか……怖いんですよね……そりゃそうですよね、女性に体型と年齢がらみの軽口たたいたら思いっきりシメられますよね……。





エレナちゃん、モテモテです……薬剤師マリリンの弟子のおばa……い、いやお姉さま達に。

(かなり)年下の師匠の家の保護児。面倒の見甲斐が……ある?

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