表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルヴィノーラの森で  作者: ありかわつぐみ
それぞれの帰着点
78/81

勘違いと思い違いと思い上がりと、そして。



私の腰の都合というなんとも情けない事情により延び延びになっていたが、やっとの事で何とかエマーソン公爵ご一家をお連れ出来たサン・トリスタン連合王国の王都。

これまた当家の都合によりお世話になっているエンディコット邸に、王城の儀礼官と称する若い人が3人やってきた。

「エマーソン公爵閣下は、他の公爵家とは出自が大きく違っておられますゆえ……」

若干えらそうに言葉を濁す儀礼官その1。

「それはそうでしょう。本来()()()()()とは国王陛下のご兄弟が賜る身分であって、他国由来の者が戴くものではないのだからね」

エマーソン公爵の言葉にハッと顔をあげた儀礼官その1……ばつの悪そうな表情をしている。

公爵家の要請でクロードが手配した家庭教師は、とても良い仕事をしてくれたという事だ。

「当家の、というか私の妻はサン・トリスタンの出身でね、妻の友人の父上は国軍大将()()()()殿()の副官だった方なんですよ」

公爵様が義父上を名呼びする許可は、ご本人からとうに得てある。

「当家の隣領主ハマー伯爵家の夫人のお父上であられる上、わが父の師の友人でもあられる方なのでね……一度ガリーニ国軍大将とお呼びしたらとても恐縮されてしまったのです」

儀礼官その1の顔色がどんどん悪くなっていく。

「今お世話になっているこちらのお邸がネルソン殿の義姉上のお宅だというのは、ご存じではなかったかな?」

公爵様が儀礼官達に話す語気はやわらかいのだが、内容はとても厳しい。

「エマーソン公爵閣下、儀礼官ともあろう方がご存じないわけがないじゃありませんか……私の母方の祖父の上司だった件以外は」

護衛官を兼任してくれているモーガン君が、公爵様に話している。

「護衛官の分際で公爵閣下に気やすく話しかけるとは……」

儀礼官その2が、鬼の首を獲ったかのごとく言い出した……が。

「ああ私は臨時の護衛官です。本業は薬剤師です、Sクラスのね」

Sクラス薬剤師には、特級医師と同様に国王陛下にも断りなく話しかける事が出来る権限がある。

なので、有爵家当主()()に話しかける際に断りなど不要なのだ。

「……薬剤師」

「ええ。母が自分の代理で伯爵様の専属薬剤師として派遣し、剣の腕をかわれて公爵閣下の臨時護衛官を拝命しておりますが何か?」

腕のたつ薬剤師は(今のところ)モーガン君しかいないのだけれども。

儀礼官その2が黙ってしまった。

「ところで。私の大伯母の家に何のご用でいらっしゃったのですか、サイモン家のアーサー様・カーペンター家のルイス様と……おや、ウェッジ家のミカエラ様ではないですか。儀礼官に復帰なさったとはうかがっておりませんけれども?」

クロードが儀礼官達の顔を見て名を挙げていった。顔見知りだったのか。

「クロード……そのウェッジさん(ミスター・ウェッジ)という方は?」

私はクロードに訊ねた。

「はい、こちらは合併の際に()()()()()()()罷免となったはずの方なのですけれど」

いろいろあった、とは?

それは訊いてもよいものなのだろうか?

「みなさん儀礼官の制服のような物をお召しの上、役職の徽章をつけていらっしゃいますね……徽章については、サイモン様とカーペンター様は問題ありませんけれど、ウェッジ様はマズいんじゃないですか?」

ミカエラ・ウェッジと名指しされた男が後ずさりして逃げようとし始めた。

ウェッジさん(ミスター・ウェッジ)、ここを一庶民の邸宅と見くびってもらっては困るんですよ……先ほどお話ししたばかりのはずですが、もうお忘れですか?ここエンディコット邸は私の義父の義姉の家で、義父(国軍大将)の息がいやというほどたっぷりかかった警備が施されているのですがね」

義父ネルソン・ガリーニが独身の義姉のためにと、若くして退役せざるを得なかった元軍人を私財で大量に雇い入れて編成したときいている。

「……それは、どういう」

「どうもこうもありません。不審な輩は即時拘束されるだけの事」

笑顔のクロードだが、目が笑っていない。

「不審……だと」

「ええ。決定事項であると知らされた対等合併に事務折衝の段階で大きく異を唱え続けたため陛下直々に罷免されたはずのミカエラ・ウェッジ氏が儀礼官の徽章をつけている時点で既に不審でしょうが」

なるほど、罷免されたはずの者が儀礼官ヅラしてしゃしゃり出て来ているというわけか。

私がエンディコット邸の執事を呼ぶべくベルに目をやった途端。

怒号と若い男の複数の悲鳴と、明らかに人間が制圧されている大音響がした。

「だから剣の腕をかわれてるって言っただろうが、10分前に言われた事も覚えてられねえでよく儀礼官なんかやってこれたな」

「覚えてられないから罷免(解雇(クビ))になってるんだよ」

「ああそうか……お前あんまり噛まないで物食ってんだろ、早いうちから耄碌するぜ?」

モーガン君とクロードの若干のほほんとした会話に振り向くと、モーガン君は鞘から抜きもしていない愛剣でウェッジと名指しされていた男を取り押さえていた。

「話には聞いていたけど、見事な手際ですねえ」

公爵様も、つられたようにのほほんとお話しになっている。

「ここでオレ1人に取り押さえられるか、この部屋を出たところで数人に取り押さえられるか、この建物を出たところで数十人に取り押さえられるか。相手する人数がかわってくるから、ここでオレに取り押さえられるのがいちばん体に負担がかかんねえはずだ……このお邸の警備は全員オレなんか比じゃねえ位屈強な元軍人ばっかだからな」

ニヤリと笑いながら手際よく拘束していくモーガン君。

「手ぇ出せ……両手だよ!オレがあんたとお手々つなぐんじゃねえんだから!」

そして、両手の手首からひじまでを包帯で巻いた……その上両方の親指中指小指をくくり合わせてしまった。

「言っとくけどそれ、自力ではほどけないからね?」

もがくウェッジに、クロードが言った。

そう、あれは本当にほどけない……過日、身動き禁止なのに動いたとして寝台で2~3度施されたから、それはそれはとてもよく知っている。

「テイラー家の伝統的技法なのかな?」

「いいえ。父いわく、母方の祖父が母に教えたそうです」

「……そっちだったのか」

それを、私の妻のアリアドネとシャルルの妻のイリーナが教わったという事か。

「あと拘束者が複数居るのに捕縛側の人員が足りない場合は……」

「ああモーガン君、今こんな話をしている場合ではないよ。警備主任に来ていただかなくては」

捕縛した人の耳にいれていい話題ではないと判断したので、モーガン君を遮った私はエンディコット家の執事を呼んだ。


「さて。あなたがたの()()()目的をお聞かせいただこうか……身分詐称の咎人と共にこのエンディコット邸へ赴いた理由を」

拘束したミカエラ・ウェッジを警備主任に引き渡し、残る2人と相対した。

「……私達は、その……エマーソン公爵閣下に、王城での謁見のルールを伝達……」

「その必要はないはずだが」

モーガン君が遮った……ああそうか、彼も合併の合意書を見ていたな。

「合意書には『国名を()()()()とし、国家元首にはランディス王家の長をおく。また、ルブラン元皇家を連合王国の()()公爵に叙し、ルブラン帝国領は公爵領として元皇家が統治する』と明記されていたはず。あなたがたは合意書を見ていないのかな?」

公爵様もおっしゃる。

「元は一国であった地であるエマーソン公爵領は、合併によって国内最大の領土となった……王位継承権を持たないとはいえ筆頭公爵として相応しい規模のね。本物の儀礼官ならば公文書が保管されている書庫に入る事も可能なのだから、確認しておくといいんではないでしょうかね」

クロードも追い打ちをかけるかのように言う。

()()()()()()()()とは初期の段階から何度も書簡のやり取りを繰り返しましたからね。その中で決まったのが、ルブラン元皇家が王国最大の公爵家となるというものなのですよ。トーヴァンやエルレの時とは事情が違いすぎるのだから、と」

公爵様が目だけ笑っておられない笑顔で言い渡された。

そう。

トーヴァンは、和平交渉を依頼するべく書かれた文書へ当時の国王陛下の御名を書き間違えた事を激怒した国軍の部隊長に攻め滅ぼされて併合。

エルレは短期間に起きた2度のクーデターの内の2度めに協力した後の吸収合併。

……どちらの併合・合併も、私の近しい人や元の領民が関わっているけれども。




――――――――――――――――――




当初、エマーソン公爵という爵位とともに旧帝国領を王国内の自治領とする案があった。

しかし、サン・トリスタン国王ファビアーノ陛下のほうから持ちかけられた「()()王国と銘打って、国家元首に準ずる地位に就いていただけないか」とのご提案には……少しばかり逡巡し、固辞した。

1と8を足して無理やり2にする合併で、1のほうが8の次席に座るなどおこがましいというものだ。

ならば、と「筆頭公爵」という若干抽象的な立場を創設する事になった。

「国内最大の領土を持つのだから、王位継承権は持たずとも()()にふさわしいだろう」

ファビアーノ陛下は、書簡にそう書き記してきてくださった。

「ええとあの……先ほどエマーソン公爵閣下は、国王陛下を何とお呼びに……?」

()()儀礼官達が驚いているようだ。

「ファビアーノ陛下、ですよ。陛下の奥方はキャスリーン妃殿下でしょう?」

「……御名でお呼びになるのは」

「その点について、あなたがたの心配には及びません。合併合意書の確か6ページめ辺りに記載があります……ランディス王家当主夫妻を名呼びできるのは当代当主の親・兄弟姉妹ならびにエマーソン公爵ルブラン家当主のみとする、とね」

呼び捨てても構わないと仰せだったけれども、さすがにご本人がいらっしゃらない場所ではいくらなんでも無礼なので()()と呼称をつけてお呼びしたわけだが。

「あなたがたは今すぐにでも公文書の保管書庫へ行ったほうがいいようですね」

つい、口が滑った。

「その胸の徽章がまがい物でないなら、さっさとここを引きあげて己の本来の仕事に戻ったほうがいい……どうせあのまがい物(ミカエラ・ウェッジ)にそそのかされて来ちまったんだろ?」

モーガン殿が2人に言った。

「彼は事務折衝の間ずっとエマーソン公爵家……いやルブラン皇家を否定する発言をしていたと届けられた議事録に記載がありました。あまりものしつこさに手を焼いた副宰相様からの連絡で国王陛下が直々にお出ましになって、罷免するから出ていけと叱責なさったとも書かれていました。そんな輩と何故(くみ)してここまでいらしたのか、それを知りたいものですね」

クロード殿も言う。

「私達は……その、知らなかったんですよ。ミカエラ……いえ、ウェッジが罷免されてただなんて」

「今日も上官から謁見のルールを伝えに行って来いと言われたから一緒にと……」

「で、自分らの上官に確認もとらずノコノコと阿呆にくっついて来ちまったってわけか。頭大丈夫(テメエの脳はオガクズ)か?」

モーガン殿の口からとんでもないフレーズが聞こえた気がした。

「湿ったオガクズが詰まってるのでなければ、今この時点で退去して帰宅して上官から言われるまで自主的に謹慎しといたほうがいい気がしますよ」

クロード殿の口からもオガクズ発言が。

「モーガン君もクロードも、他人の頭蓋骨の中身をオガクズに例えるのはよしなさい」

伯爵が若い2人を苦笑いでたしなめた。




――――――――――――――――――




儀礼官だと名乗った2人が、逃げるようにエンディコット邸をあとにしていった。

「……うん、わかった」

2人を()()()()()邸の警備主任氏と何やら話してたクロードが戻ってきた。

「あの2人、どうやら相当な甘ちゃんのようで……ここから退去しながら『自主謹慎は3日位でいいかな』なんて話していたそうです」

……馬鹿、だな。もしくは、阿呆。

あるいは考えなしの無能。

「そんな程度で済むはずがないのに」

表向きは脅迫しに来たわけではないので、罪状的にはたいした事はない。

だけどエマーソン公爵家に対しての無礼の数々をなかった事にはできない。

仮にも数ヶ月前まで隣国の国家元首だった御方に対して礼儀作法を教え込もうって魂胆がそもそも気に入らねえ。

「まだ数少ない若手の儀礼官仲間の内の1人が罷免されているのを知らなかったなんて言い訳が通用すると思っているあたりで頭の中身が知れますよね」

クロードも、なかなか辛辣な事を言うじゃないか。

「実を言うとあの3()()、僕を母親にくっついて貴族家にもぐりこんだ庶民と侮っている一派の筆頭的存在でして……僕の()()を知らない()()()()()()の次男だか三男だか、四男だったかな」

そういや前に言ってたな、王位継承権を持つ有爵家の当主と嫡男位しかクロードの()()を知らないって。

ま、オレもクロードの()()が何なのか詳しくは知らないけど、単なる伯爵家の養子息じゃねえ事だけは確かだろ。

でなきゃ手足となって動き回る兄ちゃん達が周囲でウロウロなんかしねえって。

「あの様子では、おそらくあとの2人も職を失う方向だと思いますね」

クロードが、ニヤリと笑った。

「エンディコット邸の警備は、実質国軍大将直属の部隊みたいなものだって言ったほうがよかったのかな……?」

「いや、それは言わなくて正解だろ。エンディコット邸がハマー伯爵夫人の第2の実家だって認識薄く押しかけて来てんだ、上官から進退の沙汰食らう時に聞いて驚けばいい。そして自分達の愚かさを無職になってから嘆けばいいんだ」

おそらく努力して手に入れたはずの儀礼官という身分を失って初めて、愚かな思考が身を滅ぼす事を知ればいいんだ。

「厳しいね、モーガン殿は……」

「先日、犯罪に加担したため資格を剥奪された薬剤師が数名発生したものですから」

先般あった偽催眠剤密売事件で、偽物を密造・密売するのに加担させられた薬剤師は全員資格剥奪の上投獄が決定している。

「薬剤師組合からの通達で減刑嘆願は求めないことになってるんで、あの人達は何年も猛勉強した結果をむざむざ捨てる羽目になったんです」

「情状酌量の余地はあったと聞いてるけど……?」

クロードが訊いてきたけど。

「それはそれ、これはこれ。さじ加減ひとつで人を殺せる物を扱ってる自覚を持てって言われてるのに犯罪に加担しちまったんだからな」

Cクラス受験前に必ず言われるやつをもちだして答えた。

「……さじ加減ひとつで、人を殺せる」

公爵様がポツリと。

ああそうか、この方とお父君は医者にじわじわと殺されかけたんだった。

「減刑嘆願なんかしたら自覚の足りない奴が簡単に許される事になっちまいかねませんから、絶対にするなと組合長や薬剤師館長会の会長副会長からもきつく言われてます」

「……館長会の副会長って、マリリンおばちゃん……」

そうだよ、だからオレ副会長補佐みたいな役割もやらされてんだよ……。




――――――――――――――――――




エマーソン公爵家ご一同が、王都へいらした。

公爵家のタウンハウスはまだご用意がなく、ハマー伯爵家のタウンハウスは改築中。

伯爵夫人の実家にあたるわが家は女手が慢性的に足りず、大人の男性客のみならばなんとか歓待もできるが……まだ赤ちゃんのアイリス公女がいらっしゃるのだから、滞在先として不向き以外の何物でもない。

ならば、義姉上の邸をお借りするしかない……と依頼すれば、快く引き受けてくださった。

「ネルソンには警備の手を回してもらってるんだから、それくらいはいつでも任せて」


……という事で、公爵家・伯爵家の仮のタウンハウスとして義姉上の邸を王城に届け出たら。

儀礼官を名乗る若者が3名押しかけてきた。

後でわかった事だが、以前からクロードを「母親にくっついて貴族家にもぐりこんだ庶民」と嘲っていた一派の者だそうだ。

「考えなしの馬鹿ばっかでしたよ。10分前に出た話題も覚えてられないような(アホ)と、子供だましの嘘とごまかしが通用すると思い込んでる能なし(マヌケ)。逃げようとした1人はオレが取り押さえましたけど、しばらく薬剤師に瞬殺された事を愚痴ってやがりました」

資格的には伯爵の専属薬剤師だが技能的に適任だとして公爵様の護衛になっていたモーガン君がこぼした。

「貴族家ご当主の護衛ができる薬剤師なんか今のところ他にいないのに、薬剤師ごときに捕まったと愚痴りながら連行されていきました」

クロードも言う。

「幼少時から元傭兵団長仕込みの腕前なんだから、普通の文官ごときが歯向かえるはずないのに……」

エドモンド様も、しみじみと。

「7歳で国じゅうの全闘技大会から出禁になる位の実力を備えてから言って欲しい愚痴だよね」

クロード、それは言っていいのか?

「お祖父様。モーガンは、模造刀持ったシャルルと僕とアルフが3人がかりで打ちかかっても、そこらへんに転がってる適当な棒っきれ1本で簡単にいなしちゃうんですよ?」

「いや、もうさすがに代用武器での3対1は簡単じゃねえから!」

モーガン君が大声を上げた。

「3対1で完全に無敵だったのは16歳位までだから」

……そこはさすがだと思う。

シャルルは貴族家子息の中では腕がたつと言われるようになっているし、アルフ君も同業者の中では護衛いらずと言われているそうだし。

クロードも……国軍の諜報部に引き入れた際、試験がわりにと行った模擬襲撃で、襲撃者全員を結構簡単にのしてしまった。

「国軍大将が実孫かわいさに推し込んできたのかと思っていました……」

倒された中にいた諜報部長が言っていたが。

「実力のない者は推さない。なんならこの孫の友人も推したいのだが、さすがに第1号の男性薬剤師を業界から奪ってしまってはいけないので推さないでいるのだ」

そう、私としてはモーガン君も諜報部に引き入れたかったのだが……貴重な男性薬剤師なので、そんな事はおくびにも出さずに接している。

まあ()()に近いものを依頼すれば難なくこなしてくれるのだが……父親仕込みの武術の腕はともかく、何と言っても私の部下だったあのアーノルド・シグナスの娘の子供なのだから。


それはともかく。

「エマーソン公爵家は()()だという事を世に知らしめなければなりませんよ、陛下」

私は陛下に奏上した。

「やはり、そうなるか」

()()()()()()()()()()()という本来の意図がこれ以上ねじ曲がってもいけません」

本来の意図。

元は隣国の皇家であるのに王国の臣籍となってくださった、だから王位継承権を持たない筆頭公爵家という地位を創設した。

なのに曲解する輩は「合併でランディス王家の血をひかない公爵家をわざわざ創設した」としか思っていない。

「そうだな。謁見などと言うからただの臣下のように扱われるのですよと孫からも言われたわけだが……」

陛下のお孫様、おそらく最年長である王太子殿下の一の姫君あたりだろう。

「ガリーニを伝令などに使って申し訳ないが……」

陛下のお言葉は続く。

「その、公爵夫人は公の場に出て来られても大丈夫なのか?」

「そこはご本人様次第だとは存じますが、20年ほどルブランにて皇嗣妃殿下として過ごしておられる方ではあられると。ただ、口さがない連中があげ足とりをするとすれば、かつて王国で薬剤を取り扱う薬剤師行商人だった事でしょうか」

「ハマー伯爵夫人の友人の同期だとか聞いたな、そういえば」

「Sクラスの薬剤師資格をお持ちですよ」

「ならば……謁見ではなく、夜会形式での新公爵家のお披露目にしたいのだが、公爵家の意向をうかがってきてはもらえないか」

「……かしこまりました」




――――――――――――――――――




お祖父様が、陛下の伝令役のような形でエマーソン公爵家の皆様の前にいる。

公爵ご夫妻と、ガーネット様。

「謁見ではなく、お披露目」

「ええ、夜会の形式となります。夫人が表舞台に立たれたくないのであれば、相応の配慮は……」

「いたみいります。かまいませんわ、そういう覚悟がなければルブラン家の嫁になろうなどと思いませんもの」

公爵夫人は、あっさりとおっしゃった……。

「ただトーマスとアイリスは連れていけないわね、小さ過ぎるから」

トーマス様はまだ夜会の冒頭のみのご挨拶に出る事が可能な12歳にもなっておられず、アイリス様はついこの間お生まれになったばかり。

「同席させる子はガーネットのみ、とお伝えいただけるでしょうか?」

「承知いたしました。して、衣裳等はいかがなさいますか」

「実は、リンドからこちらへ届く手はずになっております。私と娘が揃ってルブランから出てくることを知った名前も覚えきれない人数の伯父伯母達やそのいとこ達が率先していろいろ用意してくれているのを、父と兄が運んで参ります……そろそろ着く頃合いだと思います」

名前も覚えきれない人数の伯父様伯母様達やそのいとこ様達……ガーネット様からうかがってからリンドに行ってみた時に知って驚いたんだけど、タリア夫人の亡き母上が18人きょうだいの末っ子の7女だとか凄すぎる。

そして夫人のお祖父様は4人兄弟の4男で、上のお三方にもたくさんお子様がいらっしゃるというから……リンドではご領主一族の名前を覚えきれなくても失礼にはあたらないんだそうだ(貴族の常識的感覚では到底ありえない話だけど)。

「どれだけの量が届くのやら想像がつかないので、少々危惧しておりますが」

「石橋が架かったらいろいろ送ってあげようって大伯父様達がとても意気込んでいらっしゃったのを直接うかがっておりましたから……なんだか恐ろしい事になりそうな気がしています」

ガーネット様は、おそろしい予想を口になさった。




「夜会形式で、となると……パートナーが必須ですよね」

僕は今エンディコット邸にいる男女の人数を頭の中で確認していた。

「私は陛下のお側におらねばならないので、人数に入れないでくれないか」

お祖父様は、除外……では大伯母様がフリーだな。

「公爵様はもちろんご夫妻で。お父様は……母さんいないけどどうしますか?」

「私はあまり動き回らぬように見張りがついている」

「それ、モーガンの役目でしょう?」

「いや実は、ルチア伯母様もなんだ。アリアドネが伯母様に依頼していてね……」

あ、モーガンがエンディコット邸ではお父様につきっきりになりづらいのを見越して……たぶん、マリリンおばちゃんの差し金。

「私はガリーニ家名代の伯母様とご一緒するよ」

「じゃ、オレは伯爵様の腰の番人として従者よろしく付いて行く事になるな。薬剤師資格のある護衛って役回りで」

……となると。

「ガーネット様は、うちの()()とご一緒していただきたく」

最近のお父様は時折、実子ではない僕を対外的に次男と呼ぶ。

「ええもちろん。よろしくお願いいたしますね、クロード様」

よろしくお願いされてしまった。




――――――――――――――――――




「あの、ご当主様……これ全部運ぶんですか?」

リンド準男爵四男家の大広間に山と積まれた品を見て、私とジョシュアはあ然として訊ねてしまった。

「石橋が正式に開通してローナの娘と孫達がこちらへうち揃って来ているのだから……」

「リンドに来れば何でも揃うと言われるまでになった今、そのリンド領主の血を引く公爵夫人と公爵家のお子様がたにみすぼらしい格好はさせられませんよ」

「そうですよ!借り着で謁見なんてダメでしょう!?」

口々に説き伏せて来ようとなさる皆様……ご当主をはじめとする義兄上達と奥方達とご子息ご令嬢達とそのご伴侶がた。

人数が人数なだけに、到底勝てる気がしない。

「ですが……荷馬車には積載量の限度があるのは、ご存知のはずですよね!?」

準男爵ご一族は、皆様商人でもあられるのだから……

「ええ。だからローウェル商隊で積めない分は後続の荷馬車を用意するわよ」

……そうくるか、としか言えなくなった。

「お言葉ですがご当主様、ひとつよろしいですか?」

ジョシュアが口を開いた。

「リンドの血縁である公爵家のご婦人がたに借り着などとんでもない、というご判断は自分も十分、いえ十二分以上に納得してます……ですが!」

バン、とテーブルを叩いたジョシュア。

「届け先をお考えください!エマーソン公爵領でもエマーソン公爵家のタウンハウスでもなく、公爵ご一家をお連れくださっているハマー伯爵家のタウンハウスでもない伯爵夫人のご実母様のお姉様の邸宅……つまり、公爵閣下からしてもまったくの赤の他人のお邸に滞在されている。そこへこの尋常ではない量の大荷物を運び込むおつもりで!?その上、リンドから王都へ運びそのままルブランへ持ち帰る手間は!?二度手間っていうんですよそういうの!」

……ジョシュアは私以上にキレていた。


当然、改めて荷物を厳選し直す事となり。

そして。

私達商隊のみで王都のエンディコット邸へ大至急必要な物のみ運び、あとは折を見てルブランのエマーソン公爵邸へ搬送する事となった。




――――――――――――――――――




ローウェル商隊が運んできた衣裳や装飾品は、とても見事な物で。

「さすが商都リンドのご領主一族のお見立てですね」

わがエンディコット邸と契約している服飾専門業者達がお品を見て口々に言ってる。

「公爵夫人とガーネット公女に合うよう補正しなくては!」

業者達、気合い充分。

「実を申しますと、これで用意されていた荷の1割にも満たないんです」

ローウェル商隊のアーネストさんが切り出され。

「大量の荷でこちらのお邸が満杯にされそうだったので、阻止して参りました」

アーネストさんのご子息ジョシュアさんが続きを。

「父はあまり強く言えませんでしたけれど、よく考えたら俺……私もリンドに連なる一族の端くれだって事を思い出しましてね、これだけに絞らせました」

公爵夫人の兄上ですものね。

「謁見から夜会に変更になったけれど、どうとでもなるものなのね……」

公爵夫人がしみじみおっしゃって……いえ、リンドのご領主一族の皆様の執念(?)の賜物かと。




――――――――――――――――――




朝からお父さまお母さまとお姉さまと、はくしゃくさまとはくしゃくさまのお兄ちゃまとおやしきのおばあちゃまはお支度。

ぼくとアイリスはおるすばん。

()()()()()()のおじいちゃんとおじちゃんがいっしょにおるすばんしてくれるって。

……ええと、たしかリンドで前にきいたっけ。

()()()()()()のおじいちゃんとおじちゃんは、お母さまのお父さまとお兄さまなんだって。

ルブランのおじいさまとおばさまとおんなじですよっておしえていただいた。



おじいちゃまとおじちゃまってよんじゃっていいのかな!?



長らく間が開いてしまいました。

王都にやってきたエマーソン公爵ルブラン家ご一同様でした。




ガーネットさんの予想はドンピシャで的中w

そしてトーマス君は祖父と伯父が増えた事に気がついてルンルン♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ