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アルヴィノーラの森で  作者: ありかわつぐみ
それぞれの帰着点
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謁見のために、着々と。


腰の治ったハマー伯爵と、馬車移動できるようになった末娘を連れた公爵家。


やっと王都へ向かえるようです。



(不完全投稿でした……修正してました……失礼しました)



サン・トリスタン王国が国土を広げ「サン・トリスタン連合王国」と名を改めてから数か月が経過した。


父上の腰は自力で寝台に起き上がれる位までには回復したので、医師の診療は終了となった。


「あとは機能回復訓練を受けてください。それに関しては私よりもテイラー夫妻のほうがお詳しいはずです」

そう言って、初診日にテイラー夫人へ暴言を吐いた無礼な医師はみずから主治医を辞して去っていった。

「マリリンはわからなくもないけど、アンソニーさんが機能回復訓練に詳しいってどういう事?」

お母さまがテイラー夫妻に訊ねてる。

「たぶん勘違いしてるんだと思うんだよ」

「……え?」

「患者だった経験しかないんだよ、ねえ」

夫人がテイラー氏を見上げてた。

「機能回復訓練を受けた経験しかないんだが……軍にいた頃は、痛む間は寝てろ・痛みが消えたら元隊復帰だったし」

なかなかワイルドな部隊だったようだ。

「では、機能回復訓練士をお呼びいただいてよろしゅうございますか……」

僕は何故か妙に丁寧な口調になって依頼していた。




即日、王家直轄領の医師館兼薬剤師館から機能回復訓練士が来てくれた……というか、テイラー夫妻が早々に連れてきてくれた。

父上は……逆らう事なく回復訓練にはげんでいる。

「エマーソン公爵ご一家を早く王都にお連れしたい」

という目標を抱えて……というのはきっと建前だろうと思ってる。

ここ数ヵ月ずっと寝台の住民で、何度かテイラー夫人に手ほどきを受けたお母さまとイリーナに超強力催眠剤を盛られて昏睡してたから……本音としては「やっと動ける!」といったところかな。


「早く治して、イリーナの薬品庫に入れられてしまったお見舞い品を出してもらいたくてね」


……そっちですか父上。




――――――――――――――――――




ご無理申し上げるつもりはさらさらないのだけれども、ハマー伯爵の腰の具合がかなり改善したようなので、それでも完治を待って王都へ向かう準備を始める事にした。

幸いにも次女アイリスは上の2人よりも健康優良児のようで、馬車での長旅も可能だと産婆女史から太鼓判を押された。

ありがたくも国王陛下の一存で旧国境の谷には堅牢な石造の大橋が国費でかけられたので、王都への旅路も楽になるというものだ……何しろ、馬車に乗ったまま谷を越えられるのだから。


「伯爵様の機能回復訓練士が、完治を宣告したそうよ」

タリアが情報を仕入れてきた……テイラー夫人経由で。

「国王陛下への謁見の申し入れもしてくださったそうで……ゆっくり来てくれてかまわないと仰せくださってるんですって」

……きっと何らかの特殊なルートを使ってくださったに違いない。

「ハマー伯爵様は王家につながるお家柄だから、かな」

「王都近郊にお住まいの公爵様がぎっくり腰で動けなくなられた事がおありで、そちら方面からの進言だと伝え聞いたわ」

陛下のお側にもぎっくり腰(魔女の一撃)経験者がいらっしゃったのか……。




――――――――――――――――――




堅牢な石橋を渡り、エマーソン公爵家一同がハマー伯爵領へ入った。

伯爵邸に数日滞在させていただいた後、王都へ向けて出発となる。

名目上は、赤ちゃん連れのゆっくり旅程。

本当のところは、私がテイラー夫人(元シグナス)と旧交を温める時間をもつため。

いろいろ采配してくれたアリアドネ伯爵夫人は、シg……マリリンの旧友だという事で、私も仲良くなれそうな気がした。

なんといっても、長女(ガーネット)と同い年のお嬢さまがいらっしゃるんですもの。



「30年近く会わない間に、すっかりおばちゃんになっちまったねえ」

「お互いにね……で、サン・トリスタンの医師会からいち早く来てくれたサムズ大佐のお母さんがレイヤードだって聞いて驚いてるんだけど」

「今もエルレ辺境地域にいる……大佐の下に4人子供がいるよ」

「そんなに!」

「期間を空けて3人産んだのもすごいと思うよ……私は1人しか産めなかったからね」

「お父さん似のめちゃくちゃ大きな赤ちゃんだったって話は、なんとなく聞いてる」

「本当は小さく産んで大きく育てたかったんだけどね、大きく産んでとても大きくとてつもなく元気に育ったわ。病気らしい病気ひとつしたことないんだよ……骨折しての熱が出てる位かな」

「……骨折」

「3歳位の時、真冬に川へ落っこちてもピンシャンしてた」

「丈夫にもほどがあるでしょ……って、なんで3歳が川へ落ちるのよ」

「川っぺりを走ってて、転んだ勢いで落ちたんだよ……体質なんかは父親似なんだよね」

「……テイラーさんも、丈夫なんだ」

「諸事情で強力な催眠剤を1回処方したけど、あの人が薬を飲んだのはそれだけだね。少々の事では腹をくだしもしないんだからたいしたもんだよ」

「それにしても、保護したお嬢さんも育てたなんてね」

「親御さんが探しに来たらすぐにでもお返しするつもりだったさ。だけど……ねえ。まさか亡くなってるなんて思わないじゃないか」

「それはそうだけど」

「それに、まんざらでもなかったよ。実子は1人しか産めなかったのに2人の子持ち気分になれたんだ」

「エレナさんがルブランで活躍してくれてた時、育て親がよかったんだろうって義父とエンリコさんがよく言ってたわよ」

「ほめられてるのかな?ありがとう」

「ところでそのエレナさんは?」

「今、Sクラスの試験にむけて勉強中」

「再発行の特例が認められたんじゃなかったっけ」

「そうなんだけど……モーガンがけしかけたんだ、わざわざ特例で資格証を再発行してもらわなくてもあと1つ受けられる試験があるんだから自力で取って来いよって。それで受ける気になって、追いこみ中」

「業務は?」

「資格試験優先。それに、女子寮の寮監には優秀な方が就いてくださったし」

「ああ、元ヴァルジ夫人(ミセス・ヴァルジ)

「……元?」

「離縁の申し出がなされてるの……ユージェニアさんのほうからのね。だけどアドルフが了承しないもんだから正式にはまだだけど」

「……離縁」

「刑期満了時の身元引受人になりたくないからよ」

「え」

「自分と娘を省みなかった夫の、いつになるかわからない刑罰死後の遺体の引き取りさせられるなんて、たまったもんじゃないでしょ?」

「ああそうか、いつ死ぬかわからないんだったね。そういや消化抑制剤と麻痺薬でじわじわ処刑するんだって言ってたわモーガンが」

「それはそうなんだけど……言い方」

「ああいう手合いはすっぱり死なせちゃ自分の罪がわかんねえだろうから、被害者と同じ目に遭わせてやりゃ死ぬ頃には自覚すんだろ……って言ってたよ、うちの元軍人亭主も同意したしね」

「伯爵家のクロード様もエンリコさんに同じ事を言ってらしたわ」

「クロード君とモーガンは思考が似てるからね……生まれる前からの幼なじみだからかな」

「育った環境のせいでしょ、たぶん」


かなり物騒な話までとびだしたものの、シg……マリリンとは出発の直前まで話し込んでた。

その間子供達は……伯爵家のお子様お孫様その従兄弟さん達とご一緒させていただいてた。

ガーネットは同い年のエリーザ様とおしゃべり。

トーマスは次期伯爵シャルル様夫人の甥にあたる馬具店の3兄弟と剣術ごっこ。

アイリスはシャルル様ご息女アリッサ様とその従妹のセレスティアちゃんとまったり。

ほんの数日しか誕生日が違わないので、アリッサ様が「ふたごみたいにしていい?」とおっしゃって……滞在中はセレスティアちゃんとアイリスは双子コーデとかいうものにされてた。

アリッサ様は、最終的にはシャルル様夫人のイリーナ様から「赤ちゃんをオモチャにしてはいけません」と叱られる羽目になっておられたみたいだけど。


「お母さま、私ちょくちょくハマー伯爵家をお訪ねしてもいいかしら?」

ガーネットからの提案……というか要望。

エリーザ様はお友達ですものね、かまわないんじゃないかしら?






ハマー伯爵領から王都までは、通常馬だけだと(馬にもよるけど)早ければ朝の出発で昼までには着くみたい。

だけども乳児こみの子連れ一家にぎっくり腰の病み上がりな伯爵様が一緒の場合、朝出発で夕方遅くに着けば早いほう……そう、壊れ物を含む荷物を満載した行商人の馬車と同じ位の速度。

私には懐かしくも慣れた速さだけど。

「お姉さまといっしょにリンドへ行った時はもっとはやかったですよ?」

トーマスには不興な速度。

「速ければいいってものではありませんよ。速くなれば馬車の揺れは大きくなります。ハマー伯爵様のお腰に振動はよくないし、アイリスだって赤ちゃんだから揺らしてはいけないのよ」

ハマー領都の馬具店……イリーナ様のご実家がイリーナ様の兄上ご誕生の頃に開発したという「赤ちゃん連れにも安心な設計の馬車」に今乗っていて、安全のため速度が上がらないようになっているんだとか。

「速いのをお望みなら、2人乗りでぶっとばしてみますか?……途中で怖くなって泣いても止まりませんけど」

窓を開けている馬車の外には、護衛も兼ねて薬剤師のモーガンさんが馬でついてくれてる。

「この馬はサンダーボルトといって、足が速いので伝令なんかでぶっとばす時によく使われます。だけど気にくわない乗り手は情け容赦なく振り落とします」

なかなかに怖いことを。

「どうなさいますかトーマス様。速いけど気に入らない乗り手は落っことす馬に乗って落ちるか、馬車に乗って安全第一で移動するかですよ。馬から落ちた経験者から申し上げますと……落ち方にもよりますが、しばらくは起き上がれない位痛いです。場合によっちゃ、骨折して熱出ます。さあどうなさいます?」

選択肢が極端すぎるわモーガンさん……あれ?モーガンさんとの2人乗りなら、トーマスは落ちないのでは。

「……夫人、そこは内緒です」

気づいた事に気づかれてしまったみたい。

「たびさきでけがをしたらたいへんだとグレイもグレイのおにいさまたちも言ってたので、やめておきます」

「そう、賢明ね」

グレイ兄弟は、なかなかいい事も教えてくれr……おにいさま()()

「チャールズさんと、一番上のケヴィンさんですね」

馬車の外からのモーガンさん。

ケヴィンさんて方は存じ上げないわ。

「友人の婚礼の時に新婦の父代理をやってくれましてね。チャールズさんとは年齢も近くよく似た人で……初めて会った時、チャールズさんまた一層一気にフケたんじゃねえかと思うほどでした」

実年齢より容貌が年上な人がまだいらっしゃったのね。

「うちの父の顔面もたいがいですが……お会いになったのでおわかりかと思いますが、アレが顔にやっと年齢が追いついた65です」

なんて事おっしゃるの……

「若い頃はよく言われたそうですよ、まだそんな年齢だったのかって」

「まあ」

「その上、連れてんのは実子なのに誘拐犯と勘違いされる事が何度も」

「それは……なんと申し上げてよいやら」

「そこはお気づかいなく、うちでは笑い話になってますので」

笑ってすむ話なのかしら……。

ガーネットは笑うに笑えないといった顔をし、大人の話についていけなくなったトーマスは専用座席に寝かされた妹の相手を始めた。




――――――――――――――――――




伯爵様の腰は一応完治との事だけど、もし万が一急に痛みが出た時に備えてオレが随行する事になった。

「……どうせ護衛兼任なんだろ?」

「当然だろ、お前が行けば随行員が1人減らせるんだから」

やはり母さんの差し金だった。

「伯爵様の付き添いでクロード君も一緒だしね」

「エマーソン公爵ご一家の宿泊先の関係もあんだろ。公爵家に王都のお邸の準備はまだないし、伯爵家のお邸はいまだ改築中で使えない。伯爵夫人のご実家は要人をお泊めするにはあまりに不向きだから、夫人の母上のご実家エンディコット家のご当主ルチア様にお願いするわけで……そのルチア様直々のご指名でクロードがついてくんじゃないか」

「……お前どこまで知ってるの」

「王都のエンディコット邸にエリーザ様とクロードの部屋がある事は知ってる。将来的に伯爵家の王都邸はシャルル様が使う事になるからと」

「ルチアおば様らしいといえばらしい話だね……」

子供の頃よくガリーニ家に預けられてた母さんだから、そのガリーニ家に出入りしてたルチア様もよく知ってるわけだ。

「あの方はいまだにオレをマリリンちゃんのチビちゃんと呼ぶんだ……あれだけは勘弁してもらいたいんだよな……」

「確かに()()とはお世辞にも言いがたいからねえ」

10歳になる頃にはもう母さんの背を抜いてたからな、オレ。

「大おばさんと呼ばない仕返しか何かかと思うんだけど……」

絶対それだよな。




エンディコット邸に着き、ルチア様の出迎えを受け……ルチア様は姪で養女の夫の伯爵様と従甥孫であるクロード同様に、オレも迎え入れようとなさった。

「まあぁ、マリリンちゃんのチビちゃんすっかり立派になって!」

だから……それを大きな声で言わないで欲しかった。

「もう28ですし、母の背は20年位前には抜いてますし」

「あら。でもあなたこーんなにちっちゃかったのよ?」

赤ん坊を抱く仕草。

「記録的巨大児つかまえてちっちゃかったとおっしゃる人はルチア様位ですよ。他からは元気いっぱいなでかい赤ん坊がそのまま育ったとしか言われませんから」

公爵夫人が噴き出しそうになっておられる。

「父でさえ新生児の時点でずっしりしてたと言いますからね、いまだに」

「あのテイラーさんが、そんな事を」

「母はわが子の抱っこを2歳前で断念しましたし」

あまりにもでかくて重いので、抱いて歩くと体のどこかを痛めると思ったんだと。

「なので、ホントお願いします。オレをチビちゃんと呼ばないでください」

森番小屋兼薬剤師館(うち)の面々みんなの腹筋のためにも。




国王陛下のもとへは、公爵様と伯爵様と公爵家嫡子トーマス様が伺候する事になっていた……さすがにアイリス様をお連れできないので、それにともない公爵夫人はガーネット様とお留守番。

そしてトーマス様退屈時の時間つぶし要員としてのクロードと、伯爵様の護衛兼非常事態時要員としてのオレが加わる。

「ったく。いつも護衛兼任で派遣されてっけどさ……男の薬剤師が全員護衛兼任できると思われると困るんだよ」

エンディコット邸の一画で、ひとしきりクロードに愚痴った……まだまだ片手で数えられる程度しかいない男性薬剤師のうち、オレ以外は自分の身を守るのが精一杯な奴しかいない。

「一応()()()()()()()()()って事になってるんだけどね」

「それ建前上じゃねえか……っつかそのテイラー館長(母さん本人)がオレを単身派遣するんだけどな、護衛要らずだからって」

「各方面から休日の傭兵って言われてるよね」

「非番の騎兵隊員とも言われた」

公爵様が完全に笑っておられる。

「致し方ないと思うよ、君の場合。殺人未遂犯を1分以内に制圧した腕前なんだから……まだ10代のうちにね」

伯爵様がいろいろとばらしてしまわれる……内緒にしとくこともないんだけども。

「1分以内に、とは相当なようだが?」

公爵様がおっしゃった。

「医師を襲撃しようとハンマー握りしめて部屋へ乱入したバカを一撃で倒しただけです」

端的に、ただし正確に申し上げておく……()()()()では殺人犯を一瞬で血祭りにあげた事にされてたそうだから、正しい情報をさしあげておかねば。

「穏やかではない現場だったんだね」

「勘違い野郎の逆恨みだったんですよ。自分の仕事の出来なさを棚にあげて、仕事を取り上げられたからその取り上げた奴がいる部屋に押し入ったと聞いてます」

「装蹄師と馬の世話が出来る薬剤師なら、薬剤師のほうが襲いやすいと思ったとの供述をえてますけど……モーガンを知るすべての人が人生最大の判断ミスだと思っていますから」

クロードが補足してくれt……フォローにはなってないな、うん。




サン・トリスタン連合王国の国家元首たる国王陛下のもとへ、旧ルブラン帝国皇帝だったエマーソン公爵がやっとたどり着きました。

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