教えを請う人・教え込みたい人
急ごしらえの公爵家、自分達の窮状に気がついたようです。
(修正完了しました)
対等合併によってエマーソン公爵邸と名を変えた旧皇宮で、私達は頭を抱えていた。
エマーソン公爵領となった帝国領土を、領主として自治政府のように治める事になる……という話だったのだけれども。
「近いうちに国王陛下にお会いしに行かねばならんだろう」
それも、可及的すみやかに。
エマーソン大公という称号を得た父上の一言を聞き、ふととんでもない事に気がついたのだ。
国王陛下へ謁見のお願いにあがる方法もわからず、お願いするツテもない。
そもそも国王陛下がおられる王城の場所すら知らない。
「おじじ様はご存じないかしら?」
ガーネットが思いついたが、どうなんだろう?
「わしは王城の場所は知っとるが……ツテらしいもんはほとんど持っとらんぞ?」
ガーネットに呼びつけられたエンリコさんだったが……留学生時代の同期生は皆かなり年下らしく、半世紀以上経った今では交流もないそうだ。
「かつての同期生と言うても……わしが名前を覚えとるのはマーシャルとネルソンとサイラス位だし、家名まで覚えとるのはネルソンとサイラスだな。寄宿舎には50人位おったというのに」
「確か7歳位から15~6歳位までの中に20歳を超えてまぎれこんだんでしたよね」
「24だった」
「最年少からみたら、ほとんど親じゃないですか」
「せめて叔父だ……」
そこでふと気づいた、ネルソンというファーストネームの国家要人がいる事に。
「……そのネルソンさんは、今何をなさっておられますか」
念のため訊ねてみた。
「何をしとるか……なあ。ネルソン・ガリーニって名前だったが」
「……軍の重鎮じゃないですか!」
「そうだっけ……それに最近どこかで名を聞いた気が」
「おじじ様、それハマー伯爵家のクロード様のお祖父さまのお名前!」
「それだ!……わしも耄碌したかな。聞いたのはつい先日だったのに、すっかり忘れておったわ」
「……情けないです」
ガーネットがぼやいた。
「そういや、薬剤師のモーガン殿が仕事でこちらへ来ておられるんだが……ネルソンと連絡をとってもらえるよう頼んでみるかな」
エンリコさん、無遠慮にも程がある事を言った。
「そんな、お仕事の邪魔をしては申し訳ないでしょう!クロード様のお祖父さまなら、エリーザちゃんのお祖父さまでもあるわけでしょう?私がエリーザちゃんに手紙を出します!」
ガーネットがエンリコさんを止めた……。
「で、なんていう手紙を出せばいいの?」
――――――――――――――――――
ガーネットちゃんから、手紙が来た。
要約すると、こんな感じ。
「お父さまとお祖父さまが国王陛下にご挨拶しに行かなきゃって言ってるんだけど、なんにもわからないからいろいろ教えてくださる先生を紹介してくださらないかしら?お母さまが知ってる知識では、どうやらかなり不足みたいなの」
相当お困りのご様子が垣間見られる気がするわね。
あたしは、お父さまの執務室に突撃した。
小さい頃、朝早くしのびこんでお父さまのペンでラクガキしたのがバレてお兄さま達から同時に追いかけられてから、お父さまの執務室ってちょっと苦手なんだけど。
「エリーザ、どうした珍しい」
「ホントだ珍しい……4歳以降執務室は敬遠してたのに」
ノックしてドアを開けたら、腰がまだ治っていないお父さまはいなくてシャルル兄さまとクロード兄さまがお揃いで。
「あれは……お兄さま達が全力で挟み撃ちまでして追いかけてきたからよ!」
「よく言うよ。あれはエリーザがイタズラして逃げたから追ったんだ」
「そうそう、何もしてない子は追わないよ」
まあ、そうよね……お父さまの書類全部にラクガキしたんだっけ。
怒られて当然か。
「で、何?用があるから来たんだよね?」
「そうよ!ルブランのガーネットちゃんから手紙が来てね……」
口で説明するより見せたほうが早いと思って、まずクロード兄さまに手紙を渡した。
「……ああそうか、僕は向こうで王位継承順位の話しかしなかったなそう言えば」
クロード兄さまは読み終えた手紙をシャルル兄さまに渡す。
「今エマーソン公爵家のご一同様を全員一度にお招きできないからまあいいかと思ってたんだけど……やっぱりそうはいかないよね」
「ゴードン様とシルベスター様だけでもお招きしたほうがよさそうだよ」
シャルル兄さまも、早々に読み終えてる。
「そう言えばサルヴァトーレ様、うちのお祖父さまと知り合いみたいな事をおっしゃってたから……引き合わせた方がいいかな」
「どなただよそのサルヴァトーレ様って」
あ、そっか。
シャルル兄さまはお会いした事ないんだわ。
「ガーネットちゃんの建前上のひいお祖父さま。本当は他人だけど、公爵夫妻がご結婚なさる時に夫人の事を『わしの孫娘』とおっしゃったんですって……そうでも言わなきゃ、ご結婚なんて無理だったそうよ」
「サルヴァトーレ様って、そんな不思議なお立場でもあったんだ……シルベスター大公様の先生をやってらしたとはうかがってたけど」
クロード兄さまも知らなかった話なんだわ……。
「とりあえず、僕らにいろいろ教えてくださった先生をお願いしてみようかと思ったんだけど」
「……クロード、先生のお年を考えろ。橋を渡っていただくんだぞ?」
「まあ確かに、僕らが11歳の時にもう60位……だっけ」
「怒られんぞ、あの頃で58だ」
「だとしてもまだ75だよ?大丈夫だと思うんだけど」
「ま、橋を渡るのに年齢制限ないけどさ」
兄さま達の言い合いの言いたい事、だいたい想像つくのよね……高齢者をこき使う若造に見られたくないだけなんだから。
「僕が一緒についていくよ。シャルルは休養中のお父さまの代理だから離れられないし、それ以前にサルヴァトーレ様どころかガーネット様以外のエマーソン公爵家の皆さまのお顔を知らないでしょ」
あたしもだわ。
お兄さま達の先生に大急ぎで連絡を取って……来てくださったのは小柄で穏和なおじいちゃん感たっぷりの方だったんだけど、お兄さま達は緊張の面持ち。
特にシャルル兄さまが。
「怒らせると怖いお方なんだ」
「ほっほっほっ、次期伯爵様とその義弟君をもう叱りはいたしませんよ……それはそうと、エドモンド様の腰の具合はいかがで?」
「いまだ自力で起きあがる事はかないません。何しろ妻の友人の紹介した医師が主治医で、主任薬剤師が息子の妻。その息子の妻の師匠も頻繁に出入りする状態ですからね……無理しようにもできないかと」
それに、イリーナ義姉さまとマリリンおばさまに指示されたお母さまがきっちり見張ってるもの。
「小さい頃あたしが木から落ちそうになってても助けに来なかったお父さまが、孫なら芝で転んだ程度で助け起こそうとするのね……ってあたしこの間、お父さまに直接言っちゃったわ」
「それは……落ち込んでるな」
「完全に凹んだね」
「お母さまも、直後に同じ事をおっしゃってたからな……」
「奥方とお嬢さまの両方に言われては、それは落ち込まれますね……とはいえ、お嬢さまが木に?」
……あ、しまった。
「妹は祖父からの隔世遺伝のようで、生まれつき自然と戯れるのが大好きな性質でして」
シャルル兄さまぁ……言い方ってものがあるんじゃないの!?
「先生もご存じのように、私もあの年齢までは自然と戯れて育ちましたから……友人達と一緒に。あの2人も含めた男どもでつい構ってしまった結果がこれでして」
クロード兄さままで!
「ご令嬢らしからぬ行動力をお持ちだとうかがった事はございますが、さすがにもうなさってはおられないでしょうね?」
先生に言われちゃったけど……ついこの間ガーネットちゃんを追ってきた人達をものすごい言葉づかいでどなりつけた事は勘定に入れないでお願いしますわお兄さま達!
――――――――――――――――――
ハマー伯爵家のご兄弟といえば、まだ嫡子シャルル様が11歳の頃……後継者教育を施してほしいと当代エドモンド様から依頼を受けていて、お約束の日時にお伺いするとシャルル様のご友人クロード様もご一緒にお勉強なさる事になったと。
私はてっきり一から新しく執事を育成するのかと思ってそのつもりでいたら、エドモンド様は違うとおっしゃる。
「再婚相手として私の手をとってくれた方のご子息も一緒に学ばせてもらえないか?」
ご婚約者様のご子息……未来の奥方の連れ子。
「偶然誕生日も近いので、双子のように教えてやってもらいたいんだ。将来的に2人とも私の名代として国外へ赴けるように」
エドモンド様のご意志そのままに、お二方とも成長なさったようです。
そして今、文字通り身動きがとれなくなったエドモンド様のかわりをシャルル様とクロード様が手分けしてこなしておられる。
「シャルル兄さまは内政担当、クロード兄さまは外務担当みたいな感じですの、以前から」
シャルル様とクロード様が所用のため少しお離れの際。
部屋に残られたエリーザ嬢が話し相手となってくださった。
ご子息がた共通の妹御にあたられるエリーザ嬢は、よくご存じのようだ。
「クロード兄さまが爵位の権利をお持ちじゃないからと軽視するお馬鹿さんな連中が居りますのよ。先生、信じられます?背後に国軍大将である実の祖父と富豪な大伯母がいますのに」
エリーザ嬢は、そこまでご理解なさっておられるお嬢さまでいらっしゃる……お話しになる口調は、その、何というか。
ご令嬢らしからぬ口調。
そのらしからぬ行動力が引き金となって、この度の対等合併となったそうだともまことしやかに噂されている。
きっと本当の事なんだろう、このご様子を見れば。
「ガーネット様によろしくお伝えくださいませ、リンド領へ行く時はお役に立てますから連れてってくださいませと」
……何の事だかよくわからないが、お伝えすればよいのだろうか。
しばらくして、お一人で戻ってきたクロード様に添われて辞去する際に。
「先生。私達兄弟が離れている間に妹が何か申し上げたのでしょうけれど……律儀に伝書鳩のような真似をなさらずともよろしいですよ」
さすが同母の兄上でいらっしゃる……お見通しだ。
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エリーザにガーネット様への返事を書かせ、その手紙を追うように僕は先生のお供をして橋を渡る事になった。
橋は徒歩でしか渡れないので、話しながら歩く事になった。
「そういえば……以前の古い国境の橋が落下したのは、迫害されていた外国人女性のお嬢さんがこちらへ渡るために走ったためだったとうかがったのですが」
「7歳の少女が走った位では壊れなかったんですよ、彼女は渡りきれていますから。重い鎧兜を着た4人の追っ手が一度に渡ろうと橋に乗ったのが落下の原因です。養父と祖父が古い記録を探し出してみましたら、ルブラン側に近い部分が破損してサン・トリスタン側に垂れ下がっていたという記載があったそうです。アンソニーおじちゃ……いえ、森番頭のテイラー氏も橋が落ちた直後の様子を覚えていましたし」
ルブラン地域の植生分布調査に行ったはずのモーガンから、エレナがどこの誰だったかわかったという手紙が届いて……上を下への騒動になったのは記憶に新しいところ。
「ならばお嬢さんは橋の落下とはほぼ無関係ですね」
「無関係というより、被害者なので責任を問うのはお門違いかと。マリリンおばちゃ……テイラー夫人いわく、いろいろたくさんトラウマ抱えてたみたいですし」
いけない、テイラー夫妻と言わなきゃいけないのに「おじちゃん・おばちゃん」と言いかけた。
「伯爵夫人とテイラー夫人は、お若い頃からのご友人でしたっけ」
「ええ、2人がまだ10代にもならないうちからの。だからでしょうか、私とモーガン薬剤師はよく友人歴≧年齢と言われます」
「そんな上手い事を言うのは誰ですか」
「シャルル夫妻や、シャルルの妻イリーナの兄で私達の友人のアルフレッドですね……ああ最近ではアルフの妻エミリーも言います」
彼女はシャルルと僕を全く似てない双子だと思ってたんだってアルフから聞いた。
「それは致し方ないですね。事情を存じ上げている私ならともかく、エリーザ嬢がご一緒ならお三方は3兄妹にしか見えません」
「やはりそうですか……エリーザは養父にも母にも似ていますから」
「シャルル様はお父上に、クロード様は母上にとてもよく似ておられますからね」
個人的諸事情により、僕は母似でよかったと思ってる。
男が母親に似ていてよかった例の一つだろうな……あとは職業柄モーガンがお母さん似でよかったというのが正直な感想(お父さん公認)。
「遺伝の不思議を語ってる間に、渡りきっちゃいましたね。お迎えが来てるはz……なんでモーガンがいるんだよ!」
……確かルブラン地区全域をめぐる仕事中のはずだけど!
「公爵家に急用ができて一時的に戻ったんだ」
「急用」
「山ん中まで行ったら、そこの住民から公爵様直筆の通行許可書がないと通さないって言われて」
「戻って来たわけか」
「そういう事……っつか正式なお迎えはオレじゃねえ、こっちの騎兵隊員だ。オレはさっき偶然会ってついてきただけ。どうせオレも公爵邸まで行くんだし……ってんで一緒に行こう」
「じゃ、今エレナは何してんの?」
「サルヴァトーレ様に言われて、弟達と何かの書類を作ってるよ。何を書いてるのかは聞いてねえから知らねえ」
「弟達、かあ。確か3人いるんだったよね?」
「ああ。末っ子なんかびっくりする位エレナそっくりなんだぜ?どこまで似てるのか確認したいとか周囲の人達に言われててさ、油断すると女装させられそうだってオレに泣きついてきた」
「だったら、モーガンの白衣貸せば?末っ子君を女の子にするんじゃなく、男女の衣装にほとんど差のない薬剤師の扮装させれば……」
確か女性薬剤師の正装はスカートだけど、普段の仕事中にまでスカート姿の女性薬剤師はかなり少なくなってるらしいとか……いろんな意味での護身的なものも含めて。
「ああそうか!その手が!ありがとう、持つべきものは頭の回転がいい友人!それも親子2代で!」
「……なんだよそれ」
「いや、な。父さんがエレナを保護した時、名前がわからないんじゃ呼びようがないって言って母さん達が女の子の名前を片っぱしから呼びかけてたろ?あれのおかげで、今回手続きがめちゃくちゃ順調だった」
「ああ、あの……僕らが遊んでる横でずっとやってたあれ」
「あの時あれをやってなかったら、名なしの少女って呼ばれる事になっててたらしい。いくらなんでもそれはかわいそうだからって、父さんが名前を調べるのに半日だけ猶予をもぎ取ってきてたんだって。で、名前だけでも思い出せてたから今回の手続きがスムーズだったんだと」
へえ……いろいろあるんだなあ。
「……とにかく、今は公爵邸へ向かったほうがよいのでは?」
先生が、笑いながら僕らの会話を止めてくれた。
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ハマー伯爵家から王国の歴史やら何やらを教えてくださる先生が来てくださるとの事で、お迎えに行って欲しいとガーネット様からお願いされて旧国境の橋へ行こうとしていたら。
「エリオットどうした?」
兄貴の声がした……今確か薬剤師組合の手伝いとして道案内役に雇われて、帝都改め領都にいるはずないのに。
「山岳地域に行ったら、旧国境で公爵様の通行許可書を見せろっていわれてさ……モメたくないって事で、許可書をいただくために一旦戻ってきた」
「ああ、あそこか。もとは別の国だからなあ」
「それでとりあえずガストン食堂に戻ってきたら、サルヴァトーレ様がエレナさんに量刑嘆願書とかいう奴を書いて欲しいって言ってきて」
「何それ」
「減刑嘆願書の真逆の奴だ」
兄貴の後ろに、薬剤師のモーガンさんがいた。
「ルブランじゃ人を殺しても15年もすりゃ事件扱いにならなくなるんだろ?サン・トリスタンにはその制度がないから、何年経っていても立件できる。帝国時代に起きた犯罪行為の処罰は、罰せられる当人がルブラン法かサン・トリスタン法かで選べるんだが……被害者やその親族が希望すれば、その権利は剥奪される」
そんな制度があるのか。
「ジェファーソン姉弟には被害者親族を名乗る資格がある。長女にいたっては殺人未遂事件の被害者本人だし」
……兄貴の友達の奥さん斬り殺した奴がわかったって事、なのか。
「殺人と殺害教唆だから、たぶん仮釈放なしの終身刑だろうな。ざま見やがれ、25年かそこらで逃げきれると思うなよってんだ」
モーガンさん、なかなかの毒舌だ。
「エレナが25年どんだけ得体の知れない恐怖で泣いてきたのか、きっちり教えてやりたくなるよ……年齢1桁の女の子が夜中にコッソリ周囲にバレねえように声を殺してしくしく泣くんだぜ?いたたまれないっての」
確かモーガンさんってエレナさんより3つ下だったと思うんだけど……。
「捕縛につきあっていいか訊いてたら、エレナに止められた……牢部屋の木製テーブルと同じ末路をたどるからダメだって」
……そういや、ミハイル・ヴァルジが収監された部屋のテーブルを蹴り割ったんでしたねモーガンさん。
「取っ捕まえる奴はじじいらしいから、心臓止めちまってもマズいしな……ってんで、オレは許可書をもらいに出てきた」
「公爵家に行くなら、一緒に行きましょう。公爵様がハマー伯爵家にお願いして講師の先生をお招きしたのをお迎えしに行く途中なんで」
俺はモーガンさんと兄貴を連れて旧国境の橋まで行った。
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エリーザちゃんに書いた手紙のお返事では、お兄さま達の先生にあたる方がいらしてくださるって事だったけど……クロード様が付き添いで来てくださるなんてどこにも書いてなかったから慌てた!
またモーガンさんもご一緒なの?と思ったら、そちらは別件だったみたい。
お父さまは今、取り急ぎモーガンさんのご用を済ませてる。
「義父はまだ動けませんので、必然的に義兄も動けなくて……また僕がこちらへ来る事となりました」
クロード様、ご自身がこちらへいらした理由をおっしゃってる。
伯爵様の腰は、相当お悪いのね……。
「何といっても監視の目だらけですから、動きたくても動けないです。医師の見立てでは、自力で起き上がれるにはもう少しかかりそうだと」
監視の目……そうよね、伯爵邸には薬剤師さん常駐だもの。
それに。
「伯爵夫人もシグ……いえマリリンから注意事項を聞いて見張っておられるんでしょう?」
「ええ。そればかりか孫の従兄弟にまで見張られています」
あらまあ。
「グキッとやった時に居合わせたわけですから、アリッサのおじいちゃまがまたあれになったらダメ!って言ってます。特に次男のほうが厳しいですよ。何しろ大泣きして父親に助けを求めに行った位だから」
「かわいそうに……」
つい、口をついて出てしまった。
「誰が、ですか?」
クロード様か訊いてくださる。
「もちろん3歳でぎっくり腰発症の現場を見てしまったハロルド君ですわ」
「そっちですか……ですよね。義父は自業自得ですから」
「エリーザちゃんからのお手紙にも書いてありましたわ、お父さまがこんなに激甘祖父になるとは思わなかったって」
娘が木から落ちても見てるだけだった人が、孫なら転んだだけでも起こそうとするなんてどんな甘々祖父なのよ!って書いてあったんだから。
「ありがとうございました……最初からこの許可書をいただいておけばよかったんですね。あの山ん中から急ぎで戻ってくるのって、慣れてるグレイさんや体力バカなオレは大丈夫だけど、エレナがちょっとキツかったみたいで。2~3日休んでから向かう事にします」
お父さまと並んで、モーガンさんが話しながら入ってきた。
「あのさあ、エレナ以外の他の薬剤師だと誰もモーガンについていけないよ?エレナがテイラー家で育ったからこその現状だよ?」
クロード様があきれたようにおっしゃった。
「……やっぱりそう?」
「そりゃそうでしょ、10歳位までのモーガンが何かやらかすたびにおじちゃんおばちゃんと一緒に巻き込まれてたんだから当然」
一緒にいらした先生も何かご存じらしく、笑っておられる。
「長年貴族家の家庭教師をして参りましたが、お勉強中の差し入れとして焼いた川魚とそれを焼いたご当人が届いたのはハマー伯爵家だけでしたね」
「それも串つきのままたくさん両手に握りしめて持ってきたよね」
「私にも差し出されましたよね、1本いる?って……いただきましたけども」
いただいたのね先生も。
「あ……あれって先生が毒味してくださってたんですよね。今思えばとてもよくわかります。あの時はすみませんでした」
「いえいえ、当時11歳ですからそんなものでしょう……あのお魚は、ご自身で?」
「はい。父の元部下って人直伝の手づかみ漁法です」
「まって……手づかみって、漁なのか?」
お父さまが訊いてらした。
「槍を銛の代わりにして突こうとしたら、錆びるからやめとけと止められて教えられた漁法です……ああそうだ公爵様。狩猟の許可書もいただけませんか?」
……何かとんでもない事をうかがった気がするんですけども。
「モーガン……まさか、鹿?」
クロード様が当然のようにおっしゃるとか……
「さすがに鹿はエレナの弟のマルコに任せるよ、父さんじゃあるまいし……うまそうなキジがいたから獲ろうとしたら、2方向から全力で止められた。無許可で獲るなって。だから許可書ください」
……やっぱりとんでもない方向のお話でしたわね。
2通の許可書を手にしたモーガンさんが嬉々として去っていった後。
「貴族家のご当主の家庭教師は初めてですが」
と先生がおっしゃって、お父さまとお祖父さまへのサン・トリスタン王家の由来をはじめとする授業が始まった。
「ガーネットは今教わらなくていい……大急ぎで教わる必要がある我々だけで。別の機会にじっくりゆっくり教わったほうが頭に入るだろうし」
との事で、退出する事に。
「お父さまとお祖父さまの突貫授業の間、クロード様はどうなさいます?」
「そうですね……どなたか詳しい方にルブラン地区の事を教わりたいですね。ハマー領とはお隣になったわけですし」
「それなら適任者がおりますわ」
帝国時代の宰相代理だったブラッドレーの子息サイモンを呼んでもらった。
なんとか教わる事ができた模様です。
そしてまたも黒歴史が表に出てきたモーガンw




