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アルヴィノーラの森で  作者: ありかわつぐみ
処断の時
67/81

とある決断と、それに伴う密談


ルブラン帝国皇帝シルベスター8世、重大な最終決断をいたします。




ガーネットを追って隣国の森で捕まった男達の親族が国外へ無事に退去できるまでの間。

私達は何もしていなかったわけではなかった。


私は2度も命を狙われ、息子ゴードンまでも同じ手口で狙われて。

娘エリノアは若い頃散々いろいろとその身を狙われて、ゴードンの娘ガーネットまでも同じようにその身を狙われた。

ゴードンの息子トーマスにも生命の危険が及ぶ可能性が無きにしもあらず。

今まだゴードンの妻タリアが身ごもっておる第3子も、生まれる前から命を狙われかねない存在であると。



これ以上、狙われるのであれば……狙われるのが私以外の、孫にまで及ぶというのなら。

私にも考えがあるというものだ。




隣国より来てくださったお三方のうち、薬剤師でないクロード殿は養父である伯爵よりお役目を担っておられた。

「お困りの事があれば、何でもおっしゃってください。養父(ちち)も可能な限りお助けいたしますと申しておりました」

ハマー伯爵家といえば、王家につながるお家柄。

本来なら公爵でもおかしくない血筋であるのに、初代が辺境伯でもない伯爵位を望んだためだという。

なので伯爵家ではあっても王家への面会が非常に容易だという特殊なお立場なのだそうだ。



私はクロード殿と伯爵家を介して、サン・トリスタン王国の国王陛下へ内密の書簡を送ることにした。



時間がかかると思っていた返信は、すぐに届いた。

「お申し越しの件、当方でも事例を調べ瑕疵(かし)なく速やかに執り行いたく存じます」

帝国側でも瑕疵(かし)のないようにと、先生にいろいろ調べてもらった。


そして互いに調べた事例を突き合わせ……。



()()()()()()()()()()おおごとが動きだした。




――――――――――――――――――




父上から内密でと念を押され、部屋へ忍んで行ったところ……父上とエンリコさんとクロード殿がいた。

「聞いても大きな声を出さないで欲しい」

そう約束させられて聞いた話は、驚くようなものだった。







()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()







机上に置かれた冊子状の書類の表紙を見て、大声出すどころか言葉を失った。

「……対等、合併?」

「そうだ。買収されるのでも吸収されるのでもない。対等合併だ」

「いやでもあの父上……なぜそのような?」

「ヒルダが死んでから、常々考えておった事だ」

母上の逝去の頃、から?

「継嗣は多いほうがいいと女を押しつけてくる輩が……イーゴリ・ヴァルジを筆頭に山ほどおったのだ」

私と妹には腹違いの弟妹はいないので、突っぱねたんだろう。

「実を言うと、シルベスターが帝位に就く時……継承者が見つからないという事態になっておったんだ。あの時の混乱を知る者がヒルダ亡き後の妾妃斡旋したんだろう」

エンリコさん、さすがに昔をご存じなだけはある。

「何しろとんでもない奴まで来よったからな……先々代のハトコの愛人の子供と称して来た男は最悪だった」

「……ひどかったですね」

「そいつの母親は確かに先々代のハトコの愛人だったが、先々代のハトコの息子ではなかった」

え?……ああ、そういう事か。

「皇帝というのは出自を(かた)ってまで就きたいものなのか?と思って調べると、そいつの実父は山岳地域にかつて存在した国の統治者の子孫だった。世が世なら自分達がルブラン帝国を統治していたとぬかした。当然、処罰してあるがな」

……どのレベルの()()なんだろう。

「ヴァルジ一家……いや男だけだな。奴らの言動は見るにたえないものが多すぎる。統率力があるのはよいが、どうやらそれをふるう向きが違っている」

父上がボソッと言うと

「言い得て妙な言い回しが東国にあったな……初代は畑を耕し、2代めは栽培する。3代めは収穫して食い尽くす」

エンリコさんがヴァルジ家の現状をあてはめたような事を言った。

「耕した初代(イーゴリ)、栽培する2代め(アドルフ)と食い尽くす3代め(ミハイル)か。2代め(アドルフ)3代め(ミハイル)の育て方を間違えさえしなければ、まだ救いはあっただろうに」

「いや、そこは夫人を教育から閉め出した時点で終わっとるだろう。娘のバーンズ夫人(ミセス・バーンズ)は到ってまっとうに育っておるではないか」

話がそれてきてる気がする。

「畑の3代めは、早晩自滅するでしょう……して、その覚書は私が拝見してもかまいませんか?」

「おお、そうだった。これを見せるために呼んだんだった」

エンリコさんが渡してくれた。






・本件に於ける対等合併とは、買収ならびに吸収合併とは趣が異なるものである事を明記する

・サン・トリスタン王国に於いて他国と合意の上対等合併する場合、国王と王位継承権保持者のうち成人の上位10位以内の者すべての同意が必要との法的根拠がある

・ルブラン帝国に於いて他国と合意の上対等合併する場合、皇帝と継承者すべての同意が必要との法的根拠がある

・名目上ルブラン帝国はサン・トリスタン王国の一部となるが、ルブラン皇帝にはサン・トリスタン王国王族同等の身分を授け、領主として帝国領部分を統治する






1枚めの記述だけでも、おおごとだなと感じた。

「王国の王位継承権は、帝国の継承順とはかなり違っています」

クロード殿が説明してくださるようだ……タリアから少しは聞いていたが、要領を得なかったのだ。

「王国では、初代国王の父上の血が脈々と流れております。そして王家の家名のランディスは、初代の母上の御名。この2つを歴代の国王が、初代のご両親の間に贈答されたといわれる7つの宝玉のはまった宝冠と共に男児のみが継いでいくのです」

これは男系男子継承というものだ。

「継承権は出生と同時に与えられます。初代の即位が乳幼児期であった事に由来するものです。先日も国王の三男に4番めの男児が生まれましたので、私の養父と義兄はそれぞれ継承権の順位が1つ繰り下がりました。王都では王族の慶事が続いていますので、義兄シャルルの順位が3桁になるのは時間の問題でしょう」

継承者がたくさんいるのは、いいなあ。

「順位のつけかたですが、現在1位は長男である王太子です。2位が王太子の長男、3位が次男。4位が国王の次男、5位が次男の長男、6位は次男の次男、7位が次男の三男。8位が国王の三男、9~12位が三男の息子達4人。13位は国王の上の弟で男児がおらず、14位は早逝したその次の王弟の長男です。国王の従兄弟息子達や国王の又従兄弟の息子達、先代国王の従兄弟の孫や先代の又従兄弟の孫などが継承権を持っています。わが家……ハマー伯爵家の初代は、確か先々代よりも何代か前の国王の従兄弟だったかと」

……子孫繁栄が大事といわれる理由がわかるような気がした。

「この膨大な人数の継承権保持者全員の同意を求めるには2ヶ月以上かかってしまいますし、乳幼児の同意が有効かどうかという話にもなります。ですのでこういう際には成人の上位10~20人に任される事になっています。今回は10人ですので……現在は14位の王甥までがその10人です。王都周辺に住んでいますので、一両日中には合意文書が完成するはこびとなりましょう」

継承者が少なすぎるのは問題だが、多すぎるのも大変なんだな……。

「こちらは、皇嗣の私と継嗣の妹だけしかいないのだが……成人ではないが娘のガーネットも数年のうちに継嗣となる予定なのだから参加してもよいだろうか」

「皇女殿下は、16でいらっしゃいましたね……ええ、皇女殿下の合意も取りつけましょう」


()くして、秘密裏に話が進んでいったのだった。




――――――――――――――――――




「……本気、いえ正気ですか?」

お父さまに呼ばれて行った部屋で、中にいたお祖父さまとお父さまとエンリコおじじ様と伯爵家のクロード様からうかがった話があまりにも予想外すぎて……つい「正気ですか」と訊ねてしまったけれど。

よくよくお話をうかがってみれば。


・サン・トリスタン王国とルブラン帝国が合併

・旧ルブラン帝国部分はルブラン家がサン・トリスタン王国の王族と同等の身分を得て統治


という事は。

・ルブラン帝国はサン・トリスタン王国の一部になるので、お母さまは堂々とリンド家の人を招ける

・帝国から脱出した人も、堂々と里帰りできる(する気があれば)

・サン・トリスタン王国の医療を堂々と取り入れる事ができる


うん、いい事ばっかりな気がする。

それに、同じ国になれば……エリーザちゃんに気兼ねなく会いに行ける!


「……そこはエリーザがこちらへ頻繁にお邪魔してご迷惑かけそうな気がいたします」

クロード様、いくら兄上でもそれは……あり得るんでしょうか?




――――――――――――――――――




他国との合併に際して、ルブラン帝国には厄介な規定がもう1つあった。

わしが調べているうちに出てきた文言で……本当に厄介だとため息が出た。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


シルベスターは、かつてゴードンを摂政とした事がある。

原因はヴァルジ達が一服盛って弱らせたからだが、法的にも忠実に瑕疵(かし)なく進めるにはこの規定が邪魔をする。

「皇帝が私でなければよいのではありませんか?」

シルベスターが言った……そうかそういう事か。

「ゴードンに譲位して、ゴードンが皇嗣としてではなく皇帝として合意するのか。なるほど、ゴードンならば規定には引っかからんな」



秘密裏に、譲位の準備までする羽目になった。




――――――――――――――――――




グレイさんから、国外へ脱出する例の方々のご家族全員の移動が完了したとの報告がございました。

私から陛下や隣国のクロード様にご報告させていただきました。

「さて。手抜かりなくいこうではないか」

陛下がおっしゃいました。



よもやそんな決断をしていたとは!

それも……ヴァルジ失脚ありきの計画で!


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