7. 謀略と策略
王国伯爵領内では、女性陣総出で皇女のおもてなし(?)状態。
帝国への派遣組3人は暗躍しています……。
(なお、下品……というより「その言い方はどうかと思うぞ?」というセリフを吐いています……1人が)
エリーザちゃんのお兄さまの奥さまのお兄さんの奥さん・ホイットニー夫人は帝国出身だから、と伯爵夫人と薬剤師マリリン先生とのお茶の席に来てくださった。
「もうすぐお産まれですか?」
「ええ、そろそろかと」
「私の弟か妹と同じ位ですね」
「次こそ女の子だといいんですけど……」
「男の子3人でしたよね」
「父親似のわんぱく坊主が見事に揃ってしまって。でも家業が馬具店でよかったです……職人のおじさん達が3人まとめて可愛がってくれるんで」
「男所帯の職業の家に産まれた男の子はもれなくかわいがってもらえるからねえ……うちも一応そうだから」
マリリン先生がおっしゃる……女所帯の薬剤師館だけど男所帯の森番小屋、っていうお宅だったわね確か。
「男の子の派手な遊びは全部若い森番仕込みよね」
先生が子供の頃からのお友達だという伯爵夫人、詳しい!
「小さい頃から年齢不相応に狩りやら川釣りやらやってたよ」
「一度いなくなって大騒ぎで探した事があったじゃない……10歳になる前だったかしら」
「ああ勝手に森番の野営訓練にもぐり込んでたやつだね。ひとことやりたいって言えば正式に参加させてやったってのにあいつは……」
「あらそうだったの?めちゃくちゃ怒ってたから駄目なのかと」
「黙って行ったから怒ったんだよ。うちじゃやりたいって言えば捕縛されない限り何でもさせてやる事にしてるんだ」
……とても自由なご家庭、ですね。
「その代わり親がやらせたい事もやらせたさ。身を守る術として剣は5歳から与えたし、くっだらない事でだまされないよう読み書きも教えた……教えてもらった、だね。うちでは専門的な事しか教えられないから、エレナも一緒にアリアドネのところで教わった」
文武両道なのですね……。
「そうしたら戦える薬剤師が出来上がっちまったよ。医師との打ち合わせ中に乱入した殺人未遂犯を1分以内で制圧した事もある」
……そこまでいくと、もはや戦闘要員。
「相手も医師だか何だかわかんない奴にやられちまったとは思わなかったみたいでね。モーガンに制圧された殺人未遂犯も『一番警戒度の低そうなところを狙ったはずなのに』って言ったらしい」
「一番狙っちゃダメなところですね」
「そうなんだよ馬鹿だね!」
「……今、その一番敵に回しちゃいけない人が橋の向こうに行ってるんですか」
「そういう事になるね。国際問題に発展するからうかつに殺すなよって亭主が釘さしてた」
……あの。
お父さんからの注意事項が怖すぎます。
――――――――――――――――――
ヴァルジのクソ息子を捕獲するためという大義名分のもと、私達巫女様一行3人は皇宮内の客間に滞在するようにとの事で……
「男2人が従者の部屋だよな」
「そりゃそうでしょ、お世話係が主室にいたらおかしいって」
クロードとモーガンが、通された部屋をみて口々に言った。
身分的には、クロードが主室なんだけど……潜入中って事で。
「詳細を知らない侍女が近くにいるかもだから、大声は控えて……」
クロードから注意されるけども。
「私はしばらくこの巫女様のままいなきゃならないわけね……動きにくいし、暑い!こんなの正装にしてたなんて信じられない!」
小声で愚痴る。
「文句言いたいのもわかるけど、お役目済んだら脱げるから我慢しろ」
モーガンになだめられて、ハーブ入りのレモン水が入ったグラスを握らされた。
「それ飲んで落ち着け」
私の好物……わかってるじゃない。
「馬鹿親のところにも巫女様が皇宮内の客間にとどまるという情報がいったはずだから、馬鹿息子はいつここへ来てもおかしくない。巫女様は、木で巫女の杖っぽいのを作っておいたから携帯しといて……非常事態時用として。護衛は、間違っても馬鹿息子を殺さないように」
「意識とぶまでぶん殴っていいか?」
「……場合によるよ。問答無用ではダメだからね?」
「やっぱダメか」
クロードとモーガンが怖い事を言い出した……私は2人が4歳の頃からしか知らないけど、この男同士の幼なじみって息が合いすぎててなんだかもう。
お母さん同士が子供の頃からの仲良しだったからなのかしら?
「じゃあ、脅すのは?」
「とりあえず今のところ威嚇までにしといてもらっていいかな」
……どこまで本気なのよこの2人。
作戦会議終了直後、客間の廊下側出入口の扉が……ノックもなく開けられた。
皇嗣妃殿下は例の調剤室にいらっしゃるはずだし、サルヴァトーレさんはおじいちゃんだけどそんな事しない。
当然皇宮の侍女の方々もそんな事をするはずないので……宰相かそのクソ息子かのどちらかで間違いないはず。
すかさずクロードとモーガンが主室から出て行った。
「何者だ?巫女様が皇嗣妃殿下より賜った部屋と知っての狼藉か?」
主室の扉の向こうから、クロードの冷ややかに誰何する声と何か金属の音が重なって聞こえた……モーガンの愛剣なら布巻きのまま荷物にさしてあるけど?
「そちらこそ、こちらをどなたと心得ての狼藉か。腕を放し、刃物を下ろしていただこう」
……腕?刃物?
気になったので主室の扉をうすく開けてのぞいて見た。
クロードが従僕みたいな人の腕をひねり上げ、モーガンが酔っぱらい宰相そっくりな若造の首に見覚えのない短剣をあてがっていた。
もうちょっとで、何してんのよあんた達と言いそうになった。
あぶないあぶない。
私は気持ちを切り替えて、巫女様として出ていく事にした。
――――――――――――――――――
廊下に面した客間の扉が開いた。
オレがクロードを見ると、クロードもオレを見ていて……視線だけで「奴が来たようだ」と言いたいのがわかった。
主室の扉から出て従者の部屋の前まで行くと、そこには酒くさい宰相をそのまんま若くしたような男と短剣を腰にさした従僕らしいのがいた。
「短剣を抜く」
「了解」
口に出したやりとりは以上だが、伝わった。
クロードが短剣をさした従僕の自由を奪い、オレがその腰の短剣を抜いてミニ宰相の首筋にあてがってやった。
「何者だ?巫女様が皇嗣妃殿下より賜った部屋と知っての狼藉か?」
クロードが冷ややかに言う……うん、こういう時「ああ、国軍大将の孫で伯爵家のご子息様だ」って思う。
「そちらこそ、こちらをどなたと心得ての狼藉か。腕を放し、刃物を下ろしていただこう」
クロードに腕をひねり上げられてる従僕が偉そうに言う……が、お前オレ達が出て行っても短剣に手もかけなかったじゃねえか。
女の部屋に忍び込んだのに男が2人も出てきたら……普通、抜くだろうが。
護衛にもなってねえ。
「名乗りもなさらない方がどなただかは存じ上げません。が、女性客の部屋に先触れもなく押しかけ押し入る者は捕らえよと当方の上の者は申します故それに従うまでの事」
確かにハマー伯爵夫妻とガリーニ将軍ならおっしゃるだろう。
「う……上の者、とは誰だ」
「我々にとって名無したる貴殿達にはかかわりなき事。名無しでなくなったとてかかわりなき事にはかわらぬ」
クロード、ひねり上げる手はゆるめない……どころかさらに力を込めてる。
「……父上は、手強そうなのは1人だとおっしゃっておられたのに」
オレが短剣をつきつけている奴がポツリと漏らした。
「あんたのオトウサマとやらが何者だか知らんがな、ノックもしねえで他人がいる部屋の扉を開けていいと教えるような親なのか?うちの親はノックなしで推参する失礼きわまりない奴はとりあえずぶちのめしてかまわないと教えてくれたが?」
短剣の先端で首をつつきまくりながら、耳元で言ってやった。
ミニ宰相の顔色が変わる。
「ち……父上に、お知らせを……」
「あんた、いくつだ?」
「……え」
「だから年齢訊いてんだろうが。いくつだよ?」
「に……23ですが……」
「そんな年齢になってまだオトウチャマにクソしたケツ拭いてもらわなきゃ下着もはけないのかよ?」
ついうっかり口から出てしまった……聞こえてたらあとで怒られるよな、エレナに。
「……んっ、なっ……」
「23といえば、もう子供がいてもおかしくない年齢。自分でしでかした後始末すらできぬ年齢ではあるまい」
クロードも言う……実際、シャルル様とアルフは23の時それぞれ1児の父になってた。
まだ継いではいないけど、家業の跡継ぎとして世間的にも認知されてもいる。
こんなフヌケた馬鹿なオボッチャンじゃなかった。
あの酒くさ宰相、息子のかわいがりかたを大いに間違えたようだ。
親になった事のないオレでもわかるって相当だと思う。
主室の扉が開いた。
「……何事」
神々しいエレナが現れた。
「侵入者でございます巫女様」
クロードが仰々しく言う。
「捕らえよ」
エレナ、一言で片づけた……。
「かしこまりました……どちらを?」
クロードが問うと、
「贄は多いほうがよい」
なんとも言えない返事が……陛下や皇嗣殿下を治すのに生贄いらないぞ?
けど、ミニ宰相と役立たずの護衛2人を拘束しにかかった。
「承知……おい、手を揃えて前に出せ」
まずはミニ宰相。
両手を前に出させ、まず親指どうしをくくりつける。
次に両手首を合わせひじまで離れないようにくくりつける。
目立った結び目は、親指の根もとに1つとひじの内側と外側に1つずつ。
ほどくにしても3か所の結び目を何とかしなきゃならない。
縄抜けしにくい拘束のしかただと教わった……父さんに。
「……なんだか、えげつない」
「見た目はな。これだと縄の跡はつかないし、簡単には切れない」
捻挫や単純骨折の固定に使う丈夫な布包帯で縛ったから……見た目がすごい。
「足は?」
「あとで縛る」
歩いてもらわなゃならんからな。
2人は主室から遠いほうの従者の部屋のクローゼットにつっこんでおく事にした。
――――――――――――――――――
ミハイル・ヴァルジが巫女様のいらっしゃる客間に押しかけ、早々に拘束されたとお知らせをいただきました。
サルヴァトーレ様にもお知らせを……と思っていると、グレイさんが。
「ガーネット殿下にお知らせします?兄の仲間の人が向こうに行くそうなんですが」
「巫女様のお供のお2人に確認してからにしましょ」
巫女様の客間では、新たな作戦会議が始まっていました。
サルヴァトーレ様もいらっしゃってました。
「侍女殿もお呼びせんと、と思うておったところだ」
監禁場所が近いから大きな声を出してはいけない、と釘をさされてからの会議参加となりました。
「無事に捕獲できたんだけど、問題はここからで……どうやって親の宰相を1本釣りに持っていくかだよな」
「拘束できた事をお知らせしておいたほうがよろしいのでは……?」
「ツテは?」
「巫女様をこちらへお連れしたあの関係者さんのお仲間さんがちょうど向こうへ行くそうです」
「ではそこはそれでお願いしましょう」
「バーンズ夫人にもご助力願おうじゃないか」
「……誰ですその方」
「ミハイルの姉。弟と違ってお母さんにしっかりしつけられてて……あの馬鹿親宰相の娘だとは思えんいい子だ」
「夫人のご子息ヴィンセント様はトーマス皇子殿下と仲良しですし、一緒に剣を習っておられます。夫人は宰相の子ですがいい人ですわ。お若い頃から傍若無人な弟の扱いにとても困っておいででしたわ」
弁護しておかなくては。
「では、その方もお呼びしてください」
バーンズ夫人に使いが出されました。
無事(?)に拘束できたようでなにより。
あとは……。
いよいよ、ヴァルジ父子が裁かれるのみ。




