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アルヴィノーラの森で  作者: ありかわつぐみ
第8章 25年
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6. 簡単にはお逃がし申し上げませんよ?


作戦は粛々と進んで…………いるんでしょう、おそらく。




あたしが薬剤師館の女子寮に連れていったお嬢さん……ガーネットちゃん、ルブラン帝国皇女殿下だったなんてね。

名前が一緒、とは思ってたけど……まさか皇族のお嬢さまが1人で国境の森のサン・トリスタン王国側にいるなんて思わないでしょ、意図せず護衛をまいちゃうようなあたしじゃないんだから。

だけど、それでわかっちゃった事もある……1人で国を出なければ、その身が危険だったんだって。

とはいえ。

「私もエリーザちゃんが伯爵家のお嬢さまだなんて思ってもみなかったわ。あの屈強なお兄さん達が()()って呼んでたから、どこかのお嬢さんではあるかなと思ったけど」

ガーネットちゃんにそこまで言われるとは……あたし、そんなにお父さまの娘らしくないのかな。



今、ガーネットちゃんは伯爵邸(シェルビーホール)に滞在中。

なんでも、今帰国すると貞操の危機らしい……身の危険、って命じゃなくてそっちだったのね。

「エリーザちゃんだから言っちゃうけど……私の婿におさまりたがってる男がいるのよ。私、そいつが大っっ嫌いなの。小さい頃から嫌なことばっかりしてきたのよ、そんなの婿にするなんて絶っっ対に嫌」

「もしかして襲ってきたのって……()()?」

皇族の家とも言えるお城の中で女性皇族を襲うような馬鹿をヒト扱いするのも嫌になってきちゃった。

「……そう。そして森の中で私を探してたのも、()()が指示した捜索隊だと思う」

「探し出して連れ戻そうって思ってるのね、最低だわ。安心して、伯爵邸(うち)にいる間は絶っっ対に手出しさせないから」

そう、伯爵邸(うち)の守りは鉄壁なんだから。

「それに。クロード兄さまは()()()()()のお兄さまだし、一緒に行ったモーガンさんは冗談抜きで無敵の剣士だから……きっと何かやってきちゃうと思ってるの」


そう、()()()()()()()()()()


10代後半の頃、双子みたいに同じ教育を受けたお兄さま達は「お父さまの2本の片腕」って言われてたんだって。

シャルル兄さまが次代の伯爵としての()なら、クロード兄さまは()の目の届かない部分を見る()

本当の双子だったら跡目争いになっちゃうから絶対にできない事なんだよとお祖父さまが笑って教えてくださった。


その()のお兄さまが今、潜入してるんですもの。

絶対に何かやって来ちゃうはず。


気心の知れすぎている多才きわまりない無敵の剣士モーガン・テイラー薬剤師も一緒だもの、特にそう思うわ。




――――――――――――――――――




私は今、伯爵夫人のおかかえ薬剤師の友人の娘として伯爵邸(シェルビーホール)に置いていただいてる。

嘘はついてない……だって間違いじゃないもの、家名を伏せてるだけで。

「と、いう事は……リンド準男爵家とご縁続きになるんだね」

お母さまの同期だったという薬剤師先生がおっしゃる。

「ええ……母方の祖母が初代リンド準男爵の四男の家の18人の子の末っ子7女だと聞いています」

先ごろ聞いたばかりだけど。

「年上の甥と姪が何人もいるのよ!って言ってたのを覚えてる……あと続々ふえる数えきれないいとこ達とか、親族が極端に少ない私にはうらやましかった」

先生はご結婚なさるまでご家族ご親族が全くいらっしゃらなかったのだとか。

「この事態が終息したら質問責めしに行くから、その時にはよろしくお願いしますね……たぶんこっちも鋭い質問を食らうとは思うけど」

先生の中では、もう決定事項の模様です。

「母はご夫妻のなれそめを聞きたがると思いますよ……あの人そういう話が大好きですから」

私でも思いますもの、あのテイラー氏とこの夫人の接点がどこなのか!



「それはともかく……もう少し深くお話をうかがってもいいかしら?」

先生と入れかわって、伯爵夫人がおっしゃった。

「私の知る限りでよろしければ」

「外国に出自をもつ方が迫害されているって事を聞くんだけど、当然、それは皇族がたの意向ではないわよね?」

「もちろんです、だって母と私達姉弟も対象になりますもの」

「そうですわね」

「先代の宰相がきびしくし始めて、今の宰相……先代の息子がそれに輪をかけて。代を重ねるごとにどんどん馬鹿になっていく間抜けな一族だとおじじ様……いえ、祖父の教育係をしていたというサルヴァトーレ翁が」

ずっとお母さまの母方の祖父だと言われてきていたから、今さら実は他人のおじいちゃんでしたとわかったところで()()()() 呼びはやめられないと思うわ。

「ではその宰相を何とかすれば、迫害はなくなると?」

「宰相だけではなく、宰相に心酔する腰巾着一派もいるんですが……彼らが()()()()()()、彼らは逃げる必要なくなります」

「心酔する度合いにもよるんだろうけど、トップが失脚したら総崩れになりそうね」

「そうあってくれればよいのですが」

腰巾着一派と言えど、一枚岩じゃない。

噂の真偽は定かじゃないけど、次期宰相補佐官と言われていた男が離反して急にいなくなったって話もあるし。

その事を伯爵夫人にはお伝えしておいて、と。

「腰巾着どもに打ちこめる(くさび)が、何かないかしら?」

「あればよろしいのですが……」


私にわかる範囲では、残念ながら見つからない。




――――――――――――――――――




とてつもないクズ男の話を聞いちまった。

親がつきまとえと言ったからとベタベタすり寄って嫌がらせで気を引く。

泣かれると自分に気があると思い込み更につきまとう。

自分が親から役に立たないとほのめかされたら……女の子を手当たり次第、とかもう犯罪だからね?

()()()()()()()()()()()()()()()()

それとも()()()()()()()()()()()()

「マリリンったら……男の子の親なのに過激ね」

「産んだのは男の子1人だけどさ、7歳から育てたエレナが()()()()されてごらんよ……私的にぶっ殺すのが許されてないんだから、()()を合法的に()()()方法を模索するしかないだろ」

「合法的に、ねえ……」

「今はないけど、将来的にできればいいね」

「ちょっとマリリン怖いわよ?」

「アリアドネだって男の子の親じゃないか。馬鹿のせいで絶対多数派のまっとうな男達が迷惑するんだよ?馬鹿はガッツリとシメなきゃ」

目の前に襲われかけた16歳のお嬢さんがいるから、特にね。

「あの、ひとつおうかがいしたいのですが……その、私が蹴ったところって、つぶれたら死ぬんですか?」

あらまあ何てご質問を。

「つぶれたら即死ぬってわけじゃないけど、治療が遅れればそれがもとで死ぬ人はいるかもしれませんが……教本に書いておきましたでしょう?()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と」

「ええ、ですからもっと強くやっておくべきだったのかなと思いまして」


……さすが、皇女様と言えどローウェルの娘だわ。





――――――――――――――――――




皇宮の一室で、超絶極秘の作戦会議。

皇嗣妃殿下・サルヴァトーレさん・パールさんと我々3人で、作戦の中枢はクロードとモーガン。







宰相一派(あいつら)は、陛下と殿下にお出ししている薬飯が手つかずで下がったら、謀事が順調だとほくそ笑んで次段階に進むでしょう。

なのでこちらは、それを逆手(さかて)にとります。

さすがに病み上がりの陛下と殿下にあのとんでもない味と硬度の非常用糧食は差し上げられませんので、パールさんには何としてでも栄養価の高い無害な美味しいものを陛下と殿下に差し上げていただきたい。

陛下と殿下が弱りきってると思い込んでる宰相一派(あいつら)は、きっと計画通りだと思って乗り込んで来るでしょう。

それまでに、もうひとつやっておかなければならない事があります。

放し飼いされてるとかいう宰相のクソ息子を捕獲したいんですよ。

有害鳥獣類みたいな言い方してますけど、有害人類なので確保とは言いたくないんです。

当然、捕獲は生け捕りで行いたいと思います。







極秘会議前に意見のすり合わせをさっさと終わらせていたクロードとモーガンが交互に提案を繰り出し、帝国のお三方は了承なさるのみだった……何なのこの産まれる前からの幼なじみコンビ。

細かいところが少しずつ違うのは職業や立場の差なんだろうけど、思考回路ほぼ一緒よね……兄弟みたい。

「早い内に馬鹿を捕獲しましょう。手綱もつけずに野放しで放し飼い状態なんですよね?」

「ガキの頃は従僕見習いとして()()()()に勤めとったが、文官の試験を受けとらんから正式な皇宮職員になっとらんのに馬鹿親父の顔で皇宮に入りこんどる。今頃は市街の裏通りあたりで、相手してくれそうなねえちゃん探しとるんじゃないかな……ガーネットに二度蹴りされた場所が復活しとれば、だが」

「二度と復活しない事を切に願うわ」

「……グレイ兄弟の()()()()の方に調べて来てもらいますか?」

パールさんも提案を。

「ああ、それがいいかもしれん。あの一団はなかなかいい情報を手に入れてくるからな」

帝国の市街地の事は、私達ではわからないのでお任せしたほうがいい。

「どうやって捕獲するの?」

妃殿下が疑問を口になさった。

「女と見れば手当たり次第っていう節操なしのクズが考えそうな事など……目新しい女を見に来るでしょうね」

そう、突然現れた巫女様へ触手を伸ばすでしょうね。

「罠をかけておけば必ず引っかかりますね、そういうクズは」

モーガンが驚いた顔で私を見た……

「エレナを罠のエサにする気はねえぞ」

「何言ってんの、手駒が少ないんだから使えるものは全部使わないと失敗するわよ。それに、あんた巫女様の護衛役でしょ。ドすけべの1人や2人がぶちのめせないわけがないわよね?」

「そんなもんできるに決まってんだろうが」

ついうっかり、20年位まえの悪ガキ時代のモーガンをあおったような口調になってしまった……帝国の皆さんキョトンとしておられるわ。

「ああ、今でこそモーガンはエレナの上役になってますけど……モーガンが薬剤師になろうと思うまではエレナのほうが何かしら強かったんですよ」

クロードが説明してくれてた……。




――――――――――――――――――




王国の若い3人組はどういう関係なのかわからんが、なかなかいいチームのようだ。

全幅の信頼をおいてもよさそうだ。

巫女様役の女性は衣装のせいで顔が見えんが男2人より少し年上らしい。

どっちかの姉というわけでもないようだが、全くの他人という感じでもない。

不思議な3人組だな。



それはともかく。

ヴァルジの馬鹿息子を捕獲した後どうするのか。

「かわいいかわいい馬鹿息子をエサに、馬鹿親を1本釣りにします。渓流の友釣りより簡単かと」

……確かに、あんな馬鹿でも一応ヴァルジ家の後継だからなあ。

「人質にとるのか」

「そんな脅迫みたいな真似はいたしませんよ。巫女様に無礼をはたらいたので、引き取りに来ていただくんです……お話をうかがった限りに於いてですが、必ず無礼をはたらく()()だとふんでいますので」

男児が産まれた途端娘に目をかけなくなったほど息子が大事なクソ親だから、確実に引き取りに来るだろうな。




逃がさず捕まえる事は……果たして可能なのでありましょうか?




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