1. あいつは、悪魔。
前回より4年が経過いたしております。
胸くそ悪い話題から始まる事を
なにとぞご容赦いただきたく。
あの男は、異常よ。
普通じゃない。
でも、親が親だから周囲は何も言えない。
私は、突っぱねてきた。
肩や腕に手をかけてきていたのを、ずっと振り払ってきた。
でも。
振り払えていたのは私だけだったみたいで……振り払う事ができなかったご令嬢が多数いる事を知ってしまった。
無体にもあの男に迫られ、その後悩みに悩んだ末……私のお祖母さまに会いに行ってしまったご令嬢までいるとも知ってしまった。
許さない。
絶対、許さないんだから。
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誰がガーネット殿下のお耳にお届けしたものやら。
ミハイルの醜聞。
女性と見れば片っぱしから、という噂。
母さまが意を決して問い糺しても、へらへら笑って答えなかったって。
そして、ヘンリー経由で入ってきた内輪話では……その後訪ねてきたつるんでいる仲間らしき男に「母親から女なら誰でもいいみたいな言い方をされた、いくら何でも女は選ぶ」とせせら笑いながらほざいたとか。
あれを母さまが産んでしまったのかと思うと、もう……。
ヴィンセントを至極まっとうに育てなければ許されないような気がするわ……。
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宰相の息子のお手つきの何が気に入らないのか。
これ見よがしに書き置きして自害など、迷惑でしかない。
ミハイルが皇配になれずとも、将来的にミハイルの子が皇后になれればいいのだ。
何も反抗的になったシャロンが娘を産むのを待たずともよい。
皇統にヴァルジ家の本家が加わる。
実に素晴らしいではないか。
亡き父上もさぞやお喜びになろう。
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馬鹿息子がとんでもないご迷惑をおかけしてばかり。
いくらお詫びしてもし足りない。
まだもっと小さいうちに……手にかけておいたほうがよかったと思った日もあるほど、馬鹿息子は図に乗っていて。
それもこれもすべて、ミハイルを野放しにし悪さをしても「まあまあ」と増長させたアドルフを止められなかった私が悪いのです。
家にいたらろくな事をしそうにないからとシャロンに言われて連れ出され、バーンズ家の客間で鬱々と過ごしていたら。
ヴィンセントがやってきて。
「おばあさま、何かめずらしいお茶をごぞんじないですか」
なんて訊いてきて。
「お茶なんて、どうするの?」
「こんどトーマス殿下といっしょに、エリノア殿下とガーネット殿下のお茶会およばれなんですけど、トーマス殿下はエリノア殿下からめずらしいお茶を持っておいでと言われたんです」
あらまあ、エリノア殿下ったら6歳の御子になんて無理難題を。
「おとなにきいてもいいですか?ってきいたら、殿下と僕とあわせて1人だけならいいということでしたので、おばあさまにきいています!」
なんて厳しい条件をお出しになるの……よろしい、私が知恵袋となってさしあげましょう!
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僕は、ヴィンセントの付き添いと称してエリノア継嗣殿下のもとを訪ねた……本来の僕の身分では殿下のお側へは近づけないから、9歳の息子の威光を借りて。
どうしてもお礼を申しあげなくてはならないのだから、使えるツテなら子でも使う。
みっともないとは思わない。
「殿下、ありがとうございます……おかげさまで義母は、死んでお詫びするしかないなどという寝言を呟かなくなりました」
シャロンから義母上がいろいろと不安定になっているときいたので、半ば無理やりわが家へお連れしてお泊まりいただいている。
結婚して家を出た弟妹達にちび達を全員連れてこさせて乳幼児だらけにもした事もあるけれど、義母上の顔をあげさせるには至らなかった。
だけど。
ヴィンセントが何かを訊きに行った時だけ義母上の表情が晴れている事に、シャロンが気づいた。
そこで皇嗣妃殿下にご相談申しあげたら、横で聞いておられたエリノア殿下とガーネット殿下がお茶会の課題を思いつかれた……というわけで。
「ユージェニア様は、このままバーンズ家でお過ごしになったほうがよろしいのではなくて?」
「……自分もそう思います。義父のもとへ戻すとどうなるかわかりませんから」
「家におばあさまとばばさまがいても、よびまちがえないからだいじょうぶです!」
ヴィンセントが割り込んできて胸を張った。
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ヴァルジ宰相の奥様?
ああ、あのとても不憫な方。
お小さい頃から結婚相手が決められていて、いざご結婚となった後お産みになったお嬢様はきちんとお育ちなのに……ご子息があれではね。
でもあれを奥様の責任になさってはおかわいそうよ。
乳離れすると同時に引き剥がされ、養育係と称する取り巻きがお世話のすべてを行って、奥様がご子息の教育に携わる事は不可能だったとおうかがいしましたわ。
何度もご子息をたしなめられたりなさったそうですわ。
そのお姿、拝見した事ございます……ですがその都度宰相が出張ってきて、ご子息を叱るのではなく奥様のほうをたしなめられたんですのよ。
ご子息もご子息ですわ。
父上、とあがめ奉らんばかりに呼ぶのに……奥様を母上と呼んでいるところを見た事がございません。
そもそも公の場で奥様やお嬢様に話しかけておられるのを見た事がございません。
お母様やお姉様が話しかけておられるのに、ですよ。
あれが私の息子なら思いっきりひっぱたくところですわ。
よくひっぱたかずにいられますわね、ヴァルジ夫人……いえ、ユージェニア様は。
お優しすぎるんじゃございませんか?
……そのお優しさが仇とならなければよろしいのですが。
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パールったら、本当にどこで情報を仕入れてくるのでしょう?
有益なものばかりだし、事実誤認も少ない……というかほとんどないし。
それに……どういう関係で手に入ったものなのか、モーガン・テイラーSクラス薬剤師の署名入り毒物報告書まで持ってきたんだから。
「私が調べましたところ、ヴァルジ夫人は、子息ミハイルの養育・教育にほとんど携わっていないとの事です」
どこかから訊いたのか、ヴァルジ家の教育方針を調べてきた。
「ですので、ミハイルを捕縛する事があってもヴァルジ夫人は連座で罪に問う事はできないと法務長官がおっしゃいました」
……法務長官と話を?
「母が長官のお孫さまのお産のお世話に参りましたので、助手としてついて行ってその際に少々」
パールって……行動力ありすぎだわ。
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私は、そろそろ譲位を考えねばならんのかもしれない。
以前妙な滋養強壮剤を飲まされ続けた時よりはまだ楽だけれど、全身倦怠感が抜けない。
もしかするとまた、何らかの物を盛られたのやもしれん。
この際ゴードンに譲って……国を陰から見張ってやろうか。
「申し訳ございませんお義父さま……今、薬物混入の鑑定ができる状態ではなくて」
タリアが謝罪してくれるのだが、3人めとなる腹の子に障るかもしれないとの事だから致し方ないだろう。
「いやいや。私よりもそなたが産む子のほうが大事だから」
無事に産まれてきてくれてからでいい、私が何を盛られているのかを知るのは。
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ゴードンの坊主も気が休まらんな。
年頃の娘には貞操の危機系の魔の手、まだ幼い息子には生命の危機が忍び寄る。
嫁さんの腹に3人め。
父親の体調があまりよろしくない上、自分の体調もかんばしくない。
何らかの薬を買ってきて欲しいと頼もうにも、年に4回しか入国できないローウェル親子は先日帰って行ったばかりだ。
わしがどうにかしてやれる範疇を超えとる。
シルベスターは、譲位を考え始めた。
ゴードンが帝位に就けば、暫定的だがエリノアが皇嗣となりガーネットが成人するまで正式な継嗣がいなくなる。
ここで奴らに何かされると、かなりまずい状態になる。
警戒と警備を怠らぬようにせんとな。
作品的都合上、どうしても必要だったため書きましたが……本来、作者は性犯罪は滅びろ主義です。
あんなのは世の中にないほうが世界が平和になる、と思っています。
そしてアドルフ・ヴァルジの思考は全くもって理解できません……てかああいうの大嫌いです、反吐が出そうなほど。
その点、アドルフの孫・ミハイルの甥ヴィンセント君は。
いい子!めっっちゃいい子!そしてかしこい!




