5. 職権濫用(……濫用、とは)
第5話です。
橋が完成いたしました……いろんな人の思惑がこめられて(誤解というか盛大な勘違いも込みで)。
橋が出来あがった……以前の物とは比べ物にならない位立派な出来で。
以前は大人2人がすれ違うのも至難の業で耐荷重最弱だったのが、大人3人子供2人が一度に3日分の旅行荷物つきで渡れる位の物がかかっている。
軍の機動部隊、凄い。
そして、この橋用の資材を調達する資金を全額ポンと貸してくれたガリーニ将軍(の財力)も凄い……。
「前のがひどすぎたせいもあるのだろうが……こんな凄い橋になってしまったから、もしかしたら壊しにくるのがいるかもしれんな」
隣で控えている国軍機動部隊長に言った。
「その点に関しましては、しばらく見張りをつけようかと思っております」
部隊長は対策を考えていたようだ。
「その方がよかろう」
「では、手配いたします。何よりもガリーニ将軍の肝いり事業ですから、絶対に壊させるわけにはまいりませんし」
「将軍の?」
「橋を我らだけでかけられると申しましたら、最高基準の安全度な物を迅速に設営せよと命じられました」
「……将軍が」
「早々に橋をかけたいご様子でした」
「そういえば話を持ちかけられた際、急ぎたい雰囲気であったな……」
「伯爵はご存じありませんか?こちらのご領内には将軍のご令嬢が息子さんとお住まいなんだそうですよ」
それは知らなかった。
「お孫さんのご友人でも橋の向こう側にいらっしゃるのでしょうか?」
……いや、いくらなんでもそれは違うのではないか?
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軍の人達がかけた橋は、めちゃくちゃ凄かった。
森番達が渡った感想を報告してきたのだが……
「お頭!大人が2人で走っても揺れが少ないんっすよ!」
……走ったのかよ、ガキかおまえら。
「いや、でも、あの、だって……オレら小さい頃からあの橋はゆっくり歩いて渡んないと揺れた弾みで落っこちて死ぬって言われてたんっすよ?これからの子供にどれ位走るなって言えるか確かめようかと」
まあそれはそうだが……だからって2人で走る必要あったのか?
「向こうから急ぎの人が走ってきて、オレも急いでるって想定で……」
……こいつら両端から走ったのかよ、並走したんじゃなくて。
「それもやりました」
やったのかよ!
「はしゃぎながら渡っても大丈夫でした!」
「結構楽しかったっすよ!」
……おまえらなあ!
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謁見の間の隣。
「タr……皇嗣妃殿下。これ預かってきちゃったけど、どうしよう」
私の目の前には、サン・トリスタン王国から来た行商人親子。
その正体は、私の父と兄。
誰がきいているかわからないので、ばれないよう話してもらってる。
「シルベスター8世陛下に宛てたサン・トリスタン王国ハマー伯爵領領主エドモンド・ランディス様の封書でございます。ちなみに伯爵は王位継承権をお持ちです」
行商人歴40年のベテランは、情報量も豊かよね。
「どんな方なのです?その伯爵は」
ゴードンが訊いてる。
「確か3代前のハマー伯が当時の国王陛下のマタイトコでいらっしゃいますから、継承順位は相当下がりますが……王家につながる方々ではあります」
「国王陛下の名代になれる?」
「十二分に」
「今は父が病床にあるので、私が父の名代。先方は国王陛下の名代。名代同士で親書のやりとりとは面白い」
面白がってる場合じゃないわよ……。
ゴードンが封書を開けて目を通し始めたので、私も横から。
『ルブラン帝国シルベスター8世陛下へお伝え申し上げます。
本来両国共有の物である国境の橋を貴国の承認なく我らの一存で設営した旨、ひらにご容赦たまわりたく存じます。
再建に関しまして、当方の資産家エンディコット家の縁者からの申し出で作業員ならびに資材を使用いたしました。
当方の一存で設営いたしましたので、作業員の人件費と資材費用の6割を当方にて負担させていただきとうございます。総費用に換算いたしますと、当方7割と相成ります。
ご協力いただければ幸いです。
なお、橋の損壊に関する件でございますが。
相当重量のある鎧兜を着用した人物が4人、谷底にて遺体で発見されております。4人で一度に渡ろうと試みたものと思われます。』
伯爵様、めちゃくちゃ言葉を選んでおられるわ……。
「このエンディコット家の縁者、ってどんな人かわかる?」
ゴードンが私達に訊く……そこが一番、伯爵様が言葉を選らんでおられるとこよ。
「ええと。エンディコット家といえば、サン・トリスタンでは名の知れた富豪のおうちよ。今のご当主は、先代に男のお子様がいらっしゃらなかったので、ご姉妹の姉君のルチア・エンディコット様。妹君のマリア様は、同じく富豪のガリーニ家のネルソン様とご結婚なさったわ」
「ガリーニ……ネルソン……もしかしたら、サン・トリスタン王国の軍司令長官のネルソン・ガリーニ将軍?」
「もしかしなくても、そのネルソン・ガリーニ将軍です。おそらく、このお手紙の『縁者』は将軍だと思われます。軍部が関わったとわかればひと悶着あるだろうと予想して、伯爵様はこのように『間違いではない』ぼかし方をなさったのだと思います」
「なるほど、賢明ですね」
大きくうなづくゴードン。
「さて、では宰相代理から話を訊こうか」
ゴードンは謁見の間に出ていった。
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「いつの間に国境の橋がかけかえられたのだ?」
私は謁見の間に呼び出したアドルフ・ヴァルジ宰相代理に問うた。
「摂政殿下にはご機嫌うるわsy……」
「心にもない挨拶などよい。私の問いに答えよ」
「はっ……」
無言になる。
「サン・トリスタン王国のハマー伯爵から、橋の『修繕費用』を負担して欲しい旨の親書が父宛で届いたのだ。侍従に見に行かせたところ、以前とはまるで違う橋になっておったと報告を受けている。修繕どころかそれ以上の状況だとな。いつの間に誰が誰の命でかけかえた?私や父が知らぬ間に」
黙りこむ宰相代理。やましい事がなければ答えられるはずだ。
「答えよ」
「……」
伯爵からの親書は既に読んでいるので、本当の事情は知っているのだが。
「……おそれながら申し上げます。その『親書』をお届けくださった使者の方はいずこに」
「正式な使者はおらぬ。届けてくれたのは皇嗣妃へ物を売りに来た行商人の親子だ。今頃は皇嗣妃に品を売り込んでおるであろうな。彼らいわく、急ぎ渡ろうとしたら後ろから使者がやってきて譲り合いとなり、行き先が共にこの皇宮だと判明したため預かったと」
行商人親子とは、実はタリアの父と兄なのだが、昨今の異国民排斥のご時勢ゆえ私とタリアと父の3人のみが知る最高機密となっている。
「摂政殿下は、異国の行商人を信用なさるのですか」
するに決まっておるであろう、とは大声で言えぬが。
「伯爵家の封蝋がある正式な親書を届けて参った者を無下にはできぬぞ?」
「……さようでございますね」
「して、宰相代理は私の問いに答えておらぬぞ?」
事情は知っていても、この者の口からもきいておきたいからな。
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急遽、摂政殿下に呼び出され、橋の事で詰問を受ける羽目になった。
「……我々が橋の破損に気づいた時には、すでにどこぞの作業員が作業にはいっておりました。気づくのが遅れたのは、我々が国外に出る用がないためです。報告が遅れましたのは……」
「もうよい、わかった」
まさか言えない、橋が壊れたからこれ幸いと直さずにおいただの直さなければ異国民が入ってこないだのの本当の事は。
「殿下、その請求には応じるのですか?」
「当然であろう?前のあの橋でさえ両国の出資でかけた物なのだから、今回も同じ事ではないか」
……ああ、これで橋への破壊工作はできなくなったな。
「かなりの金額になるのでは……?」
歳費から捻出しなければならぬのか、あの忌々しい橋に!
「先方の負担は作業員の人件費と資材費の6割と言うて来ておる。我らの負担は総費用の3割ほどだとの事だ。そういえばよい橋をかけてくださった礼状を行商人親子にことづけねばならんな」
摂政殿下は颯爽と立ち去って行かれた……。
あの忌々しい橋への礼状だと!
新しくなった橋の上で何往復も繰り返し走り回る若い(一応大人の)男達w
カワイイというかエエ年齢して何やっとんねんというか、安全確認のやり方他にあらへんのかーい。
……にしても同じ橋1本なのに、両端の国家でこうも存在価値が違うと何か怖い気がするのは気のせいなんやろか?