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アルヴィノーラの森で  作者: ありかわつぐみ
挿話
48/81

慶事が続く日々の中で



お祝い、たくさん。

でもその前に……不穏な輩がやってきます。

(カエル・ヘビ・その他にょろにょろ等這いずりもの注意)



隣国の伯爵家から、婚礼の招待状が届いた。

2回めだ。

前回は、伯爵家当主の婚礼。

今回はそのご子息のだそうだ……が。


「今回も伺えそうにないわねぇ」


前回と同じ理由で。




ガーネットは少々年齢のはなれたお姉ちゃんになるので、その立場になっている人からお話を伺うべく探していたのだけれど。

どこからどう話が漏れていったのか、あのヴァルジの娘から内密の手紙が届いた。

「ヴァルジのさしがねか?」

警戒するにこした事はないのだ。

「違うようよ。それにバーンズ夫人(ミセス・バーンズ)とお呼びするのが正しいみたい。あの家の男ども(アドルフとミハイル)は妻・母、娘・姉を軽んじて当然という意識の持ち主ですもの。お2人に嫌われている事に気づいていないのは本人達だけのようですし」

タリアがパールから聞いたという情報を教えてくれた。

「夫人と娘は敵ではない、のか」

「あのお2人は()()()()()()()()ですって。父子の敵は同志ですよと、パールが」

そうなのか……にしてもパールはどこでそういう情報を仕入れてくるのだろう。




――――――――――――――――――




シャロン・バーンズ様……もとはシャロン・ヴァルジ様とおっしゃいました。

宰相アドルフがあまりにもシャロン様をないがしろにするのに耐えかね、シャロン様ご自身がバーンズ様のお邸に転がり込んだ……という噂は耳にした事がございます。

いえ噂ではございませんね。

グレイさんのお兄さんのお仲間さんが仕入れてきた調査結果を、私がグレイさんから横流ししてもらっているのです。

「皇嗣殿下ご夫妻がそのような事をなさるとは思いませんが、いくら次にお生まれの殿下がかわいくても甘やかしすぎにはご留意くださいませ。うち(ミハイル)のような諫言を聞かぬ御方になってしまわれます」

皇宮へ内密にお招きした際、夫人はハッキリとそうおっしゃいました。

「ねえパール、ヴィンス君がかわいい!」

ガーネット殿下は、夫人がお連れになったご子息ヴィンセント様と遊んでおられますが……夫人をお招きした目的をお忘れでは?

「あ、そうでした。ええとバーンズ夫人、年の離れた姉の心得を教えてくださいませ!」

「心得とおっしゃいますが、そもそも殿下と私では親の環境が違いすぎます。私の親のうち1人は()()でございますゆえ、弟があのような無法者になってしまいました。殿下には多大なるご迷惑をおかけいたしまして、申し開きのしようがございません」

「あら夫人が謝る事ではないわ。だって私、夫人にはなんにも嫌な事されてないもの」

「……さようでございますか?」

「ええ。それにこーんなかわいいおともだち連れて来てくださったし!」


……ガーネット殿下はヴィンセント様がとてもお気に入りになられたようです。




――――――――――――――――――




ガーネットの時でも既に「高齢出産」と言われていたけれど。

今回さらに「高齢出産」なので、それはもう大事にされすぎちゃってて。

確かに身体的には大変だけど……産婆のアンバーが「お母さまが引きこもっていらしては難産になります!」とお義父様やゴードンに進言してくれなかったら、エンリコさんも含めた男3人から軟禁されるところだったわ。


毎日、ガーネットが弟か妹に挨拶してくれて……お姉ちゃんの自覚ができてきたのかしら。

だといいんだけど。

「ねえお母さま。ちびちゃんが男の子だったら、お父さまの()()()()はちびちゃんなの?」

皇位継承の規則は、男系男子優先・成人男子優位。

なのでお義父様の次がゴードンで、その次はゴードンの子が成人していないから義妹のエリノア様。ガーネットが成人したら、エリノア様の前にガーネットがたつ事になってるんだそうで。

そして今お腹にいる子が男の子なら、成人すればガーネットより上位にたつのだとか……サン・トリスタン王国は女子に王位継承権がないので、なかなか理解できなかったものだけど。


周囲の目は、男の子を期待してるのがよくわかります……でも。


5割の確率で女の子ですよ皆さん……。




――――――――――――――――――




ルブラン帝国の皇嗣殿下ご夫妻に出した招待状だったが、欠席とのお返事をいただいた。

エリーザと同い年の皇女殿下もご一緒にどうぞとお誘いしたのだが……

「婚礼の頃に産み月なら、以前に比べて遥かに丈夫だとはいえあの国境の吊り橋を徒歩で渡るのはかなりのリスクがあります」

アリアドネの友人マリリンさんやシャルルの妻になるイリーナさんから言われれば「ああそうなのか」と納得もできる。

何しろ国境の橋は徒歩専用で、人力の荷車も渡れない。

将来的にはもっと頑丈な物を架けたい、と皇嗣殿下とお話もしたかったのだが……今回も諦めるか。




――――――――――――――――――




大忙しです、ええ大忙し……数ヵ月先の事になるのですが。

伯爵邸(シェルビーホール)内の礼拝堂で、シャルル様の婚礼を。

その2日後。

伯爵邸(シェルビーホール)外の伯爵家礼拝堂で、シャルル様の奥方となられるイリーナ様の兄上の婚礼を執り行うのです。

クロード様より「2組合同で、っていうわけにいかないの?」とお訊ねがございましたが……伯爵家次期ご当主の婚礼は伯爵邸(シェルビーホール)内礼拝堂以外で執り行えず、伯爵邸(シェルビーホール)内礼拝堂で伯爵家以外の方の婚礼は執り行えない決まりとなっておりますもので致し方ございません。

シャルル様と同じ礼拝堂で同時に婚礼を行えるのは、現時点ではクロード様のみなのですが……お相手がいらっしゃらないので不可能でございまs……失礼いたしました。


正直なところ、イリーナ様の兄上の婚礼は……もう少し時期をずらしていただきたかったのですが。

「ちゃーーんと見届けておきたいの!」

というイリーナ様の強ーい意思と、イリーナ様を後押しするシャルル様クロード様ご兄弟の強ーい圧力……いえご要望に、我ら神職は屈してしまいました。

何しろ、シャルル様クロード様とイリーナ様の兄上アルフ殿はご友人。

特にクロード様は幼時よりのご友人でいらっしゃるため……「あいつはスキを見つけると逃げる」「一度逃がしてしまったらエミリーさんが『長ーい春』になっちゃう」との事らしく、畳みかけておかなければ彼女さんがいき遅れるのだそうです。


1人の女性がいき遅れになるのを防ぐためなら……立て続けの婚礼、頑張りましょうかね。




――――――――――――――――――




各方面にはかなり無理を言ったものの。

シャルルとイリーナの婚礼の直後に……ちょっとごねてたアルフとエミリーさんの婚礼をねじ込む事に成功した。

エミリーさん恐縮しちゃってたけど……アルフに拒否権はないよ、衆人環視のもとで()()()()()()()()()()んだからね!

そして。

チャールズ・グレイ氏がエミリーさんに何度も確認してたんだけれども……帝国の女性が外国で正式に結婚する事に問題はないけれど、子供を連れて出戻る事は事実上できないと思っておくようにと。

外国人排斥の()()の事だよね……。

グレイ氏は、帝国民が婚礼で必要な書類を揃えて届けてくれて。

「俺が向こうに届け出ておくよ……あーこれでまた一段と帝国民男子の婚期が遅れる」

謎のセリフを吐くグレイ氏。

「どういう事です?」

「帝国じゃ成長するにしたがって人口の男女比が5:5から6:4(ろくよん)7:3(しちさん)とどんどん男の割合が上がっていくんだ。独り身のおっさんやじいさんがあふれてるって感じだ。俺もだが」

「なぜそんな事に?」

「中所得者層以下の子女は食い扶持稼ぎに国外へ出稼ぎしに行く。その出稼ぎ先で女子は請われれば嫁ぐ。男子も請われるが、女子の比じゃない。そして子を連れて出戻ると命の危険があるから、結果として女性人口が減る」

……根が深い気がした。

「まあエミリーの場合は出稼ぎじゃなく救援活動の一環で国外に出てたんだが。それに、帝国の男には幻滅してる」

「……幻滅」

「俺達が長い間、よってたかって飯炊きにしちまった」

それは……ダメな奴かもしれない。






グレイ氏が去った後。

大慌ての門衛が僕のところへやってきた。

()()()()客が来ました。執事殿達にバレないうちに……お願いします」

来たか男爵(じじい)

「わかった。エリーザに()()()()()用意して応接室の控えの間に待機しておくように伝えて」

()()()()()()()()()()

カエルとヘビの他に何を用意して来るかな。



正門前にブリーデン男爵家の馬車が停まってて、その横に貧相な男が立っていた。

僕は門の横の通用口を開けて男だけを通そうとした。

「馬車を乗り入れさせろ!」

「ご訪問のお約束も先触れもいただいておりませんので馬車は門外にてお待ちいただきます、と門衛補佐が申し上げたはずですが」

「うるさい!」

はああ……()()が血縁上では祖父だというシャルルとマーサとハンナがかわいそうになってくる。

「このままお帰りいただくか馬車をここへ置いてお入りいただくかの二者択一ですが、いかがなさいますか?」

僕が声をかけると、たぶん男爵と思われる男は一度黙り……それから少し考えたのち口を開いた。

「……馬車は、置いていこう」

「さようですか、では」

中へ招き入れた……サイラスとオルトランに見つからないうちにやりきらなければ。



おそらく男爵(この人)は僕を執事見習いか何かだと思っているんだろうな、という気はしている。

一応は()だというのに、僕の先導を振り切るかのごとく勝手に歩いていく……居住区域の方向へ。

勝手知ったるかつての娘の婚家、だろうけど。

そんな勝手は許せるもんじゃない。

「どちらへ向かわれるおつもりですか。お客様にお入りいただけない場所へはお通りいただけません」

腕をとって引き戻し、応接室に引きずり込んだ。


「おかけください」

ソファを指し、着席を促す……僕も向かいの席に座った。

驚いた顔をしてるな……。

「本来なら執事がご案内するべきなのですが……オルトランはあなたをぶん殴りに行きそうでしたし、フォードは叩き斬るつもりで剣を取りに武器庫へ行こうとしたので引きとめてあります。10年前に何をなさったのかお忘れではないと思いたいのですが……よくここへおいでになろうと思えましたね?」

本当は、執事達は動いていないけど……動いた事にしておこう。

「本来なら伯爵邸(シェルビーホール)への立ち入りをお断りするべきなのですが、わざわざお越しいただいたのでもしや……と思ってお通りいただきましたけれど」

あ。飲み物位は出してやるか。

「このような物しかご用意できませんが」

部屋にある水さしの水を、備えつけのグラスに注いで出した。

いつ入れた水なのか、後で誰かに訊こう。

「何ゆえ男爵たる私への応対がこのような……」

「あなたが()()()()()だからにほかなりません。そもそもハマー伯爵家次女の名前は思い出せたのですか」

ハンナは、自分の名前を呼ばなかったこの男を許してはいない。

「……は?」

「思い出すどころか、生まれた時に名を訊きもしなかったそうではありませんか」

目を見開いた阿呆面で僕を見た。

「王太子殿下の夜会でその伯爵家次女から不快だと言い渡されているのをお忘れですか?」

阿呆面が輪をかけて間抜け面になった。

「ご用件があるのであれば、僕が承りましょう」

僕が言うと。

「何様のつもりだ、男爵に向かって……」

どうやらやっと言葉のしゃべり方を思い出したようで。

「僕ですか?僕はハマー伯爵夫人の息子でハマー伯爵エドモンド・ランディスの養子ですが……それが何か?ああ、あなたの基準で言えば『平民のあばずれ・財産目当ての女詐欺師』の息子って事になりますね」

名前を教えてやる必要はないだろう……どうせ覚える気などないだろうし。

「ご用件がおありだからいらしたのでしょう?」

言いたい事があるから、恥ずかしげもなく推参したんだろうから。

「……シャルルの婚約者が庶みn……いや、馬屋の娘だという話を聞きつけて確かめに来たのだ」

……やっぱり、それか。

「その情報は、間違っていますね」

冷ややかに言い渡した。

「馬屋の娘ではありません。Sクラス薬剤師です」

馬屋って何だよ、そんな職業の人はハマー領にはいない。

「何か思い違いをなさっているようにお見受けいたしますが……国王陛下より許可を得る事なく発言できる権利のある職ですよ、Sクラス薬剤師というのは。ご存じないようですね?」

「馬鹿にするな……その制度位は知っている!」

「ああ申し訳ありません、ご存じでしたか。馬鹿にしているつもりはなかったんですよ」

口先だけで謝っておこう。

「それに、どこで得た情報だか存じませんが……なぜそちらへ馬屋の娘と伝わったのかが判然としませんね」

適当に調べた結果なんだろうな。

「当方では『ハマー伯爵家嫡男の婚約者は領都中心部在住のSクラス薬剤師』としか発表していません。領都民なら『ああ、あの人!』とすぐにわかります……何しろ領都中心部にいる未婚のSクラス薬剤師は2人、うち1人は男ですから必然的に」

モーガンは友人枠だもんな。

「実家がどこかなんてのもすぐにわかりますよ、隠してないんですから。紙にしたためず伝言なんかで重要な情報を伝達しようとするから、馬具店が馬屋になるんです」

遊びでの伝言はおもしろいけど、真剣な場面でのそれは冗談にもならない。

「……由緒正しい伯爵家の後継者に庶民の血が混ざるなどとんでもないと言いたいのだ!」

……本音、きた!

「言いたい事は、それだけですか?」

僕は立ち上がり、控えの間につづく扉に手をかけた。

「そこにいるんだろ?おいで」

開けると、エリーザが箱を4つ持っていた。

「どれからいく?」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。許可するよ」


男爵の目の前に、エリーザが箱を全部置いた。

端から開けていく。

1つめ、箱の中でうごめくミミズ。

2つめ、針金でできたかごの中に入ったトカゲ……あ、この針金は花冠練習用に買った残りだ。

存分に見せつけた後、3つめを開けて……大きなカエルを素手でつかんで取り出した。

「この人、あたし達のお母さまの事を()()()とかいろいろひどく言ったんでしょ?絶対に許しちゃいけない人だわ」

わざとらしく僕に確認をとってから、カエルを男爵の顔に押しつけた。

「ひいぃぃ」

「あらオジサン、大人の男の人なのにカエルはお(イヤ)なの?」

ニヤッと笑ってカエルを箱にしまった後、彼女は最後の箱を開けた。

「これを差し上げますから、おとなしくお帰りになってくださいな」


ぷらん。


最後の箱から出てきたのは……2か所を結び目にされたヘビだった。



しっぽをつかんでぶら下げられたヘビが動いた途端、男爵は声なき悲鳴をあげてその場に崩れ落ちた。




「兄さま、このオジサン放り出すの?」

「しばらく起きないだろうけど、乗ってきた馬車に放り込んでお帰りいただくよ」

「だったら兄さま、あたしオジサンにおみやげさしあげるわ!」

「……その前に、箱の中のお友達を解放してあげて。その間に()()を馬車に突っ込んどくから」

「はあい」


門衛に手伝ってもらって男爵を馬車に突っ込むと、エリーザが()()()()を持って門まで走ってきた。

ヘビっぽい色ツヤをした布製の縄を2か所結んだだけの物……よくこんな物を思いついたな。

「兄さま、このオジサンが目を開けたら真っ先に見ちゃう場所に置いて!気絶し直すと思うの!」

……この性格は、お祖父さまゆずりなのかな。





王国で、婚礼が2回。

(しかも馬具店の子供はどちらの新婚さんにもいるw)


帝国では……ガーネットお姉ちゃま(タリアさんマルコウ出産)です。



パールさんの情報源は、もちろんグレイ兄弟。

兄が仕入れて弟がばらまいてます。





そして、安定のエリーザちゃん!

許可が出たら最強!


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