4. 昨日と同じ今日を紡ぐために
年頃の女子及び青少年が複数いると……まあそういうお話は出ますよね……
……コイバナ。
(とはいえ、前半は若干物騒な過去回想ですが)
うちの馬車庫の上には今、素敵なお姉様が住んでる。
馬車庫の上なんて、もともとはグッチャグチャの物置だったのに……今や2間続きの超・快適居住空間。
「ここを人間が住めるように改装したいんだけど」
兄さんが父さんに頼んでたから、てっきり兄さんが自分で住むのかと思ったら……王都からの帰り道で雨に濡れてたのを助けて帰ってきたその人を置いてあげるためだって言うじゃない。
しかも女の人よ女の人。それも小柄なかわいい人。
ビックリしすぎて資格試験前の勉強してたノートを真っ二つにちぎりそうになったわ。
浮いた話の1つもなかった兄さんが女の人連れて帰ってきたから……小さい時からの友達で私の兄弟子モーガンさんに「どういう風の吹きまわしだ、明日は横殴りの槍が長短揃って降るのか」なんて言われてたけど、笑ってたわね……私も槍が吹き荒れるのかと思った。
槍は吹き荒れなかったけど、お姉様……エミリーさんの怒りは吹き荒れたわね。
引っ越し先への行き方を間違えて覚えたまま教えられてたとわかって、その教えた当人を目の前にした時……「問答無用ぉっ!」の一声と共に閃く右足が側頭部に命中してふっとんでた。
お見事でした。
そして、当初予定してたはずの引っ越し先への転居を取りやめて……馬車庫の上を正式に賃貸借して住み着いちゃった(バスルームとキッチンがないから安いけど)。
エミリーさんはもともと橋の向こうの人で、「外国系の人」を国外へ逃がす活動をしているって。
引っ越し先に行くのやめちゃったから生活費稼がなきゃなぁ……って言ってるのを聞いちゃって、いいこと思いついちゃった。
薬剤師館の配達助手(非常勤職員)になってもらおう!
非常勤職員なら、救援組織の仕事もできる(はず)!
「エミリーさんって、馬車の御者できたりする?」
「できるわよー」
配達助手の条件クリア!
「馬には乗れる?」
「んんー、そっちは無理……てかやった事ないわ。ルブランの馬は大きいから、このちっちゃい私じゃ無理」
「ええ、そうなの?」
「ルブラン馬はここにいる重種馬位の大きい子なのよ」
「じゃあ……重種馬の荷馬車、扱えないかな。あれ使えると便利なんだよいろいろと」
「……試してみていいかな」
て事で手始めにうちの重種馬を扱ってみたら……できちゃうとかエミリーさん天才かも。
「前々から兄さん以外でも使える人がいたらいいなと思ってたのよ……それに、重種馬多頭だての荷馬車なら、大人数の引っ越しにも便利だと思うし」
「……そうよね、持ってる馬車で無茶するんじゃなくて貸してもらえばいいんだわ!」
「え、これまで無茶してたの?」
「うん。手持ちの4人乗りの馬車で馬だけ借りて何往復もしてた」
「最長どこまで何往復?」
「王都経由オーティス領まで6往復」
……それって、サン・トリスタン王国の国土の両端!
「正気の沙汰じゃない!」
まだ正式に依頼はしていないけど配達助手をやってもらうにあたって、御者以外に大事なことがもう1つ。
「護身術ってやった事ある?」
「わざわざ習いに行った事はないわ」
「薬剤師館併設の森番小屋で教習会やってるの。見てみない?」
今や女性薬剤師必修になった日傘を使った護身術の教習会の日に、エミリーさんを連れていってみた。
教習会は、盛況。
「えーと……初参加、ですね」
指導教官担当の森番さんがエミリーさんを見て言う。
「てか、見学ですね。私、薬剤師さんじゃないんで」
「……あー、馬具屋2階のお嬢か。ちょっとやってみる?」
エミリーさんは森番さんから「馬具屋2階のお嬢」って呼ばれてる。
「やってみる、って何を」
「実戦。見学って事はちょっとは実戦経験あるんじゃないの?技量を見たいから得物選んで」
苦笑しながらエミリーさんは木製の武器が並べられてる中から長い棒を取った。エミリーさんの身長より長い。
指導助手役の若手の森番さんが木剣を手に打ちかかっていった……はずが足をすくわれて転ばされ、這っている背を棒で押さえ込まれてた。
直後、即座に4人の指導助手の森番さんに囲まれてしまったけど……押さえ込んだ森番さんを踏みつけて棒を構え直し、突いたり引いたりしゃくり上げたりなぎ払ったりして全員倒してしまった。その間、約2分以内。
「……見事に殲滅されてるじゃないか」
教官あ然。
「2階のお嬢、強いっす……っつか、踏んでる足離してやって……」
エミリーさんの左斜後ろでのびてる森番さんがみぞおちを押さえながら。
「模擬戦にもならなかったな。見た目でなめてかかったか?」
離れて見ていた森番頭アンソニーさんが笑ってた。
「……っそんな事は」
「あるだろ、小柄なお嬢さん相手だったからな……エミリーさん。ひとつ訊きたい」
「何でしょう?」
「1人めを踏んだ理由」
「……転ばせただけなんで、起き上がられると敵戦力が1増加になってしまいますから離しちゃいけないやつです。そして踏んでおくと私が動けないとみて敵が近くまで来ます。そこをリーチの長い武器で思いきりいくと、私の腕力でも何とかなるいいダメージが加えられますので」
教官呆然、指導助手達あ然……アンソニーさん大爆笑。
「こりゃ護身術訓練いらないな……うちのモーガンの次に強いかも知れない」
モーガンさんは兄さん達の同世代の人が「無敵のケンカ剣士」っていうレベルの人なのよね……つまり、最強。
エミリーさんにその事をこそっと教えたら……「聞かなかった事にしたいわ」。
そりゃそうでしょうね……「女性最強」の意味になるんだもん。
無事に(?)護身術も取得しているって事で、エミリーさんは薬剤師館の非常勤配達助手に。
「女だけが乗ってる馬車」だとして盗賊の下っ端みたいなのが襲ってきた事あるけど、エミリーさんが「棒でぶん殴って上半身だけふん縛って馬車に鎖でつないでノンストップで走って警備兵詰所に突き出す」と、詰所で全員改心してたっけ……警備兵が「拷問状態での連行……」って呆然としてたけど。
「縛って転がしたままそこに置いとくわけにいかないわよ、野犬がかじっちゃうじゃない……野犬がおなか壊すわ。それに縛ってあっても襲われた側の女の子と馬車に乗せるとか、そんなの駄目でしょ」
エミリーさん警備兵にこんな建前的な事言ってたけど。
その時馬車に乗ってた面々はみんな知ってるんだよね……息も絶え絶えに「少し休ませろ!」と縛られてる分際で偉そうに言った盗賊達に向かってエミリーさんが放った言葉。
「休みたければ休めば?こっちはあんた達のせいで仕事に遅れてるの。止まってやってる暇なんかない。むしろもっと速度上げたい位なのよね。だから、休みたいなら勝手に休みな。こっちはその間進むだけよ」
引きずられたくなければ、走れ……ですね。
あとで訊いたら
「梶棒の予備を2本後ろに固定した上にまたがって座らせてもよかったんだけど……悶絶する男をさらしながら走るのはちょっとね。私もある意味拷問状態になるからやめたの」
もう一段階上の拷問状態での連行方法があったそうです……。
最強クラスの女性だわ、エミリーさん。
――――――――――――――――――
薬剤師さんが乗る馬車を襲撃する馬鹿は、ほとんどいなくなった。
たぶん……私が返り討ちにした上、警備兵詰所に突き出すために縛って馬車につないで引っ張って走らせてる姿を見せたからだと思う。
何人か転べば馬車を止めてもらえるとでも思ったか足を止めた猛者(という名の馬鹿)がいたけど、そのまま止まらなかったからなおの事だと。
警備兵には引きずってきたんですかとあきれられ、止まる暇が惜しいと答えたら嘆かれて。
そもそも悪意をもって襲ってきた奴にかけてやる情けはないのよね。
下手に情けをかけたら、逆襲されて殺されかねないもの……情けをかけてなくても、その国の人民ではないと言うだけの理由で殺す輩だっているんだから。
チャールズの友達の奥さんがそうだもの……外国人だからという理由で、ばっさりと斬り殺されていたのが見つかったときいてる。
奥さんが殺され、奥さんが連れていたはずの子供の行方がわからないときかされたチャールズの友達は、獄中での不慮の事故で死んでしまったとか。
だから、なのか「襲撃されたら全力でやってよし」なのよね。
……それはともかくとして。
最近の私の一番の災難は。
「エミリーさんって好きな人いたりするの?」
と同世代の薬剤師さん達にやたら訊かれる事!
「向こうの仕事の人っていい男多いじゃない」
なんてよく言われるけど。
……あんな顔と体格だけの消し炭製作部隊 の何がいいんだか。
「男なんてね、顔だけよくてもダメよ。観賞用。たとえば、よ?利き手を怪我した奥さんに『家族の飯は、服の洗濯はどうするんだよ』なんて言葉を浴びせる男は、顔がよくても捨てちゃっていい男……ううん、捨てるべき男だと思う」
薬剤師さん達、全員ニコニコきいてる……そして話題は身近な「いい男」の頂点の人の事へ。
「先生の旦那さんはその点問題なしなのよねー」
「そうそう。Cクラスのベテランおかあさん達からよくきかされたものねー」
「先生、モーガンさんがおなかにいた時に体調崩しちゃって大変だったって」
「野営飯の訓練だ!とか言って、先生の体調が戻るまで、食事は全部旦那さん主導の軍隊式野営調理だったんだって。先生のご飯もそれね。掃除も洗濯も全部旦那さんが……」
「先生の衣類だけは洗えなかったってきいてるわよ私」
「あーそうそう私もきいたわ。『すみません、妻の衣類の洗濯だけお願いしてもいいですか』っておかあさん達にお願いしにいったって」
「依頼直前に『やっぱり駄目だ……いろいろ個人的に事情ありすぎて触れない』ってぼやいた声をきいた人もいたって」
「何それー」
「あれじゃない?服の中身想像しちゃうとか」
「しょうがないって、それ。だって旦那さんって結構年上でしょ?いい年齢したおじさんが若い奥さんの服洗いながらニヤニヤしてたら……」
「あ、何かイヤかもしれなーい」
「かも、じゃなく絶対イヤよそれ」
……違う方向に話がずれていってる気がする。
森番頭アンソニーさんは、容姿はともかく「いい男」なのはよーくわかりましたけど……。
「で。エミリーさん好きな人っていないの?」
結局はそこに戻るわけね……。
「今はいないわね……まあ前からいないけど」
「おつきあいしてみようとは思う?」
「まあ、いずれはね……でも今はまだいいわ。逃がさなきゃいけない家族がまだ何十組とあるし、まだまだ増えそうだし」
「……そっか、そうよね。国境警戒レベルがまた上がったって言ってたし」
「外国系の人へのあたりが厳しくなってきてるって話よ……これまで隠れてでも住んでいたかった人も、新天地に出たいって言い出したりしてる」
「……色恋やってる場合じゃないね。ごめん、うちの兄貴がエミリーさん紹介してくれって言ってきてたの。それどころじゃねえわってぶっとばしとくわ」
「え、あんたとこの兄さんも?うちの末の叔父もよ。殴っとくわ」
……いえあの、言葉でお断りしといてください。
その日の配達を終えてイリーナちゃんと帰ってきて、母屋のダイニングで一息……私が借りてる馬車庫の上は、水回りがないからそのへん全部母屋でお世話になってます。
「エミリーさん本当のところどうなの?」
さっきの続き、ここでも。
「イリーナちゃんこそ、浮いた話ぜんっぜんきかないけどどうなの?」
お返し。
「え……まあ、好き……というか、いいなって人はいるんだけどね……」
「いるんだ。どんな人よ?」
「……子供の頃から知ってる人」
「お兄さんの友達とか?」
「友達……友達、になるのかな?親しくさせてはもらってるけど……」
口調が重いわねえ。
「先方にはもう決まった相手がいるとか?」
「いない……と思う、たぶん……」
「相手の人は男が好きとか?」
「違うっ!それはない!……と思う」
「ならいいんじゃない?私にできる事なら応援するよ」
応援。
何をどう応援するのか全くわかんないけど安請け合いしちゃった。
――――――――――――――――――
あんまりほめられた話じゃないけど……僕とサジタリウスは、領内の森の中で道に迷ってしまった。
めでたくもマーサがシュミット伯爵家の次男と結婚する事になったから、父上の代理としてクロードと2人でシュミット領まで行った帰り道。
森に入ってすぐの岩場の分岐で右と左に別れて進んで……右に行ったクロードと合流する場所に到着したはずが、違う場所に出てしまった。
まずい。
どこにも曲がる場所などなかったはずなのになんでだ……いや、領内の森で迷子になった領主の息子なんて、みっともないだろ。
……迷子。
そう。慣れ親しんだはずの森なのに、覚えのない道ができていた。
どうやらそこへ入り込んでしまったらしい。
頭を抱えていたら、背後から馬車の音がした。
「どうかなさったんですか?」
サン・トリスタンのものとは少し響きの違う言葉の女性が声をかけてくれて……。
……馬車!?
「ええとあの……数年ぶりに大街道を外れた脇道に入ったら、思っていた場所ではない所に出てしまって焦っています」
迷子とは言えないよな迷子とは……立場上特に。
「あ……もしかしてこの道、広がった獣道だったんですか?2年前位から通れそうだと思って馬車で往復しちゃってました……あと何ヵ所かありますよ、似たような所」
え。
「……申し遅れました。私、今ホイットニーさんの馬車庫の上でお世話になってますエミリー・ジャクソンと申します」
ああ、この人か……アルフがずぶ濡れになってるのを見つけて連れて帰ってきて、長い棒1本で馬車への襲撃者を次々なぎ倒すという見た目を裏切る人。
「あ、僕はシャルルといいます。義弟のクロードと一緒に来てるんですけど手前の岩場の分岐で左右に別れたんですが……義弟が行ったほうも知らない道になってるかもしれなi……」
クロードの声が遠くからしてきた。
「シャルル!どこー!」
「獣道!」
叫び返す。
「なんでそんなとこに!」
叫び返される……クロードは土地勘バッチリだから僕を見つけてくれるだろう。
「地図より広がってたみたいで、気づかず入っちゃった!」
「まずいねそれ。森番小屋に連絡しとこう」
声がかなり近くできこえて……がさがさっと茂みの中からクロードとジャクソンが出てきた。
「道なき道から来るか普通……」
エミリーさんが御者台でビックリしてる。
「ごめん。回り道できそうになかったから直線で来た」
「あとでジャクソンに怪我がないか見とけよ」
更にビックリ顔のエミリーさん……あ、エミリー・ジャクソンさんだったっけお名前。
「あ、ごめん。義弟が乗ってる馬の名前もジャクソンなんだ……ああ、こちらエミリー・ジャクソンさん」
クロードに名前を教えた。
「うわ。こいつに名前つけたの養父だけど、何かごめん」
「いえ……同じ名前なだけなので、謝っていただくほどの事では」
うわー、大人だ。
「ところで……お2人はどちらかへお帰りの途中ですか?」
「え?あ、うん。シュミット伯爵領からの帰り……あ。マーサの侍女達を連れていってくれたんだったね。ありがとう、助かったよ」
「先方からの迎えの馬車に侍女を乗せるのをマーサが嫌がってね」
マーサの式の準備もあって侍女数人を先遣隊として先方に連れていったんだけど……侍女達用にと先方から用意された馬車の御者が若い男だったからマーサが乗せたがらなくて、急きょ信用できる女性御者を!という事でエミリーさんに来てもらったわけで。
「……お2人は、マーサ様のお兄様だったんですね。たいへん失礼いたしました……」
え……僕、名乗ったよね?
「シャルル、どうせファーストネームだけしか名乗ってないんだろ。ルブラン帝国の人にそれだけで理解してもらおうなんて無理だって」
「いや、でもだって2人ともフルネームを名乗って兄弟ですって言っても信用できないだろ?」
「まあ確かに、エリーザが間に挟まらないと兄弟認定されにくいけどさあ」
ごちゃごちゃとこっそり口論してると……。
「ええとあの……森の中で長居しててもしかたないので帰りませんか?」
はい、そうでした。まだ森の中でした。
領に戻る大街道は道幅が広いので、エミリーさんの馬車を僕のサジとクロードのジャックで挟んでも余裕がある。
「お2人はモーガンさんやアルフと仲がいいんですね」
「うん。モーガンは母同士が友達だから、物心ついた時には一緒にいた気がする。アルフは母が子供と2人乗りできる鞍をつくって欲しいって頼みに行った時以来だね……だから5歳位からかな」
クロードがサクサク答えていく。こういうのは僕よりクロードのほうが得意だ。
「じゃあイリーナちゃんの事もよく知ってるんですよね」
「3歳のちびっこだったよ……こっちも5歳のちびっこだったけどね」
「幼なじみですか」
「まあそうなるよね……とはいっても2つ下の女の子を僕らの遊びに入れてあげるわけにいかないから、よくついてくるのをまいてた」
……僕が知らない時期の事だね。
「それ……女の子にはダメージきついですよ?」
「え、そうなの?」
「お兄ちゃん達に遊んでもらいたいから追っかけてるのに、目の前で逃げるんですよ?お兄ちゃん達大好きっ子なら絶対泣きます」
何やってんだよチビ時代のクロード・モーガン・アルフ!
「……でも、モーガンが審判の剣術士ごっこや木登りつきのおいかけっこなんかイリーナには無理だって」
そりゃそうだけども。
「女の子には不向きな遊びかもしれませんね……」
「剣術士ごっこに参加させて泣かれるのと参加させないで泣かれるの、どっちかを選ばなきゃならないんだよ?させないで泣かれるほうがましだよ、怪我はしないから」
まて、そこで「剣術士ごっこをしない」という選択肢はないのか……なかったみたいだな。
「……まあそれは過去の事でしょうから、今さらどうしようもありませんね」
確かにそうだね……。
「でもなんかうらやましいです、幼なじみって」
……うらやましいって何だ
「ルブランの現皇帝陛下は、幼なじみの女性とご結婚なさったんです……皇后陛下は残念ながらお若くして崩御なさいましたが、幼なじみとご結婚というのが帝国民には憧れなんです」
確か、皇帝陛下は皇后陛下を亡くされてから再婚なさっておられない。
それもまた憧憬なんだろうな。
「こちらではそういったお話はないんですか?」
「一目惚れでのほぼ電撃婚、ってのは知ってるけど……幼なじみと結婚する貴族の話はきいた事ないなあ」
ほぼ電撃婚、とは父上とお母さまの事だ。
いわゆる交際期間という奴が3ヶ月か4ヶ月あったかどうだか……半年未満で半ば無理やり婚礼を敢行したんだもんな、父上が持てる限りの全ての権限と人脈を駆使して。
「あら残念……でもすごいですね、一目惚れで即結婚しちゃうなんて。ものすごいパワーを感じます」
そのパワーの賜物なのか、わが家の末っ子は……どうやらクロードも同じ事を考えてしまったらしく、苦笑いになっていた。
「ところでお2人はご結婚のご予定とかないんですか?婚約者さんとか、思い人さんがいたりとかもないんですか?」
げほっ。
思いっきりむせた。クロードもむせてる。
エミリーさんストレートに訊きすぎ!
「妹君がお先とはいささか珍しい気がいたしまして」
ああそういう事か。
「当家には、小さい頃には一切顔を見せなかったくせして今頃になって縁談を持ち込もうとする自称祖父がいてね。妹達にはそいつの息がかかっていない結婚相手を見極めないといけないんだ。探りをいれたりとかは伯爵夫妻ではやりづらいところもあって、僕らが請け負ってる。その関係があるから、妹達の縁談が無事にまとまってからだな……僕らの順番は」
自称祖父ことブリーデン男爵。
血縁的には、僕とマーサとハンナは実孫だ。
だけど。
実母にかわいがられた記憶のない僕とマーサ、実母の記憶がないハンナにとって……わが孫と言われても嬉しくもなんともない相手でしかない。
あんなのの口利きで結婚なんかとんでもない。
縁故で結婚しなきゃならないんなら、ネルソンお祖父さまの部下の孫のほうがずっといい……お祖父さまは縁談持ってきたりはしないけど。
「ハンナ様のご結婚は、もうお決まりなんですか?」
「自称祖父が絡んでいない事が判明したところだから、あとは本人達次第ってとこかな」
スコット伯爵家の三男との縁談がほぼまとまったも同然。
「それはよろしゅうございました。正式に発表できたらお兄さまがたも解禁なわけですね」
僕は、またむせた。
――――――――――――――――――
シャルルがやたらとむせてるけど……わかる気はする。
たぶんシャルル自身はあんまり自覚ないんだとは思うけど……
シャルルは、イリーナの事を悪しからず思ってるよな。
僕ら……僕とモーガンとアルフは5歳位からのつきあいだけども。
シャルルは11歳から。
僕らはイリーナを男の子の遊びから遠ざけてたけど、シュンとしてるイリーナの相手してたのはだいたいシャルルだったから……僕ら3人についてこれなくなって早々に脱落するのもあったけど。
過去はともかくとして。
シャルルとイリーナって悪い雰囲気じゃないって事だけは確かだから……ハンナとスコット伯爵三男の話がまとまる前にその雰囲気が崩れないようにしておかなきゃ。
まとまってからだと、あの自称祖父が絶対にチャチャ入れてくるだろうから。
人生にも彩りを!!!
色恋的なお話になる前が若干物騒だったのはご愛嬌……という事で。
サン・トリスタン王国でもルブラン帝国でも
意外な人が予想外な行動をすると
「明日は武器が降る」
と言われるようですw
各国共通w




