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アルヴィノーラの森で  作者: ありかわつぐみ
第6章 18年
42/81

3. 無茶はしないでください



情報を手に入れるため、慣れぬ諜報活動に身を投じ……る……?



兄貴から、手紙がきた……明日の天気はきっと大量の矢の束だろう。

「俺宛で兄貴の筆跡だけど知らない他人の名前で差し出されてるって何だよ……言っといてくれよ悩むから」

迷いに迷った挙げ句に封筒を開けたら、中にはまた封筒。

こっちにはちゃんと「チャールズ・グレイ」と兄貴の名前が書いてあった。






不審な手紙を送りつけて済まない。

サン・トリスタン王国で仕事してた時にさんざんお世話になった元上司の人に、二重封筒の外側の名義借りをお願いした。



この間歴代の皇后陛下・皇嗣妃殿下のご実家を調べたんだけど、ヒルダ陛下とタリア殿下以外は皆さまヴァルジ家の一族か所縁の家のご出身だった。

そして、シルベスター陛下ご成婚の頃から外国人排斥がひどくなっている気がすると高齢の協力者が言っていたのが気になる。


そこで、折り入ってエリオットに頼みがある。

可能な限りでかまわない。

ヒルダ陛下のご両親の情報が手に入らないかやってみてはくれないか?

無理にとは言わない。

可能な限りで。







人の気も知らんで何をお気楽に頼み事しやがる!

皇宮勤めだけど、俺はただの(いち)騎兵隊員でしかないぞ。

伝手なんかあるk……あ。

チャールズの野郎、あてにしてやがるのか!

パールさんにそんな事させられっかよ!




――――――――――――――――――




「あら、よろしゅうございますわ。ぜひご協力させていただきたいです」

万策尽き果てたような疲れきった顔で、グレイさんが私を訪ねて来ました。

きけばお兄さんからとんでもない依頼を受けたようで、本当に万策尽き果てて私のところへ来たそうです。

「え、本当にいいんですか?」

「はい、ちょうどいい機会でした。先ごろガーネット殿下がお祖母さまのお話をお祖父さまにおねだりなさったので」

ヴァルジのバカ息子が祖父のイーゴリがすごい人だと自慢なんかしたもんですから……ガーネット殿下はご自身があまりご存知ないお祖母さまをお知りになりたくなったようでして。

「近々、陛下以下ご一家皆さまとサルヴァトーレ様でヒルダ様のお話をなさる事になったそうですわ。エリノア継嗣殿下も、それはもう楽しみになさっておられます」

皇嗣殿下と継嗣殿下にとっては幼くしてお別れしたお母さまの事ですから。

「サルヴァトーレ様からもお話をうかがえる、という事?」

「主にサルヴァトーレ様がお話しになるようですよ。一番の年長者でいらっしゃいますので、陛下もご存知ない事をお話しくださるとか。その時私もガーネット殿下のお側におりますので……」



10年以上皇宮にお仕えしていて思うのですが、サルヴァトーレ様は不思議な方です。

かつて師弟関係だったからという理由からか陛下を呼び捨てにし、そのお子だからと皇嗣殿下を坊主呼ばわり。

妃殿下の()()()()()ですけど……ほかのご家族ってどちらにいらっしゃるのでしょう?

……謎でございます。




――――――――――――――――――




ヒルダの事は、別に内緒にしとったわけではないんだ。

まさかわしより先に死んでしまうとは思わんかったもんでな……。


どこから話そうか。


まず、昔の皇宮の中にはたくさん子供がおった事を説明しておかねばならんかな。


昔……わしの親がまだ若かった頃、山岳地域は別の国だった。

その国は国土に平地が欲しくて、隣の国へ侵攻しては負けていた。

ご他聞にもれずルブラン帝国にも何度となく侵攻してきておった。

その都度難なく帝国軍は勝利しておったが……やはり大勢(たいせい)では勝利であっても、最前線では死傷者も出る。

時の皇帝は、一家の稼ぎ手を失った者を望めば皇宮の職員として雇い入れるよう申し渡した。乳幼児を抱えておれば連れて来てもよいともおおせだった。

皇宮の一画には乳幼児があふれるようになった。

陛下は、どの皇宮職員も家庭の事情で子を1人で家に置いておけない場合は連れてきてよいともおおせだったので、子供の姿が絶える事はなかった。


ヒルダは陛下の側仕えの男ハリソン・リグレーが連れてきた……彼の妻が病にかかり、療養のため家を離れる事になったからと。

リグレー前夫人は、療養先で回復する事なく帰宅叶わず亡くなったから、リグレーはヒルダを皇宮へ連れて来続けた。

7年か、8年か。

リグレーがマルグレーテ……マギー夫人と再婚するまで皇宮に通うておった。


マギー夫人はヒルダをものすごく可愛がっておって……リグレーよりも大事にしとったんではないかな、いい年齢(とし)をしたリグレーが子供のように()ねる位。

シルベスターは何かとよく皇宮のあの一画に来ておったな……専属侍女の幼い弟が預けられておったからだったか。

その縁でヒルダともよく顔を合わせておったわけだが……


シルベスターが伴侶を選ばねばならん頃合いの年齢になった時にヒルダを忘れずにおったのが驚きだったな。

確か10歳位でヒルダは皇宮に来んようになったから、てっきり忘れてしもうたかとばかり。


マギー夫人は婚礼の際もゴードンが生まれる時もエリノアが生まれる時も……ヒルダが病に伏してしまった時も皇宮へ来て母として付き添っておった。


()()()以来会うておらんが、リグレーもマギー夫人もどうしておられるかな。




――――――――――――――――――




先生の口から私も知らぬ事が出てきて驚いた。

「エンリコおじじ様はお詳しいですね」

ガーネットが訊いた……この子は「ひいおじいさま」と教えたのにもかかわらず先生を「エンリコおじじ様」と呼ぶ。

実の曽祖父ではないからまあいいか。

「ああ、わしは父親が最前線で足を失くして働けなくなって、その世話で母まで働けなくなったので皇宮の一画の世話になった子供だ……とはいえ面倒を見てもらうほうではなく面倒を見る側になったんだが」

それも初耳だ。

「おじじ様は小さくない子供だったのですか?」

「12か13か、そんなもんだ。世話を焼かれる年齢でもないから、小さな男の子達の遊び相手をよくやっておった。その中にシルベスターもよく入ってきとったな」

「ええ。よく遊んでいただきましたし、机の前では何かとしごかれましたね」

「阿呆に君主はつとまらんからな、学ぶほうは厳しくさせてもろうた」

確かに。




――――――――――――――――――




エリオットから、手紙が届いた。

思ってたより早かった。

なんでもヴァルジの息子がガーネット殿下に祖父自慢をしたそうで、それを知った皇族がたとサルヴァトーレ様が昔語りをなさったのだそうだ。

「ヒルダ陛下の継母様は、マルグレーテ・リグレー様……と」

自家製の皇族家系図に書き足した。

ハリソン・リグレー様の2人めの奥方の御名はやっとわかったわけだが……ヒルダ陛下のご生母の御名がわからないのは何ゆえなのか。

隠す必要があるのか……調べる対象が増えた気がする。



「マルグレーテ様……か。なあ、チャールズ……俺なんかひっかかるもんがあるんだけど」

帝国のすみずみまで飛び回っていろいろ調べてくれてるアインズが言い出した。

「ひっかかるもんは、この際だから全部だしてくれ」

「ああ。ついこの間山岳地域から脱出させた中にリグレーさんって一家がいた。確か、旦那さんが外国系2世の人だった」

「リグレー氏が外国系?」

「そうだよ……ええと、ロベルト・ハリソン・リグレーさんだった」

「……どこに行ってもらった?」

「とりあえずサン・トリスタンに」

「俺もなんかひっかかるから……ちょっと行ってくる。あと頼む」




――――――――――――――――――




チャールズの奴、何がどうひっかかるのかわかんねえけど……とっととロベルト・ハリソン・リグレーさんに会いに行ってしまった。

なんとも身軽な奴だ。

「有能っちゃ有能なんだけどさ……数のかぞえ方のテキトーさと細かい地名や道順や左右を間違えて覚える癖は何とかならんもんかね」

問題があるとすれば、()()だけだ。




――――――――――――――――――




チャールズが1人で橋を渡ってきた。

さっさといつものカートランド大街道大外3番第2宿にいく……のかと思ったら。

「確か脱出成功者の新天地の行き先管理って、エミリーがやってたよな」

「ええ、野郎ども(あいつら)に任せてたらメチャクチャになったからね」

あのまま放っておいたら情報が散逸しかねない勢いでメチャクチャ……いいえグチャグチャになってたから私が手を入れ、管理も私が。

「……リグレーさん一家って、どこに行かれたっけ?」

「それが何か重要な事?」

「こないだ言ってただろ、シルベスター陛下ご成婚の絡みで外国の人と何かあったのかもって。その関係で訊きたい事がある」

「そういやそんな事言ってたわね……てかもう調べたの?」

「偶然だったけど協力者さんが情報を早く入れてくださったんだ」

「ありがたいわね……で、リグレーさんだっけ」

「ロベルト・リグレーさんとご家族が今どこにお住まいか調べて」

あの方々なら、調べるまでもない。

「王家直轄領の領都の薬剤師館の家族寮」

「即答か!どんな記憶力してんだよ」

「そんなの私が送ってさしあげたからに決まってるでしょうが!」


脱出に成功したら、どんな仕事をしたいか希望をきいて、その仕事に就けるよう最大の協力をする。

そして移住先は……なるべくハマー伯爵領()()をおすすめしてる。

伯爵領が悪いんじゃないのよ、むしろメチャクチャ住みやすい所。

だけど、なにぶんにも国境が近すぎるのよ。

私が住ませてもらってるホイットニーさんのお宅も国境の橋からけっこう近い所にあるし、なんならご領主の伯爵様のお屋敷も近い。

領都そのものが国境に近いから、逃げてきた人が住むには向いていない。追ってきたのがいたら、すぐ見つかっちゃう。

なので1週間位の宿泊で、次の場所へ行っていただく事にしてる。


リグレーさん一家7人は、ちょっと特別だったかな。

移動中に13歳の男の子が熱を出しちゃって、無事に橋は渡れたものの、そこからの移動がなかなかできなかった。

熱が下がった時、患者だった彼が「薬剤師やってみたい」と言い出して、彼のお姉ちゃんと叔母さんもやりたいと言ったから……じゃあ、ってんで薬剤師候補生以外の家族全員も入居できる寮があるという薬剤師館のある王家直轄領へ。

薬剤師館長のマリリンさんの紹介状を持った騎馬のモーガンさんと、リグレーさん一家全員が乗れる大きな荷馬車の私で送り届けたわけで。

「じゃ、そこへ……連れてって」

あんた(チャールズ)は1人で行け!」




――――――――――――――――――




私ロベルト・ハリソン・リグレーは、マルグレーテ・リグレーの身内です。

私の母が、マルグレーテの姪なんです。

マルグレーテの弟が山岳地域をフラついていた頃に知り合った旧山岳国の女性が私の祖母でして……。

姓がリグレーなのは、祖父が母を従姉妹にあたる大伯母の継子に会わせやすくするために改姓したとか言っていました……真偽のほどはわかりかねますが。


母が子供の頃は、今のような選民思想は全くと言っていいほど顕著ではなかったそうです。

しかし……現陛下が正式に皇嗣となられ妃殿下として大伯母の継子が選定された時に祖母と母が側仕えの代わりで身近にいたためか、宰相からかなり厳しくされたそうです……外国人が皇宮で我が物顔するなと面と向かって言われ、二言めには「外国人」と(ののし)られるようになったと。

宰相の私怨とも噂されています……というのも、ヒルダ様が皇嗣殿下からご指名されなければ、妃殿下は宰相の姪になるはずだったのだとか。


宰相の私怨が始まりかどうかは定かではありませんが、外国人排斥は私の祖父母がきっかけだったような感じなんです……黙っていて申し訳ないです。







「いや、申し訳ないとか思わなくていいです。きっかけがわかった気がしてホッとしてます」

救援組織のグレイ氏が、私のあやふやでしかない話を信じてくれた。

「現宰相のヴァルジが息子をガーネット殿下の『幼なじみ』としたい理由もわかった気がしますし……親の代からの外国人嫌いなのも、身内から皇嗣妃が誕生するのを阻止された相手の親族に外国人がいたからというガキみたいな理由がどんどん曲解されてっての事だとわかった気がします。ありがとうございました。気を引きしめて皆さんを援助します……」

グレイ氏は、泣きそうな顔をしていた。

……ああそうか、この人の友達は外国人をかくまったとして投獄されて獄中で亡くなったんだった。






なんとなく、つながってきた気がしますね……外国人排斥(≒選民思想)と皇族へのすり寄り(未遂)が。

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