2. 民間的国際交流?
来る者拒まずなサン・トリスタン王国です。
うちの馬車庫の上には今、人が住んでる……2年前に引っ越し先がわからなくなって雨に打たれていたエミリーが。
実はあの後、早いうちにエミリーの「引っ越し先」は見つかってた。
行き先が見つかるまで宿に泊まっていたのではいくらあっても足りないから、とりあえずうちに来たらいいと提案した。
連れて帰ったら、父さん母さん妹のイリーナにあきれられつつ大笑いされた。
さすがに店兼自宅で寝泊まりしてもらうわけにもいかないから、馬車庫の上の物置(という名の廃墟)を人が住める部屋に改装してそこにいってもらった。
一応地元民のオレの都合にあわせてもらってだけど、サマーズ領・リンド領を一緒に調べに行き、次はすぐ隣のブリーデン領に行こうか……と店頭で打ち合わせをしていたら、父さんが旅の人を半ば無理やり説教しながら引っ張ってきた。
「あんたね、そんな状態の鞍をつけて乗ったら危険なんだよわかってないねえ!」
オレの背後で、いつものお怒りのセリフを聞き流していたら。
「あーーーっ!!」
「ええーー、ここにいたーー!」
エミリーと父さんに引っ張られて来た人が同時に叫んでた。
「どうしたの、知ってる人?」
「知ってるも何も……引っ越し先の人」
ええー。
もう見つかった……。
「これまでどうしてたの」
「どうもこうも……あのバカタレに教えられた通りに行こうとしたけどわけわかんなくなってハマー大街道をひたすら直進してるうちに雨に打たれたの。こちらのお兄さんに助けてもらえてなかったら私、今頃こんなに元気であんた達を探しまわれてないからね?」
いやあのエミリー……この人に当たるなよ、当たるんならその適当に教えた奴にだな……。
「うん、なんかごめん。ここの王都であのバカタレに会った時に思いっきりシメといたし、移住者には住所を書いたメモを渡せとも言った」
「あれはないわ。アルフ……このお兄さんでさえ『ここで生まれ育ったオレでもわかんねえ……』って嘆いたもん。ねえ」
エミリー、いきなり振ってきた。
「……普通、行程の説明で3つ位はありえないよ」
「それ、全部間違えてあのバカタレが覚えてたんだよ」
絶句……の後。
「何それーーーーーーーー!」
エミリー、絶叫!
「森の中の大街道を抜けて3つ先の宿場で交差してる大外3番環状街道を右折してすぐの宿場、って言ったはずなんだ……」
……大外3番を右、だって?
「やっぱり左右も間違えて覚えてたわね」
ため息のエミリー。
オレは王国全土の街道地図を開いた。
さっきまで使ってた、サマーズ領とリンド領にはバツ入れてあるやつ。
「今いるのがここ」
ハマー領の市街地を指す。
「で、ここが森を出てすぐの宿場」
ここまでは正しく覚えていたみたいだから、ここからスタートだ。
「大外3番まで行って右か……次の大街道を越える?手前?」
「越えて少し行った所の、新しいほうの宿場だよ」
「カートランド大街道大外3番第2宿だな。地元民にはそれで通じるから、来たいって人にはそれも書いて渡すといい」
「……ありがとう」
「ところでダニエルさぁ。今そっちに誰が住んでるの?」
エミリーが訊いた……この人はダニエルというのか。
「オレ以外では……ニコラス、ジャン、ルク、レクス、フィリップ、トム、ポール、モリス、カール、ユリウス。来たがってるのがエドとジム。あとチャールズがよく泊まる」
人名がつらつら上がるたび、エミリーの顔が険しくなっていった。
「私、そっちに住むのやめる」
「え!なんで?」
「……無自覚か!」
怒り出すエミリー。
「野郎ばっかじゃない、住んでるの。そんな所に私が行ったら、飯炊きにされる未来しか見えない!」
「えー。ちゃんと当番制にしてるし、これからもするかr……」
「信用できるかっ!!向こう撤収前夜まで1日3回週7日月4週毎日毎日30人以上の飯炊きやってたのが誰だったか忘れたわけじゃないでしょうね?そもそも元は当番制だったはずが、消し炭製作部隊のせいで料理できる人だけが残って、最終的には料理できるはずの奴らもみんな逃げた!お前も逃げた1人のくせに!」
……ぶちギレて、お前呼ばわりまでし始めたよエミリー。
「ホイットニーさん!ちゃんと家賃払うからここに住ませてください!」
そして、父さんのほうを向いて叫んだ。
そんなこんなで今、エミリーは馬車庫の上に住んでいる。
――――――――――――――――――
んー。
居心地いいのよね、ホイットニー馬具店の馬車庫の上の部屋って。
もともと物置だったのを、ちょっとよさげな宿みたいな2間つづきの部屋にしちゃってある。
寝台は、昔アルフが子供の頃に友達ら男3人でお泊まり会をやってた時に使ってたとかいう大きな物。寝心地最高。
今はアルフの妹のイリーナちゃんが私とよくお泊まり会してる。
それはそうと。
あのバカタレは一度蹴った。全力で。思いっきり。吹っ飛ぶ勢いで!
「あんたのせいで、私は見知らぬ隣国で迷子になったっ!」
「助けてもらってんじゃん……」
「それはただの結果論!問答無用!」
スッとした。
そして今、家賃稼ぎのために仕事をしつつ……ルブラン帝国で迫害されてる人を助ける活動も続けてる。
仕事は、薬剤師館のお手伝い。
無資格だからたいした事はできない……と思ってたけど、Sクラスの試験に受かったばかりのイリーナちゃんいわく「馬車を使えるのなら配達助手をやってもらえるとものすごーく助かる」。
配達って薬剤師が届けるわけだけど……1人で行くといろいろ身の危険もあるとか。
「身の危険……って?」
「すっごい嫌な言い方するなら……女1人で来るんならやっちゃってもいいよね、っていうクズな考えの依頼主がいるって事」
「何それ最低」
本当に実害のあった依頼主の所には、師匠マリリンさんの息子で兄弟子のモーガンさんが護身用の剣をわざとよく見えるようにぶら下げて行ったり、マリリンさんが旦那さんのアンソニーさん(超絶こわもてなオジさん)を配達助手みたいにして行ったりしてるって。
「だったら2人で行こうって事で、エミリーさんにお願いしたいの。配達助手は資格いらないし、エミリーさん長い棒持ったら敵なしだし」
……ええ。
イリーナちゃんに誘われて薬剤師さん達の護身術教室の森番小屋に行ったら、ノリノリの森番さんから「技量を見るから得物を選べ」と言われ自分の身の丈より長い棒をとったら、若い森番さんに勝負を挑まれてほんの数秒で打ち据えてしまって。
そしたら躍起になった他の若い森番さん達が次々と打ちかかってきたのを全員倒してしまったので……森番頭さんであるアンソニーさんから護身術訓練の必要なしの裁定がくだりました、はい。
「……うちのモーガンの次に強いような気がする」
聞かなかった事にしたい……。
荷馬車に配達の薬と長い棒を積んで、移動中は薬剤師さんとお話三昧な2年でわかったのは……宰相ヴァルジの一派が頭おかしいって事。
何がしたくて外国系の人を迫害してるのかが全くわかんない。
もしかしたら、たいした理由もなく始まったのかも知れない。
チャールズ・グレイが調べてきた事を思い出してみた。
皇族の系譜を20代ほどたどってみたが、今のシルベスター8世陛下の母上まではすべて時の宰相家の娘御かその縁者だった。
故・皇后ヒルダ陛下はシルベスター陛下が是非にと望まれた幼なじみの方で、皇嗣妃殿下はシルベスター陛下の家庭教師をなさっていた方のお孫様。
2代続けて宰相家とは無縁の方だ。
皇女殿下はまだお小さいから縁談などはまだ先だろうけど……ヴァルジのクソ息子がチョロチョロとうっとうしくしてやがる。
あれは皇女殿下の配偶者になろうって魂胆なんだろうが、皇嗣殿下ご一家全員ヴァルジのクソ息子を蛇蝎以下のごとく嫌っておられるそうだ……弟が皇宮内の信頼できる筋から聞いてきた話だから間違いない。
きっと皇女殿下はヴァルジのクソ息子以外を伴侶にお選びになるはずだ。
私達庶民でも知ってる話だと、ヒルダ様は確か皇宮で皇族がたのお側ご用をなさっていた方のご息女でいらした。
ご生母が病を理由にヒルダ様を置いて家を出られその後亡くなられたので、お父上はヒルダ様だけを家に残しておくこともできず子連れで皇宮のお勤めに。
お父上がお勤めの間ヒルダ様はシルベスター陛下やその他の皇宮職員の子供と一緒にすごしておられて。
その後お父上が再婚なさったので皇宮へ行くこともなくなったけれど、何らかの行事のたびにシルベスター陛下のパートナーを乞われるようになって……そしてご成婚に至る、っていうのが一連の有名な話。
そしてこの頃をよく知る老人世代の大人に訊くと、ご成婚の前あたりからヴァルジ家の異国民嫌いが激しくなった気がするって口を揃えて言う。
「ねえ。シルベスター陛下ご成婚の絡みで外国の人と何かあったのかもよ?」
ふと、思った事が口から出た。
「そうかも知れねえな。よし調べてみるか」
「え、ムチャしないでよ?」
「わかってる……ところでさ、カートランド大街道大外3番第2宿に来ない?」
「行かないわよ願い下げ!私のおうちはホイットニーさんちの馬車庫の上です!」
しつこいな!
もしかしたら、外国人排斥の原因がわかるのかもしれません。
で。
エミリーさん意地でもカートランド大街道大外3番第2宿には行かないようですw




