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アルヴィノーラの森で  作者: ありかわつぐみ
第1章 発端の年
4/80

4. 凝り固まった選民思想のもとで

第4話です。


いきなり不穏な会話から始まりますが……時を同じくしてルブラン側では何があったのかがわかる回となっております。


ルブラン帝国……大丈夫か……







「閣下……一大事でございます」

配下の者が慌てふためいて転がりこんできた。

「なんだ騒々しい」

「先日無事にぶっ壊れたはずのあの忌々しい国境の橋が、向こうの手で再建されようとしております!いかがいたしましょうヴァルジ様」

報告の文言が少しずつおかしな気もするが……私の判断をあおごうというのだな?

「破壊工作をするにしても、今やるのは得策ではない。出来上がるまで放置しておこう。壊すのはいつでも出来る」

「なるほどさすがは賢君アドルフ・ヴァルジ様」

手放しでほめてくるが……完成してからのほうが人の目が減る分、壊しやすいだろう。誰でもわかりそうな事だ。

「して、密入国者一家の殲滅は完了したか?」

問いかける。

「ええ、あの……申し訳ございません。女は斬り捨て男は捕らえたとの報告はあったのですが……」

言いよどむ。ええい、ハッキリ申せ!

「……子供達には、全員逃げられました」

なん……だと?

「全員?乳幼児ばかりであっただろう!確か7歳5歳3歳1歳……」

「女が4人全員連れて逃げたようですが……斬り捨てた際には一番上の子供しかそばにいなかったとの事で」

「……その長子には自力で逃げられたというのか、大人の追っ手が!確か剣術士とその配下の5人で追っていただろうが!」

「面目ございません。剣術士のみ戻って参りましたので、あとの者は子供を追うておるのやも……」

「よいか。我がルブラン帝国は、優秀なる帝国人民のみで構成される国家なのだぞ。異国民なんぞを住まわせるなど言語道断。シルベスター8世陛下のもと、帝国人民による優秀な国家を発展させねばならんのだ」

それこそ皇帝陛下の最高の忠臣であった我が亡き父イーゴリの遺志でもある!




――――――――――――――――――




私は、もう長くはないのか。

寝ついてしまってからは、体を起こすのも億劫になってしまった。

摂政をしてくれている皇嗣ゴードンもいる事だし、譲位してもよいかな。

ただ……ゴードンにはまだ子がおらぬ。

娘のエリノアには配偶者はもとより想い人すらおらぬ……いやそこはおるかもしれぬが、兄にいまだ子がおらぬ内は皇嗣の次の継嗣としていてもらわねばならぬ。

ああ、動かぬ体がもどかしい。

と、そこへ。

「……お義父さま、お目覚めでいらっしゃいますか?」

部屋の扉がそっと開かれ、ひっそりと声がした。

その声の主は、ゴードンの妻のタリア。

「おやすみ中でしたら、下がりますけれど……」

「起きていますよ。起き上がれないだけです」

タリアが枕元に歩み寄ってきた。

「……流行り病ゆえお部屋に行ってはいけないと言われておりましたが、気がかりでございました」

タリアはそこでニヤリと笑いかけた。

「本当に流行り病であるなら、お義父さまは私をお呼びになるはずですからね」

「私が直接命じられぬがゆえ、そなたを呼ぶ事ができませんでした」

「そんな事だろうと思いました」

「今の国情では、そなたの真の身分を明かす行為は避けねばなりませんし」

何故か国民の間では今、異国の民を放逐しようという気運が高まっている。

だから、皇嗣ゴードンの妻が実は隣国のSクラス薬剤師だという事を明かすわけにはいかぬのだ。

……そこへ、医師が侍女を伴って現れた。

慌てて物陰に身を隠すタリア。

「陛下、お薬をお召しください」

侍女から液薬の器を渡される……嫌だな、これを飲むとまた眠りが襲ってくるのだ。

そして起き上がる力が一段と失せるのだ。

「わかった。下がれ」

「きちんとお召しになったか確認いたしましたら下がります」

「飲むから下がれ」

「ですから……」

「飲むと言うておろう。下がれ」

体力は落ちているが、服薬前なら少しは力ある声が出せる。

「では侍女を……」

医師も食い下がる。

「侍女も下がれ。器がこれ1つしかないわけでもあるまい。あとで取りに来ればよかろう」

「ですが……」

「医師のそなたが一番よくわかっておろう?私が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と」

「……さようでございますね」

「では、下がれ」

やっと医師と侍女が部屋を出た。

「お義父さま……それ、拝見してもよろしゅうございますか」

タリアが物陰から訊いた。

「無論。そのつもりであの者どもを下がらせたのです」

せっかくサン・トリスタン王国のSクラス薬剤師が部屋にいるのだから、飲むと眠くなり起き上がれなくなる薬の正体を知りたいではないか。

「……お義父さま、これをいつからお召しですか」

においを嗅いだり少しなめたりした後、厳しい声音になった。

「そなたらと会えぬようになった頃からですね」

「そんなに長い間()()を?」

()()()()()()()()()()だと言われて飲んだのが始まりです。徐々に体に力が入らなくなり始め、今では服用後に強烈な睡魔に襲われます」

「そんな作用があったのですね……」

「どういった薬なのですか」

「滋養強壮剤()()ありますが、即効性に優れているため長期にわたって服用する物ではありません」

「かれこれもう3ヶ月以上は飲み続けていますよ……」

「ここまで身体能力が落ちるのであれば、生命の危険もございます。本来なら服用をお止めしなければならないのですが……」

「そなたの身元が知れてしまいます。それだけは絶対に避けねばなりません」

「何とかならないものでしょうか」

万策尽きたか。




――――――――――――――――――




お義父さま、あの状態は絶対に「流行り病」なんかじゃない。

飲まされていた薬も、即効性の滋養強壮剤……ただし()()()()()()のもの。

幸い依存性はないけれど、内臓にかなりの負担がかかって弱っているはず。

だから起き上がれなくなり、眠ってしまう。

誰の差し金かしら?

そう言えば、私達に「陛下は流行り病だから伺ってはなりません」と言いに来たのは故ヴァルジ元宰相の息子の側近だったわね……。

それにしても。

致死毒を盛るわけでも催眠剤で眠り続けさせるわけでもなく、何がしたいのかしら?




――――――――――――――――――




ヴァルジ様のお屋敷を辞した直後、牢番からの非常事態だという連絡がきたので、俺は大急ぎで牢に向かった

「うわあああああああああん」

牢を囲う塀の外にまで男の号泣する声が漏れている。

「……あれ、か?」

「はい」

「なんでえええ、どうしてえええ、殺されなければならなかったんだああああああああああああ」

間断なくきこえ始めて、6日めに突入したのだという。

「……何ゆえ、あのような?」

「何者かが異国民一家の女が死んだとあの者に伝えたのだと報告がございましt……」

「なぜ!どうして!うわああああああああああ」

雑居房棟に近づくにつれ大きくなる泣き声。

「同房の者は……」

「もちろんこの5日間一睡もできておりません。囚人のみならず、雑居房にいる全ての者の睡眠が妨げられt……」

「なぜええええええええ、どうしてええええええええ、殺す必要がああああああああああああ」

これでは確かに……眠れまい。

「にーちゃんよぉ……アンタが泣いてアンタのかみさんが生き返るんならいくらでも泣きゃあいいがよぉ、泣いても帰って来ねえんだぞ」

同房の男がなだめにかかっているが。

「ええ、まあ、それは、そう、なんですが……うわああああああああああ」

泣き止ませ失敗。

「あいつは、確か帝国人民であったよな?」

「はい、帝国人民ニコラス・ジェファーソンです。ですが異国人の女と家庭をもち混血の子供4人の父親なのです。拘束が当然かと」

放逐すべき異国民をかくまっていたばかりか子供までもうけていたのであれば、帝国人民であっても致し方ない……が、この状態は問題だな。

「あいつを禁固棟に移せ。そして雑居房棟の皆を休ませろ」

「かしこまりました」


翌日。

俺は意外な報告を聞いた。

「ジェファーソンが、死んだ?」

「はい。禁固棟に移してもまだ泣き続け、泣きながら水を飲み、むせて嘔吐し、その嘔吐物を吸い込んでしまって窒息したとの事です」

()()、か……子供達の行方の手がかりを尋問しようと思っていたのにな。







シルベスター8世陛下……息子の嫁に対して、なんか不思議な言葉遣いですよね。

「そなた」と言いながら、めっちゃ丁寧語。

臣下じゃない、身内!と思うあまりの言葉遣いだと思われますw



そして

なーんか怖い事をサラっと言うてますよ、ヴァルジ……。

なお。

この思想、作者は持っていません。

世界は一家、人類は皆きょうだい!(……世代がバレそう)

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