ない…………ない!
3人より一足遅れてハマー領に戻るアルフレッドです。
(踏んだ踏まれた踏み潰される……は、前話参照ということで)
巡幸御列での事故負傷馬を王宮の厩舎に帰すべく、帰還部隊について王都までやってきた……傷病者輸送用の馬車がメインの隊列にオレが操る負傷馬を載せた馬運車と捕縛吏が操る護送馬車(中に囚人1名)が加わってる形で。
御列と違って他人の目がないので、ハッキリ言って暇だ。
「無知って怖いですねー。オレ達の周辺でモーガンを襲おうなんて奴は、バカか考えなししかいませんよ」
護送馬車の中に聞こえるように言ってやった。
「絶対返り討ちに遭いますから」
「……でしょうね、ってか遭った奴が中に」
「そうでしたね」
「伯爵家のお2人は『モーガンに制圧された奴って、今後男として生きていけそう?』なんてお訊ねでしたよ」
「それ、倒した後に踏んだと思ってますね絶対」
「踏まれてませんのでそこは無事ですとお伝えしたら、相当驚いておいででした」
「絶対踏んだはずだと思ってたな……ま、オレも踏んでなかった事には驚いたけど。訊いたら相手が1人だから踏む必要なかったんだって。よかったなー、単独犯で!複数犯だったら全員もれなく踏み潰されてるぞ」
護送馬車の中から、拘束用の鎖が激しく動く音がした。きっとそこを押さえたんだろう……押さえたくもなるか、潰されてたかもしれない話を聞かされちゃ。
馬運車の馬を数日休ませてから帰路につく事にしたオレが出発する寸前に、伯爵家のご一家が王都にご到着になった……て事は、シャルル様達3人は少し早めにハマー領に着いたのかな。
「モーガン君だけを護衛役にして3人4頭で帰ってきたんだが、何かあったのかい?」
王都を囲む城壁の門の内側で、伯爵家の馬車列をお見かけしたのですれ違いざまにお声がけさせていただいたら……伯爵様がお訊ねに。
「モーガンがメインで、ちょっとした捕縛劇がございました。その関係で自分がここにいます」
「王都から帰ったら、その話を楽しみにしているよ」
じゃあ、とお急ぎ中の伯爵様達は行ってしまわれた。
城壁の門を出てしばらくすると、雨が降りだした。
「まずいな……」
道がぬかるむ分、馬の歩みが遅くなる。
ただでさえ早く走るタイプの馬じゃないから特に。
「……1泊増えるかも」
宿泊費の心配はしてない。
臨時随行の他に馬運車関連で追加報酬をもらってからの帰途だから、懐ぐあいは大丈夫。
何なら贅沢だって可能……しないけど。
馬運車を停められる宿がうまく空いてりゃいいなと思いながら、頭の中で行程を組み直した。
「ジュピター?まっすぐ歩いてくれよ。お前がまっすぐ行かないとマルスとシリウスまでまっすぐ行かなくなるだろ」
3頭のうち真ん中につないで少し前を歩かせている年長馬のジュピターが右へ寄り始めた。
疲れているわけじゃないはずだけど……どうしたのかと右側の前方を見ると、雨具の用意のない人がずぶ濡れで立っていた。
「お前あの人に気がついたのか。偉いぞジュピター……わかったからまっすぐ歩いてくれ、あの人を轢いちまうから」
そして。
「どうかしましたか?」
オレは声をかけた。
――――――――――――――――――
困った。
曲がる所を間違えた……いや曲がる所がわからなかった。
リーダーに言われてた通り、国境の橋は渡った。
森の中の大街道とかいうのを進んでいったら森を抜けて宿場にでるから、そこでナントカ街道を左折してまっすぐ進め。
そこから大街道を3つ位横切ったらまた左折してそこの領都で拠点を作ろうとしてる奴がいるから合流してくれって言われて……その通りにしようとしたはずなんだけど。
まず、森を抜けてすぐの宿場はあったけども。
次に曲がる所がよくわからなかったからそのまんままっすぐ突き進んだの。
いくつか宿場には出あったけど、やっぱりどこにも右左折できるような所がよくわからなくてここまで来て……雨に降られた。
私、隣国で迷子よ!
リーダーから地図ぶんどって来とくんだったわ!
ってか、そもそも「ナントカ街道」って何!3つ位って、いくつよ!
……にしても。
ここどこ。
服の中まで雨がしみてきちゃった。荷物も全部濡れちゃって重いし、寒い……。
「どうかしましたか?」
大きな馬3頭に牽かせた大きな馬車が私の横に止まって、乗ってた男の人が声をかけてきた。
……地元民!
「えーと……行くべき場所がわからなくなりました」
この大街道とやらを一直線に歩いて来たのだから、ぶっちゃけ「迷子」というのは何か違う気がして。
それに私は18で、小さな子供じゃないし!
「じゃ、とりあえずこの中で雨宿りしがてら宿場まで行きましょう。乾いたタオルがあるので使ってください」
ご親切にどうもすみません、乗せていただきまs……ってこの馬車、何なの!座席ないけど荷馬車でもない!
「あ。タオルはオレの私物ですんで遠慮なくどうぞ。洗ってあるんで。毛布は……馬用だけど洗ってあるんで広げてその上にでも座っててください。何なら濡れた服が乾くまでオレの服着てて……サイズ的にはアレかもしれないけど、ちゃんと洗ってあるんで」
うん、サイズ的にアレっていうのは……私が結構小柄だからよね。この人私よりかなり大きいから……
「あ……絶対覗きませんからね!」
え?……あ。
濡れた服を乾かすってことは……脱ぐ必要があって、その間この人の服を着てるイコール着替える……おおう、そういうことか。
――――――――――――――――――
やっべえ。
普通にオレ、服が乾くまでオレの服着てろって言っちまったよ。
それって、今着てるもん脱げって事じゃんよ?
あの濡れっぷりからしたら、中まで全部……だよなあ、うん。
「絶対覗きませんからね!」
言っとかないとな……オレ不埒者になるのやだもん。
見ない……見ない。
絶対見ない。
「おやアルフ珍しいじゃないか、馬運車で帰りなんてさ」
馴染みの宿の女将に声をかけられた。
「うん。2部屋空いてる?」
「あるけど……後ろに誰か乗せてんのかい?」
「宿場の外で雨具なしで雨に降られてた人を保護してる。女将さんの服、とりあえず一通り貸して。そんで中の人に渡してもらっていい?それから部屋に……」
「あんた女に自分の服を着せたのかい。ぶっかぶかだろうが」
「……貸しただけ!着てるところは見てない!」
そう、見てない、見てない……。
――――――――――――――――――
へえ、あの人アルフさんっていうんだ。
名前……そういや私も自己紹介してないからアルフさん私の名前知らないや。
2部屋とか言ってたけど、どうやって宿とるんだろ。
聞こえてくる会話からしてお馴染みさんみたいだから、どうとでもなるのかも。
宿の女将さんが、服を持って来てくれた。
「ババアの服で悪いね」
いえいえ、とんでもなくありがたいです。
だって今の私の格好はアルフさんの大きなシャツだけなんで、馬車から一歩も出られません(何なら肌着も着てませんから)。
「……ありがとうございます、助かりました」
「いいんだよそれ位。部屋で少し休んだら、服屋を紹介するから買いに行っておいで。手持ちの着替えも全部洗い直さなきゃ着られないんだろ?」
その通りです女将さん。
「ええと、買い物はしたいんですが……両替って宿でお願いできます?」
私の手持ち通貨はルブラン帝国のものだから、たぶんここでの買い物では通用しないかと。
「外貨のはできないよ、悪いね」
「そうですか……」
ううむ、どうする。
「ま、とりあえず着替えたら出ておいで」
ありがとうございます女将さん。
――――――――――――――――――
「あの子が着てたあんたの服は、使ったタオルと一緒に洗っておくよ」
女将さんが部屋まで言いに来てくれた……助かります、ええ。
「それから、あの子の買い物につきあってやっとくれ」
「女の子の買い物、オレよくわかんないっすよ?」
「外貨しか持ってないみたいだから、たてかえてやるんだよ。誰が買ってやれってったよ?」
あ、そっちっすか。
「妹の買い物につきあったりしないのかい」
「行かないし、行ったとしても専属荷物持ちっす」
「えーと。改めて……いろいろありがとうございます、馬車乗せてもらったりタオルとか服とか宿の確保まで。私、エミリー・ジャクソンって言います」
ジャクソンさんってのか。
「オレはアルフレッド・ホイットニー。馬具屋の息子です。馬具屋っつっても鞍を作ったり装蹄したり馬車の修理したり……馬にかかわる事なら全般的に何でもやってます」
1人部屋を2つ用意してもらった後、買い物のために歩きながら軽く自己紹介。
「さっきジャクソンさん『行くべき場所がわからなくなりました』って言ってましたけど……?」
「あ、ホイットニーさん。私の事はエミリーって呼んでください。仲間みんなエミリーって呼ぶんで、ジャクソンじゃ自分が呼ばれてる気がしません」
「じゃオレもアルフで。ホイットニーさんだと『おい親父、呼ばれてんぞ』って言いそう」
クスクス笑うジャクソンさん……じゃない、エミリーさん。
「お気づきかも知れませんけど……私、橋の向こうから来たんです。引っ越し先に行く所だったんですよこれでも」
ルブランから、引っ越し……なんかまあ、最近増えてるお察し系的な感じかな。
「住所のメモがあれば、お連れできますよ?」
一応サン・トリスタン王国住民歴19年だし。
「ええとそれが……行き方は聞いたんですけど、どうも要領を得なくて。『着きゃわかる!』って……」
……彼女が聞いたという行き方を聞いて、唖然とした。
生まれも育ちもこの国のオレでも迷うわそんな説明!
森の中の大街道ってのは、おそらくハマー領と王都を結ぶ通称「ハマー大街道」の事だろう。ルブラン側から見ればそんな感じだからな。
大街道とは王都から各領ヘ放射状に伸びてる直線街道の事。
森を抜けてすぐにある宿場は、王都側からの人は森へ入る準備の場所。王都に向かう人は森から出て一息つく場所。
そこまではまともだったのに。
ナントカ街道……たぶん「環状街道」の事だと思う。たとえば隣の領へ行きたい時は、一旦王都へ向けて出発してから環状街道を次の大街道まで進んで、隣領へ入るわけ。
だけど聞いた話だと「環状街道を左折し大街道を3つ位横切ったらまた左折」って事だそうで……。
行き方の説明で3つ位はないよな……。
大外の環状街道を王都に向かって左に2つならリンド準男爵領、3つならサマーズ侯爵領。
4つだと王家直轄領になるんだけど……この3つが行き先の候補になる。
「ものは相談なんですが……その行き先を探すのって、たぶん1日2日じゃムリだと思うんで……オレ達が住んでる街に腰を落ち着けてゆっくり探しません?」
オレ、提案してみた。
街道名もまともに覚えてない上、超える大街道の数もあやふやだった……って事は、右左折の向きも間違えてる可能性があると思って間違いないと思う。
そうなると探す場所は6ヵ所。
1週間でもムリだろ。
「そう、ですね……あいつ今度会ったら蹴ってやる……絶対蹴る……」
最後のほうは、聞こえなかった事にした。
買い物が終わって部屋に帰ると、女将さんが大急ぎで洗濯乾燥してくれたタオルとオレの服が届いていた。
タオルの他は、シャツ1枚だけ。
シャツだけ。
だ け 。
「ええええええええええええ、これしか着てなかったのかよおおおおおおおお!イヤなんでまたこれだけええええええええ!」
寝台の上で大絶叫しながらゴロゴロしてしまった。
――――――――――――――――――
……ええと、あの。
どこのお国でも一緒だと思うんですけど
宿場のお宿の部屋の壁って、そんなに分厚くないんですよね……。
いきなりお下品スタートでスミマセンw
そしてアルフ君は女の子拾っちゃいました。
いやーー、19歳でオトナぶってカッコつけて
ドツボはまってますねえwww
(壁の分厚くないお部屋での大絶叫は、内容に注意しましょう)




