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アルヴィノーラの森で  作者: ありかわつぐみ
第5章 16年
31/81

2. 巡幸とは。



隣国の国王巡幸を、いろんな角度で見ています。






今、サン・トリスタン国王が国内巡幸をしているときく。


隣国サン・トリスタンは国力が落ちてきておるようだな、王室はもう求心力がないと見た。

王がわざわざ国土の端まで出向くなど、愚かしい。

国内巡幸などせずとも、帝国民は代々の皇帝陛下のもと挙国一致で動く事のできる優秀な者ばかりだ。

国民に媚を売るかのごとく国土を巡る必要などない。




この様子では、10年以内に隣国は我が手中におさめられるだろう。

いずれ皇帝の外祖父となるはずの私の手中にな。




――――――――――――――――――




国王陛下の国内巡幸……か。

私が子供の頃にもあったわね。

巡幸の御列がうちの商隊と街道で行き合ってしまって、もちろん御列を先にお通ししたけど……随行の医師が大急ぎでやって来て

「消化不良に効く薬を売ってほしい」。

訊けば御列の中の1人が消化不良を起こしてしまっているのだとか。

それはお辛いでしょうね、お大事に……と母さんは消化促進剤を販売してたけれども。


今ならわかるわ……随行医師は最初母さんに処方薬を出してもらおうとしたけど、()()()()A()()()()()()()()()()()()市販用消化促進剤を買っていった。

御列の中で、Aクラス薬剤師では対面処方できない相手と言えば……国王陛下しかいらっしゃらない。

だから消化不良の患者さんは陛下だったのでしょうね。

それにしても。

消化促進剤を用意しておかなかったなんて怠慢じゃないかしら?

男なんて目を離したらすぐ好きな物しか食べなくなっちゃうんですから。




――――――――――――――――――




ヴァルジは、国内巡幸を「愚行」だと断じる。

愚かなる異国民のくだらぬ文化だと。

だが私はそうは思わない。

巡幸を愚行と思う事こそ愚行であろう。

そして他国の文化をくだらぬと(わら)う神経が全くわからない。



そもそも、巡幸は王制・帝政の国家では当たり前ではないのか?

少なくとも私はそう父ヘンリー4世や家庭教師だったサルヴァトーレ先生から教わった。

サルヴァトーレ先生は隣国サン・トリスタン王国や他国で留学生として勉強してきた人だ。

年若い同期生に混ざって、いろいろな文化を学んできたと。


私は外の世界を見た事はない。

しかし外を見てきた人を知っている。

外の世界を見た事がないのはヴァルジとて同じだが、外を知るか知らぬかでは大違いだろう。

確か「大海を知らぬ井の(かわず)、空の青さは知れども己の愚かさを知らず」だったと思うが……サルヴァトーレ先生いわく、どこかの国の格言か何からしい。

「こういう蛙を捕まえて水を張った大鍋に入れて火にかけると、温度がじわじわ上がってるのに気づかず最終的には茹で上がる。国の(おさ)が茹で蛙にならないよう、外の知識は入れなきゃならん」


茹で蛙などまっぴらだ。




――――――――――――――――――




サン・トリスタン王国で国王の国内巡幸か。

どこかの誰かが()()()()()()()()()()()()()()()()()国内にこっそり持ち込む隣国の新聞で情報を得るわけだが……巡幸の御一行内で落馬事故発生か、って記事があったな。

確か自意識過剰な装蹄師のせいで4人が負傷し3頭が歩行できなくなったとか。

かわいそうになぁ、馬。ちゃんと治してもらえよ……。



わし、若い頃にサン・トリスタン王国の王立学習院で3ヶ月ほど勉強させてもらったが……その時にも巡幸があった記憶がある。

王立学習院は確か庶民と低位の貴族の子女が通う完全寄宿制の学校で、7~8歳から15~6歳までの生徒がいて……24で勉強しに行ったわし、完全に場違いだった。

巡幸の御列を寄宿生全員で見に行く事になった時には、

「あなたは生徒ですが大人なので、引率者が足りないぶんをお願いできますか?」。

いい思い出なのかいいように使われただけなのか……。


国王一代につき最低1回は巡幸する国なのだと後できいた。

わしが見た巡幸の御列は、その時の国王2回めだったそうだ。

民衆の立場で巡幸の御列を見た経験から言えば、

「巡幸は祭り」。

沿道には食い物や遊びの屋台が立ち並び、御列が来るまで羽目をはずす。

御列を見るために遠方から泊まりがけで来る者もいた。

要は、巡幸で国内の経済が回るのだ。

やるべきかやらざるべきかを(はか)るなら、やるべきものだとわしは思う。


巡幸を愚行と断じるヴァルジは、阿呆でしかないな。





よくこんなアホで宰相が務まるなあヴァルジ。



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