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アルヴィノーラの森で  作者: ありかわつぐみ
第5章 16年
30/81

1. 代役



前回より3年が経過いたしております。

伯爵家の5人兄妹は、19歳19歳17歳15歳と7歳となりました。



さて今回は、国家行事でハプニング発生した模様ですよ……


(うっかり1文抜かしてしまいましたので追加しています)



()()()2()()()()()()()


……今、そうおっしゃいましたよね義父上。

というか義父上……業務中にうちに来られたのはこの8年で初めてですよね。

領兵を貸す、のはやぶさかではありませんけれども……事情を可能な限りでかまいませんのでお教えいただかない事には、お返事のしようがございません。


「国王陛下の国内巡幸に際し、近衛儀仗兵が騎乗して陛下の馬車の周囲に就いているのだが……16頭中蹄鉄の緩んだ馬が6頭いて、そのうち4頭が乗り手を振り落とした。代役要員は2名しか連れていなかったが補充要員が到着するまでとどまるわけにいかず、とりあえず格好だけでもつけなくてはならなくなってね……」

……なんという事情。

「身元照会が必要になるでしょう、国軍近衛兵の代役なら」

「だから身元照会済の領兵を貸していただきたいと……」

「照会のレベルが違います。領兵なら『牧師の次男、よし』『酒屋の3男、よし』で済むところですが、国軍近衛兵でそれは通用しません」

いくら何でももっと照会するけれど、それでも国軍近衛兵の照会よりはるかにゆるい。

「ううむ……」

義父上……国軍のガリーニ将軍が頭を抱えてしまわれたところに。

「2人でよいのでしたら、いいのがいるじゃありませんか」

救世主のごとく、ほがらかな妻の声。

「短期間だけ見た目が整えばよいのでしょう?なら、兵である必要はないのではありません?」

「え?」

「正装を身につけたまま姿勢正しく長時間馬に乗れる()()()()()()()()()が、うちには2人いるじゃありませんか」

「あ!」

「そうかクロードとシャルル!」

「受けてくれるかは本人達次第でしょうけどね」




――――――――――――――――――




お祖父さまがいらっしゃってる、シャルルと僕を呼んでいるときいて訪ねたら……なんとお祖父さまは国王陛下巡幸の随行員としての職務中だった。

そして用向きは……騎馬儀仗兵の代役をやって欲しいと。

滅多にない機会なので、一も二もなくお受けした。

が。

「16頭中6頭も蹄鉄が緩むなんて、なぜそんな事に至ったんです?」

シャルルがお祖父さまに訊いた。

「装蹄師の慢心、としか言いようがない。16頭分なら自分だけで充分だと言って、1人で16頭の蹄鉄を扱っていた」

「それ、王都から離れた田舎道をなめてませんか」

僕の冷ややかな返事に。

「なめてるね」

シャルルも同調してくれる。

「私に装蹄師の任命権があればよかったのだがね……さすがに技術随行員にまでは口が出せなかった」

だろうね、お祖父さまは巡幸随行員の最高責任者。技術随行員は部下の人の管轄なんだろう。

「補充要員は何人お願いしてあるんですか?」

シャルルが訊いた。

「騎馬儀仗兵4人と装蹄師4人だ。あと馬も4頭呼んだ。そして今いる装蹄師は、補充要員が到着次第随行を解任して送還させる」

「それがいいでしょうね……ですけど、そんな状況を生んだにもかかわらず、解任まで蹄鉄の世話させるのですか?」

「致し方ないだろう、奴しかおらんのだ」

深いためいき。

……僕はふとひらめいた。

「お祖父さま。あと2人、臨時の随行員として連れていってもらえませんか?」

「……ん?2人?」

「ええ。その2人も身元照会は不要です」

「あ!」

シャルルも気がついたようだ。

「1人は、モーガンです。きっと()()()()()()()()()()()()はずです。それにSクラス薬剤師ですから、今すぐにでも国王陛下の御前にも出られます。馬で移動もできますから足手まといにはなりません」

うんうん、とシャルルがうなづいてる。

「もう1人は、ホイットニー馬具店のアルフレッドです。2年間の王城厩舎での修行を終えて帰ってきたばかりです。有期契約満了後3ヶ月以内の元王城職員ですから、身元照会は省略可能のはずです。それに、彼の装蹄はお祖父さまも信用してますよね」

「全幅の信頼をおける技術の持ち主だよ、彼は。王城でも有期契約なのを惜しんでいた」

「なら、決まりですね。モーガンとアルフレッドを呼びましょう」

「そんな、急に呼びつけて大丈夫なのかい?」

お父さまが焦っておられるけど、大丈夫ですよ。

モーガンとアルフは、10歳位の時に「困った時には助け合う」って約束してる仲だから。




――――――――――――――――――




クロードから……というか、伯爵家から急に呼ばれた。

取り急ぎ装蹄用の商売道具一式と数日分の着替えを持ってきて欲しいという。


行ってみると、やたらとでかい薬箱と数日分の着替えを持ったモーガンもいた。

「お前も呼ばれたのか」

「て事は、お前もか」

「ああ、商売道具忘れんなって言われた」

「オレもだ」


クロードのお祖父さんがオレ達に近づいてきた。

「このたびは、突然呼びつけて申し訳ない」

そして、なぜ呼ばれたかの説明を受けた。

「はぁ、なんすかそれ……」

「馬鹿の尻拭い役で申し訳ない」

国軍の重鎮が、19のオレに頭を下げてる……友達のお祖父ちゃんだけど、それダメなやつだろ。


「モーガン君も、急にすまない。一度に4人も治療したせいで薬の備蓄がかたよってしまった」

「うちに巡幸の随行医師から急使がきて落馬による外傷系の薬がいると言われてる時に呼ばれたんで……いりそうな物全部持ってきてます」

そしてなぜかニヤリと笑い……

「母はオレを『適任者』だって言ってました」

「適任……?」

「完全男所帯に女の薬剤師送り込まなくて済むからでしょうね、きっと。いくら国王陛下のお側近くだっつっても、野郎だらけの所によそからお預かりしてるお嬢さんを泊まりこみで送り込めないでしょ」

「ああなるほど」

それだけじゃない気もするけどね。

「ちょうどいいタイミングで呼びに来てくれたんで、母は随行医師の急使に『ご依頼の品は騎乗できるSクラス薬剤師に急ぎ持たせますと医師様にお伝えください』って言って帰しちゃったんですよね……女が来ると思って変な期待されてる気しかしないんですけど」

そりゃ期待されてるよ……今のところモーガン以外に男の薬剤師いないから。




――――――――――――――――――




シャルル様とクロードは伯爵家の馬で、アルフとオレは森番の馬で国王陛下の御座所まで行く事になった。

到着後すぐ謁見だって言われたから、全員正装で馬に乗ってる。

シャルル様とクロードは、伯爵家の正装。カフスやボタンの色が違うだけで、あとは完全なお揃い。男のオレが見てもほれぼれしそうな位カッコいい。

アルフは、王城厩舎員の正装。辞めて帰ってきてるのに着ていいのか訊くと、有期契約満了者には着用が認められてるそうだ。

オレは、薬剤師の正装……なんだが、オレだけ陛下のお側仕えの人に咎め立てられそうな気がしてならない。

女性薬剤師の正装は、長めのスカートにジャケットと襟つき白ブラウスにクラス別に色分けされたスカーフ。

これに準じる形で男はジャケット・襟つき白シャツ・クラス別に色分けされたアスコットタイといういでたちになったんだけど……男性薬剤師の正装を見た事ある人は、これに決まってから約3年間で()()()()()()()()()()()()()()()()()()から不安なんだよなあ。

「大丈夫だよ、もしも咎められたらお祖父さまがちゃんと説明してくださるから」

シャルル様は余裕だな……そりゃそうだ、この方はクロードのお兄さんになってからオレ達を友達だと言ってくださってるけど、王位継承順位をお持ちの伯爵家ご令息だもんな。



本当に正真正銘緊急事態だったようで、御座所到着直後休憩する間もなく国王陛下の御前に連れていかれた。

随行してる副宰相に名前を呼ばれる事になるから直々に訊きに来られた……んだけども。

「クロード、どの名前で呼ばれようか?」

シャルル様がクロードに訊いてる

……どの名前って、なんの事だ?

「やっぱりこの場では……家名出しとかないとまずいでしょ」

「僕はともかくクロードはまずいよね」

何の事かよくわからないまま、シャルル様は副宰相に何か頼んでいた。



そうこうしているうちに、国王陛下がおでましになって。

「ハマー伯爵家令息シャルル・ハマー伯爵夫人令息クロード・前王城厩舎員アルフレッド・ホイットニーならびにSクラス薬剤師モーガン・テイラー」

シャルル様とクロードの()()がよく似た名前で呼ばれてる事に気づいた。

そして周囲にいた高官の目つきが変わった事にも。

肩書きってのは大事だな、うん。




――――――――――――――――――




副宰相に、呼ばれる名前のリクエストをして正解だった。

伯爵家からの息子2人なのに「シャルル・ランディス」と「クロード・レイサム」では少々……いや、かなりおかしいからな。

それでも、アルフとモーガンを胡散臭げに見る高官もいるんだな。

……と思ってると。

「僭越ながら陛下、このたびの巡幸中お野菜はきちんと召し上がっておられますか?」

モーガンが陛下からの発言許可なく話しだした!いいのか?……いいんだろうな、Sクラス薬剤師だもんな。

「王妃殿下の目が届いていないからと肉ばかり召し上がっておられたりなさってませんよね?」

副宰相の肩が思いっきり揺れだした。

「栄養がかたよると、こういった長期の行軍中に病を得て倒れる事がございます。お食事内容次第では薬剤師権限によりお野菜のかわりの栄養補給食品をさしあげる事も可能ですが……えげつない味、いえ途方もなく美味とは程遠い味でございますので、あまりおすすめはできませんがいかがいたしましょう?」

モーガンの()()()()()()の野菜代用ジュースの事か。

確かにあれはすごい味がする……伯爵家(うち)では野菜を残すとお母さまの指示でテイラー家謹製のあれが出てくるから知ってる。

あ、お祖父さまも思い当たったのか絶望的な目をして口に手を当ててる。うちにいらしてる時にうっかり野菜を残してしまって何度か味わったから知ってるんだよね、あの味。

「……いや、それには及ばぬ」

「さようでございますか。携帯に便利なよう粉末化に成功いたしましたので、お野菜が不足気味になった折に備えて侍医殿にお渡ししておきますね」

……副宰相の揺れが全身にまわってる。

「副宰相殿は就寝前のお酒の量を減らす努力をなさらなければ、身を崩しますよ?寝酒は過ぎると無意味で催眠剤の代用にはなりえません」

副宰相が驚いた顔でモーガンを見た……多めの寝酒は事実なのか。

「そちらの方々も、戦闘を伴わないとはいえ行軍中の深酒は命取りになりかねません。野生動物に襲われた際体に酒が残っていると、命に関わります」

高官達に動揺が広がった。

「体に酒が残った状態で怪我をすると、出血量が多くなって止血がしにくくなります。医師館や薬剤師館が身近にない環境で止血しきれないと……あ、これ以上はやめておきます。失礼いたしました」

モーガン、言いたいだけ言ったな……というか、そこでとめられるのが一番怖いって。

「……薬剤師殿の言うた事、皆肝に銘じておけ」

陛下、そのお言葉の()にはご自身も含まれているのでございましょうね?




――――――――――――――――――




随行医師が薬剤師館に向けた急使は、手ぶらで戻ってきた上薬剤師館長からSクラス薬剤師を差し向けると言われたと言った。

だが、薬剤師はまだ来ていない。

ガリーニ将軍は娘婿にあたるハマー伯爵家に臨時の騎馬儀仗兵役2人を借り受けに行ったが、なぜか若い男を4人連れてきた。

揃いの貴族正装が2人と王城厩舎員の正装が1人と……謎の衣装のが1人。

水色のアスコットタイを青が基調のピンブローチで留めてある……青のピンブローチ?

確かSクラス薬剤師の徽章が青のピンブローチ状のものだった。

もしや……彼が()()男性薬剤師なのか?と思い肩書と名を訊くとそうだった。


謁見が終わったら退去……と思っていたら。

彼は陛下に向けて勝手にしゃべりだした。

Sクラス薬剤師と特級医師にのみ許されている権限の1つに「国王ならびに王族へ発言の許可を得る事なく発言しても罰せられない」というものがある。問診の時にいちいち許可をとっていられない場合があるから、だそうだ。

罰せられる事はない、とはいえ。

この巡幸が始まって以来、陛下が肉しか召し上がっておられないのがなぜばれた?

私の寝酒の量が尋常じゃないのも、随行の高官達の深酒まで、なぜ。



あ……そんなおそろしげな事を言いかけてやめる人に()()()なんて……私の人生で2度めだ……。




――――――――――――――――――




「モーガン君、なかなかいい攻撃だったな」

私は、アルフレッド君とモーガン君を連れて騎馬儀仗兵宿舎へ向かっていた。

「……にしてもなぜ陛下が肉しか召し上がっていない事がわかった?」

「情報源は秘匿しますけど、過去何度かのそういうお話が漏れ伝わったとご理解ください」

情報源……だいたいどの辺りからどのルートで漏れていったかは、わかる気はするが。

「副宰相の寝酒は?」

「名前をお教えした時に髪からほんの少しですが酒のにおいがしたのでもしかしたら、と」

「酒くさくはなかったが?」

「我が家は酒のにおいに敏感なんですよ……どっちの業種も二日酔いではできない仕事してますから」

森番小屋兼薬剤師館の息子だもんなモーガン君。

「……高官達の深酒は?」

「あ、あれは……あてずっぽうです。当たっちゃったみたいですけど。野郎ばっか集まった非日常だと羽目を外しがちなのはいくつになっても同じでしょう?」

確かにな……。



怪我人の療養室になっている宿舎の一室にモーガン君を連れて行った後、すぐ隣の騎馬繋留所へアルフレッド君を連れて行った。

繋留所では……この状況を生み出した張本人が作業していた。

「何をしている!」

「何って、仕事っすよ。装蹄師は自分しかいないんっすから」

こいつ……事の重大さをわかっていないな。

「その手を止めて下がれ」

「駄目っすよ、ちゃんと世話しないと」

私の隣にいたアルフレッド君が、私に「馬の様子を見てきます」と耳打ちして動き出した。

「馬の世話なら彼がやる。おまえは下がって謹慎していろ」

「嫌っすね。騎馬部隊長のご命令ならきけますが!」

我慢の限界を超えた……その時。

「ペドロ・トーレス!随行団の最高責任者になんて口のききかたを!拘束されていないだけましだと思え!」

背後から騎馬部隊長の鋭い声がとんできた。

振り向くと、怒りにふるえた騎馬部隊長と何かを抱えている随行医師と、袖まくりしたシャツ姿のモーガン君がいた。

「トーレス、私の命令ならきくと言ったな?……なら命じる。即刻その手を止めて下がれ。補充要員が到着次第、お前は解任の上で王都に送還する」

騎馬部隊長が言い渡し、このトーレスとやらが青ざめながら手を引いた。

「さてテイラー薬剤師、よろしく」

「わかりました……アルフ!右前ガッツリ痛めちゃってるサンドラちゃんってどの子かわかる?」

「頭と尻尾に赤いリボン結んである黄緑の手綱の子だよ。彼女が一番重症」

「じゃあ、やるか」

随行医師から布状の物を受け取ったモーガン君、噛み癖・蹴り癖の印のついている馬に近づいた。

「……大丈夫、なんですか?」

「彼の家は森番小屋だから、馬には慣れている。まあ見ていなさい」




――――――――――――――――――




サンドラちゃん、いきなり知らねえやつが来ちゃってごめんよ。

オレさ、レイモンドさんに頼まれて来たんだ……ほらこれ。レイモンドさんの服。信用した?

サンドラちゃんが大好きだっていうちっちゃいリンゴも預かって来てるよ。おあがり。

レイモンドさんは、サンドラちゃんが落っことしちゃった事怒ってないよ。

元気になったらまた乗せてくれって言ってたよ。

だからさ、サンドラちゃんも……またレイモンドさん落っことしちゃわないようにさ、痛い所全部治そ?ね?



私と随行医が見守る中。

薬剤師殿がサンドラ号の右前足を抱えた隙に、厩舎員殿が蹄鉄を一気に外した。


小石がいくつか転がり出てきた。


「あれは……痛かっただろうな。人間でいうところの『靴の中に石』なんだろう?」

「私はトーレスがサンドラ号の蹄鉄を外しているところは見た事がない」

「じゃああの子は石の入った靴を履きっぱなしだったのか、かわいそうに」

等々話していると。

「あーやっぱり相当腫れてる。腫れがひくやつ塗ってあげるからね」

薬剤師殿が鞄から膏薬を取り出してサンドラ号の右前足にすりこんだ。


他の馬の足も、息のあった厩舎員殿と薬剤師殿の2人でサクサクと診ていった。

「獣医師の外科治療が必要な子はいませんでしたが、サンドラちゃんとフェリックス・ジュニア君とクレアちゃんは歩かせないほうがいいでしょう。特にサンドラちゃんは歩行移動なんかしたら右前足が駄目になって騎馬生命が絶たれる可能性が高いです。馬運車での移動を強くおすすめします」

一通り診てくれた薬剤師殿が言った。

が、馬運車の用意などない。

「うちのを使いますか?」

厩舎員殿が言う。

「馬具店なんで、馬運車も修理時の代車用として持ってます。今連絡すれば出発に間に合いますが……」


即座にお願いした。



食堂の片隅に移動して休息する事になって。

「馬用の薬まで持ってきていただいていたんですか……」

謝意を述べると。

「あ。これ、森番小屋(うち)の馬小屋に常備されてるやつです。もしかしたらいるかもと思って鞄に突っ込んで来ました」

アッサリと。

「え、じゃあおうちでお父上がお困りでしょう?」

「いえ、なくなればいくらでも母が作るんで大丈夫です」

「えっ?」

「母、薬剤師なんで」

森番小屋のお子さんで、薬剤師のお子さんで……テイラーさん。

私の記憶に引っかかる1組のご夫婦。

「ご両親のお名前、もしかしたらアンソニーさんとマリリンさん?」

「そうですが……なぜご存じで」

「……20年近く前の警備兵時代に、誤ってお父上を拘束した事が」

風貌だけで乳児連れの男性を拘束した黒歴史。

「あ、その件に関してはお気になさらないでください。あれは父の顔が子連れにそぐわない()()だから致し方ないです。うちではもう笑い話になってますし」

薬剤師殿、謙遜にしてはとんでもない発言ですよ……?

ガリーニ将軍が笑いだした。そういえばお嬢さまのお友達でしたね、テイラー夫人は。

「君が最初に話せるようになった言葉は『とーちゃん』だったな。本人達は仕方がないと諦めているのに、周囲が躍起になって『この人誰?』と訊いたら『とーちゃん!』と答えるように教えこんでいたっけ。私も何度か手伝った」

「……という事は、お父上ごとあなたを拘束したんですか私は」

頭を抱える……黒歴史の記憶ふたたび。

「ですからお気になさらないでくださいと。あんなのが赤ん坊抱いてたら誰でも疑いますって」

……ですから謙遜にしてはとんでもない発言ですよ?



私の黒歴史はともかく。

馬が3頭使えないとわかった。

臨時で来ていただいた伯爵家ご子息を含めて16人の乗り手に、馬は13頭。

「あのー。伯爵家のサジタリウスとジャクソンと番小屋(うち)のリブラが代わりを務められると思いますよ」

なんですと!

「公式の場に出せる馬を持っといたほうがいいって事で、伯爵家の訓練にうちのも1頭参加させていただいたんです」

なんでまた。

「オレが薬剤師やるって言い出したからだと両親は言ってましたね」

ほぉ……。

「サジタリウスにはシャルルが、ジャクソンにはクロードが乗ればいいな。慣れているし。リブラにはクレア号に乗る予定だった者が乗る事になるようだが、大丈夫かい?」

将軍が不安げに。

「一度オレと一緒に乗り手の方がリブラに会いに行っていただければ大丈夫ですよ……サンダーボルトじゃそうはいかないけど」

「サンダーボルト?」

「一緒に来たあと1頭で、さっきアルフが乗って馬運車の手配しに行ったあの子です。スタミナとスピードはピカイチなんですけど、落ち着いて他の子と足並みを揃えるっていうのが苦手で、知らない人は乗せたがりません。アルフは番小屋の人じゃないけど知ってる兄ちゃんだから乗せるんです」

……賢い馬じゃないか。




――――――――――――――――――




噂になっていた男性薬剤師とこんな出先で遭遇するとは思ってもみなかった。

Sクラス薬剤師の息子で、幼い頃から英才教育されていた……というわけではないようだ。

むしろ幼少時は野生児で、森の中をかけずりまわって生傷が絶えなかったとか、親に無断で馬に乗ろうとして落ちたとか、川で魚を手づかみで捕って焼いてオヤツにしていたとか……はほんの一部らしい。

どんなワルガキだったんだ……。


真面目な薬剤師は、もちろんありがたいんだが……こういう破天荒な薬剤師も悪くはないな。





今まで名前だけしか出てきていなかった

馬具屋のアルフレッド君が登場です。


19歳の若者4人、役に立ちそうですね。







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