3. 進捗状況はいかがですか
第3話となります。
両国共同でかけた『(一応国際的な)国境の橋』が壊れたというのに、当事国たるもう一方の国は壊れた事に無関心……?
それとも、何らかの意図あって…………??
それとも……単に情報収集能力がなくて知らないだけ???
なお今回は男性の下半身を思い起こさせる表現がございます。
はっきりと言及はしておりませんが……まあそういう事です。
エレナを保護して2週間、いまだ何の情報も入らない。
この子はいったいどこから来たんだろうね?
わからないならわからないで、私は仕事の手伝いをさせてみる事にした。
とは言っても、まだ7歳位の子供だからたいした手伝いはさせられないけど。
「マリリン……おばちゃん、これ、で、いい?」
散剤の薬包を折らせたり、薬袋を作らせたり。
モーガンにやらせると片っ端からグッチャグチャにしちまって無駄の山になってたのが、エレナにやってもらうとそれはもうきれいな仕上がりで。
「エレナ、あんた器用だねえ。モーガンおまえやり方教えてもらいな」
「えーー、やだよー。オレあそぶー!クロードとあそんできていいー?」
わが息子ながら、誰に似たのか根気ないねえ……。
「……いいけど、遠くへ行くんじゃないよ!それから谷には絶対行くんじゃないよ!」
「ぜっったい、いかねーよ!とーちゃんが言ってた、落ちたら生きて帰ってこれないぞって」
アンソニーのヤツ息子を脅したのかい……ま、こんなワンパク坊主にはそれ位きつく言っておかなきゃ効きめないだろうね。
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「ねえモーガン、エレナおねえちゃんしゃべるようになった?」
クロードが、遊びに来たモーガン君に訊いてる。
「ちょっとだけなー。かあちゃんのてつだいしてる時はめちゃくちゃしゃべる」
……マリリンったらエレナちゃんに薬剤師の仕事の内の資格いらない部分をやらせてるのね。
「おばちゃんのおてつだいって、むつかしいんじゃないの?」
マリリン、国内に40人位しかいないと言われてるSクラスの国家認定薬剤師だからねえ。
「かんたんじゃねえよ。だからオレいっつもあそんでくるーって言ってる」
資格いらない部分だから難易度低いはずだけど……逃げてきてるのねモーガン君。
ま、普通は4歳じゃ無理よね。マリリンはスパルタだから。
「でさー。とーちゃんとこのにいちゃん達がな、とーちゃんがかあちゃんにみてもらえって言ってんのにやだよーって逃げる時あるんだぜ!おっかしいのー!ドロボーいっぱいぶんなぐるにいちゃんなのにさ、うちのかあちゃん1人がこわいんだぜ!」
……んー、モーガン君それちょっと違うと思うわ。
男の人は女の人に気やすく見せたくない場所が……ああそれは君が大人になったらわかるわ。
「エレナおねえちゃん、おばちゃんとおんなじお仕事するようになるのかな?」
「エレナのとーちゃんかあちゃんがずっと来なかったらやるんじゃねーかなぁ?」
「おねえちゃん帰っちゃうの?」
「わかんねーや。エレナがうちにいるのは、さがしてる人が来るまでだってかあちゃん言ってた。ぜんぜん来ねえんだけどなー」
「おねえちゃんの事誰もさがしてないのかな」
「すてごかな?」
何でそんな単語を知ってるのよモーガン君!
「すてごってなに?」
クロード……訊いちゃうのね。
「この子もういらねえ、っつってどっかにおいてくるやつ」
……どこで訊いてきたのよ。
「えーと、だれだっけ。『コノエタイチョ』っておじちゃんがさ、すてごかもしれないってとーちゃんに言ったのきいてた。で、すてごってなーに?ってきいたんだ!」
胸張って答えなさんな、モーガン君……ってか近衛隊長殿、4歳児に何を教えてるんですか。
棄児の可能性もある、とは父も言ってはいたけど……。
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アリアドネの友達マリリンさんの家で保護されているあの女の子は、どこから来たのか?
棄児か、もしくは棄児でないならもう1つ可能性がある。
それは「国境の向こう側」の子供かもしれないという事。
ここからは私の仮説だが……
何らかの理由で、壊れる前の橋を渡ってサン・トリスタン王国側にやってきた。
子供1人なので、難なく渡りきれた。
だがその後橋が壊れて戻れなくなったと。
これなら誰も探しに来ない理由に説明がつく、渡れる橋がないから探しに来られないのだと。
もしもそうなら、親はさぞや心配している事だろうな。
私でも孫のクロードがいなくなれば血相変えて探すだろう……きっと周囲から「職権濫用」と言われかねない勢いで探すに違いない。
そして渡れぬ谷の向こうに思いをはせて、渡れるようになる日を待ちわび……あ。
ご領主と早く橋をかける方策を相談すれば、あの子……エレナちゃんが早く親のもとへ帰る事が出来るようになるんではないのか?
早速明日にでも面会の申し入れをしておこう。
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「橋を早々にかけ直す、とな?」
サン・トリスタン王国軍ガリーニ将軍が突然居城にやってきて、要望を出してきたのだが……何ゆえ将軍がこんな所にいるのか。
確かこの人、私の知る限りにおいて軍司令部の重鎮ではなかったか?
「はい。橋が壊れてから2週間、物流的には何ら支障はないのでしょうが、やはり今まであった物がないのは不便でありましょう」
あんなやわな造りでも、ないよりはあったほうがよかったという事か。
「しかし、先方の協力がないと作業が進まないのだが」
ロープを結びつけた矢を対岸に射かける作業がある以上、こちら側だけでは不可能なのだ。
「その点は……そうですね、実は出来ないわけではないのです」
なんだと?
「例の谷ですが、橋をかけるための作業員は作業中のみ崖の縁をうろついていても不法侵入に問わないという取り決めがあったようで、その記載がある文書を我が家の法務担当の執事が探し出して参りました」
「ほう……いやしかし、先方の作業員がいないことには」
「それもなんとかなります。軍の機動部隊がその役を担えるようでして」
「よくわからないのだが……どうやって?」
「登攀隊が、ルブラン側の崖を上がれるとの事です。その際ロープの端を持っていけば、後続の者はそのロープを使って上がったり荷揚げしたり出来るとか」
……機動部隊登攀隊優秀!
「斥候や奇襲のため仮の橋をかける事があると機動部隊の部隊長も申しております。試してみませんか?」
「そうだな……」
相談の結果、機動部隊に橋をかけてもらう事になった。
「人件費は軍の『訓練』という事にいたしますので不要です。資材費は、とりあえず私が個人で出しておきます」
ガリーニ将軍は国内有数の資産家でもあるので、簡単にポンと出資出来てしまうのだろう……国家間事業の費用なのに、まるで「来客があるからお菓子買っておきます」みたいに。
「それから、橋の強度ですが……以前の物よりしっかりした造りにしたほうがいいのではないかと機動部隊長が申しております」
「それは何ゆえ?」
「彼が言うには『安っぽい物を作ってすぐ壊れてまた新しく作る位なら、長く使えるいいものを作ったほうが結果的に安上がり』だそうで」
一理ある。
「では、そのあたりはよしなに頼む」
「承知いたしました」
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壊れた橋のもとに、軍の人達がやってきた……と思ったら、我々森番の案内で一部の人が谷底へ降り、更にその内の一部の人がまるでサルかリスのようにルブラン側の崖をさっさと登っていった。
「あの人達……登りきったらモモンガになってヒラヒラ降りてきたりしませんよね?」
若い森番がバカな事を思わず洩らした。
「アハハ大丈夫ですよ。ちゃんと人間の姿で降りてきますから」
機動部隊の登攀隊長さんが笑って答えてくれたものの。
登りきった彼らは、こまごまとした作業を終えるとすぐに戻ってきた……上に端を固定させたロープを持って 崖 を 走 り 降 り て !
森番組に入ったばかりの若いヤツなど動けないほど驚いてる。
「…………………………あの、あらかじめ降りてくる方法……いえ、どっち向いて降りてくるとか言っておいていただきたかったです……」
崖を走り降りてくるひとなんぞ、今まで見た事ないからなあ……。
伯爵「国境の橋が壊れた旨をルブラン帝国に知らせたい。かけかえ作業の労力は軍の訓練ということなのでもはや先方に期待はせぬが、せめて費用は半額補ってもらいたい。いつまでも将軍にお願いするわけにもいかん」
家臣「では、早速手紙を届けさせまsy……あ」
伯「どうした?」
家「手紙を届けようにも、使者が渡るべき唯一の橋が壊れております!」
伯「ああ、そうであった。橋はあれ1本しかなかったな(ご先祖様よ!何ゆえどこかにもう1本かけておかなかったのですかっ!)」
作者「使者さんにも崖登りしてもらいます?」
伯&家「やめてあげて!」
はい、やめておきます。