御降誕
ルブラン帝国でもお祝いが。
人口増加につながるといいですねー。
(どこの世界でも、だいたいロイヤルベビーにあやかってベビーブームになりがちです)
隣国の伯爵家当主の結婚式はなんとも素晴らしいものであったと、祝辞をことづけた使者から報告があった。
新郎新婦それぞれが再婚なのでそれぞれ子供を連れていたが、伯爵令嬢2人は新婦とお揃いデザインの色違いドレス・伯爵令息と新婦の息子は新郎と同じ礼服をまとっていたとか
新婦は父親と息子に伴われて新郎に託された、とか
新たに4兄妹となった伯爵家の子供達のダンスがほほえましかった、ご令嬢2人が特にかわいかった、とか
叶う事なら列席したかった話ばかり伝わってくる。
そもそも皇嗣が隣国の結婚式に出るなど、許されようもないのだが。
タリアもいよいよ動けなくなってきたから、子供はもうそろそろ生まれてきてくれる頃合いなのだろう。
男女どちらでもいい、無事に生まれてきてくれれば。
そしてタリアも無事であってくれれば何もいうことはない。
……何よりも、全力でヴァルジの子供と縁組みさせられないようにしなければならないし!
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皇嗣妃殿下が産気づかれた、との事で、私の母が産婆として呼ばれました。
母方の祖母は、内緒中の内緒なのですが皇嗣妃殿下と同郷かつ同業でして……母はその影響を受けて若い頃から産婆をやっています。
レミントン先生の診察以降、ずっと母が見守らせていただいておりましたが。
いよいよでございます。
皇嗣殿下はお部屋の外でエサの足りないクマのようにウロウロなさっておいでで、皇帝陛下もつられてウロウロなさり……妃殿下のお祖父様エンリコ・サルヴァトーレ様までもがウロウロと!
ご不敬を承知で申し上げとうございますが……邪魔でございます!
皇嗣殿下はわかります。ご自身の奥方様のご出産で生まれるのがご自身のお子様ですからクマになられるのは当然でございます。
皇帝陛下も……まあわからなくもないです。内緒ごとではありますが命の恩人でもある息子嫁のご出産ですから。ですが、とりあえず一旦はご公務にお戻りくださいませ!
サルヴァトーレ様に至っては……こんな所でウロウロなさらずお帰りくださいませ!
サルヴァトーレ様が一番邪魔でございます!
お帰りにならないのであるのなら、せめて我々侍女の通り道を開けてくださいませ!!
仕事の邪魔でございます!!!
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妃殿下は、さすが母とご同業と感心せざるを得ません。
陣痛の最中にも、ご自身で痛みの間隔を把握なさっておられるとか……ご結婚前にどれだけ優秀なお仕事をなさってこられたのでしょう?
産婆、なすべき仕事が少のうございます……よくあるお産では「まだ息んじゃダメ!」とか「痛くても深呼吸して!」とか注意を与えてばかりなのですが、今回それ一度も申し上げておりません……。
「アンバー、もうそろそろな気がします」
妃殿下からお声がかかりました……あ、アンバーとは私の名です。
それから数分後、お子様は難なくお生まれになりました。
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産婆殿とその娘御の侍女殿から「扉の向こうは女の戦場でございます!」と言われ、わしらは部屋の前の廊下でウロウロしておったが。
「皆様、邪魔でございます!」
侍女殿に言われてしまい、用意された椅子に男3人腰かけておったが。
赤ん坊の泣き声が聞こえた!
「お元気でかわいいお嬢さまでございます」
産婆殿の報告に、わしら男3人は部屋へ入ろうとしたが……侍女殿に阻止された。
「赤ちゃんのお母さまの身支度が整うまでの間にお入りいただける殿方は、赤ちゃんのお父さまのみでございます!」
あ、そうか。そうだな。当然だ。
特にわし、完全に他人。
「ゴードン、ちょっと」
わしはポケットから小さな布袋を取り出してゴードンの坊主に渡した。
「これ、何です?」
「タリアの母親のネックレスだと。中には持って入れんから預かっておいて欲しいと言われてここで持っとった。返しといてくれんか」
「わかりました」
「じゃ、わしは帰る」
「え、タリアに会って行かれないんですか?」
「わしは後日でいい。もっと元気な姿で会いたいからしっかり養生せよと伝えといてくれ……ああ魚に泳法を教える(※)ようなもんか、タリアに養生しろと言うのは」
わしはそのまま皇宮を出た。
さて。
どうやればアーネストに孫娘の存在を知らせてやれるのかを考えねばな。
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皇宮の屋上に掲げられる旗の増減によって、帝国民は皇都に誰がいるかを知る。
今は皇帝旗・皇嗣旗・皇嗣妃旗・継嗣旗が掲揚されていて、それぞれが私・ゴードン・タリア・エリノアを指している。
以前は皇宮から出ただけで降納されていたが、近年皇都にいる間は掲揚されたままでよいという事になっている。
これは私の妻・故皇后ヒルダがかなり重い病の身体で皇宮外を散策するたびに降納されており、その都度「崩御か!」と大騒ぎになったためだ。
「皇女旗を、皇嗣旗と皇嗣妃旗の間に掲げよ」
私は侍従に命じた。
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皇女殿下がお生まれになりました。
とりあえずシャロンの超姉さん女房は回避できました。
ですが。
アドルフ様が皇女殿下の配偶者にミハイルをねじ込もうと画策しているのがみえみえなんですけれど。
まだ生まれたばかりの皇女殿下のお名前も発表されていない内から盛り上がるのは、いささかどころかとてつもなく気が早すぎでは……。
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「おつかれさまでした」
ゴードンがにこにこといたわってくれて。
「はいこれ。エンリコさんから預かってきたよ」
母さんのネックレスが入った袋を渡されて。
「女の子だから、名前……お母さんの名前をもらいたいな」
とかゴードンは言うけど。
母さんは一応リンド準男爵四男家の18番めの七女だった人。
一族以外の人には名前も覚えきれないほどの大人数一族の一員だけど、押しかけ女房を画策した変わり者娘って事で、もしかしたら知ってる人がいるかもしれない。
そこから私の素性がばれてしまうかもしれない。
だけどそれは今言う事じゃないわね。
「あら駄目よ、母さんの名前は。父さんの許可がいるわ、あの人母さん大好き人間だし」
「えー、そうなの?」
「母さんの母さんから『あなたさえ嫌でなければお嫁にもらって』って言われた時に『嫌どころか、俄然OKです』って言っちゃったって聞かされてるもの……山ほどいる母さんの親戚達ほぼ全員から」
「そうか、じゃあ駄目だね……ではどうしようか」
まったく考えてなかったわね?……私もだけど。
「ねえ、娘の名前が宝石なのは許容範囲内?」
「宝石……?」
「そう。このネックレスにはまってる石の名前なら……母さん所縁の名前になると思ったんだけど」
「ガーネット……!いいね、そうしよう」
娘の名は、ガーネットに決定しました。
無事に生まれてようございました!
(しかもめっちゃ超安産)
エンリコさん、便宜上のお祖父さんの立場なのに何故産室の前でウロウロしとんかと思ったら……タリアさん直々の依頼ですか。
分娩中はアクセサリーを身に付けられないので(※危険だからです)母のネックレスを預かってもらってたって事なら、そりゃ事実上他人だけど産室前から離れませんわな、邪魔者扱いされても。
(※)魚に泳法を教える≒釈迦に説法。




