華燭之典
第21話です。
サブタイトルどおりの展開です!
皆さまがお好きなウェディングソングをご用意ください!!
……とはいうものの。
途中、若干不穏な場面もございますが。
(さらにシレッとなにげに恐ろしい事も書いてありますが)
僕がクロード君と一緒にいろいろ勉強し始めてからしばらくして。
父上が僕ら兄妹を呼んだ。
父上は僕らが揃ったのを確認すると……
「シャルル、マーサ、ハンナ。いきなり言い出して悪いが、私は結婚しようと思う」
爆弾発言が飛び出した!
だけど。
僕ら子供にもいろいろ都合があるんですよ父上。
「えー、父上。アリアドネさん以外の女性が相手だったら、父上とて容赦はしませんよ?」
子供を代表して僕が言う……マーサとハンナも首を縦に振っている。
そこは一番大事なところで、絶対に譲れない。
「安心してくれ、結婚相手はそのアリアドネさんだ」
マーサとハンナは手を取り合って大喜びし始めた。
「クロードお兄さまって呼んでも怒られなくなるわ!」
「アリアドネさんじゃなくてお母さまって呼べるのよ!」
妹達の喜びの視点に、父上が呆然としている。
「……なんだ、男やもめに春が来た祝いはないのか」
父上、何か難しめな事をおっしゃってるけど……クロード君が3週間違いの弟になるのは、正直言って嬉しかったりする。
妹しかいなかったのが、年齢の差ほとんどないけど弟だよ弟!
一緒に住めるんだよ!
勉強や練習や訓練が終わった後帰るのを見送らなくてよくなるんだよ!
ふと我にかえってみれば、父上は結婚できるからにこにこしてるし、妹達は大好きなアリアドネさんがお嫁に来てくれる事で喜んでるし、僕は仲良くなった友達が弟になるから喜んでいるし。
わが家的にはいいことづくめだ!
あ、そうだ。これだけはお願いしておかないと。
「父上、クロード君の部屋は僕の隣に作ってくださるんですよね?」
「もちろんだ」
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「私、お嫁に行ってもいいかしら?」
母さんが急に訊いてきた。けど。
だいたい想像はついてたよ。
シャルル様と僕が勉強したり、マーサ様とハンナ様が「淑女教育」とかいうのしてる間、母さんはオルトランさんや侍女頭のニーナさんからいろいろ教わってるって事は知ってたからね。
でも。
意地悪じゃないんだけども。
シャルル様と約束した返事をしよう。
「伯爵様のお嫁さんじゃないんなら、僕怒るよ?」
「それは大丈夫。伯爵様がお嫁にもらってくださるの」
シャルル様は今頃、相手が母さんじゃないならお父上を許さないと言っておられるはず。
あとできっと、伯爵様と母さんは僕達の返事を報告しあって笑うんだろうな。
話をして笑いあえる夫婦っていいよな。
モーガンのお父さん・お母さんもアルフレッドのお父さん・お母さんも、話をしては笑いあってていいなってずっと思ってたもん……時々お父さんがお母さんに怒られたりしてるけど。
何かあったらすぐ舌打ちしてにらみ据える父親なんか、いらないよ。
存在がもうないんだから、いい加減僕の記憶からも消えてほしい。
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伯爵様とアリアドネ様がご結婚なさる事で、アリアドネ様の執事夫妻も伯爵家へ来るんだけれども。
「まさか新人として来ていただくわけにはいきませんよね……」
聞けば執事殿はアリアドネ様のお父上であるガリーニ将軍の養育係の息子で、夫人は将軍夫人の養育係の娘だとか。
勤続30年以上、というかアリアドネ様がお生まれの頃には既に執事・メイドを数年以上やっていたとの事。
って事は私オルトランや侍女頭ニーナが生まれる前から……。
キャリアが違いすぎる。
伯爵様とご相談の結果、フォード夫妻には「伯爵夫人専属」として来ていただく事になった。
それ以外に方法ないって……。
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「クロード様には、いろいろ新たに覚えていただかねばならない事がいくつかございます」
私とサイラスは、誰からも依頼されていない事をクロード様にお伝えすることにしました。
「クロード様は、お名前こそそのままですがランディス王家につながるハマー伯爵家のご子息になられます。よって、まずは使用人を使う事を覚えていただきます」
「今までは使用人といえば私かサイラスしかおりませんでしたしとても家庭的な生活でしたが、今後はかなり違ってまいります」
「まかり間違っても、もう私達をおじちゃんおばちゃんと呼んではなりません。サイラスとレベッカもしくはフォードとフォード夫人です」
「お邸の皆さんもさんづけしないで呼び捨てにしていただきます」
クロード様はすぐさんづけして呼んでしまわれるので、意識していただかねば。
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伯爵家から、超絶大至急で6着の服を仕上げよとご注文が入ったのですが……ご注文の内容が内容なだけに、驚きすぎて手が止まりそうです(駄目です、止めてる場合ではありません)。
伯爵様の盛礼装。
ご令息様の盛礼装。
ご令嬢お2人のお揃いドレス(ライトブルーとライトグリーン)。
ここまではわかります。
これに近いものは今までもありました(超絶大至急ではありませんでしたが)。
ですが。
ご令嬢達と同一デザインでのウェディングドレスと、男子用盛礼装もう1着(共に詳細な採寸表つき)って……これって、これって
伯爵様ご結婚、って事ですよね!
男のお子様がいらっしゃる方とご結婚、で間違いないですよね!
……あ、ええ、守秘義務は守りますよ、もちろん、守ります……けどね。
いろいろご苦労なさった伯爵様がやっとご結婚かと思うと感無量じゃないですか!
……あ、ブリーデン男爵から「残しておけ」と言われていたオードリー前伯爵夫人の採寸表はいかがいたしましょう?
いくら何でも捨てる事はいたしかねますので、男爵家にお渡しする事で「処分」とさせていただいてよろしゅうございますよね?
当店にございます当代の伯爵夫人の採寸表は、おひとり分しか収納スペースございませんもの。
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【婚礼前後の伯爵邸警備計画書】
≪正門≫
婚礼前日・当日・翌日の3日間は、招待状を持たない者の通行は一切禁じる。
難癖つけて押し通ろうとする者は、徹底して排除する。
通用門へ回ろうと企てる者も排除する。
≪通用門≫
婚礼前日・当日・翌日の3日間、業者専用通路とするのでお客様の通行はご遠慮いただき、正門へお回りいただく。
業者も事前発行の通行証のない者は身元確認にご協力いただく。
ご協力いただけない場合はご退去いただく。
不審な者は絶対に入構させぬ事。
≪邸内≫
各所に適宜人員を配備。侍女・侍従に扮した警備人員も配置する。
≪対人警護≫
基本的に伯爵家御一同にはそれぞれ2名ずつ計12名の護衛、新婦伯母様に1名(女性)の護衛をつける。
新婦父上様の護衛は不要(ご本人様お申し入れによる)。
異常発生時、警備主任ならびに各現場の責任者は現場での速やかな対処とともに直ちにオルトラン・フォード両執事へ伝達する事。
なお、フォード執事は問題発生の当事者をその場で斬り捨てないよう留意の事。
「いくら何でも斬り捨てませんよその場では」
「やめてくださいよ、刃傷沙汰は!」
警備主任が悲鳴をあげた。
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明日はいよいよ婚礼、という夕刻。
「今、お話よろしいですか」
侍女を1人連れたシャルル様が部屋を訪ねて来られました。
「はい、なんでございましょう?」
「お願いがあって参りました」
「……ではこちらへ」
奥へ誘います……侍女が扉をうすく開いた状態まで閉じました。
「もう既にお気づきとは思いますが、マーサとハンナはあなたを『お母さまと呼べる!』と大喜びしています。明日、きっと妹達はお式の直後に父上ほったらかしてでもあなたに『お母さま』と言って抱きつきに行くと思います。申し訳ありませんがお覚悟のほどよろしくお願いいたします」
……それは、一応予想はしていますけれど。
「さすがに僕はやりませんので、ご安心ください……それでですね。僕はずっと父上を『父上』と呼んできたのですけれど……父上の妻は『母上』と呼ばなくちゃならないのはわかっているんですけど……どうしてもあなたをその名で呼べそうにないんです」
……でしょうね、後妻ですもの。
しかも爵位を持たない実力主義な軍人の娘、その上元既婚者ですかr……
「あ、嫌だからじゃないんです。理由があるんです!」
……え?
僕達兄妹は、母親に甘えた事がありません。
早くに死んだから、だけじゃないんです。
生きてる時、甘えようと何度か試みた事はあるんです、僕とマーサは。
ですが……あの人はその都度、僕を脇へ押しやりマーサを払いのけました。
甘えようと寄ってくる2歳の娘を払いのけるような女が、僕にとっての「母上」なんです。
だからあなたをあの人と同じ名で呼びたくないんです。
ただそれだけなんです。
どうお呼びしようか、2晩ほど考えました。
結果、妹達と同じ「お母さま」で落ち着いたんですが、今後外で「父上」と「お母さま」だと……聞いた人がなんか変だと思わないかなとか、そう思った人が何か言ってきたりしないかなとかいろいろ考えちゃって。
だから、今のうちに先に言いに来ました。
……なんて律儀なんでしょう、シャルルさm
「あ。今日までは仕方ないですけど、明日からは『シャルル』と呼んでくださいね。マーサとハンナにもです。僕達はクロードの兄妹になるんですから。息子の兄妹を様つけて呼ぶのは変です」
あ、はい。
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養子縁組の手続きとは、こんなに面倒なのか!
「いいえ。養父が伯爵様なので手続きが他の方よりいくつか多いだけでございます」
「まだましな方でございますよ?王位継承権のある有爵家の養嗣子縁組など、もうあと3つ4つほど……」
「お子様側が孤児などですと更にもっと……」
「わかった!わかったから!」
私は、2人の優秀な執事に挟まれていた。
……このサイラス・フォードという執事、オルトランの更に上をいく優秀さではないか。
打てば響く、とはよく言うが……この者の場合打つ前から既に響いている。
ガリーニ将軍の執事もつとめていたわけだから、当然と言えば当然かもしれないが。
「旦那様、手が止まっておいでです。今日のうちに全て署名してしまっておかなければ、アリアドネ様が奥様になられるのと同じタイミングでクロード様を息子に出来る機会を失いますよ」
再びペンをとり、片っ端から署名していった。
「もっと早く思い立っていてくだされば、こんなに切羽つまらなくて済んだものを」
オルトラン、痛いところを突くんじゃない。
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何度か伯爵邸へは来ているが、礼拝堂の控室に来たのは始めてで。
しかも今着ているのは軍礼装。
まがりなりにも新婦の父なので……という事はハマー伯が義理の息子になるのか。あのクズとは大違いだ。
そういやクロードはどこだ……ハマー伯令息と一緒に花婿付添人役をやるんだったな。
ならば礼拝堂内にいるはず……連れてくるか。
義姉上に言われるまで気づかなかったからな……。
「お邪魔しますよ……」
新郎控室を訪ねると、伯爵とご令息シャルル様とクロードがいた。
「伯爵、あなたの新しいほうのご子息を私の手伝いにお貸し願いたいのですが」
「将軍、クロードは僕と一緒に花婿付添人役を……」
シャルル様がおっしゃるけれど。
「私はアリアドネの父親ではございますが、この7〜8年の間は私よりも支えになっていたのは彼ですから」
シャルル様にここまでこっそり耳打ちすると、聡いシャルル様は一気に何もかも理解なさったようだ。
「わかりました。ですが将軍、将軍のお手伝いが済んだらすぐに弟を返してくださいね」
「承知いたしております」
「約束ですよ、お祖父さま」
「……え」
「そうお呼びしてはまずかったですか?妹達もその気でおります……いえ、そう呼ぶ気まんまんですが」
いや、まずくない。まずいどころか……大歓迎だ!
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新婦の伯母、のままでもよかったんだけどねえ……なんか知らないけど書類上私は「新婦の養母」になってるらしいわ。
新婦の結婚前のフルネームを変えるためです、ってレベッカの旦那が言ってたけど……よくわかんないわ。
レベッカの旦那が言う事で間違いだった事ってないから、悪いことにならないのは確かね。
そして伯爵邸の礼拝堂。
婚礼……なんだけど、今私の目の前には新郎である伯爵様と花婿付添人役のご令息のみ。
新婦の父ネルソンはうまく言ってもう1人の花婿付添人役クロードを連れ出せたみたいね。
……そろそろ始まるわ。
あら、伯爵様……クロードがそばにいないままお式が始まるとは思っておいででなかったのね。
花嫁を引き渡すのにふさわしいのは父親だけではないのですよ伯爵様。
私の美しい姪は、父親と息子に伴われて夫となる男性に引き渡されました。
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無事に婚姻証明書に署名もなされ、ハマー伯爵エドモンド・ランディス様とアリアドネ・ガリーニ・エンディコット様のご婚礼が完了いたしました。
正式にハマー伯爵夫人アリアドネ・ランディス様の誕生でございます。
シャルル様マーサ様ハンナ様ク……あ、年齢の順でお呼びするようオルトランさんから言われたんでした。
ハマー伯爵家のお子様はシャルル様クロード様マーサ様ハンナ様の4兄妹になられたのですから、と。
ダンスのお時間でも、4兄妹様は注目の的でございました。
お父さまとお揃いの盛礼装のお兄さまと、お母さまと色違いお揃いドレスのお嬢さまが踊るのですから、目立たないわけがございません。
特にお嬢さまがたの可憐な舞いが大好評でございました!
……と安堵しておりましたのに。
正門から不穏な気配が漂ってまいりまして、オルトランさんとフォードさんがそちらへ向かわれました。
奥さまのお父上のガリーニ将軍までご一緒なさいました……あの、将軍はお客さまでは……。
フォードさん、なぜか短いほうきを1本持って行きましたけど何だったんでしょう、ほうき……。
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招かれざる客、というか招いた覚えのない客が正門で中に入れろと騒いでおります……自分は次期伯爵の祖父だ、と言って。
何度も帰れと言ったのですが、へばりついた門扉から剥がれません。
そういう報告を受けたので、私はオルトラン氏と一緒に正門へ向かおうとしました。
「自分は次期伯爵の祖父だと名乗っているという事は、ブリーデン男爵か。前妻の身内を婚礼に呼ぶわけがないとわかりそうなものだが……」
私のすぐ横でネルソン様の声がしました。
さようでございます。自分が招待されると思っていた阿呆なのでしょうか?
「警備主任が言うには……その、奥さまのお父上がいらっしゃる前で申し上げるのも何なんですが……『伯爵は平民の……女にだまされている、財産目当ての……』ああもう、なんであのジジイは婚礼にふさわしくない言葉を吐くんだよまったく!」
オルトラン氏、執事らしからぬ暴言になってしまっていますね……。
お察し申し上げます……おそらく「平民のあばずれ」や「財産目当ての詐欺師」とわめいていると報告されたのでしょう。
「よし、それでは自身の立場をご理解いただくとするか」
ネルソン様がニヤリと笑って私達についてこられました。
私は近くにいた清掃担当の侍従に扮した警備係からほうきを1本借りて持っていく事にしました。
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「あれか?」
オルトランさんが門扉を指して私に確認しました。
聞くに耐えない暴言を吐き続けているのは、ブリーデン男爵。
「はい……ひどいもんですよ、あれがずっとです」
「おい、オルトラン!私を中に入れろ!」
オルトランさんを視認したらしく、いたく偉そうな口ぶりで命令してきますが……もう伯爵夫人の父ではないので、命令は無効ですよ。
「とりあえず門扉をガチャガチャいわすのはやめていただきましょうか。壊れますので。それから招待状をお持ちでない方はお入りいただけないと門衛が申し上げたはずです。何を往生際の悪い事を仰せですか」
……めちゃくちゃ丁寧なのにめちゃくちゃ怖い言い方してますオルトランさん。
私の背後では……風切り音が。
見ると、フォードさんがほうきを剣の如く素振りしています……。
「サイラス、ちょっと鈍ってるんじゃないのか?」
「こちらで誰かとお手合わせできればすぐに取り戻せますよネルソン様」
口調はほのぼのしているのに……風切り音のせいもあるのか、怖いです……。
そして侵入未遂のブリーデン男爵は……
「現ハマー伯爵は平民のあばずれにだまされている!財産目当ての女詐欺師が夫人などあり得ない!」
叫びやがりました、花嫁の父の前で。
私の背後のお2人から殺気が漂いました……すみません怖いです。
「ほう。貴殿は爵位をお持ちだとお見受けしますが……私をどこかで間近で見た事はおありですかな?」
ガリーニ将軍が名乗らずにおっしゃいました……語気が冷ややかで怖いです。
「…………!」
目の前の人が将軍だという事にやっと気づいたようです。
そして、軍礼装姿で門扉より内側にいるという状況から判断でもしたのか……さっきまでの勢いはどこへやら。
「私の娘が、何だって?」
男爵、顔面蒼白になっています……私もそうなりそうなほど怖いです。
ぶぉんっ。
私の耳元で風が起きました……檻のサルのように門扉をつかんでいた男爵の頭の上を、ほうきが何にも当たらず通りすぎていったのです。それも、途中まで顔をめがけて飛び、寸前で浮き上がったように見えました。
フォードさん、もしかして、ほうき、すごい勢いで投げました?
……「その場で斬り捨てないよう」の意味がわかった気がしました。
男爵は、目を開けて門扉をつかんだまま気絶してしまっていましたので、そのまま門扉から剥がし乗ってきた馬車に放り込んでお帰りいただく事になりました。
が。
「投げ技か、上達したなあ」
「そりゃ46年練習してますから」
「まだ根に持ってるのか」
「当然でございます。いずれ勝負を」
「アリアドネとレベッカの目のない所でな」
「キツく止められておりますからね……」
何なのこの将軍とフォードさんの会話……まるで幼い頃からのお友達の酒場でのやりとりではないですか……。
それはともかく、不穏なものは去りました。
伯爵家の兄妹、ちょくちょく暴走するけどいい子達ですね!
親の再婚相手やその連れ子をいびるとかいじめるとか、そういう発想皆無ですよ!
それどころか!
堂々と母と呼べる!とか兄弟だー!って喜んじゃうとか、どんだけですか!
更に継母の父親を「お祖父さま」ですよ!
継子いじめ系の物語の悪役サブキャラに、煎じた爪の垢を配布しまくりたいレベルの伯爵家ご一同様(新郎側)でした。




