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アルヴィノーラの森で  作者: ありかわつぐみ
第1章 発端の年
2/80

2. 国境の深い深い深い谷

2話めです。


橋は何ゆえ壊れたのか……?


(※本文中に「想像するとかなりのエグさ」となる表現がございます。映像化するとかなりのスプラッター状態です。そういうのが苦手な方はスクロールをお控えいただきますようお願い申し上げます。)




申し上げましたよ?



(なお、濁点の見落としを見つけていただきました。ありがとうございます)




我がサン・トリスタン王国と隣国ルブラン帝国の国境にあるアルヴィノーラの森で、身元不明の少女が見つかったという報告が上がってきたわけだが……

まずは国境の谷に両国共同でかけた橋が壊れたというのも問題だ。たいした強度のない橋ではあるが、一応国際問題ともなろう。

誰が壊したのか?

我が国の者が壊したのであれば全額我が国負担でかけ直さねばならん。

先方が壊したのであればよいがな……たいした強度のない橋ではあるが。

(大事な事だから2度申しておこう)


「……様、伯爵様……ハマー伯爵エドモンド様!」

「んっ、何だ」

「お考え中申し訳ございませんが、森番よりもう1つ報告がございまして」

「何だ」

「谷底に遺体らしきものが落ちているそうです」

「その者が橋を壊したのか」

「おそらくそうではないかと」

「して、その者は何者なのかわかっておるのか?」

「いえ、それは谷底へ降りてみないとわからぬそうでございます……なにぶんにもかなりの深さがございますゆえ。ですが、当領内には行方不明者はおらぬ模様で」

「行方不明者はおらず、身元のわからぬ女児がおる……とな。女児は谷底の者に覚えはないのか」

「それが、発見されるまでの事を一切合切覚えておらぬとの事でございます」

「なんと!」

「みずからの名すら記憶にとどめておらぬそうでございます」

「これは親を探すのも難渋しそうだな……」



――――――――――――――――――



ご領主さまの命により、谷底の人を回収する事になった。

サン・トリスタン王国側は谷の崖を削って階段を整備しているので、完全手つかずのルブラン帝国側より先に谷底へ到達するはず……というか、今もう到着してしまっている。

「ねえお(かしら)…」

「お、をつけるな」

「エレナちゃんっていくつ位なんすかねえ?モーガン坊よりは上っぽいけど……」

「ああ、それなんだがな。あの日、妹が着てる服を持ってきてくれたヤツがいただろう?あいつの母ちゃんが服ではお役に立てなかったからーって、お友達になってあげてくださいって7歳の娘さんとウチに来たんだ。その時2人並んだら背丈が一緒だったから、その子と同じ『7歳』って事にした」

「そんな安直な……」

そう。名前はなんとか引き出すことにアリアドネさんとマリリンが成功したけど、生年月日は無理だった。

ただ、クロード君やモーガンがまとわりついてもうまく扱っているところをみると「弟がいる」んだろうなという印象はある。それも複数の。

「モーガン坊もお隣のクロード君も、お姉ちゃんができた感じですかね?」

「保護児になついてしまうのは別れる時が大変な場合があるんだがなあ……」

親が見つかって帰る時に「行っちゃやだーー」と大騒ぎになりかねないんだ。

「そんなもんっすかね」

そうだよ。


谷底に落ちていたのは4人で、当然生存者はいなかった。

そして全員がやたら重そうな揃いの鎧兜に身を包んでいた。こんな鎧兜はサン・トリスタン領内で見た事がない。

「こんなクッソ重い装備着た4人で一気に渡ろうとしたんなら、そりゃ橋も落ちるよなぁ」

「同時に橋の上に居ていいのは大人のみなら2人まで。乳幼児連れは大人1人に2人までって決まりを知らなかったんでしょうかね」

「あんな装備なら1人でも渡っちゃダメなヤツですよ」

部下達、口々に結構ひどい事を言う。

だが、事実でもある。

サン・トリスタン王国ハマー伯爵領とルブラン帝国領との()()()()人的交流用として「とりあえず適当に」かけられた橋だというまことしやかな噂もあるほどで、大人2人がすれ違うのは至難の業レベルで幅が狭い。

普通に歩いただけでも激しく揺れる位あまり頑丈には作られていないのは近隣住民なら皆知っていて、「実際は予算ケチったからじゃね?」と思ってる人もいる……かもしれない。

「とにかく、引き上げるぞ」

「はい!……ってか重てぇな!お(かしら)、鎧剥がして運んじゃダメっすか」

「誰の鎧がどれかがわかるようにやるなら外してかまわん」

「了解っす」

まずは兜を外すために率先して手をかけて中を覗くと……ダメだ重くてもこのまま運ばねば。

「おい、前言撤回。装備は外すな」

「えーっ、どうしてですかー」

「中な、もう人の形をとどめてない」

言葉は選んだ。ものすごく選んだ。これ以上選びようがないぞ。

普通、兜の中を覗いたら顔面とご対面する()()なんだが……まあ、その、なんだ。血の臭い&頭部の()()とご対面したわけだ。

「うえっ」

「考えてもみろ、あの高さからその装備ごと落ちたんだぞ。生身で落ちてたら……」

あの高さ=橋の上から見る谷底にいる人は小麦の粒サイズだったりする。

「あー、肉片を拾い集めるとこから始めなきゃなんなかったんですね……」

「このクソ頑丈な鎧兜様々って事っすか……」

「お(かしら)、さっき中見てましたけど大丈夫っすか?その……今晩寝れそうっすか」

心配してくれるのか、ありがとよ……でもな。

「カミさんに薬出してもらうから心配すんな」

国家認定薬剤師だからな。



――――――――――――――――――



伯爵様から直々に命を受け、近衛隊長たる私は現場の国境へ赴いた。

そこへ、谷底から4体の鎧兜が引き上げられてきた。

兜に手をかけた私を見て、森番達があわてだした。

「えー、中は見ない方がいいです」

こわもての森番頭が忠告してくれる。

「身元の確認はしなくていいのか?」

どういう事だ?

「確認は、無理です。不可能です……あの、中の人、完全につぶれてますから」

あ、そういうレベルで。

よく見ると、鎧のすき間から血がにじみ出ている。

……そんなのを引き上げて来てくれたのか。

頭が下がる。

「ええと……このままなんとかして墓に入れちまった方がよさげです……よね」

若い森番が言う。

「そのあたりは……そうだな、墓守と相談した方がよさそうだ」

亡骸に関しては、墓守が一番詳しいだろうし。

「頭、ひとつ訊ねるが……」

「何でしょう?」

「この()達、男女どっちだろうか……」

「わかりかねます。確認は、無理でしょうから」

私はなんとまぬけな事を訊いたのだろう?「中でつぶれているから見るな」と言われたのに。

「報告書のために必要なのでしたら『鎧兜に包まれた性別不明の4体』でいかがでしょう」

それ、使わせてもらおう……。



――――――――――――――――――



エレナちゃんの親を探すのに、私は自分の父親のつてを頼ろうと思って手紙を送った。

ネルソン・ガリーニ。確かまだ現役で軍人やってたはず……なんだけど、今、私とクロードと一緒にマリリンの家にいる。

「……軍のほうで何かわかったら、森番頭のアンソニー君に知らせればいいんだな?」

マリリンに確認してる。

「職権濫用になるならやめといてくださっても……」

恐縮しちゃってるわ、マリリン。

「たかだか女の子1人の親の事だろう、濫用にはならんよアハハハ」

高笑いする父……この人確か私が結婚のため家を出る頃は「将軍」とか呼ばれてた覚えがあるんだけど?

「本来なら公的な施設で預からなければならんのに、近隣にそういうものがないばかりに家庭で預かってもらうんだから、少々職権を()()してもバチはあたるまい」

……そういうもん!?






領主ハマー伯爵エドモンド・ランディス「橋の修理費はどこに請求すればよいのかな?」

家臣「壊した(やから)でございましょうか」

エドモンド「死んでおるぞ?」

家臣「問題はそこでございます。冥界へ取り立てに参るわけにもいきませんし」

作者「取り立てに行くん片道切符やん、帰って来られへんw」←作者やろが、おまえが言うなw

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