7. 策士達(ご招待・中篇)
第19話です。
お嬢さまがたに密着され、ご招待いただいたのに伯爵とまともに面会できていないアリアドネ。
一方もう1人の招待客はいろいろ満喫している……してますかね?
アリアドネさんとクロード君をご招待してから3日。
シャルルはクロード君と連日馬に乗っている。
厩舎長によれば、クロード君の乗馬の腕前は11歳にしてはかなりのものだそうだ。
「森番の仕事馬での騎乗に慣れておられるのか、当家の馬を難なく乗りこなされておいでです」
「何がどう違うのだ?」
「森番の馬は、主に警邏巡回目的で訓練します。当家の馬は、人も乗せますが主に馬車用です。走らせる目的や場所が違うのです」
なるほど。
「シャルル様はクロード様に負けじと思っておいでのようですが、追いつくには今しばらく猶予が必要かと……」
「それほど技術力に差があるのか。蛙の孫も蛙だという事だな」
「何でございますかその何か間違えたような格言的なものは」
「以前、偶然ガリーニ将軍からきいていた事があって……孫も乗馬が得意らしい、蛙の子は蛙・蛙の孫も蛙と」
「親子3代素質ありという事ですね」
「将軍は若い頃から騎乗の名手だと言われていたらしいからな……」
若い頃、今は無き隣国との国境紛争中に一騎馬兵として数々の殊勲をあげたとかいう噂話がまことしやかに流れている位だ。
「クロード様には、乗馬に関してお教えする事がなくなってしまいましたので、明日からは馬車の扱い方をお教えする事になりました」
厩舎長が言い出した。
「やる事がないからとはいえ、それは……」
「クロード様からのお申し出でございますので、快諾いたしました。なんでも母上や大伯母君のお仕事に役立つかも知れないし、お隣のお手伝いも出来るようになるからだそうで」
「お隣……森番の番小屋の?」
「僭越ながら旦那様、アリアドネ様宅のお隣は番小屋ですがSクラス薬剤師常駐薬剤師館でもあるとうかがっております。お隣のお手伝いとはおそらく薬剤師館のほうかと」
執事オルトランが口をはさんできた。
「森番小屋が薬剤師館……」
「ご存じなかったのですか?」
「あの辺りに薬剤師館がある事は知っていたが……森番小屋と同一建物だとは思っていなかった」
「それはそうでしょうね、住居兼薬剤師館は国内に数多ありますが、他業種と同一なのはおそらくここだけでしょう」
そうなのか。
まあそれはそうと。
「事故のないよう、皆が教えられる事は全て教えてさしあげるように」
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「アリアドネさん、それでね……」
アリアドネ様とマーサ様・ハンナ様とのお茶会、6日めになりました。
お嬢さまがたのお話は尽きません。
本当に、本っっ当に尽きません。
こんなにお話をなさるお嬢さまがただったのでしょうか?
わたくしども侍女では力不足だったのでしょうか?
役不足だなどと分不相応な事は申しません。
やはり母上様のかわりにきちんとお育て申し上げねばという気負いが仇となっていたのでございましょうか。
お嬢さまがたがこんなにイキイキとなさっておられるのなら、アリアドネ様にはご迷惑かもしれませんがこのまま……などと思っておりましたが。
先ほどシャルル様からこっそりとお話がございました。
「父上がアリアドネさんと全くお話出来ていないのをどう解決したらいいかな」
との事でした。
シャルル様は朝早くから夕方遅くまでクロード様と一緒に馬・馬・馬……いらっしゃる場所は厩舎か馬場か、クロード様が馬車の扱い方を練習なさり始めてからは庭園の回廊位ですのによく見ておいでです。
ですが。
わたくしどもでは代案がございません。
本当にもう、いかがいたしましょうか……。
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母さんって、伯爵様からの招待状にあった「ご相談したい事」のお話……できてないよなあ。
ずっとマーサ様ハンナ様とプチお茶会だもんな。
「ねえ、父上と君の母上を何とかして1日……いや半日でもお話出来る環境に出来ないだろうか?」
寝る前に、シャルル様からの相談。
お部屋に泊めていただいてるからこそできた事だと思う。
「……実はそれ、僕も思ってた事なんです。どう持ちかけようかと思ってました」
「3~4日で飽きると思ってたんだ、妹達のプチ茶会。だけどもう明日で7日になるだろ?いくらなんでももうダメだと思うんだ。だけど……ごめん。妹達大人の女の人に甘えた事がないんだ。身近にいる大人の女は侍女しかいなくて、侍女は甘やかしてくれない。そこへ来てくれた侍女じゃない大人の女の人にべったりになってしまっているんだと思う」
「ちゃんとした理由がないと、プチお茶会を取りやめてくださいって言えないですよね」
シャルル様もどうやって切り出したもんかと迷ってたんだ……。
しばらく寝る事をやめて2人で考えていた。
11歳が2人でも、足したって22歳になるわけじゃないから大人の考えは浮かばない……けど。
「あ、そうだ!」
僕は1つひらめいた。
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クロード君が何か思いついたらしく、寝台から抜け出て部屋のあかりをつけた。
「……オルトランが来ちゃうよ?」
「来てもらうためにつけるんです。うち位の家でも寝てるはずの時間に物音たてただけでサイラスおじty……執事のサイラスが飛んでくるから、あかりがついたりなんかしたらオルトランさん位の執事さんなら……」
策士だ、策士がいる……。
「坊ちゃまがた、どうかなさいましたか?」
いつの間にかオルトランが来ていて……クロード君がドアを開けて、一気にオルトランを部屋に引きずり込んでドアを閉めた。
そしてあかりを消すクロード君。
やっぱり策士だ……。
「……っなっ、にをなさいますっ」
焦るオルトランを初めて見た……いやそうじゃなくて。
「こんな方法でオルトランさんを呼んじゃってごめんなさい。他の大人の人にはまだ知られたくないんです」
あいている椅子にむりやりオルトランを座らせる……ここは策士にまかせよう。
「オルトランさん、うちに伯爵様からの招待状を届けてくれたでしょう?あの中に、母さんにあてた『同世代の子を持つ親として相談したい事がある』って書いてあったんです」
……父上、招待状にそんな事を。
「ですが、今……伯爵様と母って全然お話できてませんよね」
「さようでございますね、連日お嬢さまがたとお茶会ですから」
あ、いつものオルトランに戻った。
「何かいい案はありませんか?マーサ様ハンナ様も納得できて伯爵様と母がお話できる方法」
そう、それなんだ。
6日もお茶会やったんだからそろそろアリアドネさんを父上にゆずれ、なんて言えない。
言ったらハンナは絶対泣くにきまってる。
マーサも泣かないまでも……恨みがましい目を僕らに向けるだろう。
しばらく考えていたオルトラン、何か思いついたらしく立ち上がった。
「坊っちゃまがた、もう1人呼んで参りますのでしばしお待ちを」
音もなくスッと部屋から出ていった。
「もう1人って誰だろう?」
「……誰でしょう?」
程なくオルトランは御者のクーパーを連れて戻ってきた。
「お待たせいたしました。お話の続きをいたしましょう」
「ピクニックをいたしましょう」
唐突にオルトランが言い出した。
が、問題が。
「それ、何だ?」
知らない事はできないぞ。
「どこか野原か草原かそういうとこで、持っていった食べ物広げてみんなで食べるんだ。あと、遊ぶのもやるけど」
クロード君が言ったけど、あまりよくわからないな。
でも何か楽しそうではある。
「それをみんなでやるのか?」
「いいえ、お子さまがただけでやっていただきます。もちろん侍女はつけますのでご安心ください」
「それが伯爵様と母がお話できることになるんですか?」
クロード君が訊く。
「お子さまがたが出払ったら、必然的に大人がお留守番になりますので」
ああそうか、そういう事か……ってここにも策士がいた……。
「クーパーは何しに呼ばれたわけ?」
「それはですね……」
オルトランの説明が始まった。
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坊ちゃまのお部屋は、一度消灯したはず……が、今あかりが灯った。
何かあった?
ご用がおありならベルを鳴らされるはず……緊急事態?
「坊ちゃまがた、どうかなさいましたか?」
坊ちゃまのお部屋の外からそっと訊ねてみたら。
返答もなくドアが開いた瞬間に中へ引き込まれて。
あれよあれよという間に坊ちゃまのお部屋の椅子に座らされて。
「こんな方法でオルトランさんを呼んじゃってごめんなさい」
すぐあかりを消したクロード様に謝られて。
「他の大人の人にはまだ知られたくないんです」
……私だけを呼ぶためにあかりを利用するとか、どんな策士ですかクロード様。
そして暗い部屋の中でなされたのは、ご相談。
それは私も気がかりであった、招待主である旦那様が主賓であるアリアドネ様とまともに面会できていない件。
旦那様は初めてアリアドネ様とお会いした時から、お招きするまでの間は少々浮き足立ってはおられたけれど……お招きしてからもう6日、目に見えて落胆しておられて。
……わかりやすい方だな、もう!
可能な限り手はお貸ししますから!
お嬢さまがたをアリアドネ様から平和的に離す手段……何かあるか……あ。
もしかしたら、うまくいくかも。
「坊っちゃまがた、もう1人呼んで参りますのでしばしお待ちを」
私は厩舎へ急いだ。
「厩舎長、こんな時間にすまない。ひとつ確認させてくれ」
寝ていた厩舎長を起こした……悪い、いずれ何か埋め合わせはする。
「クロード様の御者としての腕前はどんなものだ?」
「……なぜそれを今こんな時間に確認する必要が?」
……まあそうだろうな、普通に考えれば。
「ひいては旦那様のためになる事なんだが」
「なんでそうなるのかはよくわからんが……教官役のクーパーが一番詳しい。そっちで訊いてくれ」
「まだ3日しかお教えしてないけど、素質はありますよ」
クーパーを起こして訊いた。
「4人乗り馬車の御者はできそう?」
「横に指導者が乗ってりゃできなくもねえっすよ。あと、走路がちゃんとしてりゃ問題ない」
「ならクーパー、一緒に来てくれ」
有無を言わせず連れ出した。
「ピクニックをいたしましょう」
坊ちゃまがたに提案をした。
「クロード様の馬車教習の成果を見せたい、という建前で行います。クロード様の技術の関係で、使える馬車は4人乗りです。馬車の室内にお嬢さまがたと侍女2名。御者台にはクロード様と教官のクーパー。シャルル様には定員過剰なので馬でついてきていただきます。もしもお嬢さまがたがお兄さまも乗ればいいのにとおっしゃったら……」
「護衛騎士みたいな役割やってみたかったって言えばいいんだろ?」
よくおわかりで。
「妹達がアリアドネさんをお誘いしないよう、ピクニックを提案する時にうまく言いくるめておくよ」
「……なんとおっしゃるおつもりですか」
「アリアドネさんは今後いつでもクロード君の馬車に乗れるけど、妹達はクロード君の滞在中にしか乗れないと」
「それ、僕が言ったほうがいいですね。母はいつでも乗せられますがマーサ様ハンナ様は今しかお乗せできませんからって」
「ああそうだな。妹達を喜ばせてのせないと、企てが意味なくなる」
……坊ちゃまがた、策士だ……。
暴走する伯爵家の皆さま。
一番落ち着いているのはシャルルだったりしますね……
エドモンド様、あなた(一応)大人ですーーー!
なお。
伯爵家御一同様がいろいろ話をひっぱってくださったので
「前半・後半」の予定でしたが「前篇・中篇・後篇」になりました……。




