6. 伯爵邸。(ご招待・前篇)
第18話です。
お礼のご招待がいよいよ実行にうつります。
9歳7歳発案のグダグダなプランはどうなります事やら。
ご招待をお受けした私とクロード、お迎えの馬車に乗り込んだわけだけど。
「おそらくお嬢様の育児相談だと思うから、わかんなけりゃいつでも連絡しておくれよ?……っても生んだわけじゃないけどさ」
出がけにマリリンから言われた。
……伯爵様からの招待状に「同世代の子を持つ親としてご相談したい事が」と書かれていたのだけマリリンに伝えたの。
マリリンは一応エレナを育てたも同然ですものね。
私、男の子しか育ててないから……もしかしたらわからない事があるかもしれないもの。
場所は知っていたけど……近くまで来た事はなかったから知らなかったわ。
……お邸、というより「お城」ですよねこれ。
城門をくぐって、そこからまだ奥に向かって馬車が進んで。
そしてやっと車寄せに到着。
御者をしてくれていたオルトランさんがドアを開けてくれたので降りようとしたら。
「母さんちょっと待って。僕が先に降りるから」
クロードがこっそりと。
「……どうして?」
「サイラスおじちゃんがね、僕くらいの年齢だと先に降りて女性が降りるのを手助けするもんなんだって」
「あら。私は親よ?」
「こんな立派な馬車が来ちゃったから、お母様が相手でも絶対やらなきゃダメですよって耳打ちされたよ、さっき。だから」
……出発前にサイラスがクロードに何か言っていたのはそういう事だったのね。
「じゃ、よろしくね」
息子のエスコートでなるべく上品に馬車を降りると。
ざわついていた車寄せに居並んだ人達が一斉に静かになった。
何これどういう事?
「……申し訳ございませんアリアドネ様、お恥ずかしながら使用人の中には『お転婆娘の成れの果て』のような女性が来ると思っていた者がおりまして」
オルトランさんが本当に申し訳なさそうに。
「ご子息もきっとわんぱく坊主に違いないと思い込んでいたふしがございます。それが……」
「もうわかりました、それ以上はこちらで含みおきます。どうやらそれを見越した当家の執事が息子に入れ知恵したようですわ」
ねたばらしはしておきましょう、だってあれは私が教えたわけではないもの。
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女傑みたいな人とガキ大将みたいな子が来るのかと思ってた。
だって、よ?
軍人のお嬢さんとその息子だというし、旦那様と坊ちゃまとお嬢さまがたを乗せた高速移動可能な馬車に騎馬隊員みたく追いついて止めたらしいし。
だけど。
車寄せに停まった馬車から降りて来られたのは、女傑とガキ大将ではなかった。
オルトランさんが扉を開けたら坊ちゃまと同じ位の男の子がサッと降りてきて、お母さまが降りるのをお手伝い。
騎馬隊員ばりに馬をかっ飛ばす親子には見えなかった。
「さすがはガリーニ将軍のお嬢さまとお孫さまね。助けていただいた時とは雰囲気が全く違うもの」
隣にいた侍女がつぶやいていt……え、誰のお嬢さまですって?
ガリーニ将軍?
奥様が大富豪のお嬢さまで、ご自身も代々続く大富豪(なぜ軍務を続けておられるのかがわからないレベル)の、あのガリーニ将軍の……。
そんな家でお育ちなら……そりゃ馬もかっ飛ばせる上に馬車からも優雅に降りられるはずだわ。
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「ようこそ、シェルビー邸へ」
私は、子供達と一緒にアリアドネさんとクロード君を玄関口で待っていた。
子供達が戸惑った顔をしている……それはそうだろう、今まで子供達の前で自邸を正式名称のシェルビー邸と呼んだ事がない……というか、そう呼ぶ必要がなかったのだ。
よく考えてみれば、私の代になってから初めて客人を招いたのだなと。
「お招きありがとうございます」
いえ、礼にはおよびません。こちらの心情的身勝手でお招きしたのですから。
それよりも、早速発生している問題を何とかせねば。
「お部屋のご用意をさせていただいておりますが……部屋数が足りないわけではないのですが、シャルルがどうしてもクロード君を自室に泊めたいと申しておるのです……」
理由を訊くと……妹達2人がよく一緒の部屋で寝ているのがうらやましいのだそうだ。
自分は男だから妹達に混ざるわけにはいかないが、このたび客人として同世代の少年も招くのであるから、それに近いものをやってみたいと……ご迷惑でさえなければ。
ご迷惑なら、諦める。なのでお願いしてみてください。
今までわがままなど一度も言った事のないシャルルの希望を、大人の一存で却下するわけにもいかない。
「いや本当に、ご迷惑なら断っていただいてかまいまs……」
「いいですよ!」
クロード君、即答だった。ありがたい。
「失礼のないようにね」
アリアドネさんがおっしゃるが、それはこっちのセリフだ。
シャルルのみならず当家の子供達には同世代の「友人」はいないのだから、慣れていないのだ。
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やった!
言ってはみるもんだ!
クロード君を部屋に招べるぞ!
絶対僕より乗馬の腕は上のはず。だってあの時大人が乗る馬で走ってきたんだもんな!
いろいろコツとか訊きたいな。
「お客さまに失礼のないように。あと夜更かしのし過ぎは駄目だ」
父上から注意されちゃったけど。
歓迎の晩餐で僕達にもわかったんだけど、アリアドネさんは父上のところによくおいでになってるガリーニ将軍のお嬢さまだそうで。
クロード君のお父さんの事は……全然話してくれないんだけど、それは父上も同じかな。
父上は、僕達の母上の話を全然していない。
晩餐の席でするような話でもないかな、母上の事は。
僕にとっていい思い出のある人じゃないし、マーサはまだ小さかったし、ハンナにしてみれば母上など「知らない人」だ。
そんな人の話をされたって、アリアドネさんさんもクロード君も困るよな、うん。
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シャルル様のお部屋は、すごかった。
まず、広い。とにかく、広い。
お部屋だけで母さんが誰かに貸してる小さめの家なら丸ごと入っちゃう位、広い。
寝台も大きい。
僕とモーガンと、最近仲良くなった馬具屋のアルフレッドが3人で一緒に寝ころがってもまだ何人か入れる位大きい。
……僕、口あけて部屋じゅうを見てたかもしれない。
「僕のわがままきいてくれてありがとう」
シャルル様がお礼言ってくれたんだけど……僕そんなお礼言われるような事は……
「マーサとハンナ……妹達が君の母上を2人で独占する計画をたてているんだ、君も僕も父上もまったくの放置な計画をね」
……それって、まずくないですか。
「妹達の計画はともかく、僕は君と仲良くなりたいんだけど……いいかな?」
「え、あ、はい。よろしくお願いします」
……友達、とは違うかも知れないけど。
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「お嬢さま、うまくやってらっしゃるかしらねえ?」
奥様を送り出した後、レベッカがつぶやいた。
「お嬢さまじゃないだろう」
私は釘をさしておこう。
「だって仕方ないでしょう、私はもともとマリア様についてきたエンディコット家のメイドなんだから」
妻のレベッカは奥様がお生まれの前からお仕えしているからなあ。
「おまえは親じゃないんだし、奥様ももう大人なんだから」
「そりゃそうですけど……けど!」
「心配なのはわかるよ、私もクロード様がうまくやれるか心配だからね」
とっさにお教えしたエスコートは成功したのか、お戻り次第確認するとしましょう。
まがりなりにも私は、ネルソン・ガリーニ将軍の乳兄弟なのですから。
なんとか無事にコトが進んどるようです。
(伯爵家のお子さん方、若干暴走気味ですけど)
伯爵家ご当主、見事に今「蚊帳の外」!?
そういうわけにもいかないんですけどね。
(諸事情ありますので)
なお。
サブタイトルを少し変更いたしました。




