5. 奉祝……
第17話です。
ルブラン帝国でも何やら動きがあった模様……
今年はもう父と兄は来られないから、手持ちの薬と薬の材料は節約しなきゃならないっていうのに。
ここのところ私、微妙な体調不良が続いてるのよね。
薬を使うほどではないんだけど、万全かと問われれば万全とは言い難い感じ。
モヤモヤと気分が悪いというか、スッキリしない感がずっと続いてるというか。
ま、思い当たるふしはあるんだけど……確定は薬剤師の仕事じゃないから。
医師を頼むのにあたって最初に除外したのは、お義父さまに滋養強壮剤を飲ませ続けたあの侍医長とその一派。
あんな事しでかしたのが皇宮侍医長だとか正気じゃないわ。
あんなのに診察されたんじゃ、命がいくつあっても足りやしない。
……おじいさまのつてでも頼ろうかしら、実の祖父じゃないけど。
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珍しくシルベスターから呼び出されて何ごとかと思ったら。
医者の斡旋か。
町医者でもいいからとにかく「皇宮の侍医長」の息がかかってない医者を派遣して欲しいとか。
わし、医者の斡旋業者ではないぞ。
「タリアの希望なんですが」
「探してくる」
即答してしまったな、うん。
タリアは例の一件以降侍医長を全く信用していない。
ところが、ちょっとした風邪どころか結構な重病ですら自分でなんとか出来るはずの彼女が、今医者に看てもらわなければならない事態になっている。
信用ならない侍医長とその取り巻きを断るためには、皇嗣妃の祖父が差し向ける医者が必要って事か。
侍医長も、主君たる皇帝陛下の元家庭教師である皇嗣妃の祖父推薦の医者なら断るわけにいかない。
あの子も策士だな。
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侍医長はこの帝国内では最高権威といわれている医師のはずです。
皇宮に何ゆえ私のような場末の医師が呼ばれるのか、まるでわかりません。
話を持ちかけてきたサルヴァトーレさんいわく
「わしの孫娘のかかりつけ医だった、というていで頼む!」。
ちゃんと医療報酬いただけるんなら何でもかまいませんけれど……サルヴァトーレさんの孫?誰ですかそれ?
ってかサルヴァトーレさんの奥さんって誰ですか?いたんですかそんな人?
「わけありのわしの孫娘が皇宮にいるんだよ」
との事でしたが……わけあり、とは?
一切が謎に包まれたまま、サルヴァトーレさんと一緒に皇宮へ向かう事となりました。
サルヴァトーレさんのおかげでか、ほぼ誰何される事なく皇宮の奥深くまで来ました。
「おじいさま、お元気でいらっしゃいました?」
皇嗣妃殿下がサルヴァトーレさんをおじいさまと呼び……今、おじいさまって?
じゃあ、わけありの孫娘って……え?
……なんだか見覚えがあるような気もするんですが、気のせいなようにも思えます。
ええ、気のせいですよねきっと。
何年も前に突然いなくなった、行商のローウェルさんとこのお子さんの1人に雰囲気がよく似てるけど……ローウェルさんはサン・トリスタン王国の人です。皇宮にいるはずがありません。それに……
「あら。キャスパー先生がいらしてくださったんですね」
……え?
私の名は確かにキャスパーです。キャスパー・レミントン。
町のみんなは私を「レミントン先生」と呼んでくれます。
ですが私を「キャスパー先生」と呼ぶのは、私の祖父と父をご存じのサルヴァトーレさんと、あとはローウェルさん親子だけです(ローウェルさん……お父さんのアーネストさんと飲んでいて不覚にも深酒してしまった際にそう呼ばれ始めたわけです)。
なぜ名乗る前の私をキャスパー先生と呼ぶのですか……私をキャスパー先生と呼ぶ女性はいませんよ……いや、もしや……その……えっ?
混乱しきった私の脳裏にいろいろな情報が浮かんでは消え、そして結論にたどり着きました。
「……男装の麗人とか、想像の範囲外です」
どこで誰が聞いているかわかりませんので、この程度でご勘弁願います……。
ああ、もちろん超絶極秘事項ですよね……。
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レミントン先生の診察の結果、タリアは私との子を授かっている事がわかった。
ずっと言われてはいたんだ、ありとあらゆる方面から。
早く継嗣を。
いつまでも妹君に継嗣の役目を負わせてはいけない。
皇帝陛下に孫の顔を早く。
元家庭教師氏を早く曾祖父にしてやれ。
……最後のは、父上だが。
ヴァルジからの圧が一番すごかった。
男女とも子供が揃っているから、私の子が男女どちらでも縁組できるとふんでいるのだろうが……願い下げだ。
ヴァルジ家の子供達に罪はないが、あの帝国人民至上主義のアドルフを我が子の義父になどしたくない。
……生まれてくる前からこんな事を考えなくてはならないとは!
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皇嗣妃殿下ご懐妊、という事で……アドルフ様が浮かれまくっております。
皇女殿下がお生まれなら、婿候補にミハイルを!……は、まだわからなくもないですよ。7つ下の奥方、なんて結構どこにでもいらっしゃいますから。
ですけれど!
皇子殿下にシャロンを、は……いろいろと可哀想じゃございません?
シャロンはもう13ですよ?
今からお生まれの皇子殿下の妃にはいくら何でも……。
アドルフ様、よーくお考えになってくださいましね?
あなたご自身、13歳年上の女性を妻にできます?
できるんでしたら……致し方ないかもしれませんけれど。
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皇嗣妃殿下が無事ご懐妊なさってホッとしているのは、わたくし達お側におります侍女もでございます。
市街へ下れば噂話も耳にいたします。
「侍女に色気がねえから皇嗣殿下も食指が動かねえんじゃねえの?」
などという皇嗣殿下ご夫妻に失礼極まりない事を酔って吐き捨てる不届き者もおりました(物陰でぶん殴ってノシておきましたが)。
不肖、侍女パール……皇嗣殿下ご夫妻を悪く言う輩は絶っ対に許しませんから!
たとえそれが宰相閣下であっても同じ事でございます。
やっと、市街も奉祝ムードになってまいりました。
タリア妃殿下がいらっしゃってから初めての事でございます。
この良き雰囲気が長らえますように……。
祝、ご懐妊!
妃殿下はウマズメじゃねーのかという口さがない下世話な噂もあったとか。
しかしこれでとりあえずなんとか……なるのか?
そして。
過激派侍女だったのねパールちゃん!
(酔っぱらいを物陰でぶん殴るとか……)




