4. THE ご招待。
第16話となります。
時系列的に、前話の直後ですね……
「マーサ、ハンナ。もうそれくらいにしておきなさい。レイs……アリアドネさん達も我々も、いつまでもここにいるわけにいかないんだから」
私は娘達を諌めた。
崖崩れ事故の後しばらく現場にとどまっていたのだが、いい加減帰らなければならないだろう。
アリアドネさん達をお引き留めし続けるのもどうかと思うし。
「ではお父さま、このままアリアドネさん達をおうちまで送ってさしあげましょうよ」
ハンナが言う。名案だ。
「馬はどうする、置いていけないでしょう」
シャルルがたしなめた。
そうだ、それも2頭いるんだった。
私も名案だと思ったが、迷案だったようだ。
「お気づかいなく。私達は馬で森番の進捗報告担当と一緒に帰りますのでご安心ください」
「そうですか……あ、でも番小屋からご自宅までに何かあっt……」
「ご心配なく。番小屋と自宅は目と鼻の先ですので」
おおう……。
アリアドネさん達が馬で去った後。
「ねえお父さま。アリアドネさんとクロードさんをうちにお招きしましょ」
マーサが、彼らの後ろ姿を目で追いながら言った。
「お招き……と言っても招待状の宛先……お住まいをうかがっていないぞ?」
「あら、お父さま。先ほどアリアドネさんがご自分でおっしゃってたじゃありませんか」
クスクス笑うマーサ……ああそうか言っておられたなそういえば。
……森番の番小屋の、目と鼻の先だと。
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帰宅してすぐに。
「お兄さま、よろしいかしら?」
僕の部屋を妹達が訪ねてきた。
「……どうした?」
「先ほどハンナとも話したのですけれど、アリアドネさん達をお泊まりでお招きするようお父さまにおねがいしてみませんか」
「わたしたちがアリアドネさんとお話していてお兄さまおひまだったら、クロードさんとお馬のおけいこなさったら?」
妹達、天才か!……ただ父上と僕がアリアドネさんとのお話会の頭数に入っていないのは、9歳と7歳が考えたからだろうな、うん。
父上にいたっては完全に頭数に入っていないけど……父上は大人だからなんとかなさるでしょう。
僕は父上の部屋へ急いだ。
僕自身も言いたい事がいくつかあるし。
「父上、先ほどマーサから出たご招待の件についてご提案が」
父上が招待状を書き始める前に言わなければ!と思って、僕は父上の部屋へノックしたけど返事も待たず突入した。
「僕達子供の総意だと思ってください、父上。アリアドネさんとクロード君を、宿泊招待してください」
父上、キョトンとしておられる。
「今日マーサとハンナは、侍女以外の大人の女性と接したわけです。父上は、マーサを見ましたか?」
マーサはハンナに負けじとアリアドネさんの膝に手を置こうとして、何度かためらっていた。
最終的には膝に手を置き、お話に夢中となっていたけど。
「マーサは母上にまとわりついて……母上から強く振り払われた事があります。まだ2歳でしたしそれを見た僕もまだ4歳でしたので、確かかと言われればどうだったかよくわかりません。でもマーサは侍女にすらまとわりつかないでしょう?それが、先ほどのあれです」
ううむ、と考え込む父上。
そして。
「マーサとハンナが言うには、自分達2人がアリアドネさんとお話中、暇な僕はクロード君と騎乗訓練していればいいそうです」
マーサとハンナのプランを明かした僕は、父上と思わず顔を見合わせて苦笑いになった。
「女性達の間に私の入り込む隙間はなさそうだな」
「僕も仲間はずれですよ」
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母さんが仕事でサイラスおじちゃんと一緒に出てる時に、伯爵家からうちにものすごく立派な封筒が来た。
配達でじゃなく、立派な服のおじさんがニコニコ顔で持ってきた。
「伯爵家の筆頭執事でございます。アリアドネ様にお渡しください、と主より預かってまいりました」
伯爵様が母さんに何の用だろう?
わかんないや。
で、こういう時の。
「レベッカおばちゃーん!」。
母さんがいない時は、サイラスおじちゃんを。
サイラスおじちゃんもいない時はレベッカおばちゃんを。
困ったら呼ぶように言われてる。
「はいはい坊ちゃまどうしました?」
レベッカおばちゃん、ニコニコ出てきた。
「このおじさんが母さんに何か持ってきたんだけど、もらっていいの?」
立派な服のおじさんとその手に持った封筒を見たレベッカおばちゃん、急にキリッとなった。
「それは奥様に直接お渡しするようおおせつかっておられますか?わたくし共使用人がことづかってお預かりしてもよろしいものでしょうか?それとも使用人ではなく奥様の名代として坊ちゃまがお受け取りになってもかまわないものでしょうか?」
立派な服のおじさん、ニコニコが消えちゃったな……どうしたんだろう?
「……主からは、アリアドネ様にお渡しするようにとしか申しつかっておりませんが……」
「困りましたね、奥様はお留守ですので、直接お渡しになりたければ一旦お戻りいただくかお待ちいただくしかないのですが」
おじさんめちゃくちゃ顔色悪くなったんだけど、大丈夫かな?
急病だったら、マリリンおばちゃん呼んできたほうがいいかな?
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くぅー。
招待状をお届けするだけ、なはずだったんだが。
アリアドネさんに渡して、さっさと帰れるはずだったんだが。
なかなか用事がすませられないでいる……。
まず、第1の誤算。
アリアドネさんがお留守だった。
第2の誤算。
アリアドネさんのお宅は、メイドがいる家だった。
第3の誤算。
クロード少年がメイド女性を呼んだ。
そして最大の誤算。
そのメイド女性が超絶優秀だったため、伯爵様から「招待状を渡してこい」とだけ命じられていた私はどうする事もできなくなったのだ。
メイド女性は、直接渡したければ一度戻るかアリアドネさんが戻るのを待てと言う。
その通りだ。
確かにその通りなんだけども。
渡さないで戻るわけにいかないし、渡すまで待たせていただくのもご迷惑(というかお宅の中で待てるわけがない)。
どうしたものか……。
「おじさん、大丈夫ですか?お加減わるいんなら、お隣行きますか?」
クロード少年がのぞきこんでいた。
お隣……森番の番小屋だろう?
「ええとね、お隣は番小屋だけど『じょうちゅう薬剤師館』なんです」
番小屋が、常駐薬剤師館?Sクラス薬剤師が常駐してるとかいうアレ?
わけがわからず混乱した。
そしてそのまま何もできず立ち尽くしてしまった。
……私はどうすればいいのか。
しばし考えたのち、待たせていただく事にした……乗ってきた馬車の中で。
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管理敷地の見回りを終えて戻ってきたら、家の前に馬車が1台停まってた。
「あ、母さんだ!」
クロードが飛びだして来て。
「おじさん、おじさん!母さん帰って来たよ!」
馬車の扉をガンガンたたいて中の人に呼びかけてる……失礼じゃないでしょうね?
「ありがとうございます」
と言いつつ出て来られた馬車の中の人は、おそらく執事さんでしょう。
「わたくしハマー伯爵家筆頭執事のオルトランと申します」
丁寧なご挨拶をいただいたけれど。
「少々お待ちください……サイラス、馬を返してきて。レベッカ、お茶の用意を」
とりあえず指示を出して。
「お待たせいたしました、オルトランさん。どうぞ中へお上がりください」
と言っても、父さんや伯母さまの家のような応接スペースがあるわけじゃないけど。
オルトランさんにはダイニングテーブルについていただき、お茶をお出しして。
「それではご用件をうけたまわります」
「主よりこちらをお渡しするよう申しつかって参りました」
つと差し出された1通の封書。
表書きには「Invitation」。
裏返すとハマー伯爵家の紋章の封蝋で封緘してあって。
「今ここで拝見しても……?」
「はい」
レベッカからペーパーナイフを受け取って開封……中を一読して
「クロードを呼んできて。あの子にも確認を取らなければいけないわ」
招待状の宛名は私だけではなかったから。
『アリアドネ様ならびにクロード殿
先般は我々一行をお救いくださり、ありがとうございました。
つきましては、このたびのお礼といたしまして、当家へ数日ご逗留いただけないかと思っております。
同世代の子を持つ親として少々ご相談したい事もございますので、ぜひともよしなにご検討たまわりたく存じます。
ハマー伯爵エドモンド・ランディス』
書き出しから最後の署名まで一貫して同じ筆跡なので、伯爵様ご本人が手ずから書かれたのでしょう。
同世代の子の親として、などとおっしゃられたら……母君のいらっしゃらないお子さまがたの事で何かお困りの件でもおありなのでしょう、きっと。
私でお役に立てるのなら、いくらでもご利用いただいてかまいません。
サイラスに伴われて来たクロードにご招待を受けるか訊いたところ、即答で
「行きたい!」。
そればかりかオルトランさんに
「馬を見せていただけるかお願いしておいてください!」
なんて約束まで取りつけていたわ……。
伯爵邸にご招待、とは!
庶民はなかなかお招きいただけない場所ですよそこ!
ご招待する側はプランぐだぐだですがwww
11歳の少年2人。
仲良くなれればいいですねえ。




