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アルヴィノーラの森で  作者: ありかわつぐみ
第3章 7年
15/81

3. 恩人


第15話となります。


雨の夜は人恋しさがつのると言われていますが(誰に)

雨のあとはタケノコ以外にも新しい出会いが呼び込まれるようです。








ハマー伯爵領にしては珍しく大雨が降り続いた。

その雨上がり。

森の中にある崖沿いの主要街道の安全確認に若いのを全員3~4人1組で行かせたけど……大丈夫だろうな?


・小石が斜面からパラパラ落ちて来ていないか。

・斜面から異様な音や地鳴りは聞こえていないか。

・斜面にひび割れや妙な膨らみがないか。

・普段澄んでいる湧き水が濁っていないか。

・新たな湧き水が出ていないか。

・湧き水が急に増えたり減ったり、枯れちまったりしていないか。


こういうのが崖崩れの前兆だから、見つけ次第1人が伝令で走り残る人員で通行止めの作業に入れと言ってある。

1人で行かせる奴は、ただの馬鹿だ。

部下をなんだと思ってるんだ。

交換可能な道具じゃないんだぞ。




――――――――――――――――――




「三の崖の斜面にあんな流れ落ちる湧き水なんかなかったよな」

「なかったっすね」

「そもそも小石落ちまくってんじゃんよ。絶対これ崩れんぞ、(かしら)に知らせて来い!」

「了解!」

出動前から決めておいた手はず通り、先輩2人が現場に残ってオレがお頭のとこまで走る事になっている。


馬を全速力で走らせていると、馬車が2台かなりの速度で連なってやってくるのが見えた。

まずいな、止めなければ……イヤ(しら)せるのが先か?

イヤでも止め……あ、先輩が残ってるから崖の手前で止まるよな。

よし報せに走るの続行。

馬車とすれ違う……が、なんだか嫌な感じがする。

馬車が高級感たっぷりだったから、もしかしたら制止を振りきるかもしれない。

オレは馬を走らせながら周囲を見回した。


少し離れたところに馬2頭と騎乗する大人と子供がいた。

(かしら)んちの隣のアリアドネさんとクロード君だ。

雨がやんだからクロード君の騎乗訓練でもやってんだろう。

「……そうだ」

アリアドネさんは、騎馬隊の女性隊員にひけを取らない乗馬の名手だときいている。

ならばさっきの馬車へ止まるよう警告しに行っていただけないかな。




――――――――――――――――――




この子、我が子ながら筋がいいわ。

森番の馬をモーガン君と2人で借りてまたがってみたって言ってた(指導者なしでまたがってみた事は叱った)けど……クロードは1回で乗れたって。

モーガン君は勢い余って逆側に落ちて、いろんな意味で修羅場だったらしいけど。


ひづめの音が近づいてきた。

森番の若い子が1人。

「アリアドネさんっ……ちょっと、お願いしていいですか……伝令みたいなもんです」

大きく息をしている。

「この先の三の崖が崩れそうなんですけど、今そっちに馬車2台行ったんで……」

「わかったわ。私達が馬車を止めに走るから、あなたは(しら)せに行って。崩れた時のために、軍の駐屯所にも」

「え……あ、はい」

森番の子が走り去った後。

「クロード、行くわよ。あなた先行しなさい。私もすぐに追いつくから、なるべく崖の手前で止めるように」

大人の私より、馬に乗り始めたばかりとはいえ身が軽い11歳の子供のクロードのほうが早く追いつけるはずだと見越しての指示を出した。

「わかったっ」

颯爽と駆け出していった……蛙の子は蛙と言うけど、蛙の孫も蛙なのよ。




――――――――――――――――――




母さんの指示で走り出したけど……馬車を止めるんだよね。

前のほうに見えてきたあれかな?

うん、あれだね。

声かけるのはもう少し近くまで行ってからじゃないと聞こえないよね。


だいぶ距離がつまってきた。

「馬車の人ぉー!止まってぇー!」

御者さんに聞こえてるのか聞こえてないのか、馬車は2台とも止まらない。

「ねえ止まってぇー!この先、崖が崩れそうなのぉー!」

聞こえてないっぽい。

馬車の前に出ないとダメかな。

後ろの馬車に並んだ。

「あの!この先!崖崩れ!しそうで!止まって!」

ダメだ息が続かないや。

後ろの馬車を抜き去って、前の馬車も抜く。

「ボウズ危ねえぞ!」

前の馬車の御者さんに怒鳴られた、けど。

「ちがう、危ない、あれ、崖、崩れる、止まって!うまる!」

言いたい事がもう順序だてて言えないので、手綱から片手を離して行く手を指した。

森番さんが止まれの合図してるのが見えたんだ。

御者さん達にも見えたみたいで、2台とも急停車した。

そして「退避!退避!」っていう森番さんの大声の後。


どごごごごごごご


崖が崩れて道が半分ふさがった。

あと少し走ってたら、危ないとこだった。




――――――――――――――――――




馬車が、急に止まった。

進行方向逆向きに座っていた娘2人は座席に押しつけられるだけで済み、私はとっさに踏んばれたからよかったが……踏んばりきれなかった息子のシャルルが床に転がってしまった。

幸い大した事なくすぐに立ち上がったが。

「どうした」

「……前方で森番が止まれと合図をしておりましt………うわあ」

大きな音も一緒に聞こえた。

「どうした!」

「……道が半分、ふさがりました」

「ふさがった?」

「崖崩れのようです」

馬車の窓から前を見た……土砂の山ができていた。

「………………」

最悪の事態が頭をよぎったが、それは回避されている事に思い至る。

いまだ動転しているようだ。


前の馬車の横に騎乗した少年がいるのに気づいた。

私は馬車を降り少年に歩みよった。

「君が(しら)せてくれたのか?」

「……はい、あ、いえ、森番さんに頼まれた母さn……母の指示で止めにk……お止めしに来ました」

見たところシャルルと同じ位の年格好の少年。

言葉づかいも年齢相応ながらしっかりしている。

きちんと言い直すあたり、良い教育を受けているようだ。

「そのお母上はいずこかな?」

「すぐに追いつくと言ってましたから、もう来るかt……あ、来ました」

騎乗の女性を先頭に、数名の森番らしき男と国軍駐屯所の兵士と軍属と荷馬車。

おそらく先頭の女性がこの少年の母親だろう。

少年に「すぐ追いつく」と言ってあれだけの人員を確保したのだろうか……。


「息子がお役に立てましたようで」

ヒラリと軽やかに下馬した彼女が歩み寄ってきた。そして

「クロード、降りてきなさい」

と少年に言ったが、少年は馬上で動けないでいる。

「奥さん、そりゃムリってもんですぜ。ボウズの体格にゃちと大きい馬に乗って全速で走りながらデケえ声で(しら)せてくれて、しまいめにゃ崖崩れガッツリ見ちまったんですよ。腰のひとつ位抜けてもおかしくありませんぜ」

侍女達を乗せていた馬車の御者が御者台から降りながら言い、馬上のクロード少年に歩み寄った。

「ボウズ、さっきは危ねえとか怒鳴りつけて悪かった。おかげで全員助かった」

御者がクロード少年を馬から抱えおろした……途端、少年が崩れるように座りこんだ。

やはり極度の緊張状態だったのだろう。

「ご帰宅の前に、ご子息と少し休んで……いやご子息を少し休ませてあげてくださいませんか……手狭な馬車で、になってしまいますが」

私は、クロード少年の母親に提案していた。




――――――――――――――――――




馬車が急に止まった時、父上とマーサとハンナは大丈夫だったけど、僕は座席から落ちた。

その程度ですんでよかった。

父上はすぐに外の状況を確認しに行って……ご婦人親子を連れて戻ってきた。

「こちらが、私達を助けてくれた……ええと、失礼。お名前をうかがっておりませんでした」

父上……いくらなんでも失礼すぎます。

「アリアドネ・レイサムと申します。こちらは息子のクロードです」

年齢は、僕と同じ位かな。

「……レイサム?」

父上が何かに気づいたみたいだけど

「アリアドネ、とお呼びください」

きっぱり言い放たれてる。

「ええと……ご家族に軍の関係者がおられませんk」

「私、ガリーニの娘ですわ」

父上に最後まで何かを言わせない勢い。

「え、ですが……レイs」

「ガリーニの娘です。アリアドネとお呼びくだされば」

(かたく)なに名前(ファーストネーム)呼びにこだわっておられる。

「じゃあ、アリアドネさん(ミセス・アリアドネ)ですわね」

マーサが口をはさんだ。

「え」

父上はなんだか複雑そうな顔をしていたけれど。


そして、アリアドネさん(ミセス・アリアドネ)は妹2人に挟まれて取り合いっこされていた。

クロード君は、父上と僕ではさんでいる。

「ええと、クロード…君だっけ。僕達を助けてくれてありがとう」

僕からも、お礼を。

被害といえば僕が床に吹っ飛んだだけですんだのはアリアドネさん(ミセス・アリアドネ)とクロード君のおかげだから。

「……で、ごめん。君の母上なのに妹達が取り合ってしまって」

「かまいません。母さn……母の子供は男の僕だけなので、今たぶん満更でもないと思います」

寛容だなあ。

父上は……と見ると、やはり母上がいた頃にはあり得なかった光景に言葉をなくしているみたいだ。

そして僕は、というと。

本当は妹達にまざってアリアドネさん(ミセス・アリアドネ)に甘えてみたかったのだが、同年代のクロード君の前で彼の母上に甘える事はやはり相当まずいだろうと踏みとどまれている。本音的には、妹2人がとてもうらやましい。

口に出しては絶対に言えないのだけれども。


僕達兄妹は、亡き母上に甘えた事が一度もないのだ。

母上が亡くなった時、僕は4歳でマーサは2歳。

ハンナに到っては生まれたばかりの赤ん坊……というか、母上はハンナを産んで亡くなった。

僕達は侍女達に育てられたから、侍女でない女の人といえば誰かの奥さん位を遠くからしか見た事がない。こんなに近くでお話できる事などなかったから、マーサとハンナがくっついて離れないのもわからなくはない。


僕も5歳や6歳だったら参加してたかもしれない。







間一髪で土砂の下敷きを回避!

やるやん!



そして「蛙の孫も蛙」w

そんなことわざ、知らんわwww

(そらそうです、作者が作りましたから)




伯爵家子息シャルル初登場。

さすがは、11歳長男くんです。

おのれの欲望にきちんと(あらが)っております!




なお。

今回の冒頭部分にあります崖崩れの前兆の記載は、内閣府の防災情報のページや各自治体防災情報を参考にさせていただきました。

http://www.bousai.go.jp/kohou/kouhoubousai/h27/79/special_02.html (内閣府)

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