5. 悔恨の念があちらこちらに。
第11話となります。
ハマー伯爵の家庭の事情がわかる回となっております。
罰当たり、と言われるかもしれない。
不謹慎だとも言われるかもしれない。
一人娘が末っ子出産と同時に亡くなってしまって悲しいのはわかる。
だけれども。
その娘が産んだ3人の孫に、娘亡きあと一度も会いに来ない祖父というのは……どうなんだろう?
そもそもその一人娘が亡くなった遠因は、臨月の妊婦を居城へ招んだからなのだが?
ガタガタ揺れる馬車でかなりの距離を行かねばならぬのに呼びつけたのは義父上あなただ、ブリーデン男爵。
娘に会いたいのであれば、妊婦でもなんでもない義父上が来ればよかったのだ。
義父上ならいつでも来ていただいてかまわないと申しあげていたのに、年明けの祭りの日以外来た事がなかった。
こちらが伯爵家であちらが男爵家だからか?
しかも帰路には森の中で森番が全く姿を関知していない軍事演習が行われており、その演習区域に何も知らされていなかった妻オードリーの一行が無警戒のまま入り込んでしまって事故が発生し兵士2名が死亡している。
そして、現場で産気づき……それでも居城まではなんとかたどり着き、次女ハンナを産んでオードリーはそのまま亡くなった。
誰の責任でもないとは思うのだが、誰かを責めずにはいられない。
強いて言えば、義父上の所へ行くと言ったオードリーを止めなかった私が責めを受けねばならんのだろうか。
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娘のオードリーが亡くなって2年だ。
私にとって、たった1人の子供だった。
婿をとってブリーデン男爵家を継がせようと思っていたのに、先代のハマー伯爵がいろいろ手を回して縁談を組んでしまい、伯爵家に嫁がされてしまった。
それでは、という事でオードリーが次男を産んだら私の孫養子にして嗣子としよう……とオードリーと私との間で話がまとまっていたのだが。
長男シャルルが産まれ、その2年後には長女のマーサ。
次こそ、と期待していたのにオードリーが命と引き換えに産まれたのは女の子。
もう次は望めない。
ハマー伯爵家に行ってもオードリーはもういない上に我がブリーデン男爵家にとって何の益にもならぬ子のご機嫌をとるのも苦役でしかない。
このブリーデン男爵チャールズ・ストラットン、怨みこそすれ感謝など一切するものか。
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2年経とうが何年経とうが、後味の悪さは永遠に続くのだろう。
たまには抜き打ちで演習を行わないと兵士達がだらけてしまっていざという時に本領発揮できないだろうと思って行った小隊の模擬戦訓練だったんだ。
模擬戦だから、殺傷力のない訓練用の武器を使った。
動きは実戦さながらの見事なものだった。
だが。予想外の事が起きた。
通行人が模擬戦の演習戦闘区域に入ってきてしまったのだ。
「模擬戦闘一時停止!」
と大声で命じたものの、そこここで斬り結ぶ武器の金属音のせいで私の声が通るあたりまでしか戦闘が止まない。
「なぜ通行人が入って来るのか!」
森の使用許可を取りに行かせた副隊長補佐を呼んだ。
「え。隊長、抜き打ちでとおっしゃったじゃないですか!」
副隊長補佐が反論する。
「それは隊員に向けての話だ!森番に演習の許可はとったのか……とってたら演習戦闘区域を封鎖してくれるはずで、その姿がないという事は……無許可でこの演習を行っていたのか私は!」
これはまずい事になった。かなり……いや相当まずい。
まさか、副隊長補佐が許可をとりに行っていなかったとは!
「演習中止!引き上げr……どうした!」
演習区域の一画が騒然としていた。
「コナーとレイサムが、崩落してきた土砂に埋まりました」
……何でそうなる!
「馬車と接触しそうになったため、2人は飛びのいたそうですが……コナーが勢いあまって崖にぶち当たってしまい土砂崩れが発生して……この状態だそうです」
「馬車は!無事ですか?」
「……兵士さんを轢きそうになったのですが、何とか避けられました……けど、避けた時の衝撃で奥様が……」
御者が言う。
「赤ちゃんが産まれそうになったようなんで、お屋敷まで突っ走ってってよろしいですか?救助のお手伝いは必要でsy……」
妊婦さん乗ってたのかよ!
「救助はこちらで行います!そちらは奥様を早く!」
馬車の中で産んじゃうわけにいかないから!ってんで急いで行ってもらった。
総員で土砂をとりのけたが、コナーとレイサムはその場で死亡が確認された。
そして。
馬車の中の人は……無事にお屋敷までたどり着いたものの、お嬢さんを産んで亡くなったと伝え聞いた。
私が実質的「無許可演習」してしまったため、結果的に3人の命がついえてしまった。
私はその重みを抱えていかねばならない。
ハマー伯爵、義父とギクシャクしまくっておられる模様。
にしても。
臨月の妊婦さんを揺れる乗り物で長時間移動させるなんて、絶対にあかんやつですからね。




