露店
最寄りの集落は一応柵で囲ってあるが、ふれあい動物園レベルの木の柵だった。
「こんにちは」
集落の端にある家の庭先にいたお婆さんに話しかけてみる。
「あんれまあ、珍しい。どこから来なさった?」
「実は記憶が無くて。ここはどこでしょう?」
我ながら雑な設定だと思うが、この世界のことを何も知らないので仕方ない。
「若いお嬢ちゃんが一人でよく無事だったねぇ。見たところ異国の人のようだが、良かったらお茶でも飲んでいかんね」
「ありがとうございます。お邪魔します」
ファースト異世界人、よそ者に親切。良かった。
お婆さんの家でお茶をするのかと思ったらそうではなかった。牧歌的な家がぽつぽつ建っている中、やや大きめの家に連れていかれた。
「村長おるかね」
「はいよー」
出てきたのは白髪のお爺さんだった。挨拶をして勧められた席に着く。村長宅前には長方形の木製テーブルとベンチが置かれていて、そこでお茶をいただくことになった。
村長が出してくれたのはハーブティーで、少し癖はあるが飲みにくいということはなく香りが良い。この辺りはこれが定番のお茶なのかな。
青空の下でお爺さんお婆さんとお茶。のどかである。
スキルに異世界言語翻訳があるから大丈夫だろうとは思っていたが、会話に問題がなくて安心した。
「お嬢ちゃんは記憶が無くなるキノコでも食べたんかねぇ」
「かもしれんのぉ」
そんなキノコあるの⁉ 怖い。
お茶請けに、温泉宿の売店で仕入れたクッキーとマシュマロを出し、村長とお婆さんに勧める。試食して気に入ったら後で買ってほしい。
村長によるとここはイアン村といい、住民は30世帯ほど。最寄りの町はニドゥ町で、歩きだと3日かかるらしい。
「ニドゥ町に向かおうと思います。あの、私の手持ちの物を何か買ってもらえないでしょうか? あと、服があれば購入したいのですが」
結局私は作務衣と半纏、長靴、首にストール、大きなトートバッグと斜め掛けバッグという格好で村にやって来た。
アウトドアジャケットとスニーカーは質が違いすぎて、半纏と長靴の方がまだましな気がしたのだ。
お茶の後、私は村長とお婆さんの協力を得て村長宅前で露店を出した。お茶をしたテーブルに商品を並べただけの店だ。
この村には商店がない。飛び込みの露店は珍しさもあって歓迎された。
商品は、森で採取した薬草と木の実、売店で仕入れて袋や箱に詰め替えたお菓子、塩、砂糖、胡椒、ハンカチ、軍手、ロウソク、石鹸、紅茶、ほうじ茶。
相場が全くわからないので、価格設定はお婆さんにお任せだ。村人の反応を見る限り、妥当な価格っぽい。真っ白な商品(塩、砂糖、石鹸)は高級品扱いで、岩塩が手頃な値段で手に入るここでは塩は売れそうにない。
「お嬢ちゃんは行商人だったのかねぇ」
「どうでしょう」
まあ、所持品が不自然だよな。
紅茶とほうじ茶は、村長に茶器を借りて試飲を用意した。わいわいと再びお茶会になって好評だった。茶葉は温泉宿の部屋に用意されているティーバッグの中身で、仕入価格が0円なのでイチオシ商品である。
部屋のお茶やお菓子は毎日補充されるため、全部アイテムボックスに入れて備蓄している。アイテムボックスは容量無限で時間が経過しないため、食品の保存に最適だ。
村人は茶髪茶目が多く、女性は皆髪が長くてスカートを履いていた。
私は黒髪黒目で髪型はボブ。日本人女性としては平均的な体型だが、こちらの女性と比べると小柄で華奢だ。
用意した商品は数時間で7割方売れ、私はゼニーを手に入れた。紙幣ではなく硬貨だった。
そのゼニーで、10代の女の子からワンピースを譲ってもらった。胸がきつくなって着られなくなったらしい。あっ、そう…。




