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お風呂があれば生きていける  作者:


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21/22

魔のお湯

 晴れた日は、商業ギルドがある領都ゴサンへ向かって進む。帰りにサントロ町に寄って、運良く狩れた魔兎や魔鹿などを冒険者ギルドに納品して、ミラに教えてもらった店で食材を買う。

 外出しない日は、朝風呂に入って、家事をする。掃除は不要だし洗濯はマジカル洗濯機で全自動なので、主に料理に勤しむ。お米はまとめて炊いて、おかずは大量に作り置きし、アイテムボックスに保存する。

 空いた時間は喫茶室で読書や編み物をして、夕食後たまにお酒を飲んで、寝る前にゆっくり温泉に入る。というのが最近の過ごし方だ。


 虜になっているのが、喫茶室で注文できるケーキ。

 チョコ、苺、栗、ピスタチオ、ヘーゼルナッツ、アールグレイ、抹茶、チーズ、カスタードクリーム…。

 どれも美味しい。グルメガイドでも絶賛されていた。

 作っているのは宿直営のケーキ店だ。敷地内に別にある。


 離れのルームサービスと違って、喫茶室のメニューはそこまで高くない。とはいえ安くもない。

 ケーキを作ったことがある人なら、使われている砂糖とバターのえげつない量に慄いた経験があるだろう。

 その不都合な事実から目を逸らし、家計簿の日本円残高からも目を逸らして、本当は毎日食べたい。

 食事はほぼ自炊だし、コーヒーや紅茶は絶対自分で入れるし、カクテルも自分で作っている。でも、ケーキは自分ではこんなに美味しく綺麗に作れない。ケーキのために他のお菓子は我慢しているから、と言い訳して、週に数回は自分を甘やかし、ケーキにうっとりしている。

 

 編み物は順調だ。帽子をかぎ針で編み終え、今は棒針でマフラーを編んでいる。編み目にムラはあるけど、自分用だし味があるということで良し。

 編み図記号にも慣れたし、次はシンプルなベストに挑戦して、ベストがうまく編めたらその次はセーターを編みたい。

 ニット帽は外出時の防寒に愛用している。軍手で学習したので町の中では被っていない。


 

 ◇◇◇


 オコジョ(仮)は、あれからちょくちょく喫茶室に顔を出している。

 音楽が好きなのか、BGMを流しているといつの間にか窓の外にいる。窓から白い姿がぴょこんと見えて可愛い。

 鑑定してみたら、『魔オユジョ』と出た。


 ユ?


 鑑定が『コ』と『ユ』を間違えてるの?


 しかし、私の鑑定ポンコツでは?と疑いだしたら、今後鑑定情報が何も信じられなくなる。よって、誤りではない、と思うことにした。

 もし誤りだとしても、異世界で日本語のカタカナを間違えるくらい大した問題じゃないさ、と思うことにした。


 魔オユジョとは呼びにくいので、名前をつけた。

 白いからハクにしようかと思ったけど、夏は茶色くなるかもしれないのでボツ。


 魔オユジョ…魔お湯ジョ…ということで、魔湯(マユ)ちゃんに決定。ここ温泉宿だしいいんじゃないかな。


 マユちゃんに餌をあげてみたくなって、音楽をかける前に窓を開けて、外に魔猪のスネ肉を置いておこうとしたのだが、

 ゴンッ

 思いっきりデコをぶつけ、外に出すことができなかった。まるで透明な壁があるかのようだった。喫茶室から廊下に出ることができないのと同じ制限なんだろう。

 なので、離れから外に出て本館へ行こうとしたけど、一定の距離で阻まれて近付けず、餌付けは断念した。

 温泉宿の本館が全て解放されたら可能になるだろうか。


 マユちゃんは私が外に出てくることはないとわかったのか、目が合っても逃げることはなくなった。


 ハンドドリップのコーヒーを用意して喫茶室の窓際のソファに座り、マユちゃんと一緒に音楽に耳を傾けながら毛糸を編んでいく。

 異世界での癒やしのひとときだ。


経路

温泉宿→イアン村→ニドゥ町→サントロ町→シークワ町→領都ゴサン

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