発注と両替
翌朝。起きてすぐ作務衣の上に半纏を羽織ってわくわくしながら喫茶室へ転移すると、キッチンにコンテナが置いてあった。
「おおっ、届いてる!」
コンテナの中には、昨夜『発注』した物が入っている。食パン、レタス、トマト、卵、苺、りんご。全て日本産で、日本円で支払った。
喫茶室の発注画面は売店の画面とほぼ同じ。売店と違うのは品揃えだ。喫茶室の方には生鮮食品やキッチン用品等がある。
ただ、どうやら発注できるのは喫茶室で使われる品だけのようだった。
この喫茶室を利用するのは宿泊客と日帰り入浴客くらいで食事がメインじゃないし、納豆や蕎麦など和食の食材が無い。
その点は残念だけど、品種改良された農産物や馴染みの食品が手に入るのはすごくありがたい。特に今は冬だから、新鮮な野菜や果物が不足していたんだ。
売店も喫茶室も価格表示は日本円のみだ。
まだ日本円の貯金に余裕があるし、魔法に夢中になってアプリの『両替』機能のことをすっかり忘れていたけれど、円を新たに手に入れる手段は両替しかない。いずれ円の貯金が底を突けば両替しなくてはならない。
そこで昨夜、試しに1000ゼニーを円に両替してみた。
すると、アイテムボックスに入れていた小銀貨が1枚消えステータスの所持金欄と家計簿のゼニー残高が1000ゼニー減り、日本円の残高が500円増えた。
えっ、こんなレート? 手数料?
ニドゥ町の平均的な食堂のランチ2食分のゼニーで、500円。
物欲無いし稼ぎはそこそこでいい、とか思ってたけど、やっぱり、ゼニーはいる。
(今日の朝食は久しぶりに卵かけご飯にしよう)
こちらの卵は菌が怖くて、生卵はずっと食べていないから。それに、米と炊飯器を手に入れたし!
米を洗って炊飯器にセットしてから、パントリーを確認する。
「あー、やっぱり補充はなしか」
缶詰がストックされていたスペースは空いたままだ。
宿代に含まれるティーバッグとは違うもんね。欲しい物はお金を払って発注するとしよう。
すぐ使う油と調味料を除き、パントリーにある食材は全て、時間が経過しないアイテムボックスに移す。
発注した食材が入っていたコンテナは貸出物品と同じ扱いらしくアイテムボックスに入らなかったので、とりあえずパントリーに置く。
次は、昨夜あえて放置していた汚れた食器やテーブル等の確認だ。
「きれいになってる」
食器や鍋は棚に片付けられ、シンクやテーブルに汚れはなく、ゴミ箱は空になっている。ふきんやランチョンマット等も新しい物に交換されていた。
喫茶室も掃除してもらえるみたいだ。キッチンの後片付けが不要なら消費MP増くらい安いものである。
いい朝だ。米が炊き上がるまで、朝風呂に入るとしよう。
朝食はカウンターで食べた。卵かけご飯、素晴らしい。デザートはりんご。異世界にもりんごはあるけど、日本の品種の方が何倍も美味しい。
食後は電動コーヒーミルで豆を挽き、ハンドドリップでコーヒーを入れた。水はパントリーにたくさんあった軟水のミネラルウォーターを使った。
次回は試しに温泉水を使ってみようかな。
(いい香り…)
窓際のソファに座って、歌詞にコーヒーマシンが出てくる有名な映画主題歌を聴きながらコーヒーを飲む。
音楽がここを異世界と切り離してくれる。
歌声に聴き入っていると、視界の隅で何か動いた気がした。
窓ガラスの向こうにこちらを覗き込む小さな白い動物が。
目が合って、お互い固まった。
(…オコジョ?)
曲:「Calling You」Jevetta Steele
映画『バグダッド・カフェ』主題歌




