冒険者ミラ
次の目的地、サントロ町はニドゥ町の南。
道には魔物避けが施してあり狩りには向かないので、あえて迂回し、道無き山の麓を進んでいる。麓にいるのは弱い魔物ばかりで、強い魔物が出ることはあまりないらしい。
サントロ町には、ニドゥ町でブーツを受け取ってから入るつもりだ。
靴はオーダーメイドなので、前金が貯まってすぐ注文した。靴屋の職人は私の長靴を見て素材は何だと食い付き、知らないとの返しにがっかりしていた。
こっちにゴムってないのかな。ゴムの木がなくても、魔物素材で似たようなのがありそうな気もするけど。
「ん？」
マップを見ると、300ｍ程先で青い人間マークを黄色のコインマーク４つが囲んでいる。
マップは、危険生物の他に人間も表示するよう変更してある。人目を避けて転移するためだ。
人間はこけし形のマーク（危険人物は赤、通常は青）、危険生物は赤い三角マーク、狩りの獲物はコインマークにしている。
助けは不要かもしれないが、一応確認することにした。
「ぐっ！」
女の子の声がした。
見えた彼女の足には魔狼が噛みついている。私は慌てて温泉ジェットで魔狼の背中を切りつけ、魔狼が彼女の足を離したところで、温泉水饅頭でその頭を包んだ。
◇◇◇
「ありがとう、助かった。私は冒険者のミラ」
「モモです。冒険者になりたてです」
魔狼のうち２頭を私が温泉水饅頭で、２頭をミラが剣で倒した。
ミラはオレンジに近い茶髪に茶色の目。長い髪を一本の三つ編みにしている。年齢は20歳前後かな。
ミラは足の傷にポーションを掛けている。ポーションは飲めば体力が回復し治癒力を高め、傷に掛ければ傷口が塞がる。
「体力を使い果たしちゃった。今ので手持ちは最後なの。予備のポーションがあれば売ってもらえない？」
道具屋で購入したポーションは全て試飲で空にしてしまった。私の手持ちは、その空いた瓶に入れた温泉宿ポーションしかない。剣士ならＭＰ回復効果はわからないだろうから、使っても問題ないかな。
魔法を使える人間は少ないらしい。それに、ゲームみたいに能力を数値化する魔法や技術はない。ポーションを飲んでも私のように何％回復したかわかるわけじゃなく、感覚的に力が戻ったと感じるだけだ。
温泉宿ポーション、こっちの人の反応を見たかったからちょうどいい。
「どうぞ」
「？ これポーション？ 透明だけど」
普通のポーションは緑色だ。売るなら着色した方が良さそう。
「試作品らしいので、試飲ってことでお代は結構です。毒見に私一口飲みますね」
よくわからない物を口にするのは抵抗があるだろう。携帯しているコップに少し注いで私が先に飲んでみせた。
残りの温泉宿ポーションを受け取って瓶から飲んだミラが首を傾げる。
「これ失敗作じゃない？ 回復した感じがしない」
「え？」
そんなはずはない。少し減っていた私のＨＰとＭＰは今の毒見で全回復した。
先日検証したところ、温泉宿ポーションの回復量は、市販のポーション瓶一本分の容量で、私のＨＰとＭＰ共に60％だった。包丁で付けた傷も治った。
ミラの手の甲に擦り傷があったので、もう一本開けて傷に掛けてみる。
「……」
「……」
変化がない。
（えぇー、温泉宿ポーションは私にしか効かないってこと？ 売れないじゃん…）
