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お風呂があれば生きていける  作者:


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露天風呂付き離れ

「ふあ~、温泉最高」

 紅葉にはまだ少し早いが、山の冷えた空気の中で入るお風呂は気持ちいい。


 連日残業して仕事を片付け、週末に一泊二日で温泉にやって来た。

 宿は数寄屋造りの露天風呂付き離れだ。自分へのご褒美に奮発した。


 本当は学生時代の友人と二人で来る予定だったのだが、友人は家の都合でキャンセルになった。まあ、一人旅も悪くない。


「はあ…、生き返る」

 湯船で手足の指をぐっと伸ばす。


 その瞬間、視界が真っ暗になった。



(う…、な、何…)

 目眩がして気持ち悪い。

 何も見えない。やばい、救急車……。



「あ~、ごめ~ん」

「ぎゃあ!!」



 ◇◇◇


「大丈夫、君の裸なんか何とも思わないから~」

 こっちは大丈夫じゃない。

 目の前に立っている失礼な男は、自称『異世界の神』らしい。何とも思わなくても男の上着を貸すべきだと思う。


 真っ白な空間には派手な格好の男と座った姿勢で素っ裸の私だけ。

 真っ白過ぎて影もない。裸で不安が半端ない。一体何が起こっているのか。


 男の説明によると、彼が地球に遊びに来たところ目的地の座標を間違え、間違えた先にいた私を地球から弾き飛ばしてしまったとのこと。


「地球に戻すのは無理だから、うちの世界に送るね~。うちは君が住んでた国とは勝手が違うから転移特典を付けるけど、君が『生き返る』って言ってたお風呂もサービスで付けとくよ~」


(何言ってんのこいつ…)

 男は神々しいほど美しい。長髪も目も金色でキラッキラ。自称神なだけある。だがチャラい服装と口調で台無しだ。

 

「今日はこれから女神とデートなんだ~。待ち合わせに遅れるからこれで~」

「え⁉」


 ◇◇◇


(…あれ? 寝てた?)

 湯船に浸かったまま夢を見ていたようだ。危ない。残業続きであまり眠れてなかったからな。


 お風呂から上がって、部屋で寛ぐ。

 宿の離れは、モダンな和室とフローリングの寝室、トイレ、洗面所、内風呂、露天風呂という造りだ。


(まだ3時か。軽く散歩して、夕食までフロント横の売店と喫茶室でのんびりしようかな。夜は大浴場に行こう)

 スマホと財布、鍵を持って、離れの引き戸を開ける。


(あれ?)

 道がない。


「え? なんで?」

 フロントから離れの玄関まで、手入れされた雑木林の中の道を通ってきた。なのに、引き戸の向こうには鬱蒼とした森が広がっている。


「………」


 …何これ? 夢の中で自称神は何と言っていた? まさか、そんなバカな。


 心臓がバクバクしだしたのを感じながら引き戸を閉め、部屋に戻る。部屋の窓からも森しか見えない。

(嘘でしょ⁉)


 スマホは圏外だった。電話もネットも繋がらない。

(何これ、泣きそう……。ん? 何このアプリ)

 インストールした覚えがない。


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