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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

二十代目勇者の生涯

作者: 小市民 川

深夜テンションで書いた駄文です。

 

 ある日、僕は二十代目の勇者に選ばれた。


 僕は平凡な人間だったのに、神が僕を選んだと言われた。非才ながら努力して強くなろうとした、周りからの期待とプレッシャーから押し潰されそうになりながら。


 勇者となって魔物と魔人を殺して、殺して、殺し尽くした。


 勇者に選ばれたから、みんなに期待されたから。


 今までの勇者は魔王を封印することしかできなかったから僕は、魔王を殺して、魔物を絶滅させなければと、そんな強迫観念に襲われて毎日戦い続けた。


 昨日も、今日も、明日も、明後日も


 殺し続ける。


 最初は仲間もいたけれど、苛烈な戦いの日々に耐えられなくなって、一人、一人、居なくなっていった。でも、それでも平和のため、みんなの為と思って僕は殺し続けた。


 戦うこと以外の全てを捨て去って、心が摩耗していくのを感じながら戦った。


 一人でそんな生活を続けて四年が経った頃魔王を斃せた。


 達成感など微塵もなく、僕の周りには誰も居なかった。ただ魔族と魔物の死体が山のように積み上がっているだけだった。それでもまだ、生き残った魔物が人々を苦しめると思って、ボロボロになった躰に鞭打って、心が安らぎを求めても立ち止まらずにただひたすらに剣を振り続けた。止まる事などできなくなっていた。


 魔王が斃れても、まだ人類の脅威は数えきれない程に多く存在する。だから今日も殺し続ける。



 吸血鬼を根絶やしにした。


 龍を統べる古龍を斃し、竜種を絶滅させた。


 神狼を斬り裂き、紅く燃え盛り飛び続ける不死鳥を地に沈めた。


 遂には邪神まで滅した。


 魔王を斃してから更に四年の月日が流れた時、僕は漸く人類の、人の脅威を全て根絶できた。



 そんな僕を観る人々の目が恐怖に染まっていることに、化物を見る眼になっていることに気がつくのに一日も必要なかった。

 人々の為に戦い続けたのに、いや、戦わされたというのに、全てを終わらせ、死に、魔物に、怪物に怯える事のない世界を作った僕を見る彼らの眼が自分たちでは理解する事のできない化物を見る眼だと解ってしまう。


 解ってしまった、彼らから見れば僕が殺してきた脅威よりも今の僕の方が怖いということが。


 よく考えれば当たり前だ、人類の脅威を一人で殺し尽くせる者の力が、今度はこちらに向いてしまうのではないかそう考えないはずがない。まだ人と寄り添って戦ってきたのならわからないが、僕は彼らの期待を受け、誰とも寄り添えず分かり合えず、一人で戦い続けたのだ。僕の心を知る者など一人もいない。

 怖くて、恐ろしくて当然だ。


 そう理解してしまったから、摩耗してきた心がぽっきりとあっさり折れた事がよく解ってしまった。


 僕の限界を迎えた。


 人々にとって僕はもう勇者ではなく僕が殺してきた人類の脅威に見えていた。


 それでも僕を勇者として送り出した故郷の王に脅威を根絶やしにしたと報告しなければと、もしかしたら、まだ僕のことを人として見てくれる人がいるのではないかと、ほんの少しの希望に縋り付かずにはいられなかった。



 だけれど、現実はやっぱり無情だった。王に報告をし終えてすぐに王は僕の身柄を拘束するよう近衛兵達に指示した。


 やっぱりそうなるか


 と、だが僕が抵抗すれば近衛兵達に僕を捕らえる事など不可能だ。王も分かってはいるだろうが僕が恐ろしくて指示せずにはいられなかったのだろう。流石の王も常にやろうと思えば命を取られる圧倒的な強さの前で冷静な判断ができなかったようだ。


 もし、仮に勇者になって一、二年の時にこうなっていたのなら僕は絶望からきっと今まで守ってきた人類を滅ぼそうと、自分を理解してくれなかった人々が憎いと、力の続く限り暴れ回っただろう。


 だけれど今の僕にはそんな気力なんて無い。心がぽっきりと折れているのだ、なんだか


 僕は抵抗もせず近衛兵達に拘束された。

 近衛兵達も化物を見るように恐る恐ると言ったようだった。


 それから僕は王城の地下の牢に入れられた。

 その牢は光の全く無い暗い場所だった。


 あれから数日全く何をする気配もなく、人も来ない。ただこの何も無い牢の中に入れただけ。

 餓死させるつもりなのだろうか?それとも僕を殺す準備だろうか?


 これで死ねれば良かったのだが、僕の体は龍や不死鳥を殺した時から通常の人間をかなり遺脱していた。


 僕は食事を必要としなくなったし、頭と胴体が離れてもすぐに再生してしまう、もう僕自身自分がどうすれば死ぬのか分からない。

 僕が死んでしまえば本当に人類の脅威は根絶する、だが僕は死な事ができない。


 ただぼーと過ごす、苦痛は感じない、ただ意味もなく生きるだけ。

 数年が経つ頃には思考する事すら少なくなっていた。


 ただ目を瞑り微動だにしない、そうやって十年が経った頃にはもう何も考えなくなった。



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