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炎の舞

マーシャは気がつくと舟に乗っていた。

舟は、流れの穏やかな小川の上を、ゆったりと進んでいた。

前には船頭と思しき人物が舵を取っている。

マーシャはその人物に声をかけようとしたが、先に辺りを見渡した。


小川の両岸には鬱蒼と木々が立ちはだかっており、奥は全く見えない。

目的地は遠いのか、前方には一点の光があるのみで、マーシャの視力では何も見えない。

そして、後方は...


マーシャは後方を見ようとしたが、何故か、所以のわからぬ、底知れぬ恐怖によってそれを辞退した。


マーシャは、当初の予定通り船頭に声をかける事にした。


マーシャ「あのー」




その瞬間、マーシャの周りの景色が一瞬にして変わった。


マーシャ「...え?」


眼前には、高層ビルや電波塔らしきものなどが林立しており、東アジアの大都会を思わせるような光景が広がっていた。

しかし、よく見ると所々の地形が不自然に歪曲していたり、明らかに変な方向に建っているような妙な建物などが見受けられた。


舟はいつの間にか船着場らしき場所に着いたらしく、停泊しており、船頭は舟から降り、何やら他の人物と会話をしている。


どこかの街だろうか。

何故自分はこんなところに。

何故あんな歪な形の建物があるのか。


マーシャ「あの」


とにかく話を聞こうと思い、マーシャは船頭に話しかけた。


船頭「ん?なんだね。早く降りなさい」


マーシャ「ふぇ?あ、はい...?」


マーシャは訳も分からぬまま、言われるままに舟から降りた。


マーシャ「えと、ここは...どこですか...?」


マーシャはようやく質問をした。


船頭「え?どこって...」


船頭が「何を馬鹿なことを聞くんだ」といった表情をすると、船頭と会話をしていた人物が口を挟んだ。


???「おっさん、この子若えし、もしかして...」


船頭「ああ...最近増えてるあれか。道理で...可哀想にな」


マーシャにはますます訳が分からなかった。


マーシャ「あのっ」


???「わかってるさ。全て説明する」


その人物は髪も服も赤い、若い少年だった。

彼はマーシャの目の前にやって来ると、真剣な顔つきでこう言った。


???「えっとね、よく聞いてね」


マーシャは、少年に足がないことに気付いた。


???「君、死んじゃったんだよ」




ーウラジオストクー


マーシャの住んでいた施設を、警察が訪れていた。


刑事「ここだ」


外套に身を包んだ年配の刑事が、ハンチングを被ったスーツ姿の男をマーシャの部屋へ通した。


マーシャの部屋では、彼女が死んでいたベッドの上に、発見時のマーシャの死体の輪郭がとられていた。


ハンチング帽の男は刑事に尋ねた。


「第一発見者は施設長と、この施設に住む他の子どもたちだったと聞いている」


刑事「ああ」


「彼らから当時の状況について何か聞いたか?」


刑事「彼らは酷く参っていたのでね。聞けることは限られていたが」


「聞けたんだな?何をだ?例えば...焦げ臭い匂いがしたとか」


男は、マーシャが下半身を焼き払われた状態で死んでいたことに触れた。


刑事「それは彼らも気がついたようだ。問わず語りで教えてくれたよ」


刑事「...無臭だったと」


男は顎を撫でた。


刑事「俺らはこれも...例の一環だと捉えている」


「連続怪死事件か」


刑事「ああ。窓は施錠されている。おまけにカーテンも閉められている。ベッドは焼かれていない。ドアの鍵は合鍵で開けられるが...監視カメラには彼女の部屋を開けたものは映っていない。そして施設の誰も...夜間に何かが焼ける音を聞いていない」


現場ではたまにシャッター音が鳴る以外はごく静かであった。


刑事「現在判明している限りの情報で考えるならば、これは完全な密室殺人だ」


「死体や現場の不可解すぎるこの状態から鑑みれば、自殺の可能性も低いか。何より衣服が焼かれず、焼かれたのは肉体のみだったということがその説を完全に封じている」


刑事「どう見る?タジマ」


タジマと呼ばれたハンチングの男は、しばらく顎を撫でて答えた。


タジマ「コズロフ刑事、君は怪奇現象を信じるか?」


コズロフ「馬鹿を言え...と言いたいところなんだがなあ...」




マーシャ「死んだ...?私が...?」


マーシャは、途方もなく重大な事実を受け入れられないでいた。


???「おう」


マーシャ「う、うそ...」


???「本当だよ」


マーシャ「どうして...」


???「君が自分が死んだことに気付いてないってことは恐らくは...連続怪死事件ってやつだと思う。君も知ってるだろ?」


ある日、若者が突然、人知れず、人智を超えた方法によって死んでしまう事件。

マーシャもよく知っている。

でもまさか、自分がその犠牲者になるなんて。


マーシャ「そんな...」


マーシャはその場に崩れ落ち、絶望の表情で途方に暮れた。


???「とにかく、街へ行こう。俺、案内役のイヴァン。よろしくな」


マーシャは、自身の死にショックを覚えるまもなく、イヴァンに手を引かれ連れていかれた。

マーシャの死亡現場について


・窓、ドア共に施錠。カーテンもかけられていた。

・死体は臀部から下、下半身のみが焼失しており、衣服・ベッドなど肉体以外は微塵も焼けていなかった。

・第一発見は午前九時頃、施設の他の子どもたちと施設長によるもの。焦げ臭い匂いは全くせず。

・何かが焼けるような音せず。

・遺書なし。

・第一発見まで部屋への第三者の出入りなし。

・死亡推定時刻は午前1時頃。


いつも決まった時刻に起き、決まった時刻に階下へ降りてくるはずのマーシャが9時近くなっても来なかったため、心配した他の子どもたちが施設長に頼み、みんなでこっそりマーシャを起こしに行った。ノックと呼びかけに応じなかったため、施設長が合鍵で部屋を開けると、ベッドには無惨な姿となったマーシャが横たわっていたという。

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