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六話

 放課後、俺は亮と孝之に予定を訪ねた。

「悪いな。今日は兄貴が帰ってくんだよ。あっそうだ和樹も来るか。兄貴と結構仲よかったよな」

 龍也先輩。亮とは年が三歳離れてて三人で遊んだことも何度かある。気の良い人だった。亮は以前県外の大学に受かったと話していたから久しぶりに帰省したのだろう。

 孝之は孝之で珍しく平日に映画でも見て遊ぶことになったらしい。たかゆきも少しテンションが上がっている感じがする。

 かくして俺は一人でヤクザの家に行くことになった。顔に出ていたのか二人に何かあったと聞かれたが二人の気分を壊さないように何もないと答えた。

 赤垣先輩の家は一つ隣の駅で降りて十分ほど歩いた住宅地の中にある。

  Googleマップでどれくらい広いかは知っていたつもりだったが正門の前に来ると家の塀が端から端まで見えない。

 それに若そうな体格のいい男が二人立っている。チラチラ見ていると逆に相手から来そうだったこともあり、意を決して俺は門番に話しかけた。

「すいません。赤垣先輩に紙を届けに来たんですけど」

「赤垣先輩って若のことか!」

 若。赤垣先輩のことか。

 何かテンションが上がっている様子の門番二人。俺と話してない方の門番はどこかに電話をし始めた。

 俺は紙を渡しといてくださいというタイミングを逃してしまったようだ。

「あ。すいません。若に会いたいって言ってるガキがいて......はい。多分ご学友かと」

「悪いな兄ちゃん待たしちまってよ」

 やがて馬鹿みたいに大きい正門が開いて......しまった。

「入るならとっとと入れ」

 背中を押され中に入ると目に入ったのは大きな庭だった。正門から玄関まで伸びる石畳に敷かれた砂利石は均一に平されている。

 目立つのは所々に生える松。こんなに立派な松を見るのは初めてだった。

 庭に見惚れていると後ろからギギギギと音が聞こえ振り返ると正門は瞬く間に閉じてしまった。

「嘘だろ」

 堅気、ヤクザの根城に閉じ込められる。

 ここまで来たらやるしかない。

 俺が一歩を踏み出すのに然程時間は掛からなかった。

 豪邸からピシッとスーツで決めた男が出てくる。

「君がマサの友達?」

 マサ。赤垣先輩のことか。目の前に来るとすっごくかっこいい。顔もシュッとしてるし、髪の毛もよく整えられてる。出来る男って感じ。

「いえ。友達ってわけでは」

 俺が紙を渡して去ろうとすると人のいい笑顔を浮かべた彼に止められた。

「ここにマサの知り合いが来ることなんて滅多にないんだ。少し寄って行ってくれよ」

 きっと彼は自分が人誑しであることを自覚している。自覚した上で頼んでいるのだ。それにすぐに戻った時の門番二人のことを考えても少し怖かった。

  第2の門突破。

 俺は異様に長い庭に面した廊下を彼に連れられるまま歩いた。軽い自己紹介もした。彼の名前は貴政匠。

 赤垣先輩の四つ上で先輩のことは生まれた時から知っているらしい。どうやら一門の方々は出払っているようでどこからともなく雀のさえずりが聞こえてくる。

 今までスーツなどどれも同じと正直思っていたが目の前の人物を見るとどうやらそうではないらしい。かなり歩いているのに皺も汚れの一つもない生地は街ですれ違う平社員達とは明らかに違うようだ。

 ネット情報だが昨今はヤクザに対する圧力も年々強くなっているらしくちょっとやそっとのことでしょっぴかれるため近年の弛んだ平社員よりも背筋はお天道様に伸びているそうな。

 何気なく覗いた記事だったが目の前の人物を見るとあながち間違いではないのかもしれない。

 ヤクザ総高倉時代はとっくの昔に滅んだようだ。

「あいつらもマサに友達が出来たと思って喜んでるんだ。マサも悪いやつじゃないけど素直さが足りないし、親の仕事も褒められたもんじゃないから。怖がられてばかりなんだ」

 貴政さんは悲しそうに笑った。

「もし君さえ良ければマサに会ってやる事は出来ないだろうか」

「紙を渡すくらい簡単です。任せてください」

 俺は胸を張って答える。

「君は優しいな」

 彼はそういって笑った。

 少し歩いて貴政さんはこの部屋だと言った。俺は躊躇なく赤垣先輩の部屋に入った。

 一人の男が縁側に、座って庭園を眺めている。

 赤垣先輩はどすの利いた声で誰だと言って振り返る。腕が出るくらいの黒い和服を着ていた。

 俺は真田和樹と名乗った。

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