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五話

 彼を取り巻く悪い噂は後を絶たない。1日に二つは新しい噂が出てるくらい。日本最大級の極道伊達組の一人息子で刺青の入ったサングラスのでけえやつらが若とかいって頭下げてたとか。身長2メートル越えの怪物外人を1発KO。俺が直に聞いた話だとまだ中学生だった赤垣先輩が高校生五人を瞬殺して舎弟にしたとか。三つ目は俺のよく喋る幼馴染こと葛西亮がソースだから信ぴょう性は限りなく低い。他には亀田興毅に勝った、ボブサップが彼のひと睨みで走って逃げたとか。現実みがあるものもあればバトル漫画みたいな武勇伝まで様々。

 彼の名前は中学の時に気づけば知ってたし、憧れて舎弟になろうとして軽くあしらわれたやつも何人か知ってる。

 当然全てを信じているわけではないが火のないところに煙は立たぬともいうから喧嘩は強いだろうくらいのイメージだった。

 それがどうか。いざ会うとなるとその全てが真実に思え魑魅魍魎の類なんじゃないかと思う始末。

 頑張れ俺と自らを鼓舞し、彼のクラスに入るが、彼らしき人物はいない。

 遠目から見ただけだからいたって分からなくても当然か。でも連戦連勝の猛者らしき人物は見当たらない。

 俺は近くにいた先輩に聞いてみることにした。

「すいません。赤垣先輩に用があってきたんですけど」

 返答はなかった。周りを見ればクラス中の注目を集めている。さっきまでは笑い声や話し声でうるさかった教室が一瞬で暗い静かな教室に早変わり。何ということでしょう。ビフォーアフターもびっくりです。

 俺が聞いた彼女は無反応のままだ。

「君、あいつの知り合い?」

 背の高いちょっとイケてる先輩が会話の輪から離れ、こちらに寄ってくる。ピリついた表情も付け足して。

「知り合いではないです」

 嫌な予感がした。だからはっきりと否定する。感はあまり当たる方ではないけれどここははっきり立場を示せと内なる俺がいう。

「じゃあ何で」

 俺は簡潔に理由を説明した。

「てことは君は本を返してもらうためにここに来たってことだよね」

 面倒は重なり重なり重なる。

 俺は肯定した。

「今日あいつは来てないよ」

 クラス全体はともかくとして目の前の男が赤垣先輩を嫌っていることははっきりした。言葉の端々から赤垣先輩への嫌悪感が伝わってくる。

 俺は一言断りを入れてこの教室を出る筈だった。この教室は居心地が悪い。

「家に行けばいると思うよ」

 雲行きが怪しい。会話の着地点が大体分かった。

 男の話はこうだ。さっき話してた女子。名前はサキの家が赤垣先輩の家と一番近いから書類を渡しに行く役割になった。サキは過去に赤垣先輩に対してトラウマがあり行かせるわけにはいかない。そんな時に来た俺。聞けば本の返却の催促のために来たという。なら俺に行ってもらえばいいじゃん。完結。

 最後の結論の部分はもっともらしい理由を述べようとしていたがさっぱり述べられておらずとにかくくどかった。

 行かないで通すことも出来たがさらに目の前の男と話すのが面倒だから引き受けることにした。

 俺が驚いたのはこの後。

 赤垣先輩の家は伊達組本家だった。男はGoogleマップに載ってると俺にスマホの画面を向ける。

 話をする男にも未だに恐怖が顔から抜けないサキも話を聞く他全員も誰一人笑っていない。

 サキと男は付き合っていたのだろう。だったらお前が行けと何度言いそうになったことか。

 俺は感謝で涙さえ浮かべそうなサキから書類を数枚受け取ると教室を後にした。

 ああ本当に性格の悪い奴ら。

 

 一つ分かったことがあるとすれば赤垣先輩から実害を受けた人はこのクラスにいたとしても数人だと言うことだけ。去り際に聞いても噂話を口にするだけで彼の武勇伝(仮)が増えただけだった。

 俺が男の依頼を受けたのは赤垣先輩への恐怖よりあのクラスへの嫌悪感が優ったことが大きいかもしれない。

 俺は赤垣先輩の印象を何枚もの衣で覆われた唐揚げに例えて連想した。

 俺の最初の人物像は意外と当たっているのかもしれない。

 ふと俺は二巻を借りに図書館に行ったんだと思い出し、図書館に戻った。

 彼女は変わらず読書中。相変わらず姿勢がいい。

「赤垣先輩今日休みだったぞ」

 そう。と彼女は興味なさそうに言った。視線は集中したまま。一応死地になったかもしれない戦地から生きて帰って来たのだからもう少しリアクションしてくれてもいいのではなかろうか。

 俺が二巻を探しに行こうとすると後ろから声を掛けられた。

「二巻持ってるけど」

「また依頼か」

「違うわ。善意よ。あなたに本を見つけるのは無理だろうから」

 彼女はお気の毒にと哀れんだ目をした。本当に人をイラつかせる演技が上手なやつだ。でも俺のためにあらかじめ見つけといてくれたってことか。

「ありがとう」

 彼女は一瞬、真顔になったがすぐに切り返す。

「あなたって馬鹿にされて喜ぶタイプの人だったの」

「そうじゃねえよ。色々言ってるけど俺のために見つけといてくれたってことだろ」

 彼女は何も言わなかった。

 俺が予約を促すと彼女は少し遅れてバーコードをスキャンした。ちゃんと俺のフルネームを教えた。じゃないと借りられないから。

 俺は感謝を述べると同時に名前を聞いた。

 彼女の名前は槙嶋実咲だった。

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