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狼は眠る

作者: 坂下真言

 俺は満月の夜だけ狼男になるワーウルフ。ウィストンと名乗っている。本物の人間になるのが夢である。職業は一応トレジャーハンターとしている。まぁあまり自慢出来る職業では無いが。

「なぁウィストン。今度、西部の廃墟に財宝探しと行かないか?」

 相棒のジョージが話を持ち掛けてきた。コイツもワーウルフだ。同じく満月の夜にだけ狼男になってしまう。ただしコイツは普通の人間を見下している節があるのが難点だ。

「財宝の話か。今度こそ本当なんだろうな?」

「多分な! 追いかけ続けるロマンがあればいつまででも俺達は走り続けられるだろ?」

「ロマンだけじゃメシは喰えないけどな」

「まぁそこなんだよなぁ。今月厳しいんだ。ちょっと金貸してくれ」

「お前……俺からいくら借りてると思ってるんだよ……」

「えーと……ハハハ……じゃあ満月の夜にでも人肉を喰らって保存食にでもするか」

「おいバカやめろ」

「でもウィストンが金貸してくれないなら人でも襲わないとメシ喰えなくて飢え死にしちまうよ」

「ったく……仕方ない。少しでよければ貸してやる」

「助かるー! サンキューな!」

「その代わり人間なんか襲うなよ?」

「いいじゃないか。どうせヤツらは俺達の仲間を殺して自分達が最強と思ってるみたいだし」

「確かに俺達は人間より強い。けれど人間は群れるからな。一度バレたら地の果てまで追ってきて殺されちまうぞ?」

「そいつぁ、ちょっと勘弁だな」

 郊外にある俺の家でジョージとこんな話をしているところを誰かに聞かれたらと思うと恐ろしいと常々思う。まぁ前半の財宝探しは別に聞かれてもいいんだが。俺達がワーウルフという事を知られたら逃げるしかない。それこそ地の果てまで。誰も知り合いの居ない土地まで逃げる。

「で、財宝探しは行くのか?」

 ジョージは俺に尋ねてくる。

「当たり前だろ。トレジャーハンターがロマンを無くしたら無職だ」

「そう来なくっちゃな」


 三日後、準備を整え馬に乗り俺達は財宝の眠ると言われる廃墟に向かった。地図はジョージの頭に入っているらしいので先導して貰う。一応同業者の可能性も考えて護身用の拳銃をホルスターに差し込んでいる。ジョージとは違った意味で相棒である。

 道中は草原だったり森の中だったりとバリエーションに富んだ主に緑色の地を走ってきた。

「あれがお目当ての廃墟だ」

 ジョージが指差す先の森林の奥には城らしき建造物が見える。しかしここからでも分かるほどに朽ちている。確かに財宝が眠っていそうな城だ。人の手が入っていない事を祈るが。

 開けたところに出る。そこには過去に繁栄を極めたであろう城が建っていた。しかし今では蔦が外壁に絡み、ガラスの窓は割れ、城門が崩れ、痛んでいるのがすぐに分かる。

「なるほど。確かに財宝が眠っていそうだな……」

「だろ? 前にここに来た時は調査段階だったんでな。探索の用意はしていなかったから泣く泣く引き返してきたんだぜ? あれから一月も経ってないから人の手は入ってないと思うんだがな」

「スンスン……。ふーむ、確かに人間の匂いはしないな」

「あ、匂いを嗅げばよかったのか。流石ウィストンだなぁ」

 探索を開始する。瓦礫を押しのけ、部屋を開けて回る。貴族の城にありがちな隠し部屋にも注意を払う。

「……む」

「ウィストン、どうした?」

「いや……。空気の流れが変わったなと思ってな。もしかしたら隠し部屋があるかもしれない」

 お偉いさんの私室らしい部屋で絵が飾ってある壁から微かに風の流れを感じる。これは当たりかもしれない。

「お? 財宝の香りか!?」

「どうかな? 確認するまで分からないが……」

「なら早速調べてみようぜ」

「そうするか」

 さて、と絵を取り外す。予想通り隠し通路が続いていた。そして俺とジョージはそれを探索してみた。すると井戸の様な縦穴の底にキラキラ光るモノが見える。どうやら金貨やら宝石っぽい。

「確認してくるか。ジョージ、ロープを貸してくれ」

「あいよ」

 俺は縦穴の底まで降りる。底はかなり広い。予想通り、財宝が眠っていた。これだからトレジャーハンターはやめられないな。

「財宝があったぞー! 袋に詰めるから背負い袋を投げ入れてくれー!」

「やったぜー! んじゃ投げるぞー!」

 上から布袋が落ちてくる。袋にお宝を詰め込んではロープで結びジョージが引っ張り上げる、この繰り返しだ。単純作業だが財宝を見つけたとなると大歓迎の作業だ。これだけの財宝は久々だ。

「よーし、これで最後だぞー」

「了解だー!」

 最後の少量がスルスルと引き上げられていく。

「ハッハー! こりゃ大漁だぜー!」

「とりあえず俺も引き上げてくれー」

 笑いが止まらないジョージは聞こえていない様だ。俺も早く明るいところでお宝が見たいので大声でジョージを呼ぶ。

「おーい! ジョージ、引き上げてくれ!」

「……」

 笑い声は止まったがロープが降ってこない。

「ジョージ?」

「すまんなウィストン。お宝は俺だけが頂く」

「お前……裏切る気か!?」

「これだけあれば遊んで暮らせるからな! じゃあなウィストン!ハッハッハー!」

 縦穴を覗き込んでいたジョージの顔が引っ込む。咄嗟にホルスターから拳銃を引き抜きジョージに向けて発砲する。しかしもうそこに顔は無い。

「おっと危ない。それじゃなー! お前の事は多分忘れないぜー」

 だんだんと声が遠ざかっていく。クソッ! どうにかしてここを脱出しないと飢え死にしか道は残されていない。

 せめて満月さえ見られれば身体能力も上がるのだが……。残念ながらここは屋内で空は見えない……。手詰まりだ。俺は本当にここで飢え死にするのか……? 裏切りのショックが抜けない俺は座り込んでしまった。

「あら? 貴方は……?」

 女性の声が上から聞こえてくる。ハッと上を向くと綺麗な女性がこちらを覗き込んでいた。

「ああ! 助かった! 相棒に裏切られてここに置き去りにされてしまったのです。上に登りたいのですがロープか何か無いですか?」

「貴方には私が見えるんですね。先ほど出て行った方は私が分からない様でしたが……。助けたいのは山々なんですけれど私、ゴーストなんです。だから物体には触れられないのです……。申し訳ないのですが……」

「ゴーストですか……」

「貴方も先ほどの男性も純粋な人間ではありませんね? 魂に色が付いていますよ」

「分かるモノなんですか。俺はウィストンというワーウルフです。さっき出て行った裏切り者はジョージ。同じくワーウルフです」

「なるほど。ウィストンさんですね。私はカルミアと申します」

「カルミアさんか。ゴーストじゃ仕方ない。詰んだな……」

「私に出来るのはこんな風に話をする事や財宝について語るくらいです」

「ん? 財宝に何かあるんですか?」

「ここの財宝には呪いがかかっていまして……持ち去った者は必ず……その……お亡くなりになります」

「ハッ……つまりジョージは死ぬって事ですか?」

「そうなります……」

「いい気味だ……。まぁ俺はここで夢と共に朽ち果てるのみ、か……」

「夢、ですか?」

「ああ、俺は人間になるのが夢でしてね……。俺が死ぬまで話し相手になって貰えますか?」

「ええ、私も久々にお喋りが出来て嬉しいので」

「そう、よかった……」

 急に意識が薄れ始める……。安心したからだろうか? それともジョージの片棒を担いだ俺にも呪いが降りかかったのか……。

「ごめん……。寝ます……」

 俺は縦穴の底で横になる。そして泥の様に眠る……。

「ごめんなさい……。呪いは……」

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