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記憶売り屋

作者: 翠泉

 「一人暮らしって大変だな……」


 俺こと守谷海斗もりやかいとは悩んでいた。

 社会人一年目の男は色々と悩みがあった。

 先ず、料理がろくにできない!

 自分で言うのもなんだが、あんな不味い飯を誰が食えるか!


 他にも色々とあるが目下の目標は料理の上達にある。

 母親って偉大な存在なんだな……

 何か上手い話はないものか……とは思ったがそんなことはないのである。

 そんなことを思いながら強くなってきた日差しを受けながら熱をもった、コンクリートの上を歩くのである。




 見慣れない街に引っ越してきたので、特に意味もなく探索をしているとある店を見つけた。

 三階建ての二階部分に人の出入りが少なそうなお店を……

 その店の周りにある旗には、能力を身につけよう!どんな記憶でもお売りします!と書かれてあった。


 「なんだ?この怪しい店は……」


 そうは呟いていたが何故か気になってしまい、店の方へ足を向けるのだった。






 「いらっしゃいませ」


 そう言いながら丁寧にお辞儀するのは、30代くらいであろう男性であった。


 「本日はどういったものをお探しでしょうか?」


 そうは言われても、どういったものなのかよくわからない。


 「どういったものと言われても……」


 返答に困り口ごもった。

 一体どういったお店なのだろうか?


 「当店では様々な方の記憶を取り扱っておりますが、何か出来るようになりたいのでしょうか?」


 正直言われている意味がわからない……

 興味を持ったついでだ!このままつきあってみよう!


 「記憶って何のことですか?強いて言うなら料理ができるようになりたいのですが」


 わかりましたと一言残し男は店の奥の方へと向かっていった。


 「口頭で説明するのは難しいので直接体験してもらいましょう。ささ、こちらへ」


 怪しさ満載ではあるが言われるがままついていったのである。






 「こちらをご着用ください」


 そう言って渡されたのは得体の知れない機械に繋がれたらヘッドギアだった。


 「これは一体なんなんですか!」


 流石に不気味に思い口調が強くなった。

 これには恐怖心を抱いたのである。


 「説明は難しいのですが、簡単に言えばこの機械から直接あなたの脳に他人の記憶を送り込むのですよ」


 何を言っているのか理解ができなかった。

 そんなこと普通はできるわけないだろう……


 「本日はお代は結構ですので。損はさせませんから」


 困惑しているこちらを察してか間髪入れずに男は言った。

 まぁ無料ならいいかな……

 藁にでもすがりたいくらいに料理が上手くなりたいのだから……




 ヘッドギアを装着してから数分後に外された。


 「もう大丈夫ですよ」


 そうは言われたが何も変化がない。

 やっぱり騙されたかと思ったが料金は無料だからそういうわけでもないであろう。


 「あの……何も変わってないのですが……」


 男に料理をしてみればわかりますよと言われたので、食材を買って家路に着いたのである。






 「取り敢えず夕飯を作るか」

 

 正直何も変わってないのだが……

 ハンバーグでも作るとしよう。


 包丁を持ち、玉ねぎを切ろうとした瞬間にある映像が流れた。

 それは手際よく玉ねぎを切る光景であった。


 「なんだこれは……」


 次の工程をする度にその都度光景が流れてくるのである。

 みるみるうちに店で食べるようなハンバーグが完成したのである。


 「本当にできるようになってる……」


 あまりのことに驚きが隠せなかったのである。






 「一体どうなってるんですか?」


 次の日、またその店にやってきていた。


 「これはですね、他人の記憶を人に与えることができるのですよ。まるでその人が体験してきたかのように」


 信じられないことだが、実際に起こっているのだから信じないわけにはいかない。

 だが、そんなことができるなら何でも出来るようになるのでは?


 「今回あなたに与えたのは三つ星レストランのシェフの記憶です。このようにお金はかかりますがそれに見合うだけのものは提供しますので、今後ともよろしくお願いします。」


 理論などは全然わからないが折角なので利用しないのは勿体ない!

 どんな能力を身につけていこうかな……






 数ヶ月後……


 「次は野球選手の記憶をくれ!」


 今まで様々なことができるようになり、超人と言っても差し支えないようになった。


 「お客様、流石にそこまでされては……既に十分すぎるほどの能力は得たでしょう?」


 「うるさい!草野球の助っ人に呼ばれてるんだ!早くしてくれ」


 今更なんで止めるんだ?

 俺はより完璧な人間になりたいんだ!


 「はぁ……どうなってもしりませんよ」


 いつも通りにヘッドギアを装着して座った。


 「では始めますよ」


 男の声が聞こえたと同時に急に体が熱くなってきた。

 こんなこと一度もなかったのに!


 「うわぁぁぁ……」


 体中に血管が浮かび上がり動かなくなった。


 「だから言ったのに」


 そう呟き男はニヤリと笑った。






 「いらっしゃいませ」


 いつもと変わらず礼儀正しく挨拶をして迎えたのは60を超えているであろう老人だった。


 「いつもお世話になっとるの」


 「いえいえ、本日はどういったご用件で?」


 この老人の目的はわかっているのだが少しからかってみた。


 「この歳にもなると不便でな……金ならいくらでも払う」


 この言葉を待ってましたと言わんばかりに男は口を開いた。


 「若く健康的な男の体が新しく入荷してますよ」


 老人は口元に笑みをたたえるとわかったと一言残し店の奥へと消えていった……

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― 新着の感想 ―
[良い点] 理論分からないのに、なんかできる、なんか分かる。それが借り物だというのはこわいこと。主人公がドツボにはまっていき、行く末がずっとチラ見えしてた。 [気になる点] 最後の段落の老人が、その直…
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