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星座はまだ描けない②

 女三人寄れば、姦しいと人は言う。その意味を辞書で引くまでもなく、ツバサは身をもって体感していた。


「あ、そういえばちゃんとした自己紹介してなかったよね。ウチはフェイってんだ、よろしく!」

「私はイリスと申します……見ての通り花凛な魔法使いです。あとおかわり下さい、ボトルごと」

「わたし、マリーゴールドっていいます! あっ天か、そのっ、ツバサさんの同僚みたいなものでーす! いぇーい!」


 いぇーい、と盛り上がる三人。四人目であるマキナは、ずっとツバサをにらみつける。


「なるほど、マリーちゃんは別にツバサくんの恋人って訳じゃないんですね」


 マキナの方が思い切り肩を震わせる。だがそその反応が、上の空のツバサの瞳が捉える事はない。多分、永遠に。


「まぁ普通に仕事の関係って感じですかね。いますよねーこう男女二人で歩いているだけですぐあいだの恋だの言う人」

「あーいるいる。本当ね、いくつだよお前って」

「今どき子供でもそんな安直な判断しませんよね」


 笑い合う三人、顔を真赤にして震えるマキナ、少し青ざめた顔で天井を眺めるツバサ。


「だってよマキナ! ツバサとこの人付き合ってないってさ!」


 フェイに突然肩を叩かれ、むせるマキナ。その顔には驚きと怒りが満ちているにもかかわらず、若干の笑顔が混じっている。


「いえ、でもツバサくんに恋人がいないとは限らないですよ?」

「確かにそうですね」

「いわれてみれば」


 また固まるマキナ。自分に話が振られた事に気づいたツバサもやっぱり固まるしか無かった。


「で、いるんですかツバサくん」

「いや……いないよ」


 ちょっとだけ惨めな気分になるツバサ。


「ツバサさんって恋人いたことありましたっけ?」

「あー……うん、いない、ね」


 マリーはアルコールで回っている目玉でツバサを捉えながら、普段は絶対に踏み込まないような質問を投げかける。この酔っぱらいがと心の中で悪態を付きながら、ツバサは正直に答える。二回分の人生をカウントすればいた事はあるが、二回目の人生で言えばそうだった。


「へ、へぇー……その、君も見かけによらず真面目なんだね」


 ずっと黙っていたマキナが、ツバサと目を合わさずにそんな事を言う。


「え? いやいやこの人もうモテないだけですから! こうね、女の子が困ってるって言って爆弾投げるような人なんですよ本当!」

「何それ、超ロックじゃないですか」

「いや、うんそれは結構やばいねー」


 いきなりロック認定されたツバサだったが、帰りたいという素直な気持ちは募るばかりであった。なので手元にあったジョッキを飲み干し、ごく自然に席を立つ。


「おかわりもらって来まーす」


 そして逃げる。最初は自然な速度で歩く。それから徐々にスピードを上げ戦線から離れていく。当然おかわりをもらう筈もなく、そのまま酒場を後にする。


 すぐ近くのベンチに腰を掛け、ツバサは一人ため息をついた。帰りたい、いや帰ればいいと考える。どうせそこにいる酔っぱらい三人組にとって自分は枝豆と唐揚げと同類だという事ぐらい理解していた。


 ただ、あまり酔っていない一人は少し気がかりだった。申し訳無さがどこか心に残るのは、いつか彼女に言われた言葉の正当性を理解してしまっていたからだ。自分の夢は、ただの我儘だと知っている。


 彼はぼんやりと空を見上げた。並ぶ星は地球のそれと似ても似つかず、馴染みの星は見当たらない。


「ふん、こんなところにいたのか君は」


 後ろから聞こえる声に、ツバサは振り返らない。


「全く女性が呼んでると言うのに失礼な人だな君は」

「酔ったからね、風に当たりたくて」

「ひどい言い訳」


 そう言ってマキナは、すんなりとツバサの横に座った。顔を赤らめることなく、ごく自然にそう出来た。


「楽しいの、それ?」


 それ。顔を上げっぱなしのツバサを見て、彼女はそう言う。


「結構ね」

「星を見るのが?」

「ヤギとかカニとか探すのがね」

「……どこ?」

「さあ」


 それから二人で間抜けな顔をして、のんびりと夜空を見上げる。無規則な光の羅列に意味を求めて、ただ無為な時間を過ごす。


 星座はまだ描けない。ただ探したその瞬間は、彼女の胸に輝いていた。

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