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無職と無職と星の夢③

 嵌められた手錠、座らされた簡素な椅子、うんざりした顔の警官。二人は互いの顔を横目で見ながら、不機嫌な態度を何一つ隠そうとしない。


「で……名前と職業は?」

「ツバサ・ヴィーゼルです。宇宙飛行士を目指してます」

「おいおいこのダークトラッド様を知らないってか? 全くこの世界ってやつは俺様という超新星に対して無関心すぎるぜ……ちなみに俺様の職業といえば世界中の美少女をハーレムに加えることだろうな」


 真面目な顔をして星のように綺羅びやかな夢を語る二人。だから警官はため息ひとつ付かず、二人分の調書に迷わず無職と書き込んだ。


「普段からこういう事してるの?」

「いえ普段は宇宙飛行士を目指すために色々学んで」

「馬鹿だな、俺様が普段することといえばハーレムの女の子たちに愛をささや」

「いる途中ですね。こっちだとパソコンすらないですから色々不べ」

「くことに決まってるだろ。おやすみ俺の子猫ちゃ」

「んですね」

「んってな」


 んーという短い声を漏らす警官。内心でこの二人は本当に同じ国の人間だろうかと疑ったが、当たらずとも遠からずといったところである。


「ちなみにハーレムって何人いるの?」

「ゼロ」


 思わずツバサは吹き出して、警官は興味本位で聞いたことを若干後悔した。残りの殆どはそんなふざけたものが無いことに安心した。


「あとどっちから殴ったの?」


 互いの顔に顎を向ける二人。正しいのはツバサだが、ダークトラッドだかも素直にはいそうですと答えるような性格をしていない。


「……とりあえず今日は帰っていいから。幸いあそこの主人も訴えないって言ってるし、もうこういう事したら駄目だよ」


 警官は調書を書き終えると、ため息混じりにそう答えた。正直な所、もうこの二人に関わる気はない。さっさとどこかの街へと消えてくれることが、対して上がりもしない自分の給料に対する対価のように思えた。


「全く、変態のせいで無駄な時間を過ごしたよ」

「ははっ、夢見る脳みそ未就学児がなんか言ってるぜ」

「早速喧嘩したら駄目だよー」


 立ち上がりながら悪態をつく二人に、警官は小声でそう呼びかける。返ってきたのは二人分の舌打ちだったが、彼が気になったのはもっと別の場所だった。


「あ、手錠外そうか」

「いや良いです、これぐらい」


 そう答えてからツバサは、魔法で氷の鍵を作って外す。


「全くだ」


 ダークトラッドはといえば、そのまま鎖を引きちぎった。両手に残った銀の輪を、どこかアクセサリーみたいだと眺めながら。


 それから二人はしかめ面をして狭い取調室を後にする。


「……もう来ないでねー」


 閉じられた扉に向けて、警官が一人つぶやく。それがこの街にとって、何よりも幸せな事だと信じて。





「あ、ツバサさんやっと解放されたんですね」


 サングラスとマスクをして出待ちをしていたマリーが、二人の顔を見つけてそう答える。


「良いけどそれ、外したら? 逆に覆面してない方がバレないと思うから」

「たしかに……それもそうですね」


 警察署の掲示板に貼られている手配書を一度確認してから、マリーは変装にならない変装を解いた。


「で、こちらの方とは仲良くなれたんですか?」

「まさか、力任せで女を侍らすような奴だぞ」

「そうなんですか?」

「いっ、いぇぅ、僕は全然違いますっ!」


 マリーの笑顔での質問に、前進を硬直させて答えるダークトラッド。


「って言ってますけど」

「聞き間違いだろ」

「んなわけねぇだろこのボケカスァッ! いま女の子と喋ってんだよ邪魔すんじゃねぇよあぁっ!?」

「えっ、何こいつ」


 突然血眼になって胸ぐらを掴んでくるダークトラッド様。思わずツバサは悪態を付くが、どうやら今だけは彼に届かないらしい。


「お名前……なんでしたっけ?」

「あっはいダークトラッドです!」

「もしかしてお前……」


 ダークトラッド、略して。それを言おうとしたけど、やめた。それはあまりにも男にとって悲しすぎる称号だったから。


「ダークト……いいづらいんで、DTさんでいいですか?」


 だが女のマリーにとってそれは聖域などでは無かった。しょうがなかった。足りない頭じゃそっちの方が呼びやすいから。仕方がなかったんだ。


「いやっ、えっ、その……」


 流石のダークトラッドもうろたえる。だが、マリーの大きな瞳が彼の視点の定まらない目玉を覗き込めば、その台詞は時間の問題でしか無い。


「はいっ、喜んでえっ!」


 出てきた言葉は、心の底から出てきたものだった。それがわかったツバサは、やっぱり吹き出してしまう。ハーレムゼロだからしょうがないよな、なんて内心で思いながら。


「あっ、その……じゃあなDTさん」

「お前はダークトラッド様って呼べえっ!」

「またどこかで、DTさん!」

「あっはい! 喜んでえっ!」


 そして二人と色んな意味での一人は別れる。彼女の影が小さくなるまで彼はその手をブンブンと振り続けていたが、マリーが振り返ることは無かった。決して。


「ところでツバサさん、この街で収穫何かありました?」

「そうだなぁ」


 頬をかきながら、ツバサは思う。その頭にはもはやスポンサーの事とか殴られた事とか消えていたが。


「DTのあしらい方……かな?」


 彼にしては珍しく、心の底から笑っていた。

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