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邂逅、そして戦い③

「阿呆が!

 殺さぬなどと甘い事を言っておるからじゃ!」


 ガキんちょの姿で俺に怒鳴る実姫。

 だが、下から威張られてもなんて事は無い。

 ただやかましいだけだ。


「これやるから黙ってろ」

「む?」


 拾ったチョコバーを開けて渡す。


「こんな物で! 誤魔化される……と……ふにゅぅ……」


 一口齧り蕩ける実姫。


「風果はどうしてここに?」

「札の封が開いたり閉まったり。

 何かあったと思うでは無いですか……」

「ああ……」


 そういう事か。


「この……方は?」


 黒くそびえ立つオベリスクを見上げながら問う風果。


「末路は猿」

「……はい?」


 俺の答えに風果が首を傾げる。


「……知らないのか?」

「存じません。何の事ですか?」

「『Lを待ちながら』は?」


 ……風果は、首を横に振る。

 何故知らない?

 小さな疑問が出来た所へAとKが小走りでやって来た。

 その姿を見て、風果が俺の後ろに隠れる様に動く。


「まだ、苦手なのか?」

「……少し」


 風果は軽い男性恐怖症で、俺以外の異性からは距離を置きたがる。

 それは過去の事件に起因するのだが……。


「痛てて……」


 顎を抑えるA。

 そしてK。


 二人共説明をしろと、そう目が物語って居る。


「妹」


 僅かに身を捻り、俺の背後に隠れる風果を紹介する。


「妹ちゃんが援軍かよ。

 俺はアルファ、通称コードネーム、Aだ。

 よろしく」

「僕はキング」

「……フーカ……です」


 背後で妹が、蚊の鳴くような声で言う。

 俺の前で見せるドエスの顔とはえらい違いである。


「よろしく。フーカだからエフだな!」

「……」


 Aの軽口に風果が身を小さくする。


「はしゃぐな。

 まだ終わってない」

「捕まえたんじゃ無いのか?」


 Aが黒のオベリスクを見上げる。


「捕まえただけ。

 中ではまだ元気一杯だ。

 まあ、破られはしないけど」


 そう言った俺をあざ笑う様にドンと言う振動と共にオベリスクが揺れる。


「嘘だろ……」

「嘘……」


 俺と風果が同時に呟きながらオベリスクを見上げる。


「阿呆どもが。

 早晩、這い出てくるぞ。

 さっさと逃げるんじゃな」


 口の周りにチョコをべったりとつけた実姫がドヤ顔で言う。

 風果がしゃがんで手招き。


「そいつも妹?」

「式神」

「へー。そう言うのもあるのか」


 関心するK。

 何なら君の能力と交換しても良いよ?


「で、何でその式神のちびっ子が偉そうに指図してる訳?」

「主らが余りに愚かだからであろう!」


 風果に口の周りを拭いてもらいながら実姫が口を尖らせる。


「口が悪いのは親父似か?」

「親じゃ無い!」


 再びオベリスクが揺れる。

 先程より、激しく。

 内と外とを隔絶する結界。

 中でどれだけ暴れようと、外に影響など無い筈なのだ。本来は。

 以前、風果には一瞬で無力化されたが、あれは揺蕩(ようとう)と言う術だろう。

 俺と風果の術によって二重に施された結界を内から力で無理矢理に壊そうとして居る。

 そして、目論見通りそれは成されようとして居る……。


「逃げぬのか?」


 再度、実姫の問いかけ。


「そう言う訳には行かないんだよ。

 ガキにはわかんねーと思うけど」


 そう言ったAを実姫が睨み付ける。


「貴様に何がわかると言うのだ?

 人は神に抗えぬ。だから贄を捧げ、怒りを逸らし慈悲を乞う。

 それが古来よりの慣わしであろうが」


 言って、首を回しその目で俺を射抜く。

 お前もそうだろう。

 そう言う様に。


「お兄様、退きましょう」


 風果も同意見、か。

 意見が割れたな。


「A。こいつはランクSを軽々と上回る力を持ってる」

「はい、そうですか。て訳には行かねーだろ。

 お前、こいつを許せるのか?」


 俺は首を横に振る。

 このまま帰っても、何も変わらない。


「俺にはまだ切り札がある」

「俺にもだ」

「お兄様、まさか……」

禍津日マガツヒの封を開ける。それからお前は逃げろ」

「止せ」


 風果に言った言葉を実姫に遮られる。


「神の力が共鳴し体を乗っ取られるぞ。

 今の封印でさえ、危うい」


 そう言えば、一瞬視界がヒリついたな。

 ……ここは実姫の言葉に従おう。


「そうか」

「万が一、お兄様が暴れような時は息の根を止める者が必要ですよね?」

「お前も残るのか」

「そもそも私が来なければ、もう死んでたのではありませんか?」


 俺に対してはやたらと強気な妹にぐうの音も出ない。


「……勝手にしろ」

「手はあるのか?」

「荒御魂ならば鎮め、御座所(おましどころ)にお戻りいただく」

「どうあっても器は殺さぬつもりか」

「ああ、不相応な器になった事を後悔させる」

「神に抗うのじゃ。残忍な選択を厭わぬ事じゃな」


 そう言いながら実姫が剣鉈を手にオベリスクの前へと歩み出る。


「何をするつもりだ」

「囮じゃ。童の姿であれば多少は油断するであろう」

「死ぬ気か!?」


 実姫が振り返り、俺を見上げる。


「形代があれば蘇る。

 何を心配しておるのじゃ?

 残忍な選択を厭うなと、今、そう言うたであろう」


 それは、そうなのだが。


「後でまたアレをくれればそれで良い」


 チョコバーか。


「もう無いぞ」

「用意するのじゃ!」


 簡単に言うなよ……。


「Kは門の近くに居てくれ」

「……僕も……戦う」


 その宣言に首を横にふる。


「石橋は誰かに叩かせる。

 それがランカーに上がるコツ。

 今回はAがその役。

 危なくなったら俺達は逃げる」

「おおぉい!」


 地雷を踏み抜く人柱が抗議の声を上げるが構わず続ける。


「それに、援軍が来たときに説明する役が必要だろ?」

「増援って、フーカ(エフ)じゃ無いのか?」

「ああ……まだ来るかも知れないだろ?」


 フーカはハナの送ってきた援軍とは違うのだが、その辺の説明は後にしよう。


「それにハナに情報を持っていかないと。

 ……高く売れるぞ」

「……分かった。

 そしたら三人で焼肉食いに行こう。

 いや、四人か」


 その視線がA、そして風果と順に移り、風果は咄嗟に顔を伏せる。


「三人で」


 俺の答えに何故かしたり顔で笑うK。

 そして軽く手を上げ門の方へと進み行く。


 さて。

 振り返り、オベリスクを仰ぎ見る。

 今までで一番大きな振動。

 もう、持たなそうだ。


PROWESS(プラウエス)


 右手の長棒を縦に持ち、黙祷しながらその手を顔の前に掲げ短く発するA。

 直後、長棒が光を放ち彼の周囲に鎧が浮かび上がる。

 具足、篭手、胸当て、肩当て、盾。

 漆黒に輝くそれらが順に装着されていき、最後に真っ赤なマントが翻る。

 馬上槍へと変化した右手の得物を一振り。

 その軌跡に緑の炎が揺らめく。


 ……超カッコイイんですけど。


 俺も!

 と、思ったけど止めた。

 祓濤(ばっとう)による人刃一体。

 それは切り札。

 雷光を纏う直刀、金色猫。

 灼熱を帯びる豪刀、陽光一文字。

 無音の人斬り包丁、蒼三日月。

 それぞれに強さの質が違う。

 猿の出方に合わせ変えるべきだ。


 剣鉈を担ぎ、オベリスクの前に立つ実姫の斜め後ろへとAが位置取る。

 そこから少し離れ俺と風果。


「風果。神奥寄かみおくり、行けるか?」


 鎮ノ祓(しずめのはらい) 捌拾玖(はちじゅうく) 神奥寄(かみおくり)

 移ろ神を本来の住処、御座所(おましどころ)へと送るすべ


「愚問です」


 問いかけに涼しい顔で答える風果。


「タイミング、合わせろよ。

 A、実姫。気を逸らして動きを止めてくれ」

「了解」

「相わかった」


 振り返らずに答える二人。

 結界は最早限界だった。


「来るぞ!」


 俺の声と共に、黒い墓標の様にそびえ立っていた結界が砕けるように崩壊する。

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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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