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邂逅、そして戦い②

 結局、見えた船の残骸を回り込むように三十分ほど歩き、砂上に佇む門を確認する。

 その横に、人影が一つ。


「さて、どう来るかな……?」


 Aが、歩く速度を落とさずに呟く。


「増援はアテに出来ないな。

 向こうはこっちが自分を追いつめる猟犬だとは思って居ない筈だ。

 それは最大限利用しよう」

「俺らで倒せば良くね?」

「まあ、それでも良い」


 Aは戦う気か。

 だが、そう簡単に行くとは思えないのはどうしてだろうか。

 しかし、ここでAの気を削いで仲間割れをしても面白くない。


「相手は殺す事に躊躇いは無い」

「わかってる。

 こっちも殺す覚悟で行け、だろ?」

「違う、殺すな。死体は向こうに送れない。

 ここで彼奴を殺したら俺達の負け。

 逆に殺されても、俺達の負け。

 ヤバイ時は逃げる」


 半分自分に向けた言葉。


「注文が多いな」


 多くないだろ……。


「K、これを」


 大里に御識札と白縛布を渡す。


「布は三時間で消える。

 でも、ヤバイと思ったら迷わず逃げろ」

「あ、うん」


 ここ数日で随分と強くなったが戦闘はまだ経験不足だろう。


 わざとらしくこちらに気付いた様な仕草をした後に歩み寄ってくる人影。


「まずは交渉。

 手を取り合って一緒に帰りましょう。

 頼んだぞ、A」

「注文が多いな」


 俺よりは口が回りそうだからな。


「Kは、少しずつ離れながらついてきて」

「ああ」


 Aが先行し、近寄っていく。

 長棒を肩に担ぎ、自然に歩いている様に見えるが警戒の為だろう。

 その歩幅は何時もより僅かに短い。


 俺も武器は抜かない代わりに紙片を左手に握りしめる。


「帰らないんですか―!?」


 Aが、遠目に見える男にそう声をかける。

 砂の上を悠然と歩いてくる男のその顔はハナに見せられた画像と瓜二つ。

 ただ、表情が違う。

 死んだ魚の様な目をした世捨て人。

 モニター上に映し出されたのはそんな男だった。

 しかし、今俺達の前にいる男は少年の様に楽しそうな笑みを浮かべている。

 手に持つ得物は……槍か?

 あれを奪い取って、布で縛り拘束する。

 地から伸びる鎖で縛り付け拘束する縛鎖連綿は、強すぎて人の体を命ごと壊す恐れがある。

 隔絶する結界、方栓柱は対象を隔絶するのみで無力化することは叶わない。

 生きて捉える。

 それは、意外と困難なものだな。

 結局力で抑え込むしか無い。

 しかし、二対一。実姫も呼べば三体一。

 問題ないだろう。


「船の中、見た?」


 Aの質問を無視して標的サルがそう尋ねてくる。


「見てないっす」


 そう答えると露骨に残念そうな表情を浮かべる。


「あっそう。まあ良いや。見せてあげる」

「興味ねーよ!」


 答えると共に、Aが地を蹴りサルに向かい突撃。

 サルから漏れ出る殺気に逸ったか。


「雨乞いは涙となり果たされた

 灯火

 消えてなお、消えぬ

 唱、漆拾参(しちじゅうさん) 現ノ呪(うつつのまじない) 神寄(しき)

 喚、実姫みのりひめ


 経過はどうであれ、戦いになってしまった以上早々に片を付けるべきだ。


「彼奴を取り押さえる」


 しかし、俺の指示に牛頭は顔を顰め意見する。


「儂が押さえ付けるゆえ、儂ごと斬れ」

「……違う。殺すんじゃない。生け捕りだ」

「……ヌシ、正気か?」

「……何?」

「アレに気付かぬほどのその目が濁っておるのか? 直毘よ」


 何を言っているんだ? 実姫は。

 間合いを詰めたAの連撃にサルは防戦一方だ。


「……気に入らないならそこで見てろ」


 踵を返して逃げられては面倒だ。

 俺は剣を抜きながら挟み込むように猿の背後へと足を運ぶ。


 長棒による五月雨のようなAの突きに押される猿。

 が、突然Aの顎が跳ね上がり、その動きを止める。

 膝から崩れ落ちるA。

 何が起きた?

 事態を理解出来ぬままそれを成したであろう猿の背後へと斬りかかる。

 Aが槍で貫かれるその前に。

 迫る俺の気配に振り返る猿。

 愉悦に歪むその顔は挟撃され追い詰められていた者のそれではない。


「ッ!

 分かつ者

 断絶の境界

 三位さんみ現身うつしみはやがて微笑む

 唱、拾参(じゅうさん) 現ノ呪(うつつのまじない) 水鏡(みずかがみ)


 咄嗟に足を止め呼び出した盾が、逃げるように後ろに下がる俺と迫る猿とを遮る。

 直後、しなやか水の盾を貫き尚も飛び来る小さな無数の礫。

 石、か。

 盾に勢いを削がれたその礫は俺の体にさしたるダメージは与えず。

 しかし、俺の気を削ぐには十分だった。

 朧兎が猿の持つ槍に貫かれ、弾けるように消滅。

 その穂先が俺の眼前に迫る。

 身を捻り、烏墨丸でそれを払い避け体を入れ替えるように躱す。


し縛る者

 連なるは人為らざる者の声

 縄と成りて足手を縛る

 唱、弐拾玖(にじゅうく) 鎮ノ祓(しずめのはらい) 縛鎖連綿(ばくされんめん)


 そして、術で猿を縛り上げる。

 ……ってしまった。


 一瞬の後悔。

 だが、地から伸び、猿を雁字搦めに縛り付けた黒い十六本の鎖はまるで砂のようにサラサラと崩れ行く。

 悠然と立ち、俺に見下ろすような視線を向ける猿。

 その目の奥が僅かに金色に光り、向けられた気に全身が総毛立つ。

 左眼が、頭がチリチリと……。


 ――『僕』と神は一つになった。


 何度か読み、引っかかっていた『L待ち』の一節。

 ……まさか、こいつ……神憑かみうつり、か?

 神霊をその身に乗り移らせ神の権化としてその力を現す者。

 俺と……同等の……?

 いや、封ぜられている分、俺の方が力は弱い。


 思い至った最悪の結論。

 戦いの最中、一瞬の呆け。


 再度、穂先が俺に向く。

 実姫が飛び掛かっていくのが見えた。

 だが、それより早く猿の穂先が俺を貫くだろう。

 先々の先を読み取る『流転』の術が、俺に逃げ場の無いことを伝える。


 ……抗え。

 勝ち筋を探せ。


 逃れるように、身を後ろに。

 術を唱えながら。


祓濤(ばっとう) 藤切(ふじきり)


 視界の端に、黒い人影が。

 直後、猿に向け振り下ろされる大太刀。

 その太刀筋から舞い消え行く紫の小片は、さながら藤の花。

 そしてそれに鮮やかな赤が混じる。

 切っ先が猿の肩口に食い込み鮮血を上げた。


「剣立て重石と成す

 深く、高く

 羽音 舞うは白羽根

 唱、弐拾肆(にじゅうし) 鎮ノ祓(しずめのはらい) 封尖柱(ほうせんちゅう)


 体勢を崩した猿を術の中へと封じ込める。


「声は想いを木霊させ消え行く

 降る雨は形を変え

 幾重にも重なり一つとなり

 唱、肆拾伍(しじゅうご) 命ノ祝(めいのはふり) 浮襲(うわがさね)


 そびえ立つ黒いオベリスクを包み込む様に風果が術そのものへと強化を施す。


「……助かった」


 強張る顔を俺に向ける妹にそう笑いかける。

 何故、ここに居るのかはさておき。

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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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