邂逅、そして戦い①
……当たりか?
砂漠。
遠目に見える船のような残骸。
そして、照りつける日差し。
空。
身を隠せるようなところは……無いな。
「唱、拾玖 鎮ノ祓 六合封緘・壊」
ここが、転移の開始位置ならばAとKが続けざまに現れても不自然ではない。
いや、三人続けざまに現れる。十分不自然なのだが仕方ない。
誰が来るかを観察するのにうってつけのだだっ広い砂漠と身を隠すのにおあつらえ向きの障害物。
出来すぎて無いだろうか。
程なくして、黒い二人組が現れる。
「ここはッ!」
叫び声を上げかけたKの口をとっさにAが手で抑える。
さっきまで女の子隊員が欲しいと言っていたふざけた顔から一変して真剣な表情。
「大丈夫。周りに気配はない」
「そうか」
「……ごめん。気をつける」
「さて、増援が来るまで待つか、門を探すか、それとも、標的を探すか」
とりあえず、この先の行動を口にする。
どれを選ぶべきか。
「標的を探す」
そうAが提言する。
「どうせあそこに居るんだろう?」
そう目で船の残骸を指し示す。
距離にして、およそ1キロほどだろう。
まるでどこかから運ばれてきたように砂の上に置かれ朽ち果てた大型船。
赤茶けた錆に覆われたその残骸は砂一面の風景に違和感なく溶け込んでいる。
「門は向こうだ。
ここからあれを挟んで丁度反対」
Kが船の残骸を指差しながらそう告げる。
どの道、向こうへ行かねばならない訳だ。
此処に留まるという選択をしない以上。
そして、ここに留まると言う選択は、仮に標的がこちらを観察していた場合、必要以上に警戒を与えることになる。
ならば、足を進めるべきか。
「十分警戒しながら進もう。途中で襲われる可能性もある」
二人にそう告げる。
そして俺は術で布を作り出し手に巻く。
三時間。
その間に増援が来る。
その手筈だ。
どんな奴が来るのかわからないけれど。
「いきなりは襲ってこない」
Aはそう断言した。
そして、歩みを進めながら持論を展開する。
「何故そう言い切れる?」
「L待ちがそうだ。
相手に近づき観察して、自分より弱い、勝てる。
そう確信した奴にしか手を出していない。十一人、全て。
そしてサルは、必ず行動の前に何かしらの手順を踏む。
例えば、『こういう出会いになって残念だったよ』。
とか」
――違う世界で出会っていたら。そう思うとつくづく残念だ。
――君が死んでしまうということを想像するととても悲しい。残念な気持ちでいっぱいだ。
――君が理解してくれなくて残念だよ。
――僕らは理解し合えた。そう思うと残念だ。
標的はあのテキストの中で、そういう表現を度々使っていた。
自分を理解出来ぬ相手に非がある。だから殺さざるを得ない。
そういう様なニュアンスで。
そうだろうか?
周りは何もない砂漠。
そこに、少し違和感を覚えた。
周囲に敵の気配はない。砂漠の下に魚が、という事も無さそうだ。
魔力の元となる敵が少ない。
それは、長時間籠もるのに適している世界だとは思えない。
活動を続けるための魔力が枯渇しそうでは無いか?
『L待ち』が世に出てから半月強。
何度か異世界へ行った後、砂漠からずっと動いていない。
そうハナは言っていた。
つまり、此処を仮の住処に定めたということだろう。
何故だ? もっと魔力の得やすい所でも良いはずだ。
見通しが良い。
それは分かる。
だったら、十二人目の犠牲者は既に現れていてもおかしくは無いのでは?
ここには居ない。外れ……か?
いや、楽観視は止めよう。
冷静に、悪い方へ考えるべきだ。
此処に居る。
そして、獲物を待っているのだ。ずっと。
十二人目は既にその毒牙に掛かった。
十三、十四の犠牲者もとうに出ている。
そうして居れば、魔力は尽きない。
人であれ、殺せば魔力は手に入るのだから。
障害物の少ないこの場所は、現れた獲物を見つけ、狩るのに格好の世界だ。
……前提が成り立たなくなってきた。
L。つまり次の獲物を待っているとそう言っていたのだ。
そこから受ける印象は影に潜む偏執的なシリアルキラー。
しかし、ここで行っているのは無差別な捕食?
狡猾に罠を張り、不特定を狙うスプリーキラー。
……罠?
十二人目の標的を待つシリアルキラー、それは見せかけの疑似餌か? ……『L待ち』、それ自体が罠?
だとしたら……
「A、少し迂回して先に門を見つけよう」
先頭を歩くAにそう提案する。
「何でだ?」
「罠の可能性もある。
退路は確保しておくべきだ」
「オイ。ここまで来て手ぶらで戻るつもりか?」
「勘違いするな?
俺達が優先すべきは奴を捉えることじゃない。
生きることだ」
猿に挑んで死ぬ。
そんな事をしても何の得も無い。
「何でそんなにビビってんだよ」
「勘」
俺の返答にAは不本意そうな表情を浮かべ、進む方向を訂正する。




