大里の能力
こうやって混乱して居る内に引き込む。
そう言う作戦なのだ。
今は、丁寧な同意を取り付けている暇は無いのだから。
俺は勝手にそう解釈する事にした。
まあ、道々説明しよう。
長い作戦になるだろうから。
そのはじめの一歩。
降り立つ異世界。
「おあつらえ向きかよ」
洞窟。
目の前に三本に別れた道。
左右にも。
そして後方にも三本。
周囲に敵の気配は無い。
俺は荷物袋から御識札を取り出し地に置く。
そして、三歩。
一メートル程離れる。
直ぐに空間が歪む。
「……成功だな」
俺の顔を見たAが、ニヤリとしながら呟く。
「お前、鎧変えたの?」
「こっちの方が良いだろう?」
ドヤ顔のA。
以前は白かった鎧が黒になっている。
「真似すんなよ」
「は? してねーし」
いや、しただろ。
譲れないアイデンティティをぶつけ合う俺達の前で再び空間が、歪みを見せる。
首を回し周りを見て、ポカンと口を開けた大里。
いや、キング。
「ようこそ、キング。いや、K!」
Aが芝居かかった口調で両手を広げる。
「ケイ……?」
まあ、そう言う反応だよな。
「コードネームさ。
俺はA。そして、顔見知りみたいだがこいつはL」
「ケイ……」
顎に手を当て、眉間に皺を寄せるK。
まあ、そう言う反応だよな。普通。
「ケイ……キング・ケイ……か。悪く無いね!」
笑顔で顔を上げたKにAがサムズアップを送る。
本人が良いって言うなら良いけどさ。
「さて、説明は聞いてると思うけど、Kには門を探して欲しい。
AはKの護衛役。
時間的に戦いは避けたいけれど、魔力の枯渇も怖い。
狩れそうな敵は狩りながら進む。
他の人間とは絶対に絡まない。
それが、商売人でもだ」
そう説明しながら御識札を拾い上げ、手早く呪文を唱え封印。
「商売人は使った方が良いんじゃ無いか?」
AがKの姿を見ながら言う。
彼は、粗末なズボンに上半身は裸。
「いや。今得られそうな情報は無いし、装備は俺に考えがある。
とは言え、さすがにこのままって訳にも行かないか。
装備、余ってるか?」
「使い古しなら」
そう言ってAは荷物を広げる。
俺も自分の荷物の中から使い古した外套を取り出しKに渡す。
「ああ、ありがとう。
御楯……Lはこっちだと随分と頼もしく見えるんだね」
「あんまり気を許さない方が良いぜ」
Aが靴を出してKに渡す。
「取り敢えず、それを身につけておいて。
代わりは後でちゃんと用意する」
「そうなの?」
「靴を履いたら直ぐに門の場所まで案内してもらう。
出来るんだよね?」
しっかりと頷くK。
その顔には自信が見て取れた。
彼が靴を履く間にAに問いかける。
「お前なら、どの道を選ぶ?」
周りには八本の道。
正解はひとつだけ。
「俺は……あれだな」
ぐるりと見回してからその内の一つを指差す。
「何で?」
「一番でかいから。
こう言う場合はでかい所から行くのが正しい」
「成る程ね」
「お前は?」
「俺はその横」
Aが言った道の右隣を指差す。
「何で?」
「下り道だから。
経験上、下に門がある事が多い。
ハズレならそのまま時計回りに一つずつ潰して行く」
「完全に分かれたな」
「正解は直ぐにわかるだろ?」
その為のKだ。
「よし。ありがとう。
じゃ行こうか」
靴を履き、外套を羽織ったKが立ち上がる。
「こっちだろ?」
「そっちだよな?」
互いに自分の信じる道を指差す先輩エージェント達。
しかし、Kは首を横に振る。
そして、ゆっくりと正解の場所を指差す。
「「え?」」
それは八本のいずれでも無かった。
真上。
見上げると確かに壁の上、三十メートル程登った場所に小さな横穴があるように見える。
「あれか」
「お前、登れる?」
「問題無い」
問いかけにAは当然だろと言うように答える。
「Kは?」
「……」
Kは見上げたまま問いかけに答えない。
「大丈夫。
……FRANCHISE」
Aが右手を自分の胸に当て、左手をKにかざす。
微かな光が左手からKへ。
強力な力が流れ込むのを稜威乃眼が捉える。
「これは……」
「俺が先に登る。
同じ所をついて来い」
「上から敵が来たら対処出来るのか?」
「大丈夫だ」
俺の問いにそう返し、ロッククライミングを開始する。
「じゃ俺は下で警戒すれば良いのかな?」
「任せる」
「わかった。急げよ」
「え、え?」
「K、ここは外れ。
とっとと次に行く。
作戦、覚えてるだろ?」
「あ、うん」
スルスルと壁を登って行くA。
その後をKが追いかける。
他人の強化、か。
便利な能力だな。
俺は剣を抜き、下を警戒する。
五分と経たずに二人は横穴へと辿り着いた。
それを確認し、天駆で一気にそこまで駆け上がる。
ポカンと口を開けて俺を迎える二人。
その直ぐ奥に確かに門が存在した。
「とっとと戻って次に行くぞ」
二人に先に帰還を促す。




