インペリアル・マーチと共に
「何とかなりそうだから作戦を考えろ」
一度、会議室へ顔を出し、それだけ言ってハナはどこかへ消えて行った。
飯買ってくると言ってAも消え、俺はレアーの端末を使いレポートを漁る。
砂漠世界……それらしい物はヒットせず。
登録名、天、ten、テン……こちらも同じく。
大して得るものも無く会議室へ戻るとAがコンビニのおにぎりを齧っていた。
お茶を流し込み口の中を空にしてからAが俺に問う。
「作戦出来た?」
「え、俺が立てんの?」
椅子に座りながら返す。
何で俺が考えることになってんだよ。
「だってランクAだろ?」
差し出されたおにぎりを受け取る。シャケ。
「関係あるのか?」
「オネシャス。隊長」
「分かった。
えっと、もうひとりは多分そんなに経験ないのでお前守ってやってくれ」
「ランクは?」
「知らない。聞いてない」
「足手まといじゃなきゃ良いな」
「何いってんだよ。
お前が盾になっても守るんだぞ?」
「は?」
「能力的にそうだろうが」
現時点で替えの効かない能力だ。
優先度でいえば、俺、大里、そしてAとなる。
「えっと、一応聞くけど可愛い女の子?」
「可愛くない野郎」
「だと思ったよ!」
或いは可哀相な男の子。
「……信じて良いんだよな?」
少し間を置いてから、Aが俺の方へ真剣な眼差しを向ける。
「誰を?」
「お前ら」
「敵の敵は味方。
その前提で、自分の命は自分で守れ。
それぐらいは出来ると、俺はお前を信じてるけど?」
そして、俺のことを後ろから刺す様な事も無いだろうと。
ただ、大里はどうだろう。
俺は、友人だと思っているけれど。
本人の同意も得ずに変な組織に巻き込んでしまった。ひょっとしたら恨まれるかも知れない。
できれば、穏便に連れてきて欲しいものだ。
そう。穏便に……。
やがてハナが会議室に戻り、ラップトップの向こうのレオナルドと打ち合わせ。
俺が向こうに行って、すぐにAと大里を転移させる。
そのまま五分程待っても来ないようならば、座標指定転移システム自体のトラブル。
作戦は中止。
俺は一人帰還のための行動へ移る。
成功の場合、二人の転移を確認し次第、御識札を封印。
三人で門を目指す。
以後は、俺が転移して安全を確保した上で御識札の封印を解除。
二人の転移後、御識札を封印。
そう言う事になった。
そして、砂漠世界へ行き着いた場合、身を隠し御識札の封印を解除。
それを確認し次第、こちらから可能な限りの人員を派遣。
ただし、待つ時間の上限は三時間。
それを越えても人が現れない場合は三人で猿を無力化の上、こちらへと強制帰還させる。
或いは、成果無く逃げ帰る。
大筋は、そう言う事になった。
強制帰還させたその後どうするか。その手はずは既に整っているとハナは断言した。
俺はスマホのカレンダーを見ながら、今週中にこの作戦が終わるか。
終わらなかったらどうなるか。
それを考える。
来週末は体育の日を含む三連休。
それが開けると……中間考査。
正直、G Playやってる余裕なんて無いのである。
その辺、大里とAはどうなのだろうかね。
後は臨機応変に。
そんな感じでラフな作戦会議は終了した。
そして再びハナにミーティングスペースに連れ出される。
「レオナルドからの質問よ。
転移の座標になりうるポイントが幾つか観測されている。
何か知っているか、と」
「……類似のものがあと二つ。
それぞれ別人が持っている筈です」
風果と夏実。
俺の返答を打ち込んだのだろう。
ラップトップのキーボードを叩いた後に、ハナが少し眉間に皺を寄せる。
「今回の作戦に協力する代わりにマーカーを一つ寄越せと言っているわ」
「……わかりました。
用意します」
それぐらいは、必要経費……。
窓の外は赤く染まる都心のビル群。
夕陽が沈もうとして居た。
「あの、今回の事に夏実は巻き込まないで下さい」
言って素直に首を縦にふるとは思えないがそれでも言う。
「同じことをアンが言っていたとしたらどうする?」
「え?」
「アンを心配させないためにも、さっさと終わらせたいわね。
こんな騒ぎは。
……お客さんの到着ね」
仮の話だったのか何なのか。
それを確かめる間もなくハナは会議室へと引き返す。
とても楽しそうに。
◆
会議室のドアが開き、三人の男がまとまって入ってきた。
俺とAはその光景に目が点になる。
黒のスーツにサングラス。
二メートル近い身長のガタイの良い男二人。
一人は黒人でもうひとりは白人。
俺達みたいなにわかと違う本物のエージェント。
そう、まるでスクリーンから出てきたような。
そんな二人に挟まれた男。
頭にすっぽりと黒い布を被せられている。
目が見えていないのだろう。
脇を抱えられ、引きずられるままに千鳥足で歩き、そのまま椅子に座らせられる。
横目に見たハナの顔は心底愉快そうに笑っていた……。
黒人エージェントが座った男の頭巾を外す。
アイマスクと巨大なヘッドホンを嵌められた……
「大里!」
俺の叫びに大里は微動だにせず。
聞こえていないのか?
白人エージェントが大里の頭からヘッドホンを外す。
そして、大里の座らされた椅子から一歩後ろに下がり控えるように立つエージェント達。
「え、な、なんですかこれ」
非道く不安げな大里の声。
「アイマスク、外して良いわよ」
猫なで声のハナ。
恐る恐る、アイマスクを外す大里。
「……え、誰? どこ? アナスタシヤは?」
キョロキョロ周りを見渡す大里。
俺と目が合う。
「あれ? 御楯!?」
「……お、大里!? どうしたんだお前!!」
俺は、とぼけることにした。
何も知らなかった。
そういう体で。
マジカヨコイツ。
Aの呆れた様な視線がそう言っている。
「大里君。登録名、キング。
貴方は我々のエージェントとして選ばれました。
おめでとう」
そう言ってハナが立ち上がり手を叩く。
黒人と白人の二人も無表情のままパチパチと拍手。
なんだ? この茶番は。