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広がる波紋

 ――Lを待ちながら


『僕』と言う存在に意味なんて無い。

 そう思いながら十数年間を無意味に生きて来た。

 周りと違うと思いながら、周りと同じ様に。

 つまり『僕』もまた周りと何一つ変わらない存在なのだ。


 だから、これを読んだ『君』は『僕』であり、『僕』はこの後に名を上げる『君』の一人であるのだ。


 ◇◇◇◇◇◇


 こう言う書き出しで始まる文書は、『僕』がG Playで異世界へ転移する所が序章となる。

 暗闇の洞窟で『僕』は何者にも会わず三日三晩彷徨う。


 ◇◇◇◇◇◇


 誰かの声が幻聴となって絶え間無く鳴り響く。

 あった筈の明かりはきっと幻覚だったのだ。


 息苦しい。

 とても寒い。

 体が押し潰されそうだ。


 それは死ぬ間際の、幻覚だったのかもしれない。


 光に包まれた。金色の。

 焼け付く様な体の熱さ。痛み。

 鼻から肺まで焼け付く様な空気が通る。


 目を開けると、そこに神が居られた。

 金色に輝く星の神。

 絶え間無く揺れ動く金色の瞳に射竦められる。

 その神は『僕』に全てを与えて下さった。

 『僕』と神は一つになった。


 『僕』に会えば『君』もわかる筈だ。

 『君』は『僕』なのだから。


 ◇◇◇◇◇◇


 こうして、作者は力を手に入れたらしい。

 その後に続く一章からは異世界で出会いから殺すまでが克明に描かれて居る。


 彼の興味の赴くままに犠牲者の肉を削ぎ、臓器を刳り、命を奪う。遺体を舐めまわし精液を擦りつけ挙句その遺体を食す。

 そんな狂気が、事細かに。

 殺す前に聞き出したと言う犠牲者の名と共に。



 部長氏の言葉に素直に従えば良かった。

 吐き気を堪えながら、それを一晩かけて全て読んで後悔した。

 どうしてこんな物が拡散して居るのか。

 村上の知り合いが何人目の犠牲者かは知らないが、聞きたくもなかった。


 ――殺してよ


 もし、俺がこれを読んだ後にそう言われて居たら何と答えただろう。


 抜ける様な秋空の下、沈んだ面持ちで学校へ。

 正直、村上とは顔を合わせたくなかった。

 もう一度同じことを言われたら。


 帰る……か。


 駅を出た所で立ち止まり、踵を返す。

 そして振り返った先に知った顔。


「おはよ」

「……よう」


 決意を挫く様に夏実に捕まる。


「何? サボり?」

「……いや、行く」


 彼女の顔を見て、少し気が紛れた。

 今まで異世界で死にそうになっても頑なに守って来た母との約束を、あんな訳のわからないテキストにぶち壊される所だった。


「何か村上が騒いだって?」

「何で知ってんだよ」


 夏実は昨日は体調不良で休みだったのに。


「で、徹夜で読んだ、と」

「何でわかるんだよ」

「隈出来てるし」


 マジか。


「夏実さんも……?」

「読んだ!」


 恐る恐る尋ねた俺に明るく言い放つ夏実。


「で、気分悪くなったから昨日はサボった!」


 そういう事かよ!


「だから、御楯が今日サボるなら一緒にサボってあげるよ」

「それは有り難いお言葉だけれど、そうするとキョウコに殺されるからな」

「誰?」

「御楯響子。母親」

「マザコン?」

「ちげーよ」

「だーって、私の誘いよりお母さんを選ぶんでしょ?」

「ほら、俺、真面目だから」

「……」

「何か言えよ!」

「真面目な人はメイド喫茶に入り浸らないと思うの」

「……あそこのオムライス美味いんだよ」

「じゃ、今度私が作ってあげるよ」


 え?

 何、これ。プロポーズ?

 いや、逆プロポーズ?


「マジで?」

「うーそー」


 騙された!

 夏実が楽しそうに笑う。


「……ありがと」


 彼女から目を逸らし、小声で礼を口にする。

 少し、楽になった。

 だから、それは耳に届かなくても良かった。


「……こちらこそ」


 そう、夏実が小さな返事。


 ◆



 週が明けて、一週間。

 村上は学校へ姿を見せなくなった。

 『L待ち』は相変わらず世間を賑わせ続け、同じように殺人、強姦の告白記が幾つも出回るようになる。

 その全てに目を通したわけでは無いが、中には明らかな創作もあった。

 だが、『G Play』を危険視する声は日増しに大きくなり、そして皮肉にも新規の利用者数も増加するのである。

 『末路は猿』氏を追って、或いは、自らもそうなろうとして。

 部長氏の言ったとおり、G Play利用者を一律に危険視する風潮も起きつつあった。

 俺のクラスとて例外では無く、村上のお陰でG Play利用者だと感づかれた俺も同じ様に思われていたのだろうが大里がそんな声を吹き飛ばす様に『末路は猿』氏の特異性と糞さ加減を騒ぎ立てたお陰で表面上は今までと同じ様に特に関心を持たれぬ存在でいることが出来た。

 時折向けられる、訝しむ様な視線の中にあって今までと変わらぬ夏実の視線。

 結局俺は、そんな二人に救われたのだろう。

 変わらず学校へ通い、そして部室に顔を出す。


 ◆


「これはもうコイツが表に出てくるまで収まらないでしょうね」


 スマホを睨みながら部長氏が言う。


「出てくるんですかね」


 同じくスマホの『L待ち』を眺めながらそれに返す。

 長い文章だがその中で『末路は猿』氏の能力に直接的にも間接的にも言及している箇所が無い。

 周到だ。

 自己顕示だけが目的ではない。そう感じた。

 『末路は猿』氏はSNSでこれを流して以降、一切音沙汰が無いという。

 おそらく向こうに居るのだ。

 そして、宣言通り十二人目の犠牲者を見定めているのでは無いだろうか。

 或いは、十三、十四かも知れないが。

 再び表に出る時は、更に大きな何かを手にした時。

 そう思えた。


「いずれは出てくるでしょう。それが、半年後か一年後かはわからないけど」


 自分が投げた小石の波紋はどう広がっているのか。

 それを薄ら笑いを浮かべながら眺めるのだろうか。

 既に波紋は大きなうねりとなりつつある。


 免許制にすべきだ。

 いや、それこそ国が違法行為を黙認したことになる。

 G Play自体禁止すべきだ。

 それは日本国憲法第二十二条に違反する。

 いや、第二十二条公共の福祉に反しない限りと言う前提の上で成り立つものだ。

 『G Play』及びその利用者は公共の福祉から逸脱している。

 そもそも『Lを待ちながら』が真実であるという根拠は何だ。

 仮に真実だとして、それは我が国の法律の及ぶ範疇での出来事なのか。


 一朝一夕で結論は出ないであろうそんな議論。


 G Playの危険性なんて今に始まったことではないし、『L待ち』は確かに衝撃だったがそれでも……公言された犠牲者は十一人だ。たったの。

 おそらく、もっと殺している奴は山ほどいる。

 そんな風に、どこか冷めた風に考える自分も居た。

 他方で、この『末路は猿』氏が自分の知り合い、具体的には夏実の前に現れよう物ならば。

 その事を想像するのは恐ろしく、何とかしたいとそう言う気持ちも無いことは無かった。

 ただし、異世界へ逃げ込んだ顔もわからぬ輩。

 俺にはどうすることも出来ないのは火を見るより明らかだ。


「それにしても、部長さん。

 随分と気にしてるみたいですけど、もしかして利用者プレイヤーですか?」


 大里の問いに、無言でイヤホンを嵌め直す仕草をした後に参考書へ目を戻す部長。

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