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公開された体験談

 なるほど。休部状態。

 部室を利用し勉学に勤しむ部長。

 その横で、情報交換と言うなの無駄口。

 早晩、やることは無くなるだろうな。

 まあ、週一くらいは顔を出そう。

 そう大里と決める。


 そんな、SF研究会に所属して一つ良かったこと。

 それは昼飯の場所に困らなくなったこと。

 部室の扉を開け、先客に会釈。

 部長がイヤホンを耳に弁当と参考書を広げていた。


 パイプ椅子に腰掛け、弁当を食し、本棚を眺める。

 会話は無い。

 食後に並んでいた本を手に取る。

 だいぶ草臥れた文庫本。

 南極の向こうの異世界。

 そんな話。


 ふと、部長氏の視線が俺を見ている事に気づく。


「これ、面白いすか?」


 表紙を見せながら尋ねる。


「ブッカーに萌えろ」


 そう、命令口調で言った後、参考書に視線を戻す部長。

 まあ、静かで良い。


 ◆


 九月の大型連休。

 土日を含んで五日間の休み。

 今月のノルマはほぼ消化したけれど、そんな事とは関係なく俺は向こうに行きっぱなしだった。

 だから、現実の騒ぎなんて全く知る由もなく。


 ―――――――――――


 大里優耶>見た?

 御楯頼知>何を?


 ―――――――――――


 現実へ戻ると大里からLINEが入って居た。


 ―――――――――――


 大里優耶>これ

 大里優耶>https://***

 大里優耶>エグい


 ―――――――――――



 送られてきたのはまとめサイト。

 電車の中で流し読み。



 ――Lを待ちながら

 ――作者:末路は猿

 ――これは『僕』の異世界での体験談だ。

 ――光に照らされ力を得た『僕』は十一人を殺した。

 ――次の獲物、十二人目を待つ、ほんの少しの間、『僕』の物語を語ろうと思う。



 それは、ネット上に公開された百万文字近いテキストとそれに対する反応のまとめらしかった。

 G Playで出会った人との交流、そして、殺害に至るまでの話。

 計十一章からなり、一人一章という形でまとめられている。

 ……らしい。


 本当かどうか眉唾だし、ネット上の反応もそれほど芳しい物では無かった。

 だからその時俺はまとめサイトにざっと目を通すだけに留めた。

 とりあえず、作者は安佐川で無さそうだということと、Lというのが俺で無さそうだと言うこと。

 今までの犠牲者をAから順に章立てしていて、次がLという事らしい。

 それだけわかれば十分で、原文を読もうなどとは思わなかったのだ。

 その時は。


 ◆


 眠ぃ。

 連休明けの教室で欠伸を噛み殺す。

 おかしいな。

 昨日、すげー早く寝たはずなのに。都心から帰って夕方には布団に入ってた気がするんだけど。


「御楯!」


 突然の怒鳴り声に、肩をびくっと振るわせながら顔を上げる。

 村上が、真っ赤な目で俺を見下ろしていた。

 鞄も下ろさずに。


「コイツ! 知り合い!?」


 村上が突き出してきたスマホの画面に映るのは『末路は猿』と言う文字。

 お騒がせテキストの作者か。


 身をのけぞらせながら首を横に振る。


「殺してよ」


 いきなり胸ぐらを捕まれ、信じられないぐらいの力で引き寄せられた。

 立ち上がるはずみに椅子が音を立て倒れる。


「コイツ、ブッ殺してよ! アンタなら出来るんでしょ!!」


 朝の教室に響き渡る村上の絶叫。

 静まり返る教室。

 そして、泣き崩れる村上。


 そのまま村上は女子達に連れられ保健室へ。


「……どうした?」


 大里が心配そうにそう声を掛けてきたが、俺は首を横に振るしか出来なかった。


 そのまま村上は早退したらしく教室に戻らず。

 一体何だったのか。

 結局午前中の授業はほとんど頭に入らず。

 ざわつく教室の耳目が俺に集まっているような気がして昼になると同時に部室へと逃げ込む。


 部長氏は珍しくスマホを眺めながら飯を食っていた。

 会釈してパイプ椅子に腰を下ろす。

 一瞬目が合った部長氏の顔は何時になく険しい気がした。


 まさか同級生から殺しの依頼を受けるとは。



 ―――――――――――


 大里優耶>あれ?帰った?

 御楯頼知>部室

 大里優耶>なる


 ―――――――――――



 LINEに返信してぼんやりと昼飯を食っていると部室に大里が現れる。

 険しい顔でパイプ椅子に座り、購買のパンを取り出す。


「村上さ」

「うん」

「『L待ち』の犠牲者が知り合いだったんだって」

「あ……そう」


 それで、激昂していたのか。


「読んだ?」

「全然」

「超拡散してるよ」

「マジで?」

「僕も、三章ぐらいまで斜め読みして、それで止めた。

 気持ち悪すぎる」


 大里はパンを齧り、そして飲み物でそれを無理矢理に流し込む。


「……読んでみるよ」

「読まない方が良い」


 そう言ったのは部長氏。


「コイツは私らとは違う世界に生きてる」


 スマホの画面をこちらに向けながらそう吐き捨てた。


「この先、G Play利用者は全員コイツと同類だとそう言う目で見られる。

 死ねばいいのに」


 彼女はそう吐き捨てた。


「どうせ直ぐに鎮火しますよ」


 俺はそう言って唐揚げを口に運ぶ。

 そんな駄文よりも文庫本の続きの方が余程気になったのだけれど。


 ◆


 家に帰り、タブレットに『L待ち』を落とす。

 ご丁寧に誰かがePubにしてくれて居た。

 つまりそれだけ拡散して居るという事でもある。

 そうしようと思う程に、『L待ち』は話題になっていた。

 悪い方に。

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