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SF研究会

「弁当?」

「え、あ、うん」


 大里君が購買の袋を手にやって来た。

 空いていた俺の前の席に座る。


「いつも一人で食べてんの?」

「ん、まあ」

「そういや、御楯ってさ、いつもその席だよね?」


 窓際の一番後ろ。

 何でか席替えしてもいつもここ。


「でさ、部活の話しなんだけど」

「うん」

「あれ、諦めたから」


 あ、そうなのか。

 わざわざそれを言いに来たのか。


「ところで、SF、興味ある?」

「SF? まあ」

「そっか、良かった!」


 焼きそばパンをかじりながら大里君が笑う。

 今度は何を企んで居るのか。


「じゃ、これ。

 名前書いてよ」


 そう言って一枚の紙を取り出す大里君。


 入部届

 クラブ名:SF研究会

 生徒名:


 諦めてないじゃん。


「SF研究会?」

「そう。G Playって、よく考えたら分類的にSFだよね」

「そうか?」

「だからそこに入って一緒に研究しようよ?」

「いや、他の部員の迷惑だろ」

「今は部長が一人。実質、休部状態」

「なるほど」


 ご丁寧にクラブ名まで書き込まれ渡された入部用紙に自分の名を書き入れる。


「はい」


 少し驚いた顔をする大里君。


「良いのか?」

「仮入部」

「ざーす!」


 白い歯を見せ笑う大里。

 だが、執拗に勧誘をする彼に一つの疑問。


「大里、部活してないんだっけ?」

「辞めた」

「何で?」


 少し、大里君の声のトーンが落ちる。


「故障」

「そうなんだ」


 一学期は確かバスケ部だった筈だ。


「おら、どけー!」


 沈みかけた空気を吹き払う様に前の席の主、村上が現れる。

 何でかまた前の席。


「アンタら、仲良かったの?」

「そうだよ。知らなかった?」


 立ち上がりながら大里君が答える。


「知らなかった。御楯、パシられて無い?

 大丈夫?」

「いや……」

「そんな事する訳無いし。

 御楯はすごいんだぞ。

 知らないだろうけど」

「何? 気配を消すのが凄いのは知ってっけど?」


 そう言いながら笑う村上。

 俺はそっと気配を殺す。


「じゃ放課後」


 そう言いながら大里が去って行く。

 代わりに前に座る村上。


「何繋がりな訳?」

「……クラスメイトだからおかしくないだろ?」


 一緒に飯を食っても。


「いや、おかしいだろ。

 あ、あれ? G Play?」


 おかしいと言われる理由はさておき、覚えてたのか。


「村上も行ってんの?」

「行ってねーっつーの。

 興味ねーっつーの」


 だろうな。


 ◆


 放課後。

 文化部の部室の集まる特別教室棟へ大里君の後に付いて歩く。


「こんちわ」


 並んだ扉の一つを、大里君はノックもせずに開ける。


 彼の背中越しに中を覗き込む。

 眼鏡をかけた女子が睨む様にこちらを見ていた。


「大里です。

 言った通り、二人、入部します」


 いや、俺、仮入部……。


「三人じゃなかった?」

「一人、断られました。さーせん」

「取り敢えず、閉めて」

「お邪魔しゃす!」

「失礼します」


 中は普通の教室の半分程の広さ。

 一人がけの机と長テーブルが一つずつ。

 中に居た眼鏡女子は、窓際に置かれた一人がけのテーブルの上に参考書とノートを広げてあった。


 壁際には本立て。

 古びた科学誌やオカルト誌。

 それから、妖怪を呼び出す時計のおもちゃと変身ベルトといったおもちゃ。


「ようこそ。SF研究会へ。

 私が部長の古川静ふるかわしずか

 ここでのルールは三つ。

 備品は持ち出さない。

 ゴミは必ず持ち帰る。

 部外者は連れ込まない。

 以上」

「了解っす」


 そう言いながら大里君が二人分の入部届けをまとめて渡す。


「部室の鍵は生徒カードで開けられる。

 申請しておくから明日には使える様になると思う」

「了解っす」

「他に質問は?」

「あの、活動内容とかは?」

「私はここで受験勉強をする。

 だから静かにしてて」

「は、はあ」


 そう言って部長さんはイヤホンを耳にはめ参考書に向かい出した。


 棚から適当にオカルト誌を取ってパイプ椅子に腰掛ける。


「ランキングってさ、どうやって上げるの?」

「知らない。時間と活動内容だろうって話だけど」


 オカルト雑誌をペラペラとめくりながら答える。


「敵を倒せば良いのかな。

 結構、ネット上に色々載ってるよね?

 オススメサイトとか無い?」

「無い。

 と言うかネットの情報は基本信じてない」

「マジ?」

「マジ。

 信じるのは自分の目で見た情報だけ」

「なるほど」

「だからさ、部活って言ってもやる事なくない?」

「まあ、良いじゃん。それは。

 それとも今から行く?」

「いや。平日は行かない様にしてるんだ」

「何で?」

「帰って来れないと困るから。

 学校休むと殺されるんだよ」


 大里君は乾いた笑いを返すが、それはキョウコの怖さを知らないからだ。


「あっちに行ってる方が全然危ないと思うけどな」

「まあ、どっちも危険な訳だよ。

 ……何でそんな所に行こうと思ったの?」

「別に。大した意味は無いよ。

 こっちで生きてたってつまらないからね」


 そう言った大里君の声はわずかにトーンが下がっていた。

 そんな風に彼が言うのが意外だった。

 こう言ってしまっては自分が惨めだが、スクールカースト上位。同じ教室に居ても俺とは住む世界がまるで違うと、そう思っていた。


「あっちでは、つまんない事で死ぬから気をつけて。

 本当につまんない事で」

「了解。

 参考までにいっつもどんな感じで活動してんの?」

「んー、まずは向こうに着いて荷物の確認。

 それから、慎重に探索。ゲートを捜索。

 余裕があれば、ゲートを拠点にして狩りをしたりするけど、あんまり余裕は無いかな」


 何せ門へたどり着くまで一苦労なのだから。

 それと、門が見つからない時の精神的な不安もある。そこから門を見つけてさあもうひと頑張りとはなかなかならないのである。


「ああ、やっぱりそうか」


 俺の言葉に納得した、と言う風で無い大里君の言葉。


「何が?」

「僕、どうやらゴール、ゲートの場所がわかるっぽいんだよね」

「は? マジで!?」

「マジ」


 毎回毎回出口を求め彷徨う俺の苦労は一体。


「御楯の力ってどんなの?」

「俺は、忍者みたいな感じ」

「へー。忍法?」

「そう。隠れ身の術とか」

「ああ、流石忍者、汚い」


 笑い声を上げる大里君。

 いつの間にか、オカルト誌から目を離し大里君と正面から向き合って居た。


「大里君の能力は正直羨ましい」

「え、マジ? そんなに?」

「チートじゃん」

「そうかな?」

「マジ、大里君に毎回助けに来て欲しいよ」

「誰かと同じ所へ行くって、出来ないんだよね?」

「出来ないね」

「例えば、同じ部屋から行っても?」

「駄目だと思う」


 それは、アプリの実験で証明された。


「でも、向こうで夏実と会ったんだよね?」

「ん、偶然ね」

「そんな偶然、あるのか?」

「いや、実際あったからね」


 最初は本当に偶然。

 二度目、三度目は違うけれど。


「同じ世界にもう一回行く事も稀って話じゃん?」

「そうだね。俺も結構行ったけど二、三回くらいじゃ無いかな」

「知り合いに会ったのは?」

「そう言えば、夏実さんだけだな」


 まあ、風果は例外。


「夏実、強いの?」

「強いよ。でも、こっちの夏実さんのほうが強いと思う」

「ああ、格闘技やってるんだっけ?」

「そう。ボクシング」

「御楯も何かやってたの?」


 問われ首を横に振る。

 まあ、設定の上では古武道を嗜んでいるのだけれど。


「大里君は?」

「サッカーとバスケ。

 健全なスポーツだけ。

 ……あのさ、大里で良いよ」

「あ、うん」

「武器とか何使ってる?」

「刀」

「武士じゃん! あーそれで黒武士か!」

「いや、それ、誰が名付けたか知らないけど安直過ぎだって!」


 盛り上がり過ぎた。

 そこで、無言で部長がこちらを凝視して居る事に気付いた。


「すいません」


 無言で部長は再び視線を参考書に。

 イヤホンをして居るから聞こえて無いか?


 俺と大里は顔を見合わせ喋るトーンを下げる。


「武器って、何処で手に入れた?」

「拾ったり、買ったり」

「買うって物々交換で?」

「そう」

「赤い幟の店?」

「そう」

「見た事無いんだよなあ」

「まあ、そんなに多くない。

 後は、奴らふっかけるから気を付けた方が良いよ」

「うん。この前のメイド喫茶で実感したよ」

「ああ、あそこね。

 何か買ったの?」

「いや。とても手が出る値段じゃ無かった。

 服と武器だけなんだけどさ」


 一体いくらふっかけられたのだろう。


 そんな話をして、オカルト雑誌に目を通し適当な所で切り上げる。

 部活って、こんな感じなのか?

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サモナーJK 黄金を目指し飛ぶ!
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