生徒指導室
「御楯君。
ちょっと生徒指導室へ」
「……へ?」
HRが終わり、帰り支度を始めようかというタイミングで担任がその一言と共に教室から出て行く。
アイツ、何やったんだ?
そんなクラスメイト達の視線から逃れるように担任を追いかける。
何だろう。
全く心当たりが無いんだが……。
また、G Play絡みで誰か来たのか?
◆
パイプ椅子に腰を下ろした俺の前に置かれた一枚の紙。
長テーブルを挟んで向かい合う担任の不機嫌そうな顔。
「これね?
ちょっとどういうことなのかしらね?」
ね?
をやたらと語尾につける数学を教える担任教師が、A4の紙を指でトントンと叩きながら俺に問う。
―――――――――――
クラブ活動申請書
クラブ名:G Play研究会
活動目的:G Playの研究をする
代表者:2-C 御楯頼知
活動場所:空いてる教室、校外
顧問:
―――――――――――
どういう事なのだろう?
書いた覚えのない書類に俺の名前。
「まずね? ここ。印鑑が押してないの。ね?」
トントンと代表者の名前の横を叩く担任。
その横に書かれた俺の名。
俺の字では無い。
「あとね。ここ。顧問は、絶対必要なの。
空欄だとダメだから。ね?」
一体誰が書いたのだろう。
「活動場所も、具体的に。ね?
空いてる教室じゃ駄目。
具体的に書いて。ね?
今、空いている特別教室は無いわよ。
普通教室なら、クラス名も書いて。ね?
それと、校外ってどこ?
商業施設は、利用できないわよ。ね?」
とりあえず、この申請用紙が駄目駄目だということだけは分かった。
「それで、ね?
そもそも、この活動内容なんだけど、ね?」
「すいません。取り下げます」
担任のダメ出しを遮り、申請用紙を鷲掴みにする。
そして、椅子から立ち上がり一礼。
なおも、『ね?』を言いたそうな担任の顔を無視して部屋から飛び出す。
犯人はおおよそ見当がついている。
と言うか、容疑者は二人に絞られている。
急ぎ、教室へ。
……居た。
丁度、その容疑者二人が教室に残っていた。
大里と夏実。
「研究会! どうだったかな!?」
俺の顔を見るなり嬉しそうに問いかけてくる大里君。
やっぱりお前かぁ!
返事代わりに丸めた申請書をその顔めがけ投げつける。
あっさりと躱される訳だが。
「あれ? 駄目だった?」
「駄目に決まってるだろ。と言うか、どういう事なのさ?」
「その方がやりやすいじゃん?
部室あれば、放課後にダベったりとかできるでしょ?」
「何で代表が俺なのさ!」
「だって、一番の実力者だし。ランクA!」
「夏実さんもグル?」
「違うよ。今、話聞かされたとこ」
「何が悪かったんだろ?」
丸まった紙を広げながら首をかしげる大里。
「全部だよ。全部!」
俺は机に置きっぱなしだった鞄に荷物を詰め込む。
「書き直しかぁ。あれ、帰るの?」
「帰るよ。次は自分の名前で出して」
「あ、御楯!」
教室から出ようとした俺を呼び止める夏実。
「何?」
「何って、一緒に帰ろうよ」
「あ、はい」
そういや、学校を出るところから夏実と一緒なのは初めてだな。
まあ、大里君も一緒な訳だけど。
行き先は同じ駅。
俺の後ろから付いてくる二人。
次から次へと、絶えること無く話題を提供する大里君。そして、夏美の笑い声。
それは、途中駅で大里君が下車するまで続いた。
「この後、時間ある?」
電車のドアが閉まり、笑顔で大里くんに手を振っていた夏実がそのままの笑顔を俺に向ける。
「まあ」
「じゃ、ちょっと付き合って」
「良いけど……」
それっきり、会話は止まる。
さっきまでとは雲泥の差だな。
夏実に連れられるまま、鶴川駅で下車して駅前のドーナツ屋へ。
三個目のドーナツにトングを伸ばし、そこでたっぷりと悩んでから結局トレーに載せない夏実。
「で、どうするつもり? 部活」
椅子に座り、ドーナツを手に取りながら夏実が問う。
「どうって、どうもしないよ」
「そうなんだ。残念」
彼女の口振りが少し引っかかる。
「やりたいの?」
「私? うーん、まあ、あってもいいかなーとはちょっと思う」
「は?」
「メリットはあるじゃん?
校内なら、あんまり人目を気にせず会話出来るし」
「会話って、守秘義務があるから情報の共有なんて出来ないぞ?」
夏実がどう言う契約になっているかは知らないが、彼女にも多少の制限はあるだろ。
「でも、まあ多少のアドバイスくらいは出来るじゃん」
本気で言ってるのか?
「アドバイスなんて、そんな無責任な」
「そういうとこだよ」
「は?」
「御楯さ、確かに君は強いよ。
私より全然。
力も、知恵も、能力も。
でもさ、だからって君が誰かの行動に責任感じる必要は無いんだよ。
だってね、私も、大里も、自分で決めた事なんだから」
それはそうだ。
結局自己責任。
――死んだ奴に恨まれても何にも怖い事ない
それは確かにそうだ。
恨みを抱きながら死んで禍へと変わる。それは俺の設定の中での話。
だから、俺の言葉でどんな影響があろうが関係ない。
だが。
「それでも、嫌だな」
「何が?」
「誰かが死ぬのは」
「御楯。
明日、大里が学校来なかったら、絶対後悔するよ?」
「え?」
「もっと、ちゃんと教えておけば良かった。
止めておけば良かったって」
言われ、言葉に詰まる。
そうだろうか。
「結局、知り合いが居なくなると悲しいわけよ。
アドバイスをしても、しなくても後悔する。
だから、部活をやろうって言ってる訳じゃないよ?」
そこで夏実は、2つ目のドーナツを平らげストローに口をつける。
「御楯がそうなったら、私も同じことを思うの」
やや、早口で、彼女はそう言い切った。
「リンコもね。あとハナさんも!」
そのあと、まるで取り繕うように、そう繋げる。
俺が居なくなって、悲しむ……?
その、夏実の言葉は俺の中に違和感を残す。
「ちょ、そんな真顔でスルーしないでよ!」
「いや……」
何だろう。
このモヤモヤは。
「まー、風果ちゃんとか実姫ちゃんとか、言いたくないこともあるだろうけどー」
「言うな」
「ゾルタクスゼイアンとして言えないこともあるだろうしー」
「待て!」
何故、ゾルタクスゼイアンを?
「何だよ、それ……?」
「ハナさんが教えてくれたよ?
インターンを誤魔化すときは、そう言えって。
御楯と私はゾルタクスゼイアンだからって」
「いつ!?」
「昨日」
ショニンに俺が言ったのは一昨日。
何で知ってんだよ。
盗聴器……か?
ショニンと、その商談を監視するための。
或いは、俺?
ハナに問いただそう。
素直に答えるとは思えないけれど。
「ねえ、ゾルタクスゼイアンって何?」
「知らね」
「御楯が言ったんでしょ?」
「……スマホに聞いてみろよ」
信じるか信じないかは……。
夏実が不満げに頬を膨らませる。
そして、顔を逸し、ドーナツが並ぶ棚を見て固まる。
トレーの上の二個は既に片付いていた。
「うー……」
「どうした?」
「もう一個食べたい」
「食べれば?」
俺の方を見て、一度腰を上げ、すぐに座り直す。
「……やっぱ、いい」
「何で?
ジム行けば良いじゃん。
もう、運動できるんだろ?」
食って、その分動く。
どちらかと言えばそういうタイプの筈だ。
「暫くジムに顔だしてないから……」
「何で?」
まあ、入院とか色々あったとは思うが。
「……顔を合わせづらい。会長と」
「何で?」
「なんでも! ほっとけ!」
少し語気を強める夏実。
ああそうか。リングネーム。
「……ごめん」
何に対しての謝罪なのか、自分でもよくわからないけれど。
結局、夏実は三個目のドーナツに手を伸ばした。
罪悪感のおすそ分け。
そう言って、半分渡されたのだけれど。
ボンジュール。
盆だけに。
評価、感想、そしてレビューと諸々ありがとうございます。
いただいた感想はどうお返ししようか毎回悩みます。
その結果がテンプレの様な返信ばかりで恐縮ですが。
予防線を張るわけでは無いですが、この先の展開やキャラクターについて、読者様の意にそぐわないようなこともあろうかと思います。
あるいはそれは下手糞な伏線であったり。
そういう事情もありコメントを返さない事があるかと思いますがご容赦ください。
引き続きお楽しみいただけるよう頑張ります。




